軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バッドエンド-2

「……マダそうと決まっタわけじゃナイ」

ペスはそう言って意気込むと、足元にあった拳サイズの石を拾い上げて勢いよく飛び出し、中央の昇降路を囲んでいる防壁の塀の上へと立った。

「仮にソウだったトしても、今は考えテモ仕方ガない。今ヤレルことをヤルベき」

そして次の瞬間、ペスは石を掴んだ右手を素早く振るい、上空で待機する一体のデミス細胞へと投げ飛ばした。凄まじい速度で飛んで行った石は、デミス細胞のゲル状の液体の中にすんなりと入り込み、朱色に染まった核をそれぞれ貫いてさらに上空へと直進する。

直後、核を失ったデミス細胞はゲル状の液体を周囲に巻き散らして地へと伏した。

「ヨシ!」

そして、決まったと言わんばかりの顔でガッツポーズを見せる。

「おいペス! 来ているぞ!」

余裕しゃくしゃくで油断しているように見えたのか、バルムンクがそう叫ぶ。

こちらが攻撃を仕掛けたからか、遅かれ早かれ襲うつもりだったかはわからないが、ペスの攻撃を狼煙に、上空で待機していた変異体とデミス細胞たちが一斉に飛び掛かってきたからだ。

そのうちの数体がペスの死角から猛速度で接近していた。

「……甘イ、レックスの三倍は甘イ」

しかし、接近していた変異体はペスによる後ろ回し蹴りによって吹き飛ばされ、デミス細胞はペスの身体に触れることなく回避される。

「ネバネバは……任セタ」

そしてそう言い残すと、突然襲いかかってきたデミス細胞たちに混乱する獣牙族たちに指示を出すべく、ペスは群れの中へと走っていった。

「ふぉっふぉ! 頼もしいですな! それでは私も、微力ながら助太刀させていただきます!」

同じくデビッドも、着用していた執事服の裏側からナイフを二本取り出して構え、ペスが残したデミス細胞の核へと向けて投げ飛ばす。すると、ナイフはすんなりと核へと突き刺さり、デミス細胞は四散して消え去った。

「相手は昔、超人と互角だった程度の相手……この日のために作られた俺たちが恐れていては何も始まらないということか」

ペスの唐突な行動のメッセージを読み取るとバルムンクも微笑を浮かべる。そして心に闘志を燃やすと、ピッタを拾い上げて肩に乗せ、大剣を前へと構えた。

「ウルガ! デミス細胞は核を潰さなければ話にならん! だが、あのゲル状の身体に打撃を与えても吸収される……武器のない獣牙族とは相性が悪い! 獣牙族はデミス細胞を無視して変異体だけを狙うようにペスと一緒に指示を出してくれ!」

バルムンクの指示にウルガは素直に頷くと、地を蹴って飛び出し、防壁の外にいるペスと混じって一緒に指示を出し始める。

「やはり……精神的に圧迫されてはいたが、実力は決して負けていない」

追って、バルムンクとデビッドも防壁の塀の上へと立って、拠点の状況を探る。

防壁の上から拠点がどんな状況に陥っているのか一望できたが、決して絶望的な状況ではなかった。というのも、混乱してはいても迫りかかった変異体たちを次々にそれぞれが少しずつ始末していたからだ。

何故か? その理由は簡単だった。バルムンクが言葉にした通り――、

ここにいる者たちは皆、この日のために生み出された戦士たちだから。

「人類を……舐めるな!」

ここにいる者たち一人一人が、過去に存在した超人たちとは比べものにならない強さを手にした存在。そして獣牙族たちは、そんな連中を長年苦しめてきた力を持つ。たとえ、過去の人間の知能と、超人たちの力を手に入れたといえど、遅れをとるわけがなかったのだ。

「バルじい! 後ろから来てるです!」

直後、ピッタの叫び声がバルムンクの耳元で響き渡る。声に反応してバルムンクは慌てることなく振り返ると、目で捉えるよりも早く、握っていた大剣を片手で振り上げて猛速度で接近していた変異体を一刀両断にし、塀の上から降りて地に立った。

「俺は『受け流し』のスキルがあるから、背後から奇襲を受けてもある程度は問題ないんだがな。背中を気にしなくて言い分、ピッタはデビッドと一緒に居た方が良いかもしれん」

「ほほぅ? それではピッタ様は私が責任をもってお守り致しましょう!」

バルムンクの提案に、デビッドは満面の笑みで賛同する。

「デビじい……肩が小さいから乗りにくいです」

その顔が不気味だったからか、ピッタは苦い顔を浮かべながらデビッドの背中へとしがみついた。

「それとデビッド、ナイフにストックがあるなら二本ほどもらえないか? 万が一に大剣を抑えられた時に持っておきたいんだ」

「構いませんが……扱えるので?」

「俺のもう一つのスキルでな、どんな武器でもある一定の熟練度まではすぐに扱いこなせるようになる。まあナイフくらい誰でも扱えるだろうが……素人よりかは遥かにマシなはずだ」

