軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-7

「良かったのか?」

「……何がだい?」

会議が終わり、呼吸音すら聞こえるくらいに静まり返った会議室の中で、居残ったライアンがふいに來栖へと問いかける。

会議室の中は、他の者が気を利かせていなくなり、來栖、ライアン、セイジの三人だけが残っていた。

「仮にリーシアを救えたとしても、お前が死んじゃ意味がないだろう?」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことって……お前なあ? リーシアはお前がいないと助かっても喜ばねえぞ」

仮に戦いに勝利したところで、どちらか片方が欠けていれば意味がなく、お互いが傍にいる状況でなければこれまでの苦労が報われない。そう思ってライアンは訴えかけるような眼差しを來栖へとぶつける。

「助かる……ねえ」

そんなライアンを來栖は一瞥すると、どこか哀愁の漂う表情を浮かべた。

「なんだ? 何が言いたい?」

その表情の意味がわからず、ライアンは首を傾げてしまう。

「リーシアは助からない、そう言いたいんだろう?」

そこで、表情の意味を読み取り、自身もそう感じていたのか、どこか仕方のないことだと諦めたような顔つきで、セイジが溜め息を吐く。すると、セイジの読みが当たっているのか「……さすがだね」と微笑を浮かべた。

「君は本当にムカつくくらい、僕の考えを読み当てるよね」

「当たり前だ、何年の付き合いだと思っている」

はっきりとした物言いに、來栖は一瞬面食らう。

だがすぐに気を取り直して「千年くらい?」と口にすると、肩をすくめた。

「リーシアは必ず救ってみせる。でもそれは……五体満足の姿で助けだすという意味じゃない」

「可能性は……やっぱり低いのか?」

「デミスと同化してどれだけの時が経ったと思っているんだい? それにもう……デミスは目覚めてしまっている。この意味がわからない君じゃないだろうライアン?」

同化を果たし、千年の時が経とうとしている今、恐らくは完全に同化を果たしたリーシアを分離させるのは現実的ではない。そして、大人しく分離をさせてくれる相手とは、現状既に攻撃を仕掛けられている段階では想定できなかった。

「僕は命を拾いに行くんじゃない。救いに……解放しに行くんだ」

既に覚悟はできている、そんな強い意志の感じられる眼差しで來栖はハッキリと告げた。

「まあ、だからと言ってお前が死ぬ必要があるのかどうかは疑問だけどな」

だがそれでも、納得してない表情でライアンは口にする。自分を犠牲にして救うなんて行為は、リーシアも望んでいないだろうと考えてだ。

「死ぬつもりはさらさらないけどね? なんなら、僕がピンチになったら同行する他の誰かを盾にしてでも生き延びるよ? まあ死ぬとしたら……盾にできる味方がいなくなった時だね」

「うわあ」

「心配するだけ無駄だライアン。こいつは犠牲になりたくてなろうとする男じゃない。必要だから行くんだ……まあ、せいぜい頑張るんだな」

いつもの何を考えているのかわからないふざけた口調で話す來栖に、セイジのその言葉を聞いて、ライアンも「それもそうだな」と安心した表情を浮かべる。

「僕のことより自分たちの心配をしたらどうだい? セイジが指揮する場所だって下手すれば僕よりも危険な場所だ。少しでも生き残る確率が上がるように対策しといた方がいいんじゃないかな? 僕と違って君は、生身の人間なわけだし」

「たった一日でできることなんて知れている。駄目だったなら、それまでの努力が足りなかったというだけの話だ。無論、ただで死ぬつもりもないがな」

「なんていうかな……俺だけ安全な場所にいるってのがこう、なんつったらいいか」

「気にしなくても僕とセイジの部隊が全滅すれば、ライアンも死ぬから安心していいよ」

「それって安心していいのか?」

「來栖の言う通りそもそも安全な場所なんてない。いずれにせよ誰かが地上の指揮をとらなきゃいけないんだ。ライアンが気にする必要はない……それにそんなヨボヨボの身体で前線に出られても困るしな」

