軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バッドエンド-3

「ところで、さっき言っていた一時間も耐えてくれればというのはどういう意味だ?」

『アースディフェンダーを起動したのさ。すぐに起動できるよう、電力供給だけ先に済ませておいたセイジの考えが功を成したって考えるべきか……そのせいで目覚めてしまったと捉えるべきか、とにかくあと一時間もすれば、六大大陸のアースディフェンダーがバリアを展開し、一時的にデミス細胞と変異体の侵入を防ぐことができる』

「そうか……! 良い知らせだ!」

終わりが見えたことで、バルムンクの表情に活力が戻った。直後、拠点にいる全員に聞こえるほどの声量でその事実を叫び伝える。すると、全員同じ不安を抱えていたのか、それぞれ勇ましく叫び声を上げ、士気を高めた。

「突然の奇襲で不意を突かれたが……いけるぞ、まだ立て直せる! 恐れるはデミスだけだ!」

『……それはどうだろうね?』

微かだが、勝機を見出したバルムンクに、來栖はどこか冷たくそう言い放つ。

「……何故だ⁉」

『デビッド……今回の敵の戦い方をどう思いますか?』

ナイフで次々にデミス細胞を仕留めていたデビッドに來栖は問いかける。すると、デビッドはバルムンクとは逆に、深刻そうに「……ふむ」と悩んだ顔を見せた。

「知能が上がったにしては……少々荒さが目立ちますな。仮に、知能が上がっているのが事実だとするならば……これは、わざとそうしているか、もしくは……」

『僕も同じ考えだよ。知能が上がっていてもデミスは目覚めたばかり……仮にこれが、目覚めたばかりで取りこんだ人間や超人たちの力を上手く扱えていないだけとするなら?』

「今後……更なる苦戦が待ち構えているということになりますな」

今、行われているのはデミスたちにとってただのウォーミングアップでしかない。その可能性が、再びバルムンクの表情を険しくさせた。

『リーシア……君は』

デミスが目覚めた今、救いたいと思い続けてきた対象はもうこの世には存在しないかもしれない、そんな不安が來栖に圧し掛かった。

いずれにせよ、どうなってしまったかを知るには、もう前に進むしか道はない。

しかしその道は、デミスの急な目覚めによって辛く険しい道のりとなってしまった。

そう、戦いはまだ、始まったばかりである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて……どうしたものですかね」

雪の降り注ぐ空の下、鼓動するような青い光の点滅を繰り返すガーディアンのすぐ傍の地上で、ロイドが困った表情を浮かべながら呟く。

ガーディアンの上空を、無数の変異体とデミス細胞が覆いつくしてからかれこれ十数分。未だに動きを見せない敵を前に、ロイドは攻めあぐねていた。

こちらがいくら強くとも、デミスが保有している敵の数はこちらの数百倍に等しい。その物量を当て続けられれば、いずれはこちらが疲弊して負けてしまうことをロイドはわかっていた。それ故、このまま動かないのであれば策を練る時間もとれると、下手に手を出さずにいるのだ。

「ロイドさん……あなたの予想通りでした!」

その時、ガーディアンの地下に残っている者たちと通信を行っていたフローネが、通信を終えると慌ただしく真っ先にロイドの下へと駆け寄る。フローネの報告を聞いて、ロイドは「やはりそうでしたか」と安堵した顔を浮かべた。

「隔離はできましたか?」

「いえ……それが、やはり隔離は難しかったようです。ですが、こちらに被害はありません」

フローネの報告を聞いて、ロイドは顎に手を置いて思案する。

ロイドは元より、デミスが過去の人間のスキルを取り込んだことから、それ以外の力も取り込んでいる可能性を恐れていた。スキルだけではなく、人間の最も優れた力である知能を得ているのであればと、以前より危険視していたのだ。

それ故に、もしデミスが目覚めた時、一度敗北したという経験から兵力を闇雲に突っ込ませるような真似はしないと考えていた。

そして案の定、上空で圧力をかけるだけで敵は何もしてこなかった。となれば、地上に脅威を誘きよせるのが目的で、既に何か仕掛けているのだろうと、地下にある居住区にガーディアンが保有する到達者たちの半分の人員を護衛に回していたのだ。

「あからさまな殺気を放てば、逆に相手に悟らせることになります……どうやら知能がついたと言っても、驚異的なほどではないようです。もしくは……まだその力を扱えていないだけか」

どちらかはわからなかったが、次にやるべきことは決まっていた。

「各員、戦闘準備を! 相手の策略が失敗した今、向こうが上空で待機している理由はなくなりました! すぐに向こうから仕掛けてくるはずです!」

ロイドの掛け声に、背後で待機していた残り半数の到達者五千人が勇ましい雄叫びをあげる。

「フローネ、ライアン様はどうしていますか?」

「一応連絡はとれています。來栖さんより通信があったそうでノアは無事とのことです。ですが……エデンにいるセイジさんからは連絡がないとのことでした」

「……エデンが? 確かにあそこは空に浮いている分、侵攻を受けやすい……ですが、エデンには鏡さんがいます。あの方がなんとかできないとは思えません……ここは信じましょう」

