軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-6

「おいおい……お前が行って何ができるって言うんだ?」

「ラストスタンドに乗ってついて行くつもりか? 言っておくが、デミスの体内では充分に力を発揮できないぞ? 前回の戦いで、デミスの体内に侵入したラストスタンドの反応が真っ先に消えたようにすぐ死ぬのがオチだ」

來栖の爆弾発言に、すぐさまライアンとセイジは呆れた顔で尤もな意見を述べる。

「それこそ、フラウを連れて行った方がまだ役にたつだろう。馬鹿かお前は」

「おいセイジ、さすがの妾もそこまで言われると悔しいのだが?」

とは言いつつ、慣れ始めているのかフラウはジト目を向けるだけだった。

「それくらいのこと、君たちに言われるまでもなく理解している。無論、ラストスタンドに乗るつもりもないし、ちゃんとお姫様よりは役に立たせるつもりだよ」

「……何か、道具でも使うつもりか?」

「もちろん道具も持っていくつもりさ、でも……違う。僕がデミスの内部に侵入するうえで一番頼りにしているのは、僕自身だよ」

「何を言って……?」

すると、來栖は指を動かしてセイジに殴りかかってくるようにジェスチャーを送る。

その行為にセイジは額に汗を浮かばせ、「……まさか」と予想つけつつも、「いいだろう」と狭い会議室の中で勢いをつけて來栖へと接近した。

「歯を……食いしばれ!」

そして、迷いなく右の拳を來栖の顔面へと突きつける。しかし、拳は來栖に届くことはなく、來栖の目の前で止まると、セイジの拳の骨から鈍い音が鳴り響いた。

「ぐ……っはっふ!」

拳の痛みに悶えているのか、セイジは歯を食いしばりながら左手で右の拳をさする。

「さすがセイジ、痛みで喚くことなくクールだね」

「クールだね、じゃない……! なんの道具だそれは……! てっきり俺は、お前がその身体に手を加えているものだと……!」

「その通りだよ」

はっきりと來栖から言葉を耳にし、内心、そうでないことを願っていたセイジは残念そうに眼を瞑る。

「人を……やめたのか?」

「人だよ、そんなこと言ったらこの場にいるほとんどが人じゃないだろう? 人の定義は姿形じゃない。知性、協調性、そして感情だ。まあ、僕はその感情が少し欠落しているかもだけど」

「だが、お前の身体はオリジナルの來栖の肉体じゃなくなった。たとえ中身がオリジナルだとしてもな!」

「君ならそう言って怒ると思っていたよ。君は昔から、ありのままで居続けることを大切にしていたしね。人の超人化を最後まで反対していたのも君だったし」

そうやって憤るのを予測していたのか、肌にまで伝わりそうな睨みを向けてくるセイジに來栖はやれやれと首を振って溜息を吐く。

「人じゃなくなったかどうかは大きな問題ではありません。強いか強くないかが問題です」

そこで、このままでは話が進まないと判断したのか、ロイドが割って入る。

足手纏いになるようであれば、どちらにしても連れてはいけない。それならば、自分が指揮をとった方が遥かにマシだと、ロイドは探るような冷ややかな視線を來栖へと向けた。

「ロイド君はどう思っているんだい?」

「鏡君たちをあなたが認めてから肉体改造を施す時間があったとは思えません。それに、ただの人間が僕たちのような力を得るにはかなりの負担が掛かると聞いています……この短期間であなたがそんなことをしていた様子もありませんでした。正直かなり怪しいと考えていますよ」

「確かに超人化は負担が掛かるね。でも……時間ならたっぷりあったよ」

その一言で理解したのか、ロイドは「なるほど……騙されましたよ」と感慨、瞼を閉じた。

「僕は……ずっと前から超人さ。戦闘を避けていただけでね」

「……おいおい」

予想外だったのか、ライアンは苦い顔を浮かべる。

「獣牙族や喰人族のような異種族、魔族のアースへの生成、無から命を作り出す行為をしてきた奴だ。無論、クローンで作られた自分の身体にも手を入れるだろうな」

対照的にセイジは、怒りを見せつつもどこかで想定はしていたのか、深い溜息を吐いて眼鏡を整えた。

「よくわかってるじゃないか、とは言っても、身体を急激に強化しても扱えないし、なじませるのにも時間が掛かる……結局、パルナ君の半分の力もないくらいで肉体改造は中断したけどね」

