軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-10

「あの姉ちゃんも働きすぎだって、あたしなんかガーディアンでの戦い以降、ほとんど何もしてないぜ?」

「それでいいんですよ。働ける人が働かなければならない時に動けばいいんです、僕にとって今がその時なだけですよ。メリーさんの射撃の技術には期待しています」

自虐したつもりが爽やかな顔で見つめられて褒められることになって、メリーは気恥ずかしそうに赤面する。

「おっとぉ? メリーちゃんちょっと顔が赤くなってない? 駄目だよロイドさんは、競争率高いよ多分? レベル1のメリーちゃんには高嶺の花だよ」

「お前ってどうしてそうなの? 頭の中、お花畑なのか?」

「ちょ、ちょっとメリーちゃん、銃口は人に向けちゃダメだって~」

「お前なら当たっても死なないだろ」

まるで誤魔化すように、メリーは腰元のホルダーに入れていたガバメントを油機へと向ける。

「良いではないか、妾も恋バナは好きじゃぞ? こんな、明日死ぬかもしれない状況なのだ、気晴らしに色恋沙汰の話題に花を咲かせるのも悪くないとは思わんか?」

そこで、いつからいたのか、メリーの肩を優しく叩きながら、何故か鼻がしらが油で汚れたフラウが姿を現す。相変わらず全身から上から目線な雰囲気を纏わせながら。

また、その隣には、一緒に行動していたのか、同じく全身がところどころ油で汚れているピッタの姿があった。

「いや、全く思わねえ。少なくとも話の話題になる奴の前でするのは馬鹿すぎるだろ」

内心、お花畑が増えたと思いつつも、メリーは尤もな意見を返す。

ロイドは、そんないつも通りの会話を繰り広げて心の余裕を見せる三人に安心したような顔を浮かべ、作業の進捗状況を確認するためにフローネの下へと向かった。

「フローネ、ラストスタンドを操縦する搭乗者のリストアップは終わったんですか?」

「はい、油機さんにも手伝っていただけたので」

それを聞いて、ロイドは意外そうな顔を見せる。振り返って油機の顔を見ると、油機はウィンクをして親指を立てていた。

手伝ったなどとは口にせず、それが当たり前かのように仕事をこなしてくれた油機に「頼りになりますね」と鼻で軽く笑うと、ロイドも親指を立てて油機に返す。

「ノア、ガーディアン、エデンで全て合わせて883機ですか……少ないのか多いのか」

約九百のラストスタンドに乗ることになる搭乗者たちのリストを見て、ロイドは気難しい顔を浮かべた。ラストスタンドは誰が乗っても操縦技術に関わらず、ある一定以上の力を発揮する。

旧文明が生み出した最強の兵器と言っても過言ではないが、この戦いに勝利するには数が足りないように感じていた。

以前、デミスと戦った時から残ったものと、來栖たちがその後に作ったものでここまでの数を用意できたのだろうが、それでもまだまだ足りていない。

今回の戦いのために集まったアースクリア出身者はノアで約8500名、ガーディアンで2万3500名、エデンで約3900名と、合計35900名。デミスの目覚めがもう少し遅ければもっと集まったのだろうが、戦いは既に始まってしまっている。

これに加えて、アースを取り戻すために戦っていたレジスタンスの人員約1500人と、異種族と呼ばれる來栖が生み出した生命体約3000人、そして同じく來栖が作り出した魔族約1000人、合計約41400名が総戦力となった。

この数で、千年前の人類を取り込んで数を増やし、数億の数は従えているであろう星サイズの化け物と戦わなければならないのだ。普通に考えれば勝ち目がない。

しかし、人類が勝つ手段は敵の全滅ではなく、デミス本体の消滅にあるため、デミスさえ倒せれば人類は勝利できる。故に、決死隊を送り込む來栖の考えは妥当であった。

それでも後1000機ほどラストスタンドがあれば楽ができたのにとロイドは溜め息を出す。

「ま……理由はわかりますけどね」

來栖たちが千年という充分な時間がありながらこれだけしか用意しなかったのは、ラストスタンドには絶対的な弱点を理解していたからでもあった。というのも、運用コストが非常に高いからである。

ラストスタンドを動かすには燃料を必要とする。無論のこと、壊れれば修理が必要であり長時間戦うことはできない。必ず補給が必要になってくるのだ。

そして数が多ければ多いほど、補給するための物資が必要となる。仮に、いくつもの拠点があって補給できる場所や修理する場所が確保されているのであれば、入れ替わり戦場へと赴く驚異的な兵器となるだろう。

だが、拠点は三つしかなく、デミスを目覚めさせないために増やすわけにもいかなかった。

また、戦地は宇宙になるため、補給がままならない。数を揃えたところで、まともに稼働し続けられる機体数は限られているのだ。來栖、セイジ、ライアンの三人が、兵器の開発ではなく生体を進化させる手段をとったのはこのためだ。

とはいえ、それでも強力には変わりなく、地上で戦わせる分には有効活用できただろうにロ糸は再度溜め息を吐いた。

「しかし、あの旧文明の機械……ラストスタンドでしたか? 王から聞いていた通り、凄まじい力を持っていましたな。私のスキルと合わされば……まさに鬼に金棒」

「ふむ……悪くはない。生身で戦うよりずっと活躍できそうだ」

その時、自分が乗ることになるラストスタンドの調整を終えてきたのか、いつもは白い修道服を油で汚したミリタリアと、同じく王族であることを示す豪勢なマントを汚したシモンが一同の前に顔を出す。

