作品タイトル不明
繰り返す-8
「僕が知っている限りでも、師匠がチャージブロウ以外の技や魔法を使っているのを見たことがないが?」
「もしかしたら……見ていないと勘違いしているだけじゃないか? 魔王が乗ることで真価を発揮する機体……メシア、それとダークドラゴンと戦った時の二回、鏡の魔力回路が一時的に解放されている記録が残っていた」
「メシアと?」
どこか心当たりがあるのか、レックスは思案顔を見せる。
かつて鏡は、レックスから投げ渡された剣を使ってメシアの装甲を一刀両断した。しかし、制限解除によってステータスが倍加していたとしても、それまで小さな傷しか与えられなかった装甲を、業物とはいえ、ただの剣一本で貫けるはずがなかった。
しかし、鏡は一刀両断させた。それがあの時、何らかの技を鏡が発動させていたと考えれば、納得ができたからだ。
「ガーディアンでお前が見せた……一万人を黙らせた物理的な法則を無視した一撃。あれも恐らくは……お前の魔力回路が解放されていたから発揮できた力なんじゃないか?」
ただの殴打が衝撃波となって、要塞とも呼ばれていたガーディアンの外壁を大きく破壊した。それは、ただの殴打と呼ぶにはありえなさすぎる力だった。鏡も無意識であの一撃を放ったのか、覚えがないように腕を見つめて首を傾げる。
「真実はわからないし、お前のその力を自由に扱えるようにする方法も結局不明だ。だが……『リバース』の効果詳細、あれは……考えようによっては、いや、ハッキリしていないことだ。やめておこう」
答えはハッキリとしなかったが、力が解放されたタイミングはどれも、鏡よりも遥かに強い相手と対峙した時だった。それを言いかけてセイジは押し黙る。
どちらにせよ、実際は何が条件で、どのタイミングで力が解放されるのかはわからないからだ。
「ま……その力を扱いこなせるかどうかは……最後の戦いで明らかになるだろう」
「……だな」
セイジの問いかけに、鏡は期待していないかのような顔を浮かべる。
さすがに鏡も、ぶっつけ本番で扱えるかどうかもわからない力をあてにはできないからだ。
「結局わからない力のことはさておき、この際だし折角だから、前々からあんたに聞きたいことがあったのよね」
「ぬ? なんだ? 俺もまだやることが多い……手短に頼むぞ?」
一旦の話が終わり、切り替えるようにパルナがセイジに問いかける。
「ステータスのパラメーターあるじゃない? 他はわかるんだけど……『運』って何?」
それは、アースクリアの住民であれば誰もが気になることだった。
アースクリアに存在する9つのパラメーターの内の一つ、『運』。アースクリアの住民であれば誰もが疑問に思っている一体なんのために存在しているかわからないパラメーター。
「さて……トレーニングルームにティナがいないということは、まだ俺のプライベートルームで油を売っているようだな……迎えに行ってしごいてやるとするか」
しかし、セイジはこれまでの毅然とした態度が嘘だったかのように白々しく誤魔化し始めた。
「妾も気になるのじゃ。城内の書物にも『運』に関しては曖昧な記述が多かったからのぉ」
王家の者でさえも知りえないのか、立ち去ろうとするセイジに回り込んでフラウが詰め寄る。
「どうしてそんなに誤魔化そうとするのよ、聞かれたら何かまずいことでもあるの?」
「RPG……ロールプレイングゲームにおける一般的な『運』の要素とは、回避率、クリティカル率、アイテムのドロップ率や取得ゴールド量などに関係することが多いが……アースクリアにおいて、回避率、そしてクリティカル率などという概念が存在しないのはわかるな?」
パルナが問い詰めると、セイジは急に凛々しく眼鏡を整えた。その反応から恐らく諦めたのだろうとその場に居た全員が脳裏に過らせる。
「しかし、アースクリアの世界でアイテムのドロップ率を強さによって変えるのは……あまりにも不平等すぎると思ったのでな。弱い者が苦労して倒したなら、それはそれで平等な報酬与えるべきだと考えた」
「じゃあ結局『運』って何なんだよ」
「俺も当時はどうするべきか、かなり悩んだんだ。結論として無理やりだったが……子宝に恵まれる基準にした」
少し照れくさそうに頬をポリポリと掻きながら言い放ったセイジの言葉に、一同は鳩が豆鉄砲をくらったような表情を見せる。
「それってどういう……?」
意味がわからず、パルナが恐る恐る手を挙げて話の続きを求める。
「知っている通り、アースクリアはいくらでも人口を増加できるわけじゃない。故に、どんな人物に子供が生まれるべきか選定する必要があるのはわかるな?」
「それって……『運』がない人はどれだけ頑張っても子宝に恵まれないってこと?」
「いや、そういうわけじゃない。それだとアースクリア内での立場的な住民のバランスが崩れてしまうだろう? あくまで基準だ。それに『運』は強く子を望めば大きく上昇するようになっている。だから本当に子が欲しい者、レベルが高く純粋に強い者は子宝に恵まれる可能性が高くなっているというだけの……あれだ。実はそんなにたいしたことのないパラメーターだ」
