軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バッドエンド-10

「いや……マジでキリがねえな。無限に湧いて出てくるぞ」

「それだけ、ここに戦力が集中しているということだろう」

戦いが始まってから四十分が経過した頃、鏡とレックスは朧丸が作った足場の上に立って背中を合わせ、減る気配のない敵を前に引きつった顔を浮かべていた。

「……気付いてるか、レックス?」

目の前に迫った変異体を蹴り飛ばしながら、鏡は問いかける。レックスも薄々感じていたことだったからか、「ああ」と頷き返した。

「学習している……いや違うな。取りこんだ人間たちの力を少しずつ扱いこなせるようになっているのか?」

最初は、一方的に殲滅できていたが、時間が経過する毎に一体の敵を倒すのが困難になってきていた。変異体、デミス細胞共に、最初戦い始めた時よりも速く動き回り、そして知的に連携をとって戦うようになっていたのだ。

「……寝起きだったってことか?」

「ま、そういうことなんだろうな」

パルナが殲滅魔法を放っても、一部のモンスターが盾になってその間に変異体が左右に回って同時に攻撃を仕掛けるなど、ただ殲滅力のある技や魔法を使えば倒せていた最初とは違い、こちらも考えて一体ずつしっかりと倒す術を考慮せざるを得ない状況になっていた。

「アースディフェンダーの起動は……まだなのか?」

敵の数は増す一方で、エデン内部へと入り込んでいる変異体とデミス細胞の数も少なくはなく、鏡は声を荒らげる。鏡の力であっても、この少人数で長時間成長を続ける敵をすべて倒しきるのは難しくなってきていたからだ。

『もうすぐだ! あと十数分こらえれば……稼働は完了する! 稼働さえすればこの星を覆うバリアを展開して……とりあえずは敵の侵入を防げるはずだ!』

「しかしさすがに……こう長いこと戦っていると辛いものがあるな。俺はまだまだいけるけど……皆はもう限界に近いぜ?」

いくらスキルと身体能力が優れていようと、生物である以上は限界が訪れる。鏡はまだ余力を残してはいたが、この数を相手に最初から全力で対峙してきたレックスたちは、既に疲れが見え始めていた。

「最強クラスの人間が集まっても……やっぱり長時間戦い続けるのは難しいな。いや、むしろこの人数でよくもまあ、あの数の敵を相手にまだ生き残ってるって褒めるべきか?」

「残念ながら鏡君、私はもう限界だ……エクゾチックフルバーストを発動する余裕もない。なのに、敵は数を減らすどころか強くなって数を増している。残り十数分も耐えられないよ」

もう胸を張って立っているのも辛いのか、息を乱して中腰になったディルベルトが鏡とレックスのすぐ傍へと降り立つ。

「あんたは下がってくれていい、外よりもまだ中の方が安全だろうからな」

傍に降り立った鏡の助言を聞き入れると、ディルベルトは頷いてエデン内部へと向かう。侵入を許している以上、内部も危険には変わりはなかったが、それでも外よりはましであると判断したからだ。

