軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

繰り返す-6

「他に方法なんてありませんよ。私がいるからセイジさんも、アースクリアに逃げ込むのをやめて戦ってくれるつもりになったんですから。その期待は裏切られません」

「……ならどうするんだ?」

つまり、どうしたいのかがわからず、鏡は問いかける。するとティナは、辛い表情を見せたまま押し黙ってしまった。答えなんて、一つしかないのに。

期待を裏切れないのならば、やるしかない。やるしかないのに、やれる未来を想像できず、息が詰まるような感覚にティナは襲われた。ここに来てからずっと、期待に応えられない未来を想像しては同じ苦しみに襲われている。

しかし、この苦しみから解放されるにはスキルを扱いこなせるようになるしかない。だがそれはあまりにも難しく、ティナは絶望の袋小路に立たされていた。

「別に、諦めてもいいんだぜ?」

予想外の言葉に、ティナは眉間に皺を寄せる。その言葉は、誰よりも鏡が言ってはならないはずの言葉だったからだ。

「どうしてそんなことが言えるんですか? あなたは……誰よりもこの戦いに勝ちたいと思っているはずでしょう? あなたがここで言うべき台詞は……何が何でもスキルを扱いこなせ、諦めるな……でしょう?」

無理に気を使ってくれているようにしか思えなかった。だからこそ、嫌な気持ちになった。鏡に対しても、その気持ちを嫌悪で返してしまう自分に対しても。

「お前は俺の演説を聞いたか?」

「……それがどうかしたんですか?」

「俺はアースクリアの住民にデミスと戦うのかどうかはそれぞれの意思に任せた。だからティナも……どうするかなんて自分の意思で決めればいい。もちろん俺は、デミスが許せないから諦めずに戦う。でも……ティナはどうなんだ? 皆の期待に応えたいから戦うのか?」

「違います! 皆が……本当の意味で楽しく暮らせる世界が欲しいから!」

「それでいいんだよ。その気持ちで戦って駄目だったなら、俺たち全員の責任だ」

必死になって問い続けるティナに苦笑しながら、鏡は仲間として当然のことを口にした。

「鏡さんは……それでいいんですか? 絶対に……倒したい相手のはずでしょ?」

「絶対に倒したいさ、だから、できることを全力でやって倒すんだ。できることを全力でやって駄目だったなら、それは俺たち全員の責任だろう? 俺……変なこと言ってるか?」

どうしてそこまで突っかかってくるのかが不思議で、鏡は困惑した顔を浮かべる。

しかしティナの表情は浮かないままだった。

「……私は」

それを理由に、言い訳しようとしていた。

全力で頑張ったならきっと許されると、失敗を前提にやろうとしていた。

だからこそ鏡の言葉を耳にして気付いてしまう、それを言い訳にしようとしていた時点で、全力でなんとかしようという意志が欠けていたことに。

それに気付かされて、ティナはさらに自分に嫌悪した。

「そんなに難しく考えるなよ」

明らかに落ち込んだ様子を見せるティナに、鏡は立ち上がってティナの頭をポンっと叩く。

「ティナが失敗しようが成功しようが、俺は、一緒に戦ってくれることに感謝しかないぞ?」

「……感謝?」

「別に変な話じゃないだろ? 俺だって必ず期待に応えられるわけじゃない……ガーディアンの時も、メノウ時だってそうだ。なのに、お前らはいつだって俺を信じて一緒に戦ってくれた。今回もそうだ……なのに、俺がティナを責められるわけないだろ?」

そんな優しい言葉をかけられても、ティナは笑みを浮かべることができなかった。

鏡はそう思ってくれるのかもしれないが、他はどうなのかなんてわからなかったから。

結局、自分のこの不安を拭うにはスキルを扱いこなせるようになるしかない。でも、きっとできない。できると頭で考えても、できないと心のどこかで思ってしまっている。そして、守れなかった人々が自分へと向ける憎悪を考えると、胸が圧し潰されそうになった。

たとえ鏡が、責任はないと言ってくれたとしても。

「ま、すぐに気持ちを切り替えろとは言わねえよ。俺だって……気持ちの整理には時間をいっぱいかけたしな」

不安そうな顔を変えないティナに、鏡はやれやれと微笑を浮かべながら軽くため息を吐くと、手に握っていた転移装置を不器用ながら操作し始める。

「よし、転移は……これだな。じゃ、俺はそろそろ行くから」

鏡が再び声をかけるが、ティナは顔を俯かせたまま視線を合わせようとしない。

「……失敗なんて誰にだってある。もし失敗したら……俺がなんとか尻拭いしてやるからさ、もうちょっと気楽に考えろ。というか、なんか失敗を前提に怖がってるみたいだけど……俺は、ティナはいざという時には絶対にやってくれると信じてるからな」

そして最後にそれだけを伝えると、鏡は青白い光のサークルに包まれて、部屋から出て行った。

「その期待が…………辛いんですよ……!」

鏡が部屋からいなくなると、ティナは頭を抱えてさらに自分を嫌悪した。

最後に放った鏡の言葉でまた一つ、卑しい自分に気付いてしまったからだ。

口では「楽しく暮らせる世界が欲しいから戦う」と言ってはいたが、結局誰かが期待してるから、その期待を裏切りたくないという気持ちの方が強いことに。

「どうして私はこう……いつも!」

期待を裏切って、自分に憎悪の視線を注いでほしくないから戦おうとしている。

あまりにもくだらない仮面を被った自分に、ティナは反吐がでそうになった。

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「ふん! せやぁぁぁぁああああ!」

エデン内部のトレーニングルームにて、レックスの気合が感じられる叫び声が響き渡る。直後、空気にまでビリビリと伝わる大きな振動がその場に居た全員の肌に響いた。

地面を蹴って飛びあがったと思えば、今度は天井を蹴って地面へと降り立ち、それを繰り返して縦横無尽にレックスは動き回っている。その様はまるで、重力が存在しないかのようだった。

「ほれレックス、お水じゃぞ」

「……た、助かります」

体力に限界が来たのか、レックスは地面に身体を叩きつけるような勢いで着地すると、そのまま肩で呼吸するくらいに息を乱し始めた。その様を見て、フラウが慌てて水を運ぶ。

「しかし、随分と腕をあげたようじゃな」

「いえ……まだまだです。師匠とロイドに比べたらこの程度……」

「謙遜するな。妾の目には、もう早すぎて何が起きているのか全然わからんかったぞ?」

フラウは笑みを浮かべてレックスを称賛する。レックスも、以前よりも確実に強くなっている手応えを感じているのか、素直に称賛を受け入れて笑みを浮かべた。

「認めたくねえ……せめて3分間の制限かかってくれないと俺の後継者とは認められんなぁ」

「制限もなく、やりたい放題の今の師匠に言われたくないんだが?」

そこで、レックスが激しく特訓を行うさまを、トレーニングルーム内にあるベンチの上で横になりながら見ていた鏡が水を差す。

「いつから見てたんだ?」

「ほんの少し前からだな、ディルベルトとここで待ち合わせしてんだよ。あいつもあいつで、王としての役割の引き継ぎで忙しいんだってさ」

その強さからは考えられない、相変わらずの平凡な存在感にレックスは苦笑する。

「一応、師匠のかつての『制限解除』のように三分間という制限はないが、100%の力を引き出した時の肉体への反動はちゃんとあるぞ。発揮した力の分だけな」

「だから動き始めの一瞬だけ能力を発動してるのか? 器用なこった」

「さすが師匠、気付いていたか」

「そりゃ気付くさ、お前の努力を俺は良く知ってるからな」

鏡はそう言うと、親指を立てた。