他の地下施設を気にしている余裕はない。そう判断すると、ロイドは腰元の剣を抜いて前方へと構え、フローネと背中を合わせた。フローネもそれに応じ、身構えて敵に備える。

「ライアン様は他に何かおっしゃっていませんでしたか?」

「來栖様の操作によってアースディフェンダーが起動されたようです。あと一時間耐えることができれば……とりあえずは変異体とデミス細胞の侵攻を抑えられるかと」

「ライアン様はその間どうすると?」

「デミスが目覚めてしまった今、例の機体の完成を急ぐとのことです。その間の指示はロイドさん、あなたに任せるとおっしゃっていました」

「ということは……油機さんとメリーさんもそちらにいるということですね」

デミスが目覚めてしまった今、ただの人間でしかないライアンにできることは少ない。それならば実際に戦場に立って駆け回ることができ、且つ聡明な判断を下せるロイドにガーディアンの戦力の全権を任せてしまった方がいい、そう考えての判断だった。

今、できることをする、それは自分のためではなく人類のために。ライアンが下したあまりにも早すぎる指揮権の移譲から、そんな気概を感じとり、ロイドは気を引き締めなおす。

「一時間! 短いようで長い戦闘になります! いつでもフォローできるよう、必ず二人一組のペアで組んで行動するようにしてください! ラストスタンドに搭乗している者は、下手に空を飛ばないように! 袋叩きに合います! さあ……来ましたよ!」

予想通り、地下に潜入させていたデミス細胞が殲滅させられたことにより、上空で待機していたデミス細胞と変異体は一斉に地上へと降り注ぎ、襲いかかってきた。

「出し惜しみはなしです、まずは……数を減らさせていただきます!」

普段は温厚で涼しい表情を崩さないロイドの顔が険しく変化する。そのまま、空から降り注ぐ敵に対して溢れ出す殺気を全て睨みつけることでぶつけると、ロイドは右腕を空へと向けた。

「僕たちを……かつての人類と同じに思わないことです」

直後、ガーディアンの要塞を中心に、地上に立つ到達者たちの間を避けて剣の形を模した光り輝く物体が、円形状に広がるように無数に出現し始める。

それは、ロイドの右腕から溢れだした闘気によって作られた剣だった。

そして次に、ロイドが右腕を勢いよく空に向けて振り払うと、光り輝く闘気の剣は一本残らず空を徘徊する敵の下へと飛び、本物の剣で切り裂いたかのような斬撃を与えていく。

量が多いため、一本一本が的確にデミス細胞の核を狙えたわけではなかったが、人間と同じ肉体を持つ変異体に対しては絶大な効果があった。

剣たちの聖戦(エクスカリバー)

それは、殲滅魔法の使えないロイドが、一人でも大多数を相手に戦況を覆せる力を求め、クラスチェンジで得た新たな力を応用して編み出した技だった。

一本一本の剣がもたらす威力は大きくないが、ロイドが敵と認識した相手に向かって一直線に飛んでいくため、数に対しての命中率は非常に高い。それこそ、低レベルの狩人が引く弓矢よりも当たるくらいだった。

「凄まじい技ですね……魔法使いの立つ瀬がありません。半数とまではいきませんが、それでもかなりの数を減らせたと思います」

相手がデミスでなければ、あらゆる状況で戦況を覆せるだろう大技に、フローネは驚愕の表情を浮かべる。見ていた他の到達者たちも、一度に地に伏した敵を視界に、次々に士気を高めた。

「残念ながら消費が激しく連発できるような技ではありませんので……使うのは、最も敵の数が多いだろうこのタイミングだけです。大技にはそれなりのリスクがありますから」

「いえ、いいものを見せてもらいました」

「とはいえ……数が減ったはずなのに、減った気がまるでしませんね」

地に落ちた敵の数を見れば、確実に減っているのは間違いなかった。しかし、宇宙にいるデミスから絶え間なく送り込まれているからか、空にいる敵の数が減っているようには思えなかった。

「敵の死骸が溜まっていく一方ですね……処理班を用意させておくべきでした」

こうして会話をしている間にも、レベル200を超えるガーディアンの猛者たちが、次々に変異体を地に落とし、デミス細胞を砕け散らせている。しかし、倒せば倒すほどに死骸が重なり足場が悪くなっていく。

なのに、常に空を自由に飛び回れる相手には影響がない。

「いえ……処理なら私が」

だが、フローネはその死骸の山を視界に映すと、不敵な笑みを浮かべた。

その次の瞬間、あまりにも奇妙な光景にロイドを含め、その場に居合わせた到達者たちは目を疑った。死んで地に伏していたはずの変異体たちが次々に起き上がり始めたからだ。

「安心してください! その変異体は既に死んでいます……私が操っているだけです」

「操る……?」

それが、フローネの力と聞いてロイドは顔を引きつらせた。

「そ、そんなに驚かなくても、ロイドさんと同様、私がクラスチェンジで新たに得た力ですよ?」

「……確か、それは人形だけしか操れなかったのでは?」

「命のない人形と、死んで動かなくなった変異体……何か違いがあるのですか?」

ロイドの問いに、フローネは心底不思議そうな顔で首を傾げた。殺した相手を操るという狂気じみた行為を、当然といった顔で言い切ったフローネに、ロイドは初めて恐怖を感じる。

「いえ、違いはありますね。人形は私が魔力を与えないと動きません。ですが……変異体には元々体内に保有している魔力があります。それを利用すれば最低限の魔力で……操れます!」

操るための魔力の糸を指先から放出しているのか、フローネは両手を前方へと掲げる。すると、操られゾンビとなった変異体たちは、フローネの手の動きに呼応して一斉に上空の敵へと襲いかかった。