軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-11

「ぬぅぅぅうう……ぬがぁぁぁぁあああ!」

大地を震わす怒号がノアの地上一帯に響き渡る。土煙を巻き上げ、音速で放たれたウルガの拳は変異体の胴体を貫き、遅れてやってきた衝撃が背後を飛んでいた他の変異体もろとも、上空へと吹き飛ばした。

だが、その一撃の隙をついて左右から接近してきた変異体に、ウルガは両腕を掴み取られる。

「っく……ペス!」

「任せロ! ウチなら余裕!」

少し離れた場所で戦っていたペスはウルガの呼びかけに応じて急遽を重心を変えて側転し、そのまま目にも止まらぬ速度で連続の後方転回をすると、最後に飛び上がり、その勢いを加えて身体をひねり、かかと落としを変異体の頭部へと放った。

大きな衝撃に耐えられなかったのか、ウルガの右腕を掴んでいた変異体は地面にたたきつけられ、ペスは間髪入れずウルガの左腕を掴んでいた変異体にムーンサルトを放って吹き飛ばす。

しかし、ニ撃目は浅かったのか、吹き飛ばされた時の勢いを利用して変異体はそのまま上空へと逃げ去ってしまう。

すかさずペスは目を鋭くし、逃げ去った変異体を追おうと足に力を籠めるが――

「深追いはスルナ! コノ戦いは奪うタメの戦いじゃナイ! 守りを……仲間を助ケルことに集中シロ!」

ウルガの静止を聞いて深追いはせず、ペスは周囲の状況の確認を優先させた。

すると丁度、背後から猛速度で変異体に接近されている弓矢を持った狩人の青年が視界に入った。気付いていないのか別の変異体を狙っており、このまま放置すれば確実に致命傷を負う。

だが、助けに入れる距離ではなく、ペスはせめて声だけでもかけようと腹に力を入れるが――

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

ペスよりも早くそれに気付いていたバルムンクが猛牛のように横から大剣を構えて突進し、接近していた変異体を胴体から突き刺した。そのまま大剣を勢いよく振り払うと、変異体は既に絶命しているのか、ぐったりとしたまま宙へと舞う。

「集中力を切らすな! 獣牙族や喰人族がいるとはいえ、油断すれば死ぬ……ここはそういう戦場だ! 深く呼吸しろ! 敵の接近を見逃すな……そして殺せ!」

「す、すみません! ありがとうございます!」

そして、混戦した戦場に慣れていない、狙われていた狩人に怒号を飛ばす。

するとすぐさまその場を離れて飛び出し、数を仕留めることに躍起になって片手剣を振り回していた戦士の少年の下へと急ぐ。少年が仕留めたと思っていた変異体がまだ生きており、立ち上がって近くで共闘していた僧侶の少女に狙いを定めたからだ。

無論、バルムンクは仕掛けられる前に大剣を一閃して僧侶の少女を狙っていた変異体の首をはね上げた。

「仕留めるなら確実にだ。お前が見逃したその敵が、お前じゃない誰かを殺す!」

「は……はい!」

「これは戦争だ……人類の存続をかけたな、敵に慈悲はいらない。そして一つの自分の甘い判断が、戦況を狂わせると知れ!」

親切丁寧に手ほどきをしている時間はなかったが、実戦の中で少しでも生き残れる可能性を増やすために、バルムンクはまだ戦場に慣れていない若者たちのために声を張り上げた。

ノアの地上には現在、鏡はもちろん、ロイドやレックスのような英雄となれる巨大な力を持った者はおらず、そのほとんどが敵対する変異体二人分くらいの実力を持った者で、敵を圧倒することができず、激しい攻防が続いていた。

エデンから戻ってからかれこれ三時間が経過しているが戦況が変化することはなく、ウルガとバルムンクはお互いをカバーし合うように背中合わせになって立ち並ぶ。

「くそ……休んでいる暇もないな」

「休憩なラ少しデキたハズだ……短い時間ダッタガ」

「呼び出されたあれを休憩と呼ぶか、さすが獣牙族は外で生きてきただけあって野性的だな」

「馬鹿にシテルノカ?」

「いいや、褒めているんだ。少なくとも、こういった大混戦に慣れていない人間よりも……ずっと頼りになる。守りを優先する長期戦は、肉体の強さよりも精神の強さが大事だからな」

