軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バッドエンド-4

一見、仲間割れしているようにしか見えず、まだ生きている変異体たちも、突然仲間が襲いかかってきた理由がわからず、ゾンビに手を出せずにいる。

「この魔力の糸は、魔力回路にもなっています。つまり……こういうことも可能です!」

フローネがそう叫んだ直後、操るゾンビたちは一斉にその手から炎の弾丸を撃ちだした。フローネは呪術師のため、低威力の攻撃魔法しか扱えなかったが、数十体のゾンビから連続で放たれ続ける炎の弾丸は、殲滅魔法に迫る威力を発揮した。

「同時に……どれだけの数を操れるんですか?」

「恐らく、百体まではいけるかと」

「……百体ですか。この戦いが終わったら、見分けがつくようにしないといけませんね」

その指摘に、フローネはハッとした顔を浮かべる。

現に今、フローネが操るゾンビと生きている変異体との見分けがつかず、到達者たちによって再起不能な攻撃を受けているゾンビもいた。こうなることを考えていなかったのか、フローネは「今後の課題にします」と、少し恥ずかしそうに頬を紅潮させた。

「しかし……フローネ、あの魔法は、あなたの魔力で撃ち放っているんですか?」

「……いえ? ほとんどゾンビが保有している魔力を使っていますが?」

「ゾンビが保有している魔力がなくなれば……どうなるのですか?」

「私の魔力を送り込むことで引き続き操ることもできますが、今はそんな余裕がありませんので、魔力回路のリンクを切り離して違う死骸を操ろうと思っていました。……それが何か?」

「……いえ」

考えていた嫌な予感が的中しているかもしれない。そう感じたロイドは額に汗を浮かべた。

それだけ多くの魔力量を保有しておきながら、変異体は未だに魔法を使う素振りがなかった。

使い方を知らないという可能性は低く、まだ扱い慣れていないと考えるのが妥当。つまり、まだ全力を出す準備が整っていないだけ。

「簡単に倒せる今のうちに……できる限り倒すしかありませんね」

仮に、デミスが目覚め直後で本調子じゃないとするなら、本調子になった時、変異体たちにどのような変化が起きるのか? それをロイドは想像して冷や汗を浮かべた。

そして、アースディフェンダーのバリアが起動するまでの間、その力が発揮しないよう心の中で願うと、ガーディアンの要塞が建てられたモスクワの雪原を雷光が如き速さで駆けていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なんなのだこいつは! れ、レックス……なんとかせい!」

「こいつって……あれよね? 來栖があたしたちに見せた映像の……!」

トレーニングルーム内に突然降り注いだグネグネとしたゲル状の生物を前に、フラウとパルナは狼狽える。だが、既に武器を構えていたレックスは額に汗を浮かばせながらも、冷静に床を蹴りつけてデミス細胞へと一瞬にして接近し、核を剣で貫いた。

すると、デミス細胞は身体を維持できなくなり、飛び散るように四散する。

「ま、まだおるぞ!」

しかし、倒した矢先にデミス細胞は再び数体降り注ぐ。自分の倍の大きさの化け物を前にして、フラウは怖気づいて傍にいたパルナの背中へと隠れた。

「落ち着いてくださいフラウ様、來栖の説明通りであれば……こいつ自体はさほど脅威ではない。問題なのは、こいつがここにいるという事実です」

「確かにね、この分だと……エデンの施設中に入り込んでいるわよ? 少ないって言っても、エデンも居住区画には人がいるんでしょ? 早く助けないとかなりヤバくない? セイジさんも出て行ったばかりだけど……あの人もただの人間よね?」

「ああ……師匠や他の皆の状況も気になる。さっさと倒して合流に向かうぞ!」

「オッケー、核を狙えばいいのよね? なら……こいつが一番効くんじゃないかしら?」

パルナはそう言うと、最も得意としている氷の刃を作り出す魔法を撃ち放つ。氷の刃はゲル状の身体を貫いて核へと届くと、そのままデミス細胞の身体を氷漬けにしてしまった。

「どう? 物理的なダメージを与えてから更に相手を氷結させるあたしのオリジナル! 人間相手だと魔力で阻害されちゃうから使えないけど、あいつらには効果抜群でしょ?」

「ふ……頼もしいな」

一応は心配していたのか、すっかりと自信を取り戻したパルナの顔つきを見てレックスは笑みを浮かべる。すると、パルナが一体を倒すために費やした半分の時間で、レックスは一気に残りのデミス細胞の核を剣で貫いた。

その光景に、パルナは過去に見た鏡の初戦闘を連想させ、思わず遠い目で「自信なくすわー」とつぶやいた。

「ふ、二人とも! 怪我をしたらすぐに言うのじゃぞ? 妾がすぐに治療してやるからな!」

「あら? 今回は張り合ったりしないんですね」

「愚か者! 自分にできることを弁えていないほど愚か者ではないわ! ならばお前たちをサポートするのは当然のことだろう? だから……遠慮せずにお主もすぐに言うのじゃぞ」

予想外の素直さに、パルナは目を丸くする。

ほんの少し前、レックスと共にクラスチェンジの試練へと参加したことで、少し考え方が変わったと言っていたのはあながち嘘でもなさそうだと、パルナは素直に感心した。

「ま、デミス細胞を相手に怪我をする心配はなさそうですけどね」

「デミス細胞……ならな」

「……え?」

険しい表情で背後を見つめるレックスの視線を追って、パルナはトレーニングルームの出入り口に視線を向ける。そこには、紫色の身体を持った化け物が立っていた。

「どうしてこいつがここにいるのよ……デミス細胞ならいくらでもあのゲル状の身体を活かして入り込めるだろうけど、あんなのが堂々と潜入できる隙間はないと思うんだけど?」

「既に……誰かが犠牲にあったということだろう。まずいぞ、急いで居住区画に向かわないと」

のんびりとはしていられない。それに気付いてかレックスは一気に変異体との距離を詰めて勢いよく殴り飛ばす。

すると、変異体は反応しきれずにもろに顔面からレックスの殴打を受け、そのまま背中から壁へと叩きつけられた。

「……な⁉」

直後、レックスは慌てた様子で後方へと飛び、変異体から離れた。

そのまま一瞬だけ困惑した顔を浮かべると、すぐさま握っていた剣で変異体を一刀両断にする。

「なんじゃ……たいしたことないの」

一瞬のうちに片付けられた敵に、フラウは安堵の溜め息を吐き出す。

「……どうしたのよ? 最後、なんかちょっと狼狽えてなかった?」

「いや、気のせいだといいんだが」

気を取り直して「急ごうと」と居住区画へと走り出したレックスに、パルナは首を傾げる。

過去の超人よりも遥かに身体能力の優れたアースクリアの出身者は、過去に苦戦していた変異体を相手にしても優に戦えるはずだった。

実際、戦ってみた結果、過去にダークドラゴンが住まうダンジョンに出てきた変異体と大差がなかったが、一瞬だけ、レックスでも反応がギリギリになる手刀を仕掛けてきたのだ。

それは、壁に激突した瞬間、不意をつかれたとはいえ以前よりも遥かに強くなったレックスでも目で追いきれない不自然な攻撃だった。

「過去とは違うということか?」

その力を使えば、もっとまともな戦い方もできたはずなのに、変異体は死ぬ間際までそれを使わなかった。出し惜しみをしていたとも思えず、不可解な疑問だけが残る。

「咄嗟にでた……そんな感じだった」

隠された力がある。そして自分の意志では扱えていない。

仮に、その力を扱えるようになったら――――それを想像して冷や汗を浮かべながら、レックスは通路を走った。