軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-12

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「あと……9時間後」

会議が終わってから13時間後、明日の作戦に参加するレックスたち主力部隊は英気を養うため、長い休みを与えられていた。全てが決まる明日、万全の状態で挑めるようにという配慮だ。

エデン内部の中央に位置するセントラルタワー付近の住居区画にあてがわれた一室で、ベッドの上に転がりながら、アリスが旧文明の機械で作られた電子時計を目に呟く。

真っ暗な部屋を優しく照らす電子時計の光が、今のアリスにはどこか心地よく感じられた。

「全然、眠くならない……」

暖かいお湯にじっくりと浸かり、お腹いっぱいご飯を食べ、ベッドに寝転がってから既に三時間が経過しているが、一向に眠くならない。

「鏡さんなら、こんな時でもきっとイビキをかいて寝るんだろうな」

想像しておかしくなったのか、アリスは小さく笑う。

そして、鏡と出会ってからここに至るまでを思い出して、泣きそうになった。鏡がいないからという理由ではなく、ここまで来られたことが本当にすごいことで、様々な人の出会いと共に達成できた奇跡であると思えたからだ。

最初は、魔族と人間の和睦を目指すところから始まった。

鏡と出会い、タカコと出会い、敵対していたレックスたちと共闘して、ずっと願ってきた和睦は達成された。でも、ただ和睦しただけじゃ本当の平和は訪れなくて、本当の平和を追い求めた延長線上に今という瞬間がある。

これが終われば、長かった旅も終わる。

追い求めていた世界で暮らしていける。

「……泣いてる場合じゃないや」

だからこそ、明日は絶対に勝たなければならない。そのためにも今は休息をとる必要があると布団を被りなおすが、睡魔は一向に襲ってこなかった。

「……アリス? 起きてる?」

その時、真っ暗だった一室に眩い光が差し込み、部屋の扉を開けてパルナが顔を見せる。

「……パルナさん」

「やっぱりまだ寝てなかったか」

「パルナさんも……眠れないの?」

突然舞い込んだ光に耐えきれず、アリスは少しだけ目をしょぼしょぼさせた。その動作が少し面白くて、パルナは鼻で軽く笑ってアリスの頭を優しく撫でまわす。

「私だけじゃないわ、皆も同じ……来なさい、少し話でもしたら落ち着いて眠れるようになるでしょう」

「それでも眠くならなかったら?」

「そりゃもちろん、私が眠らせてあげるわ、電撃をちょっと使ってね」

手元に一瞬だけ帯びた雷撃に「冗談やめてよね」と苦笑いを浮かべると、アリスは布団から出て立ち上がり、パルナと一緒に部屋から立ち去った。

部屋を出ると、旧文明時代にあった高級ホテルのように、他の部屋が並ぶ無機質で真っ白な通路が続いていた。

床全体に敷き詰められた絨毯が足音を吸収し、無音のまま二人は通路を突き進む。

そして、通路を抜けた先の少し広がった観葉植物が一つだけ置かれたこれまた無機質な休憩所に、タカコ、クルル、レックス、ティナ、そして魔王の五人が集まっていた。

「アリスも来たか……眠れなかったのか?」

「多分、レックスさんと同じ理由だよ」

二人が来たのを見ると、レックスは休憩室に置かれた六人掛けの円形のテーブルから退き、二人に座るように促す。二人が座ったのを確認すると、満足そうに微笑を浮かべながらレックスは壁に背を預けて腕を組んだ。

「私は何か手伝えることがないか探してたんだけど……大人しく休んでなさいって怒られちゃったわ、デビッドさんなんて今頃ノアに戻って一仕事してるのに」

「しょうがないよ、タカコさんはデミスの体内に突入するんだもん」

「あら? そんなのデビッドさんだって同じじゃない」

こんな時くらい素直に休めばいいのにとアリスは「さすがだね」と言葉にしつつ、少しだけ苦笑いを浮かべる。

明日、宇宙へと向かい、デミスと目の鼻の先にまで接近するのは全員だが、デミスの体内へと突入する者と、外で中に入った者たちの後を追わせないように喰い止め、帰還するためのルートを確保する者とで分かれる。

内部へと突入するのはラストスタンド10機、ガーディアンの精鋭100人、そして來栖、ロイド、レックス、タカコ、クルル、パルナ、フローネ、デビッド、バルムンクの9人。

外部で無数の敵を食い止めるのは、三ヵ国から集ったアースクリア出身者たち、異種族、魔族を合わせた約31300人とラストスタンド500機、そしてアリス、ティナ、ディルベルト、メリー、油機、ウルガ、ペス、フラウ、ピッタ、シモン、ミリタリア、魔王、エステラーの13人。残りは地上で戦うことになる。

内部よりも外部に数を割いた理由は複数あった。第一にデミスの体内で何が起きるかわからないというのが大きな理由だ。

仮に大人数を割いて一度に全滅するような事態に陥った時、持ち直すことはできないだろう。そのため、万が一、來栖たちから通信が途絶えた場合、魔王率いる第二部隊が突入する手筈になっている。

また、デミスの体内の侵入口は巨大な空洞となっているとはいえ、それでも数百人が一斉に行動するには不向きな狭さだった。最悪、味方を巻き添えにする事態になり、実力を発揮できない恐れもある。

