軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バッドエンド-9

「無理なんですよ……わかるでしょう? 鏡さんとレックスさんがいくら倒しても……敵の数は全然減る気配がない。いずれ……体力も尽きて、デミスも直接乗り込んできて……でも、守る手段はないから……もう私たちは…………」

俯いたまま、最悪の未来を言葉にし続けるティナにパルナは溜め息を吐くと、勢いよくティナの両頬を掴んでぐにぐにと動かし始める。

「正直あたしもあんたと同じ気持ちよ。どう考えても無理よね……これ、頑張るだけ馬鹿馬鹿しいと思うわ実際。昔のあたしなら……きっと諦めてたわ」

「なら……どうして?」

「あいつらが諦めてないから怖くてもやるわよ……だって仲間だもの。今のあたしにとっては自分の命よりも大事な……ね。できちゃったもんは仕方がないでしょう?」

パルナは、今も尚、エデンに敵が入り込まないように敵を倒し続けているレックスを視界に微笑を浮かべながらそう言った。こうやって、エデンの入り口の扉の前に立ち、敵に襲われずに悠長に会話できているのも、鏡たちが必死に守ってくれているおかげでもある。

「あんたにとって……あたしたちはどうなの?」

そしてパルナは、再度問いかける。真っすぐにティナの瞳を見つめながら。

「どうって……?」

「ここで黙って何もせず……必死にあがいているあいつらを見捨てて死ぬのを待つの? あんたはそれでいいの? 何もせずに死んでいくのを見ているだけ?」

真っすぐに視線を向けてくるパルナに耐えられず、ティナは視線を逸らした。だが、すぐに首を左右に振って、それは違うことを告げる。

ティナも、守りたいという気持ちだけは本当だったから。

でも、それができないから、やるだけ無駄だから、諦めてしまっている。どうせ駄目なら、全員いさぎよく諦めればいいのにと思ってしまっている。そう思ってしまっている自分が情けなくなって、ティナは唇を噛みしめた。

「やるだけやって死ぬのと、何もせずに死ぬ、同じ死ぬならあたしは前者を選ぶわ」

そう言いながらパルナはティナの頬を放して空を見つめる。だが次の瞬間、パルナは目を見開いて固まった。ずっと空を見上げていたフラウが気付けない速度で接近していたのか、死角から迫っていたのか、いつの間にか変異体が接近し、その筋肉質な腕を振り上げていたからだ。

直後、とてつもない勢いと力で振り下ろされた拳をパルナは顔面にもろに受ける。

殴ったとは思えない激しい衝撃音が周囲に鳴り響くが、被っていた帽子が宙を舞っただけでパルナは吹き飛ぶことなくその場に立ち尽くしていた。

「……え?」

想像していたほどの痛みがなく、パルナは困惑する。しかし、何が起きたのか確認している余裕はなく、すぐさま氷属性の魔法を変異体に撃ち放って吹き飛ばした。

「……私だって、死んでほしくなんかありませんよ! せめて、私が死ぬまで先に死なないでください……悲しいのは、もう嫌ですから」

パルナの命を繋ぎ止めたのが、ティナのスキル『淑女の施し』によるものだと知ると、パルナは笑みを浮かべてティナの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「よーっし……なら、あたしもビビッてなんかいられないわ! 出し惜しみ無しで行くわよ!」

気合を入れると共に、パルナは魔法を放つ準備を始めた。突如、パルナの目の前に魔力による巨大な魔法陣が浮かび上がり、少しずつ輝きを増していく。

それは、今まで誰も見たことがないパルナの新しい魔法だった。

「フラウ様! あなたの魔力……貰いますよ!」

「え? うぇぇぇぁぁあ⁉」

突然の宣言に、フラウは素っ頓狂な声をあげると、魔力を吸い取られているのか悲痛な叫び声をあげる。すると、魔法陣は更に輝きを増して巨大化した。

そして、準備が整ったのかパルナは腕を振り払う。すると、魔法陣から炎でも、氷でも、雷でも、爆破でもない紫色をした一本の巨大な光線が飛び出し、空へと一直線に飛ぶと、その射線上に存在した全ての敵は跡形もなく消え去った。

「よし……うまくいった!」

使うのは初めてなのか、パルナは想像していた通りの結果に満足してガッツポーズをとった。

突然発射されたとんでもない威力の魔法に、上空で戦っていた鏡、レックス、ディルベルトも一瞬足を止めてパルナへと振り返る。そしてパルナが親指を立てていたのを見て、満足そうに笑みを浮かべると、再び動き出して敵の下へと飛んで行く。

「な、何をしたのじゃ?」

「魔力の量だけ威力を強める魔法……それを作ったんですよ。あたしやクーちゃんが普段使ってるような、少ない魔力を雷や氷のエネルギーに変換して威力を高める複雑な術式の魔法じゃなくて、シンプルに……魔力で相手を殴るみたいな力」