「私の半分って……言っとくけど、私は魔法を扱うための魔力量や知力は高いけど、レベル100を超えてても、身体能力はたいしたことないわよ?」

超人化を済ませているとはいえ、レベル100にも満たない身体能力、それも魔法使いであるパルナの半分以下ともなれば、役に立たないのは明白。

しかし、それでもこうして堂々と宣言している以上、他に何か隠していることがあるのではないかと、ロイドの隣で話を聞いていたフローネが、ベレー帽を少し斜めに傾けながら口元に手を当てて思考する。

「…………スキルイーター、ですね?」

そして、確信を得たかのような表情で問いかける。

すると、來栖はそれが正解であると不敵な笑みを浮かべて表現した。

「恐らくですが……先程、セイジさんの殴打を止めたのは、朧丸さんが使っていた足場を作りだす能力ではありませんか?」

「正式には、気体の位置座標を固定させる、とある魔法使いが覚えたスキルだけどね。固定できる範囲が狭いのと、物体がその座標に被さっている場合は固定できないから、朧丸は足場を作るだけでしか使ってなかったけど……さっきみたいな使い方もできるわけさ」

「その力があれば……鏡さんをご自身で試すこともできたのではないですか?」

「無理だよ。どれだけ肉体改造をしたところで、君たちには遠く及ばない。フローネ君と戦ってもボコボコにされるくらいだ……僕なんかじゃ試練の相手は務まらなかった」

両手を開けて買いかぶりすぎだと來栖は自分を皮肉する。

「……どうりで」

そこで、來栖の力の正体を知ったことで、ロイドが納得した様子でアリスの顔を見つめた。

「ガーディアンでの戦いの時、背後からアリスさんを後ろから『刺せたこと』に違和感があったのですが、理解しました。あの場にはタカコさんや鏡さんもすぐ近くにいた。見えていなかったとはいえ、あなたの動作に気付けないわけがない」

「君の考えている通りだよ」

すると來栖は、会議室内を少しだけ歩いて移動した。歩いて移動しただけだったが、その動作には違和感があった。歩いているはずなのに、音もせず、そこにいるという気配も感じられなかったからだ。

「喰人族の……!」

今は害がないとはいえ、散々苦しめられてきた忌むべき敵が使っていた力を前に、メリーは眉間に皺を寄せる。

「今の僕は、僕がこれまで研究してきた成果の全てが注ぎ込まれている。これまで犠牲になった者たちの全てが詰められている」

だが、それでもまだまだ足りない。鏡やロイド、レックスたちには遠く及ばない。

「約千年もかけて……これだけだよ。朧丸君という成功結果がいなければ……ついていくこともできなかったと思う」

だからこそ、鏡たちの存在の価値が痛いほどにわかった。

痛いほどにわかったから、このチャンスを逃してはならないと、諦めをつけたのだ。リーシアを救えるのは自分ではなく、この者たちなのだと。

「僕はこの千年を無駄にするつもりはない。どうせ勝っても負けてもこれが最後なんだ。僕は君たちと共に行く、戦闘はできないが、サポートとしては戦力になるはずだ……少なくとも、朧丸よりもね」

「來栖……お前」

その執念と、覚悟の表れにバルムンク、そして油機は息を呑んだ。

肉体改造、及びにスキルイーターによる施術の辛さをその目で見て知っているからだ。

施術を受けた者は例外なく肉体の急激な変化に耐えきれず、激痛のあまりに喚き叫んでいた。

朧丸がその苦痛に耐えきれず施設を逃げ出したように、一つのスキルにつきその激痛を何度も味わうことになる。それに耐えて、來栖は今、死地へ向かおうとしている。

リーシアを救うという目的のため、人生のほとんどを残酷なまでに注ぎ続けてきた男の意志に口を出す者はその後にはおらず、來栖はデミスの内部へ突入するものとして会議は終わった。