よほど知られるのが嫌だったのか、当時の苦労が垣間見える焦りを見せながら「内緒だぞ」と言ってくるセイジを見て、一同は少しおかしくなって微笑を浮かべる。
「なんか少し安心したわ。最初会った時はあんたも來栖と同じ厄介な奴かと思ってたし」
「あんなのと一緒にするな、とにかく用が済んだなら俺は行くぞ? 丁度、鏡の待ち人も来たみたいだからな」
少し嬉しかったのか、皮肉った笑みを浮かべるとセイジはトレーニングルームから立ち去った。
それと入れ替わるようにして、「かーがみく~ん」という掛け声と共に、マントを羽織った海パン一丁の筋肉質な金髪の男が姿を見せる。
「こんなのを待っていたって思われるのが凄く嫌なんですが」
余裕の微笑を浮かべて長い髪をかき上げる動作は、自分に酔いしれているとしか思えず、鏡は引きつった顔を見せる。
「なんでお主……ここでも海パンなのじゃ?」
「おっふ、高貴なる姫君フラウ様からそのような言葉が飛び出るとは思いませんでした。海パンこそが……アッ! 私の美を全て見せつけるのに……ウッ! ふさわしいから……デス!」
「もうちょっと普通に喋れんのかお主」
あまりの喋り方の酷さに、フラウは引きつった顔で引き下がった。
「それじゃあ鏡君? 随分と待たせてしまったがそろそろ行こうじゃないか」
「ん? 師匠たちはここでやらないのか?」
「もちろんさ、ここでやれば君たちに迷惑が掛かってしまうからね。朧丸君の力があれば、外でも上空に足場が作れる……これなら誰にも被害が及ぶことはない」
「ふぅ……某をあまり酷使しないでほしいのでござるが」
被害という言葉を聞いて、レックスは改めて鏡の今の力の巨大さを認識した。
つまり、二人が持つ『エクゾチックフルバースト』の効果を発動し、時間の流れを制御している状況で組み手をするには、トレーニングルームにいる者たちは邪魔だったのだ。
「トレーニングルーム内にいないと思ったら……外でやっていたんだな」
ディルベルトはまだしも、鏡が移動するために全力で地面を蹴りつけるだけでも、とんでもない破壊力になってしまう。そのため気兼ねなく力を発揮して動き回れるよう、鏡は外で訓練を行っていた。
「あたしは知ってたけどね? あんたもたまには……トレーニングルームから出てこの施設を見回ったらどうなの? あんたずっとここにいるでしょ?」
「失礼な、僕だって風呂に入るときと食事をする時はここにいないからな?」
「あんた……ちゃんと寝てんのよね?」
レックスの目元に寝不足による小さなクマができているのを見てパルナが呆れた顔を浮かべる。
寝る間も惜しんでデミスと戦う準備をしてくれていることに、鏡とディルベルトは顔を見合わせて頷き合うと、「負けていられない」と言い残して外へと向かった。
「衝撃に耐えられないからここでは特訓できないか……負けていられないはこちらのセリフだ」
そんな二人の背中を見送りながら、レックスは握り拳を作る。
戦いはいつ始まるかはわからなかった。しかし、残された時間には限りがある。
その残された時間で一体どこまで己を高めることができるか? これは、これまで鏡にずっと引き離されてきた実力を少しでも詰めるためのレックスの挑戦でもあった。
「あんた……まだやるつもりなの?」
「当然だ。お前はもう休むのか?」
「あたしもまだやるつもりだけど……あんまり無茶しないようにしなさいよ」
「安心せい、何かあれば妾がすぐにレックスの面倒を見るからのぅ、お主は一人で孤独に自分のことをやっておればいいわ」
レックスの腕をしっかりと掴みながら、フラウは「ざまあみろ」と皮肉った笑みを見せた。
しかし、パルナは「なら、しっかり頼みましたよ」と余裕の笑みを見せた。予想外の笑みにフラウは眉をひそめて首を傾げた。
やるべき目的が見つかった今、ヒロインになるための努力なんてする必要はなくなったからだ。
レックスの体調は心配ではあったが、フラウが見てくれるというのであればそれはフラウに任せればいい。自分たちの目的はデミスを倒すことだから。
「ふん、まあいいわ、面白くもない。ところで……のぉ、さっきから気になっとったのじゃが…………あれはなんじゃ? トレーニングルームの機材……ではないよな?」
毅然とした態度を見せるパルナが不服そうに頬を膨らましながら、フラウはトレーニングルームの隅側の、トレーニング機器が大量に置かれている場所を指差した。
「……? どれのことを言ってるんですか?」
「……あそこにある、なんか……ぶよぶよした物体じゃ」
「ぶよ……ぶよ?」
レックスは、フラウの指差したトレーニング機器の陰に隠れた場所を、目を凝らして見つめる。すると、レックスは顔を青くして鞘に収めていた剣を抜き去り、突然構えをとった。
その行動の意味がわからず、パルナも追ってフラウが指差した先へと目を凝らす。
「…………あれって」