軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-9

『身動きがとれねえわけじゃないなら自分でなんとかしてくれ! 核を潰せばなんとかなるって教えてもらっただろ!』

指摘を受けて慌てて核を潰そうとするが、それを黙って見過ごすわけがなく、核を潰そうともがいている間に他の変異体がデミス細胞に捕まってしまった魔法使いの女性を取り押さえて仲間に引き込もうと、一斉に接近する。

『判断ミスだ。デミス細胞に取りつかれたら自分でなんとかするより、他の誰かが何とかする方が結果的に早い、自分じゃなく他人を優先しろ』

『さ、サンキュー! 助かったわ!』

だが、盗賊の役割で身のこなしの軽そうな少年が、核を素早く潰して捕まった魔法使いを解放し、解放されてすぐ、接近していた変異体に爆破魔法を撃ち放つことで事なきを得る。

自分でなんとかしろと口にした戦士はバツが悪そうな顔を見せたが、自分の命を守る戦力を失わなかったと素直に認め、親指を一瞬だけ立てて感謝の意を示す。

『僧侶の誰か! こっちに負傷者が出た! このままじゃ出血死しちまうから早く来てくれ!』

無論、全ての者が体力だけを消耗するだけで無傷というわけにはいかず、多くの負傷者も出ていた。

変異体の鋭い爪に切り裂かれ、腕を失った者もいれば、あまりにも強力すぎる殴打で骨を砕かれ、立ち上がれなくなった者もいる。

『まさか化け物と一緒に化け物を退治するはめになるとはな……』

『こいつら大丈夫なんだよな……? 俺たちを襲ってきたりしないよな? この獣耳の奴らはコミュニケーションがとれるからともかくよ、この意味不明な真っ黒な奴とか一言も喋ってねえ』

そんな負傷者した者たちを優先的に守るようにして、獣牙族と喰人族が奮闘していた。命さえ繋げれば、致命的な戦力低下には繋がらないからだ。

そんな、目まぐるしい戦場の光景を目の当たりにして、新たにこの地へとやってきた三人は、既に戦意を喪失させつつあった。

「先にこの地へと訪れた皆様も既に戦われておられます。どうか……お力を貸してください」

その反応は致し方なく、デビッドもすがるように頭を下げる。

「何……これ」

だが、三人が戦意を喪失している一番の理由は地上で行われている戦いを見てではなかった。

現状、凄まじい戦場ではあるが戦えているだけ希望はあり、むしろ、レベル100に至るまで様々な苦難を乗り越えてきた三人にとって度を超えた戦地ではない。

しかし、その戦地の外は別だった。

三人は見つけてしまったのだ。アースディフェンダーによって展開されたバリアの外、そのバリアに隙間なくびっしりと張り付いているせいで真っ黒となった部分を。

そして、何度も攻撃を受けて耐えられなくなったバリアが一瞬だけ解け、大量の変異体がバリア内へと侵入する光景を。

「こんなの……どうやって勝つんだよ! こっちはまだ、ろくに人数も揃ってないんだろ⁉」

「あのバリアは……いつまで持つ?」

当然、終わりの見えない戦いを前に不安が襲う。

「長くは持たないでしょう。わかってはいると思いますが、あのバリアが消えた時、我々は成す術なく敗北することになります」

今よりもずっと敵の数が多かった三日前と比べて、被害は拡大しつつあった。

三日前であれば、レベル100を超える冒険者であれば難なく倒せていた変異体たちに、腕を切断され、骨を砕かれる負傷を受けている。

そう、三日前に鏡たちが戦っていた時から片鱗を見せていた通り、変異体たちは、日を追う毎に前回の戦いで吸収した超人や人間たちの力を扱いこなしつつあったのだ。

「勝算は⁉ 負け戦をしに来たわけじゃねえ……勝ち目がない戦いなんか俺は御免だ!」

「勝算は……わかりません。しかし仮に、この戦いに参加しなかったとしても、負ければあなたも死ぬことになります。これはそういう戦いです」

逃げても結局殺される。生き残るには戦って勝利を掴むしかない。わかってはいたが、あまりにも勝算の見えない戦いを前に、戦士は狼狽えて辛そうな顔を浮かべた。

「自分たちの手でなんとかできる機会を与えられただけマシだと思うべきか、自分の無力を知らないまま死ねた方が良かったか、判断に困るね」

これならば、何も知らないまま死んだ方がまだ幸せだったのではないかと魔法使いは額に手を当てて苦悩する。

「仮に勝算がないとするなら、この戦いに意味はあるのでしょうか? 抗う意味は?」

だが、知ってしまった以上、戦う以外に道はない。それを理解しているからか、不毛な質問とは感じつつも、僧侶は両手杖を再び強く握りしめて、デビッドに問いかけた。

「……今は勝算がないかもしれませんが、それを掴み取ろうとしている者たちがいます。人類が生き残るかどうかはその勇気ある者たち次第になるでしょう。皆様には、その方たちが少しでも希望を掴み取れるよう、助力していただきたいのです」