『マジックバースト』。魔力の量だけ威力を増し、敵を消し去る消滅魔法。それは、他人の身体の魔力を利用できるパルナのスキル、『魔女の手』を最大限に生かすために作られた魔法だった。

魔力があればあるほど、魔力を保有する人数がいればいるほど、その人数を利用した超高威力の魔力による大砲を撃ち放つことができる。

「すごい威力じゃのぉ……今のでデミスを倒せるのではないか?」

「無理に決まってるじゃないですか……全人類の魔力を集めても、デミスを倒しきる魔力なんて集まりませんよ。というより、そんな魔力量、あたしが扱いこなせません」

スキルの使用による疲労はあるのか、パルナは少し疲れた表情を見せる。

実際、今の一撃でフラウもパルナもかなりの量の魔力を消費してしまっていた。本来この技は、大多数から少しずつ魔力をもらって発動するため、今のような少人数しかいない状況で使う魔法ではない。

だが――、

「こいつら……利用できるかも」

鏡たちが倒した変異体たちの死骸を視界に映して、パルナは何かを思いついたかのように笑みを浮かべる。

「……悪魔じゃな」

「利用できるものはなんでも利用する。そうでもしないと勝てない戦いでしょう?」

そして、死骸となった変異体たちに残る魔力をゴッソリと吸い取って、パルナは間髪入れずにマジックバーストを連発し始めた。地上から撃ち放たれるとんでもない援護射撃の心強さに、鏡は驚愕の表情を浮かべる。

「あいつらもやるじゃねえか……ティナも、来てくれたみたいだしな」

改めて仲間がいることの心強さを感じ取る。これだけの戦力がいればアースディフェンダーが起動するまでの時間くらい簡単に稼げると、鏡は士気を高めた。

「ふふ……心強い味方はまだここにもいるわよ!」

そう思った矢先、大きな爆発が連続でエデンのあちらこちらで巻き起こる。

何事かと視線を向けると、そこには一人の筋肉の塊が次々に変異体の胴体を貫き、スキル『気合噴火』による力で爆発させて木っ端みじんにして暴れまわっていた。

一瞬、敵かと思い違えるほどに恐ろしく、威風堂々たる姿に鏡は言葉を失う。

「タカコちゃんも来てたのか!」

「当然よ! 鏡ちゃんの攻撃を潜り抜けて地上に降り立った敵は私に任せて頂戴! 全部私が……処理してあげるから!」

余裕があるのか、タカコはセクシーポーズを決める。

できれば視線すら合わせたくもない姿だったが、近くまで接近していた変異体はそんなことはお構いなしにタカコの下へと直進し、タカコの岩のような腕の筋肉に拳を突きつけた。

すると何故か、殴りかかった変異体の拳が爆発して崩壊し、さらにはその衝撃によって吹き飛ばされ、変異体は力尽きて地面へと横たわった。

あまりの意味不明さに戦っていたレックスも一瞬だけ手を止めて、見たくもないセクシーポーズに視線を向ける。

「ついに……タカコちゃんのヤバすぎる色気が刃となって敵を葬りさるまでに至った?」

戦慄が止まらなかった。

自分たちがこんなにも必死になって戦っているにも関わらず、ただポーズを決めるだけで敵が吹き飛ぶという事実に、鏡は恐怖に歪んだ顔をタカコへと向けずにはいられなくなる。

「違うわよ鏡ちゃん。今のは……私のスキルよ? 正直、今の攻撃は素でもろにくらっちゃったわ。油断していた私が悪いのだけど」

タカコの持つスキル『気合噴火』とは、生命エネルギー、つまり闘気を利用して爆発を引き起こすスキルである。

今までは拳の衝撃に合わせて闘気を流し込み、爆発を引き起こしていたが、クラスチェンジによって拳だけではなく、全身に細かく己が力を作用できるようになったタカコは、殴られた衝撃を筋肉で受け止め、その反動としてダメージ受けた部位から闘気を放出し、爆発にして返す技を編み出していた。

『マッスルボンバー』、タカコが編み出した究極のカウンター技。

効果は単純だった。タカコを殴った者は殴った力の大きさだけの爆発をその身に受ける。タカコにダメージを与えたいのであれば物理で殴るのではなく、遠距離で攻撃を仕掛けるか、筋肉の反動を発生させない鋭利な武器で斬りつけるしかない。

「すげぇ……どんどん人間じゃなくなっていく。変異体の方がまだ人間に見えるこの恐ろしさ」

モンスター以上にモンスターな特性を得たタカコを、鏡は最早、人として見られなくなりかけていた。

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