だがその時、中へと入ろうとするディルベルトと入れ替わるように、宝石のように煌めく赤髪の少女と、同じく藍色の髪をした少女が飛び出す。

その二人の少女は、外へと飛び出すや否や、手を前へと突き出し、同時に爆破魔法を放った。

「鏡さん! お待たせ!」

そして、爆破魔法によって上空にいた数体の敵を吹き飛ばすと、いつもの太陽のような笑顔を浮かべて鏡へと手を振る。

「中はもう大丈夫だよ! シモンさんとミリタリアさんだけで充分なくらいに数は減ったから!」

「アリス……⁉ お前……こんなところに出てくるんじゃねえよ!」

一瞬、その姿を見て嬉しくなり、ほっと安堵したが、冷静に考えると、フラウ同様この場に大きな力を持たないアリスがいるのはあまり良いとは思えず、鏡は声を荒らげる。

だが、アリスは接近してきた変異体を爆破魔法で一体仕留めると、「大丈夫大丈夫」と平気そうに笑顔を浮かべた。

「そうよあんた! 何考えてるの⁉ 今までとは相手が違うの! あんたなんかすぐに殺されちゃうわよ⁉ 自分の身を自分で守れないならここにいる資格はない!」

アリスの笑顔とは対照的に、眉間に皺を寄せて丁度近くで戦っていたパルナが、アリスの背後に忍び寄っていた変異体を氷の刃で貫いて怒声を浴びせる。

「それ、遠回しに妾にも言っておらんか? のう? ていうか妾にはそれ言わなくていいのか?」

「フラウ様はまあ……あたしの魔力タンクなので」

「扱いが雑すぎぬか⁉」

アリスよりも遥かに弱いフラウとの扱いの差に、アリスは「相変わらず過保護だなぁ」と嬉しくなって苦笑する。そして気を取り直すと、アリスは腕に魔力を集中させて魔法を放つ準備を整えた。

「大丈夫……今のボクは、魔力を失う心配をする必要はない! たっぷり用意してきたからね!」

アリスはそう言うと背中を見せつける。

背中には、來栖が用意した、魔族の身体を構成する魔力の詰まったポットが背負われていた。

これによりアリスは、体内の魔力が尽きても即座に背中のポットから魔力が供給され、普通の人間よりも遥かに多い魔力を使うことができる。それは、アースディフェンダーを動かすための機構にも使われているシステムを利用した魔力タンクだった。

「そういうことじゃないの! あんたじゃこの数の変異体は相手にできないでしょ!」

「ボクだけの力じゃ無理だけど……ボクは一人じゃない。そうだよね?」

何も心配はいらないといった顔でアリスは隣に立っていたクルルに問いかける。するとクルルはニッコリと笑みを浮かべて「その通りです」と返事をした。

直後、クルルは杖を地面へと突き刺して、エデン全体に行き届く大きさの、青白い光を放つ魔法陣を展開する。そこでパルナは気付く、先程、パルナがアリスの背後に接近していた変異体を倒さなくても、アリスの安全は確保されていたのだと。

「おぉ……な、なんだ?」

突然、自分の身に起きた異変に驚いて、レックスは自分の両手を見つめる。これまで変異体によってつけられた傷が、少しずつ癒え始めたからだ。

それだけではなく、身が軽くなり、剣を握る力も先程までとは比べ物にならないくらいに増幅する。

「皆さんの身体能力を強化しました。微々たる回復ですが、鏡さんが持っているオートリバイブ程度の自動回復の補助魔法もかけています。皆さんのそもそもの実力であれば、数だけの相手など……取るに足りません!」

それは、レックスが今まで数多の僧侶から受けてきた身体能力強化よりも遥かに強力で、自分の身体が他人のものであると錯覚するほどだった。

「これほどの強化……今までに受けたことがないわ。力が意識せずとも溢れかえる……凄いわクルルちゃん! あなたいつの間にこんな力を……!」

あまりの力の増幅に、タカコは驚いて手を握っては放すのを繰り返す。

「皆さんのサポートは任せてください。皆さんには……この私が、ヘキサルドリア王国が第三王女、神無月=クルル・ヘキサルドリアがついています!」

「大賢者……すげぇ」

クルルの力はそれだけではなかった。

雑魚がいくら束になろうが雑魚は雑魚。そんな意味が込められているようにも思えてしまう威力の殲滅魔法を、連続で放ち始めたのだ。

空を埋め尽くさんばかりに溢れていた変異体たちは、空を埋め尽くさん雷の嵐に包まれて次々に消え去っていく。徐々に力に目覚めて成長しているからといえど、その圧倒的な広範囲に及ぶ魔法から一瞬で逃れる術はなく、その身を雷がもたらす熱で焼き尽くされる。

「あたし……いらなくない?」

覚醒によって目覚めたクルルの大賢者としての力を前にして、他者の魔力を利用しないと同等の力を得られないパルナは目を点にしてその力を見守った。

「パルナさんはまだいいですよ……私なんて、何もできていません」

同じく、フラウとパルナの身を守るだけで、大きな活躍もできていないティナは落ち込んで再び表情を暗くする。

だが、仲間の凄すぎる力を前にして、ティナは少しずつだったが希望を取り戻し始めていた。