かつて、リーシアが率いた部隊も少数精鋭として乗り込み、そして、デミスを眠らせることに成功しているため、今回も同じ手段で挑もうとしていた。

むしろ、戦う時の方向が決まっている体内よりも、外で全方向から変異体やデミスの触手による脅威にさらされ続ける外の方が危険は多い。

「この中にお父さんが混じってるのって……なんか新鮮だね」

「私も一仕事を終えて戻って来たばかりでな、休もうと思ったらタカコに声をかけられて成り行きでここにいる」

「一仕事?」

「地上に残すことになる魔族と、共に宇宙へと行く魔族を采配していた。身体に魔力を補充するための魔力タンクの準備なども含めてな。だが……途中でエステラーに休めと言われてな」

どうりでエステラーの姿が見えないはずだと、アリスは納得して頷く。

「どうせこの身体は魔力で作られている。そんな気遣い無用なはずだが」

「それを言ったら、アリスまで無用になっちゃうでしょ? 身体は心配いらないのかもしれないけど、心までそうとはいかないじゃない。あんたは魔王だからいらないのかもしれないけど」

パルナに諭されて、魔王はすぐに「それもそうか」と納得して瞼を閉じる。

誰もが魔王のように強いわけではないことを、魔王自身が一番よくわかっていたからだ。

「いよいよ……ですね」

そこで、緊張しているのか少し張りつめた顔つきでクルルが呟く。

「ああ、僕が強さを追い求めてきた全ての理由がこの戦いにある」

「よく言うわ、あんた最初は『僕は勇者だ! 一緒に魔王を倒そう!』とか言ってたのに」

涼し気な顔で放たれたレックスの何気ない一言に、パルナが「はーやだやだ」と呆れた顔つきでツッコむと、想像以上に心に刺さったのかレックスは表情を崩して顔を赤くする。

「ば! 何をそんな昔の話を引っ張り出している! あの時と今は違う! 師匠と共に過ごすことで本当の強さというものを知ってだな……そ……それを言うならお前だって『魔族は滅びるべき!』とか言ってたじゃないか!」

「私はあんたみたいに最初からそうだったみたいな言い方してませ~ん。しっかり反省してるからこうしてずっとアリスの傍にいたんじゃない。鏡がいなくなったからってカジノの経営を放棄して黙ってどっかに修行に行っちゃうストイックなチクビボーイさんと違って」

「ね~?」と確認するようにパルナは隣に座るアリスの肩を掴むと、レックスは何も言い返せないのか「ふぐ……ぬぅ!」と悔しそうに顔を歪める。

「やれやれ、こんな時まで痴話喧嘩ですか? 仲のよろしいことで」

そんな二人のやりとりを、お腹いっぱいと言わんばかりに嘲り笑いながらティナが溜め息を吐き出す。すかさず二人は声を揃えて「「どこが!」」と反論したが、あまりにも息がぴったり過ぎて、そのあともティナからは苦笑いしかこぼれなかった。

「ふふ…………あはははは」

そんなやり取りがおかしくて、アリスはつい噴き出すように笑ってしまう。

「なーに笑ってるのよあんた、ちょっと失礼じゃない?」

当然馬鹿にされているようにしか見えず、パルナはアリスの頬をぐにぐにと引っ張る。

「ち、違うよ、違うって、誤解だよ! こうやって皆で集まってゆっくり話すのって久しぶりだなと思って。この前も話したはずなんだけど……なんだか、とても昔のことに感じちゃってさ」

アリスが手をわたわたと動かして弁解すると、納得したのかパルナは笑みを浮かべる。

「ま、確かにそうね。レックスなんか『力を、僕に力を~!』って妙に焦ってて変だったし」

「変って言うな、傷つくだろう」

「え~、なんかピリピリしてて怖かったわよね~? ねえティナ?」

「なんでそこで私に振るんですか、そこはアリスちゃんでしょう」

するとその時、確かにその通りだと思えたのか、一同のやりとりに耐えきれなくなった、それまで少し緊張した顔つきだったクルルの表情が崩れ「……ふふ」と笑いだす。

「いえ、ごめんなさい。確かに久しぶりだなと思いまして。きっと……今がこれまでのどんな状況よりも、不安で押し潰されてもおかしくないはずの状況なのに」

その言葉に、場にいた魔王を除く全員がほっこりとした表情を浮かべる。その理由がなんなのか既にわかっていたタカコは「それはね」と説明しようとするが――

「それだけお前たちが強くなった……いや成長したということだろう」

魔王に台詞を奪われてしまった。

「んもぅ、魔王ちゃんったら、私の台詞とっちゃ嫌よ」

「む……すまんな」

「ここでいくら慌てたところで、何も変わらないもの。なら、別に妙にピリピリした雰囲気を出す必要はない……きっとそれが、私たちには自然にできるのよ。ずっと見てきたんだもの」

考えてもどうしようもないなら、慌ててたところで何も変わらないのなら、無駄に深刻に悩む必要はなく、適当に肩の力を抜けばいい。

それはいつだって、鏡がやってきたことだった。たとえここにいなくても、鏡の精神が自分たちの中で生きているのだ。

それを、魔王すらもひしひしと感じていた。