その言葉を受けて、三人は演説を行った一人の男を思い浮かべる。レベル999という規格外の男を思い出して、僅かな希望を見出すと、三人は「そうか! あいつが……!」と表情を少しばかり明るくさせた。

「これは……アースへとやってきた全てのアースクリアの住人に、私が個人的にお伝えしている……かつて私自身も教えられた大切な言葉です。たとえ、どんな絶望が襲いかかったとしても……最後の、最後のその瞬間まで――」

既にその男が死んでいるかもしれないことを知っているデビッドだったが、あえて、そのことを伝えずに力強く三人を順に見つめる。

「決して、諦めないでください」

諦めさせるわけにはいかなかったから、そして諦めたくなかったから。

希望はもう、残されていないのかもしれない。それでも、もう終わりだと絶望して何もしなくなってしまうわけにはいかない。そうなれば、掴めたかもしれないものも、掴めなくなってしまうから。

故に、デビッドはアースクリアからやってきた者たちに必ずこの言葉を贈る。

「我々は幸運です。何かが……できるのですから」

アースで起こっている悲惨な戦いが上空に映しだされたアースクリアで、ただその戦いの結末を見届けるしかできないよりも、戦えることの方が遥かにマシ、デビッドはそう考えていた。

実際、多くのアースクリア内の冒険者たちは、不安と恐怖に駆られつつ、見ていることしかできない現状に言いようのないもどかしさを感じ始めつつあった。

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「準備を急いでください! ここに残る者たちが一週間は生活できる最低限の物資を残して全てエデンに運びます! ラストスタンドの部隊は物資を運んだらそのままエデンにて待機!」

エデンで行われた会議が終わってから数時間後、ガーディアンのラストスタンドが収納された格納庫では、地上に迫る変異体たちを撃退しつつも、慌ただしくフォルティニア王国出身の到達者たちが右往左往していた。

決死隊と呼ばれるようになった宇宙へと向かうことになる部隊の編成、また、長期間に渡って戦い続けられるよう、千年の時をかけて蓄えていた物資をエデンへと運ぶための準備で大忙しだからだ。

とはいえ、ノアの地上に比べ、ガーディアンの地上は被害が少ないため、その準備に割ける人員は多い。そもそもの力量がノアにいる冒険者たちに比べて、ガーディアンにいる到達者たちの方がレベル平均200と圧倒的に上回っているからだ。

「凄い数の物資だね、これ全部運ぶんだ?」

かつて見たことがない数のラストスタンドが一斉に稼働し、荷物を運ぶ様子を目にして、油機が少し驚きながら、せっせと周囲に指示を出していたロイドに話しかける。

「エデンの食糧事情はガーディアンやノアよりも裕福ですが、ラストスタンドに必要な物資が圧倒的に足りていませんからね。どれだけ長期戦になるかはわかりませんので、ラストスタンドの大部隊をエデンに移すなら、少なくとも一週間は戦えるようにしないと……」

主に運ばれていたのは食糧ではなく、ラストスタンドの原動力となっている燃料、構成しているパーツ、補修のための機材、ラストスタンド専用の魔力銃器や補充用の魔力タンクなど、兵器の類がほとんどだった。

それ以外にも、ライアンが地道に開発してきた小型のバリア展開装置や魔力銃器、空間管理装置の予備ストックなど、旧文明の兵器が運び出されている。

「ラストスタンドの整備班もエデンに向かう準備をしてください!」

「相変わらずテキパキと働く野郎だな、明日にはデミスの内部に突入するメンバーの一人なのに、休まなくてもいいのかよ? 休むとしたらあと一日しかねえんだぜ?」

油機と同じく、隣でロイドの働きぶりを見ていたメリーが心配をして声をかける。

するとロイドは「お気遣いありがとう」と微笑し、休むつもりはないのか首を横に振った。

「これでもかなり楽をさせてもらっているんですけどね、僕がさっきから指示しているのは一緒に宇宙へと向かう者たちだけですので、地上を任せる部隊は別でリーダーが任命されたので勝手に動いてくれています」

言われてロイドが指を差した方に視線を向けると、そこにはノアからガーディアンの地上を守るために派遣された獣牙族と喰人族の扱いに困って困惑している男性の姿があった。

決死隊に比べ、地上に残るものたちは比較的安全だが、それでも即席の部隊を纏めるのは至難であり、油機とメリーはリーダーに任命された男を憐れんで引きつった顔を浮かべる。

「それに、僕だけじゃなく、フローネも頑張ってくれていますから」

そう言いながらロイドが向けた視線の先に、黒革のクリップボードを片手に慌ただしく指示を出すフローネの姿があった。

元々ガーディアンの管理を任せられていたのもあって頼りにされているのか、多くがフローネに指示を求めて近付いている。