作品タイトル不明
バッドエンド-11
どれだけ絶望的な状況を前にしても、一人一人が力を発揮して希望へと繋げようしていく。たとえ、自分の力がなくてもデミスを本当に倒せてしまうのではないかと思える勢いに、全てを諦めていたティナも「こんな自分でも何かできることはないだろうか?」と思考を巡らせ始めた。
だが――、
『まずい……上を見ろ!』
次に襲いかかった絶望を前にして、ティナは再び瞳から生気を失わせた。
「なんだ? 何が起きたんだ?」
突如響き渡ったセイジの声を聞いて、一同は視線を空へと向ける。
ディスプレイ越しに焦った表情を浮かべるセイジの姿から、非常事態であることは瞬時に理解できたが、空は敵に覆われて何も見えなかった。
「敵が群がって見えねえよ! 上空って具体的にどの部分を言ってるんだ⁉」
「クーちゃん! アリス! 力を貸して!」
上空に敷き詰められた敵を前にして、二人に傍へ寄るようにパルナが指示を出す。パルナの意図を瞬時に読み取ると、二人は頷き合ってすぐさま移動し、パルナへと密着した。
そしてパルナは、二人の魔力と、地面に転がっていた変異体たちの魔力を吸い上げると上空にマジックバーストを打ち放つ。放たれた紫色の魔力の光線は空に密集していた変異体たちを蹴散らし、セイジが指摘していた晴れ渡った空を少しだけ開いた。
「なんだ……あれ?」
一瞬見えた変異体のいない空に、鏡は表情を歪める。
ここよりもはるか上空、恐らくは宇宙空間に届くだろう場所だったが、エデンからでも視認できる距離に、グネグネと無数の触手を動かす巨大な化け物が滞在していたからだ。いつの間にそこまで接近していたのかという驚きもあったが、一同が一番驚いたのはそこじゃない。
「魔法陣……? 待って……あれってあたしと……同じ?」
そのデミスが、巨大な身体に保有した魔力を利用して魔法陣を形成し、こちらへと向けて撃ち放とうとしていたのだ。空には、あまりにも巨大すぎる魔法陣が形成されている。
「やばいわよ鏡……! あんたもさっき私が撃った魔法の威力を見たでしょ⁉ ここにいる人数であの威力よ⁉ デミスが……あの巨体が保有する魔力で撃ち放つマジックバーストなんか受けたら……!」
『あの魔力量だ……この星が消し飛ぶぞ!』
それも、その魔法は魔力の量だけ威力を増すパルナが作り出した魔法、マジックバーストと同じ性質をもった魔法陣。その身体から撃ち放たれる威力を想像して、誰もが終わりを予感した。
「なんであいつがあたしの魔法を……!」
『それだけ……知力が高くなっているということだろう』
むしろ、パルナがその魔法を編み出したが故に、その力を真似てこの状態を生んでしまった可能性もあった。その可能性を想像して、パルナは悔しそうに唇を噛みしめる。
「というか……どうしてデミスがこの星を消し飛ばそうとしてるんだ? あいつの目的は俺たち人類を食いつくすことじゃねえのか?」
『……捕食によるメリットよりも、お前たちと戦うことのデメリットの方が大きいと判断したのかもしれない。もしくは、俺たち人類を十分に喰らいつくしたから不要になったか』
疑問点はいくつもあった。それならばもっと早い段階に人類を消してしまえたはずなのに、何故今になってその判断を下したのか? いくら鏡が圧倒的な力を持っていても、鏡一人を倒すのを諦めてすぐに切り替えられるほど、この星はデミスにとってどうでもよかったのかなど、気になる部分は多かった。
だが、それでも確実にこの世界が終わろうとしているのは理解できた。
「不要になったんならほっといてくれりゃいいのに……どうするんだ!」
『アースディフェンダーの稼働まであと五分はかかる! あの魔法が放たれる前にバリアを展開できればいいが……いや、展開したとしても防ぎきれるかどうかも怪しい……』