フラウとピッタと油機とメリーを含め、6人は自分が乗ることになるラストスタンドの点検と操縦方法をレクチャーしてもらうため、ガーディアンへと足を運んでいた。

先程、準備を終えて暇になり、丁度ロイドの下に集まっていた一同の下に顔を出していた。

「おっさん……ミリタリアさんだっけ? そういうのは自分で言うなよな、アースクリアの出身者ってのはどっかネジの外れた変なのばっかか?」

「変なの? ぷぅー! 父上聞きましたか? 妾たちヘキサルドリア王国の王族を前に変なのとは! 妾たちが変なわけがなかろう! アースクリアで最も高貴な存在であるぞ?」

これまたアース出身で自身よりも遥かに弱く、身長の低いメリーを見下しているのか、高慢な態度でフラウがわざとらしく嘲り笑う。

「まあ……王族のワシもお前も、明日死ぬかもしれんがな」

「えぇー……」

だが、話を振られたシモンは表情をピクリとも変えず、淡々と事実を口にした。

予想外な父親の後ろ向きの発言に、フラウも思わず苦い顔を浮かべる。

「おいおい、随分とネガティブじゃねえか! あんた一国の王様だったんだろ? そんな弱気でどうするんだ?」

「別に弱気になったつもりはない、事実を言っただけだ。あんな死地に行くというのに、王族も貧民も関係あるまい。全員等しく……勇気ある戦士と呼ぶべきではないか?」

フラウとは真逆な考え方を口にしたシモンに、メリーは「へぇ」と尊敬の眼差しを送る。

「そういった意味では、我が娘がこの短期間でここまで成長したことには驚きを隠せん。本当にいいのだな……フラウよ? 死ぬぞ? それも高い確率でな」

「くどいぞ父上、ここまであ奴らと一緒に居て、理解せぬほど愚かではない。どうせ王女だからと引き籠ったところで負ければ死ぬのだ……なら戦った方がいい、誰でもわかる簡単な話じゃ」

とはいえメリーも、高慢な態度は取りつつも、前線で戦おうとするフラウを軽蔑しているわけではなかった。

というのもラストスタンドに乗るとはいえ、高い確率で死ぬことになる。

そんな戦地に何度も赴いたことのあるメリーに恐怖は今更なかったが、それでも王族として生温い生活を送っていたはずのお姫様が見せた勇気に、敬意を示さずにいられなかったからだ。

「それに王族で妾が戦えば、感化されてヘキサルドリア王国の民衆も士気をあげるかもしれんしのう、あの美しき姫君と共に戦えて光栄です! とか言われたりして!」

故に、こういった発言がなければと、冷めた視線を向けながらメリーは惜しく感じてしまう。

「確かにその効果はありそうですね、一番地位の高い者が前線へと出るのは大昔から味方の士気を高めるのに効率的な方法でしたから。安全な場所に隠れてる者と前線に立って戦おうとしている者であれば、ついて行きたいと思うのは当然後者になります」

一応戦略的には正しいのか、ロイドも頷いて賛同する。

「なんじゃなんじゃぁ? 妾は存在だけで価値があるということか? ふふ……妾を崇めても良いのだぞ? そこの小娘」

「私とそんなに身長変わらないけどな」

一周回ってむしろ、それがこのお姫様の良いところなのかもしれないと無理やり納得すると、メリーは悪戯な笑みを浮かべてくるフラウに微笑を返した。

「まあでも、死ぬのは嫌だからしっかり頼んだぞピッタよ。妾の命はお前次第だからな」

「……頑張るです、お父の分まで……!」

気合を見せて両手を握りしめるピッタに、ロイドは笑みを浮かべて見つめる。

鏡を奪ったデミスを『仇』とは言わず、『分』までと言ったことに、鏡やその周囲の仲間たちが大切にする思いをしっかりと受け継いでいることに「さすが、鏡さんの娘だ」と、ロイドは称賛を送った。

「さて皆さん、準備ができたのならそろそろ移動しましょうか? エデンに戻るための道中も大きな危険が付き纏いますが、皆さんなら少人数でも問題なく戻れるでしょうし。メリーさんの言うことも尤もですからね、早めに戻って、早く身体を休めましょう」

「とか言いつつ、ロイドさんはまだ戻らないんだね?」

「僕はまだ、やるべきことがありますから」

「あまり無理しちゃだめだよ~? ここぞって時に力が出なくなった困るし」

そうは言いつつも、ロイドの超人っぷりを知っているからか、油機はあまり心配してなさそうに手をひらひらと動かして移動を開始する。他の一同もそうであればと、ロイドの指示に素直に従って移動を開始した。

「……今がまさにここぞって時なんですよ。これが、最後なんですから」

油機たちを見送りながら、ロイドは再度気合を入れなおすために顔をパンっと叩いた。

「……ロイドさん」

フローネは、恋焦がれる少女のような目でそんなロイドを遠目に見ていた。

なんでもそつなくこなす天才のような男ではあったが、それは自分たちのために無理して演じてくれていることをフローネは知っている。いくら天才であろうと、こんな勝率の低い戦いの指揮をある程度とはいえ任せられ、責任に押し潰されそうにならないわけがないのだ。

「あの……お供します、まだ片付けられていない案件の半分を私に」

そんなロイドを少しでも支えようと、フローネはロイドに笑顔で声をかける。

ロイドはそんなフローネの優しさを素直に受け入れると「ありがとう」と言葉にし、まだ片付け終えていない作業の一旦を任せようと、説明を始めた。