スキル……バトルマスター

効果……あらゆる装備の扱いを感覚のみで熟練させる。

「とはいえ、長年頼ってきたこいつに勝る相性の良い武器なんてないが」

そう言うとバルムンクはナイフを懐へとしまい、大剣を両手で持って前へと構えた。

直後、迫ってきていた変異体を豪快に一刀両断する。頼もしい戦いぶりに見ていたデビッドも笑みを浮かべると、接近していたデミス細胞に素早くナイフを投げつける。

ナイフは切っ先からゲル状の液体に入り込むとそのまま直進し、核へと突き刺さってデミス細胞を四散させた。

「ふぉっふぉっふぉ、近付く敵がいればバルムンク様が蹴散らし、万が一の時はピッタ様が知らせてくれる。私も安心して遠くの敵を仕留めることができるというものです」

そう言いながらデビッドは地面へと手をつけると、投げたはずのナイフを手元に出現させた。

デビッドは、同等の質量を持った物体の居場所を入れ替えるスキル『等価交換』があるため、小さなナイフ程度の質量であれば、落ちている石ころや土塊からいくらでも戻せるのだった。

その無駄のない手さばきにバルムンクは「やるねえ」と称賛すると、迫りくる敵を次々に薙ぎ払っていく。

「しかし数が多いな……倒してもきりがない。今は優勢だが……体力が尽きればまずいぞ」

変異体とデミスによる被害はまだ出ておらず、全員がしっかりと対処に当たれていた。しかし、それも永遠には続かない。どれだけ優れた戦士であっても、戦い続けることは不可能だからだ。

今は鬼神が如き速さと力強さで戦場を駆け回っているウルガ、ペス、ルナの三人も、圧倒的物量を前に、いつまでも同じ動きを続けてはいられない。なのに、代わりに戦える戦力がいるわけでもない状況。

こちらの体力が尽きた時、形勢が逆転するのは目に見えてわかった。

『その点に関しては、あと一時間も耐えてくれればなんとかなるよ』

その時、デビッドが持っていた通信端末を経由して、視界を遮らないくらい小さなホログラフィックのディスプレイがデビッドとバルムンクの目の前に出現する。そこには、いつもの清ました顔を浮かべる來栖が映っていた。

「來栖! 地下の連中は無事なのか?」

『ええ、こうして通信ができるくらいには落ち着いた。地上の様子は……なんとか耐えてくれているようで安心したよ。デビッドが上手く立ち回ってくれたみたいだね』

一応は気にかけていたのか、來栖はデビッドの通信端末を通して見た外の状勢に少し安心した顔を見せた。

「しかし、地下に残っているレジスタンスの連中だけでよくなんとかできたな? 地下は広い……下に残っていた連中だけでは数が足りなかったんじゃないか?」

安堵の顔を見せる來栖を視界の端に置いて、バルムンクは大剣を薙ぎ払う。

『侵入していた数も多くはなかった……それにあなた方が優勢なように、デミス細胞そのものも決して強いわけではないからね。だから……彼らに頑張ってもらったのさ』

すると來栖は、バルムンクの質問に答えるためにディスプレイに黒い靄の掛かった人型の生物を映し出す。次に地下施設の光景を映し出すと、住居区を含め、その黒い靄の掛かった生物がそこら中に徘徊していた。

「喰人族……⁉ お前、地下施設に奴らを解き放ったのか⁉」

『慌てない慌てない。ちゃんと調整を終えて、人間は襲わないようになってるよ。捕食対象もデミス細胞と変異体のみ……凄まじかったよ? 音もなく侵入したデミス細胞を次々に捕食していたからね』

今はどう考えても想定外の緊急事態。ならば使えるものはなんだって使って緊急事態を切り抜くは当然だと、來栖は言い切る。バルムンクも、映像を見る限りでは喰人族が地下で暮らす人々に襲い掛かっていなかったため、とりあえずは安堵した。

「喰人族って……デミス細胞を食べて大丈夫なのか? 後になって変異したりしないよな?」

『核が潰れればデミス細胞は同化の機能を失う。これは約千年前の戦いで既に証明済みだよ。喰人族たちも同化される前に核をちゃんと噛み砕いていたから大丈夫さ』

「というか……なんでも喰うんだな、あいつら」

あのゲル状の化け物を口の中に入れたのを想像して、バルムンクは引きつった顔を浮かべる。