威力によって結末は変わる。アースディフェンダーのバリアは外部からの生命体の侵入、およびデミスの触手による攻撃を一時的に防ぐものでしかなく、デミス本体が直接ぶつかってきたり、同等の威力を誇る攻撃を受ければ守り切ることはできない。
『いずれにせよ、撃たれたら……終わりだ』
どちらにせよ、アースディフェンダーが稼働していない今、結論は出ていた。
「撃たれる前になんとかすりゃいいんだろ⁉ パルナ! どうすればあれを止められる⁉ お前の魔法と性質は似ているんだろ⁉」
なんとか止める術を探すべく、鏡は声を荒らげてパルナに助言を求める。
「魔法を使っている本体を潰すか……魔力の集中を止める以外にない。でも、そんなの……!」
止める術がなく、パルナは戸惑いながら再び敵によって埋め尽くされた空を見つめた。
敵は宇宙、地上にいる自分たちにできる術はない。
そうこうしている間にも、終わりの瞬間は刻一刻と迫っているにも関わらず、打開策が見つからない状況が、一同を絶望のどん底へと戦い落とした。
『もう……時間がないぞ!』
セイジにはデミスが魔力を集中させる光景が見えているのか、焦った口調で鏡に呼びかける。
あと十数秒もしないうちに魔力の集中は完了し、この星にデミスの力が降り注ぐ。成す術なく滅びを待つだけのこの数秒が、一同には何分にも感じられた。
「……よし」
そんな中、鏡は一人笑みを浮かべて腕をグルグルと振り回した。
直後、朧丸の作った足場に立っていた鏡は振り返ってティナのいる場所に視線を向ける。
生気を失い、肩を震わせるその姿を見て鏡は苦笑すると――、
「辛いかもしれないけど……できるだけでいい。あとは……頼んだぞ」
それだけ伝えて、鏡は空へと向かって勢いよく飛び跳ねた。
『何をするつもりだ……!』
「俺がデミスの攻撃を止めてやる……だから、あとのことは任せる」
『何を言っている……お前がいなくなれば終わりだぞ!』
「でも今やらなきゃどちらにしろ終わる……! なら、少しでも未来へと繋げるべきだろ!」
セイジの静止に聞く耳を持たず、鏡は「朧丸!」と叫んで合図を送ると、朧丸は鏡が飛んだ先にさらに足場を作りあげる。鏡は上空にいた変異体たちを蹴散らすと、その足場を使ってさらに上へ上へと昇り続けた。
「悪いな……朧丸。付き合わせてよ」
「某がやらねば誰がやる? もとを辿れば死んでいた命。ご主人のために捧げるのに躊躇いなどない。それはもうご存知であろう? ご主人もわざわざ聞いてくるあたり人が悪い」
「馬鹿野郎……言っておくけど死ぬつもりなんてないぜ?」
地上から空へと向かって撃ち放たれた人間大砲を止められる存在はおらず、鏡が通る射線上にいた変異体たちは全て粉砕されていく。
さらに鏡は『エクゾチックフルバーストAct4』の力を解放し、拳にチャージブロウによる橙色の光を灯らせると、目にも止まらぬ速度でデミスへと向かって飛んで行った。
次の瞬間、猛速度で接近してくる鏡に焦りを感じたのか、デミスは魔力が完全に集中しきるよりも早く、その巨大な魔法陣から撃ち放たれるパルナの使うマジックバーストとは比較にならない大きさの紫色の光線を鏡へと撃ち放った。
その行動に鏡はにやついた笑みを浮かべると、その紫色の光線を全身でその身に受ける。しかし、鏡の身体は魔力を反射する闘気を放出するスキル『反魔』によって消滅することなく、力と力がぶつかり合うかのようにデミスが放った紫色の光線をたった一人で、推し返していた。
「人類を……舐めるなぁぁぁああああああああああああ!」
そして、大気を震わせる気迫の籠った叫び声をあげ、チャージブロウによって高まった拳を振り上げると、鏡は紫色の光線を打ち消すとともに、その場から跡形もなく消滅した。