軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-8

地下施設ノア、その地下施設の中央に位置するセントラルタワー内の、更に地下深くへと潜った場所に広がる無数のカプセル。

中央で胎動するかのように橙色の光を放っている大きな機械は、そのカプセルの中で眠る者たちをアースクリアの世界へと閉じ込めるための管理システムであり、アースクリア内の一国、ヘキサルドリア王国そのもの。

「ここが…………アース?」

しかし現在、かつては空きが出れば、すぐに別の個体が生み出されていたカプセルは、点々と蓋が開かれ、中身のない状態となっていた。

「本当に私たちが住んでいた世界は……現実ではなかったのですね」

そしてまたここに一人、修道服に身を包んだ金髪の華奢な女性がアースの地へと降り立った。

カプセルから出たばかりの裸の状態から着替え、身長の半分はある両手杖を握りしめながら、僧侶の女性は無機質で機械的な光を放つ通路を歩く。

鏡の演説を目にし、世界の真実を知った上でデミスと戦う覚悟を決めたその者に迷いはなく、無機質な『前にお進みください』という声に従い、先へ先へと進む。

「どうでもいいさ、こうしてここに来れたってことは、俺たちも現実になったってことだろ?」

「君はいつも楽観的だな、あの演説が本当だったとするなら、我々はこれからあの想像を絶する化け物と戦わなければならないんだぞ?」

「そうだとしても、すぐってわけじゃないんだろ? 今は準備期間だとか言ってたし、少しの間は色々とこの世界を見て回れるだろ」

その隣で、共にこの世界へとやってきたひょうきんな態度の戦士の男性と、どこか融通の利かなさそうな硬い表情をした魔法使いの男性が声をかける。

三人は、レベル100を超えたばかりのパーティーだった。魔王討伐を目標にせず、各地を回ってモンスターのはびこるダンジョンやフィールドのクエストを受けることを目的とした生粋の冒険者。

しかし、その冒険もデミスとの戦いに敗北すればできなくなる。アースクリアそのものがなくなってしまうからだ。デミスと戦う勇気はなかったが、それでも震えながら終わりを待つよりも、冒険者業で鍛えたその身体を働かせた方が遥かにマシだと三人で相談し合い、こうして一戦力としてこの世界へと訪れたのだ。

「しかし……気味の悪いところだな。壁なんて見たこともない材質で作られてる」

「どっかで見たことある感じもするが……この天井のライアンに沿って光っている照明なんて、ヴァルマンの街にあるカジノとそう変わらないものを使っているんじゃないか? 電気で起動する道具に似ている」

「電気って……なんだ?」

「これだから田舎者は、大きな街にあるゲームセンターくらいは知っているだろ? あれも電気が使われているんだぞ?」

「マジかよ……! じゃあこっちでも色々と楽しめそうなものが置いてあるんじゃねえの⁉」

この先に待っている未知なる世界を想像して、冒険者としての血が騒ぐのか、興奮気味に三人は語る。

だが、戦いに志願しても、暫くは余裕があると判断していた三人の考えと、現状は大きく異なっていた。

三人がアースクリアの世界で、アースへと移動することを志願するアイテム使って眠ってから、既に四日間の時が流れていたからだ。

そうなったのも、鏡の演説によって急激にデミスとの戦いへの志願者が増えたため、順番にアースの環境へと適応させるための身体の調整を施した結果、これほどの遅れが出てしまったからである。

それほどまでに、アースクリアからアースへの身体の適応には時間がかかった。

それでも、この四日間を使ってノアだけで1000人の冒険者を外に出せたのは、來栖の異常なまでの手腕があったからに他ならない。

「残念ながら……裕福であるという意味では、アースよりもアースクリアの方がずっと優れております。また…………ゆっくりと観光というわけにはいかない状況でもあります」

通路を歩いていると、三人の背後から突如不気味な声が響き渡る。

慌てて背後を振り返ると、そこには、貴族に仕える使用人がよく身に纏う執事服を着用した、長い髭を左右に延ばし、死んだ魚のような目をした細身の男性が立っていた。

「初めまして。ノアを管轄する來栖様に代わり、現在この地下施設の管理と、こうしてアースクリアからいらっしゃった皆様方の案内を任せられていますデビッドと申します」

デビッドは、丁寧に頭を下げてまずは敵ではないことを示す。礼節を弁えたその行動に、冒険者の三人は顔を見合わせると、緊張が解けたのか安堵して笑みを浮かべた。

「良かった、いつまで経っても無機質な声で案内されるから困ってたんだ。早速このアースを案内してくれよ」

「先程も申し上げましたが、ゆっくりとしている時間はありません」

デビッドは顔をあげると、観光気分でいる戦士を睨み、生温いことを言っている場合ではないと、雰囲気で伝えようとする。

「……どういうことでしょうか?」

その睨みから察したのか、僧侶は恐る恐るデビッドに尋ねた。

「皆様は恐らく……状況が変わってしまう直前にこちらに来られたのかと思います」

デビッドの予測は当たっていた。三人がアースクリアを去った段階では、まだデミスの襲撃は始まっておらず、変わらず鏡の演説やアースとアースクリアの真実を告げる映像、そしてデミスの脅威を伝えているだけだった。

だが、デミスとの戦いが始まってしまった今、アースへと訪れることのできる人数は限られる。來栖が直接調整を行うこともできなくなるため、単純に、間に合わないからだ。

そのため、映像は差し替えられ、デミスと人類の戦いの結末をアースクリアの住人にも伝えられるよう中継映像を送っていた。

三人はまだ、その中継映像を見ていないのだ。

「こちらへ」

それを理解しているデビッドは、足元に青白い光のサークルを展開し、三人にその中へと入るように指示を出す。まず地上へと送り出す前に、現状の説明が必要と判断したからだ。

そしてデビッドが向かった先は、セントラルタワー内にあるモニタリングルームだった。

簡易的にホログラフィックのディスプレイを見せつけるより、ここであれば、複数の映像をより鮮明に、同時に見てもらうことができたからだ。

「恐らくは……皆様はアースクリアからやってきた最後の組となるでしょう……戦いは既に、始まっております」

三人は、そこに映っていた映像を見て、目を見開き震えあがった。

「おい…………おいおい、まだ……眠っているんじゃねえのかよ!」

声を出せたのは、戦士だけだった。魔法使いと僧侶は悲惨な光景を前に声が出ず立ち尽くす。

「デミスが目覚めて既に三日が経過しております。現在はアースディフェンダーによるバリアが展開しているため、一部の敵しか侵入しておりませんが……それでも数は甚大です」

遠目から見れば、イナゴの軍勢が迫っているようにも見えたかもしれない。だがそれは、一体ずつが人間と同じサイズの化け物と、人間の以上のサイズのスライム状の細胞。

それが、ノアの地上を覆いつくしていた。

『っつ……虫みたいに湧いて出てきやがる、一体いつになったら終わるんだ⁉』

『ちょ……これ! 誰か剥がしてもらえない⁉ こいつってそのまま放置してたら身体を奪われて化け物みたいになっちゃうんでしょう⁉』

そんな無数の敵を前に、数十人規模のアースクリア出身者、ラストスタンドに搭乗したアース出身のレジスタンスたちが、間髪入れずに空へと魔力銃弾と魔法を放ち続けていた。地上から放たれる高威力の攻撃をかいくぐってきたデミス細胞や変異体たちは、すぐさま戦士の役割を持った者か、武闘家の役割の者によって駆除される。

遠距離職の役割と、近接職の役割の者がお互いをカバーしながら、なんとかノアへの敵の侵入を防いでいた。