実際、獣牙族はアースクリアの冒険者よりも地上で継続して戦っている時間が長かった。現状、ノアの地下施設内を休憩所として獣牙族も冒険者もレジスタンスも待機し、交代で地上へと赴いて戦っているが、同じ時間に地上へと出た者でも限界を感じて退避するのは冒険者の方が早い。それも、若ければ若いほどだ。

「しかし……アレだな」

背中合わせで戦う二人がカッコよくて混ざりたくなったのか、不自然に背中を向けて近付いてきたペスがおもむろにそう言う。

「ウチらがイナクナッテ大丈夫か? 明らかに戦力が足りてナイ」

ペスの懸念は尤もだった。実力はあっても経験不足の者が多く、この場を任せるには不安が多い。実際、ウルガやペス、そしてバルムンクがいなければもっと多くの負傷者や戦死者が出ていてもおかしくなかった。

「俺たちがいなくなったところで足りないという状況は同じだ。大事なのはいつまで耐えられるかだろう。この状況を改善するには、こちらが潰れてしまう前に、相手を潰すしかない」

「ソノための俺たち……カ、責任は重大ダナ」

だが、この場にバルムンクたちが残ったところで大きな意味はなく、それならば犠牲を覚悟で賭けに出た方がいい。それを理解してノアの地上の現状を知る來栖も、バルムンクたちを連れて行く決心をしたのだ。

「本当なら、俺たちも明日に備えて休みたいところだが、まさかこの短時間でここまで負傷者が出ているとは思わなかった……回復のできるティナやクルルにも来てもらうべきだったか」

「アイツらこそ休むべき、連れて来なくて正解……ウチらはあくまでアイツラのサポート」

「わかっている」

しかし、わかってはいてもやはり不安が付き纏う。

「信じるしかないな、この地へと来た者たちを、そして……獣牙族を」

「獣牙族を舐めるナ……たとえ死ぬことにナロウトモ、その誇り高き魂ハ目的を違えヌ。お前たちが……勝利を掴むト言うノでアレバ、俺たちはソレを信じテ力の限りを尽くス」

回転蹴りを放ちながら、ウルガは指を差した先を見るように促す。ウルガやペスほどの無駄がなく、素早いのに力強い動きではなかったが、それでも野生の獣を沸騰とさせる動きで変異体たちに対峙していた。

武器を扱えないため、技らしい攻撃は使えないが、それでも人並み外れた直観的な動きで敵を翻弄している。

「まあ、死ぬ気になったら皆頑張ってクレル、ウチもそう。ウチらの目的を果たすまでは、皆、必ず耐えてくれる。ソシテ時間を稼ぐ」

「獣牙族を舐めるな」と言いたいのか、不安な顔を見せるバルムンクをペスは軽く睨む。仲間を信じられず、また犠牲にする覚悟が足りていなかったと反省するとバルムンクは「他人の心配をしている場合ではなかった」と言葉を漏らした。

「皆、この戦いの先にアル理想郷を信じてイル。ダカラ戦ってイル……その理想郷ハ、怯え、苦しまなくテモ良い世界ナノだろウ?」

「選ばれた俺たちは責任重大だな」

これまで殺すか殺されるかの二択しかなかった過酷な環境で生きてきた獣牙族にとって、鏡が示してくれた平和な世界を手に入れるためのこの戦いを苦に考えている者はいなかった。

ここに集った獣牙族の全てが、獣牙族という種の繁栄のためにと、誇りをかけて戦っているのだ。

「まずは、言葉の勉強からだな。一応言っておくがペス、お前のその喋り方は俺たちでも使ってない独特の喋り方だ。直せよ」

「レックスと同じコト言っとル」

もし、その世界が訪れた時、どんな日々が待っているのか?

それを一瞬だけ想像して、バルムンクは笑みを浮かべた。

「……どうやら、ここでの活躍はここまでのようだ」

そして、死んだ魚の目をした執事服の男性と、その男性が連れてきた三人の新たな冒険者たちを視界に映し、バルムンクはその男の下へと向かい、ペスとウルガもその後に続く。

「くそ……やってやる! これでもレベル100は超えてるんだ! 俺の力を見せてやる!」

「怪我をしている人たちがたくさん…………忙しくなりそうです」

「なら、私が君の護衛に回ろう、君は回復に専念してくれ」

すれ違いざまに、意気込む若者の背中を叩き「任せたぞ」と呟くと、三人はそのままデビッドと共にラストスタンドの格納庫がある地下施設へと向かった。

「武運を祈ろう」

来たばかりの三人の若者と、この地下施設で再び生きて会えることを信じて。