セイジの言葉に賛同なのか、來栖も頷く。

「今から身体をクローンに移し変えるにしても一ヵ月は掛かるしな……こんなことなら変なこだわりを持たずにさっさと身体を入れ替えておくんだった」

「どちらにしても同じだよ、地上の指揮は誰かに任せないといけないんだから」

クローンとはいえ、自分と見比べて若い身体を持った二人を前に、ライアンは少し寂しそうな表情で皺だらけになった自分の手を見つめる。

寂しさを感じたのは自分に対してではなく、若い身体をもった二人に対してであったが、ライアンはあえて口には出さなかった。

「さて……僕たちの長い戦いも、正真正銘これが最後だ。前回のように次はない。悔いがないように全てを出し尽くしてくれよ」

その表情を読み取ってか、來栖は仕切り直すようにそう宣言する。

「全て……か、俺はもう出し尽くした。後は油機とメリーに任せるさ」

「例のアレが完成したのか?」

「いや……途中でデミスが来たから中途半端に終わってる。動かすだけならできるが……全部の機能を扱うにはまだまだ調整が必要だ」

「おいおい、そんなものを実戦投入して大丈夫なのか?」

「油機が……な、まあ、あいつもアースに来て旧文明の機械に触れて長いんだろ? 任せろと言うんだから任せるさ。というより、任せていいと判断した」

「……そうか」

心配はしていないのか、ライアンは自信に満ち溢れた顔で親指を立てる。

仮に、油機が己の力で道を切り開けなくとも、ライアンは確信していた。最後に生み出した自身の最高傑作は、たとえ未完成であろうと歴代の全てを凌駕していると。

二人も、そうまで言うのなら心配いらないのだろうと、それ以上何も言わずに頷いた。

「さて……そろそろ僕もノアに戻るよ。一応、先に戻ったデビッドとシモンに指示出しは任せてあるけど、残り一日じゃ人手はいくらあっても足りないからね。それに、前線に連れ出す者たちをエデンに運ばないといけないし」

「はぁ……またデミスの細胞と変異体共が飛び回ってる中を移動しなきゃならんのか」

「ライアンはエデンに残った非戦闘員のアース出身者を連れて、ガーディアンに戻るだけだろう? 僕なんて、わざわざ往復しないといけないんだよ? もしかしたら戦いが始まる前に死んで終わっちゃうかも」

「お前は……そんなタマじゃないだろう?」

微塵も思ってもいないくせによく言ったものだと、セイジは呆れて溜め息を吐き出す。

現在、アースディフェンダーのバリアが展開されたおかげで敵の侵入を最小限に抑えられてはいたが、それでもただの移動でも危険が付き纏った。

とはいえ、ラストスタンドに搭乗して集団で移動すればお互いをフォローできるため、そこまで脅威でもない。今回こうしてエデンに集まれたのも、集団で移動を行ったからだ。

「各々の拠点から出発だったらそんなリスクを背負わなくて済むんだけどね、さっきの会議中は何か考えがあるのだろうと思って何も言わなかったけど、わざわざエデンに戦力を集中させて出発させるのには理由があるんだよね?」

「当然だ。俺も全てを出し尽くす……とにかく、明日までのお楽しみだ」

たとえ大きな脅威でないとしてもリスクは極力避けたい。それがただの移動だったとしても。

しかし、そのリスクを負ってでもセイジはエデンに戦力を集めることを望んだ。

その理由がわからず、ライアンは顔をしかめたが、來栖は不敵に笑みを浮かべて承諾した。

ライアンが、これまでの研究の成果として最後の作品を作り上げたように、來栖が、これまでの研究の成果として己という兵器を生み出したように、セイジも、その成果があると判断したからだ。

そして來栖には、それが何なのか大方の予想がついている。

「ま……楽しみにしていますよ」