作品タイトル不明
繰り返す-5
その時、セイジが白衣の懐にしまっていた通信機が突然鳴り響く。
「ん? ……ああ、來栖も一緒だ。わかった、すぐに戻る」
そして通信機をとり終えると、セイジは席を立ちあがった。
「どうやら物資の積み込みが終わったらしい。俺と來栖は確認のために戻るが……お前たちはどうする? 別にまだここにいてもいいが」
「私とアリスちゃんもそろそろ、アースクリアの管理室にいるお父様とミリタリアと交代しないといけませんので」
「あ、そういえばもうそんな時間だったね」
腕時計の役目も果たしている空間管理装置に視線を向けながら、アリスが慌てて立ち上がる。
「それじゃあね鏡さん! また後で!」
「あ、ちょっと待てって……俺も」
よほど交代の時間が迫っていたのか、鏡が止める間もなく、アリスとクルルは転移による青白い光のサークルに包まれて、部屋から出て行った。
「ほぉ……随分と転移の操作にも慣れたみたいだな」
アリスがスムーズに転移装置を起動したのを見て、セイジが関心した様子で眼鏡を整える。
「待てって言ったのに……どうせ行くなら俺も連れてって欲しかった」
「お前はまだ転移の操作に慣れてないのか?」
「旧文明の機械はどうも苦手でさ。ノアにある転移装置を動かすだけでも精一杯だったのに……せめて同じ作りにしといてくれよ」
「とはいえ、転移くらいできてもらわないとこちらとしても色々不便だ。練習してくれ」
そう言うと、セイジも転移による青白い光に包まれて部屋から出て行った。
あえて鏡を転移で送らないことで旧文明の機械の操作に慣れてもらおうとしているのか、残された來栖も「頑張って脱出してね」と楽しそうに笑みを浮かべ、部屋から出て行った。
「うぁーめんどくせえ! あいつら俺にスキルを扱いこなして欲しいんじゃないのかよ?」
送ってもらおうと思っていたのにあてが外れて、鏡はぶつくさと文句を垂れながら、支給されていたエデン内部の転移起動装置をポケットから取り出す。しかし、よく操作がわからず、顔を歪めて装置と睨めっこを始めた。
「いいじゃないですか、待っていればセイジさんもそのうち戻ってくるでしょうし、この一週間休まず動きっぱなしだったんですから、もう少しくらいゆっくりしましょうよ」
ソファーに身をゆだねながら、ティナがリラックスしただらしない顔で天井のガラス越しに泳ぐ魚を見つめる。
「でもなぁ、スキルをまだ扱いこなせていないし、ディルベルトも待ってるだろうからさ」
「まだ……ってことは、扱いこなせそうな手応えはあるんですか?」
その問いに鏡は「まあな」と頷き返した。
鏡が扱いこなそうとしている時間の感覚を狭めるスキル『エクゾチックフルバーストAct7』は、Actが進む毎にさらに時間の感覚を狭めることができる。だがその分、消費する体力も大きくなってしまうのだ。
同じスキルを扱えるディルベルトに比べ、消費する体力が大きいことからまだまだ扱いこなせておらず、解放できるActもまだ4段階までしかできていない。しかし、一週間前までは3段階までしか解放できていなかったため、このままの調子でいけばいずれ解放限界である7段階目までたどり着くだろうと、鏡は手応えを感じていた。
「ティナはどうなんだ?」
「私はその……ぼちぼち」
しかし、自信に溢れた顔を見せる鏡とは逆に、ティナはどこか暗い顔で返事をする。
「……あまり順調には進んでなさそうだな」
その表情から察して、鏡は鼻で軽く笑った。
「ねえ……鏡さん、私がスキルを扱いこなせなければ、デミスと戦っても負けますよね?」
「セイジの言う通りなら、そうなるな」
改めて責任の重大さを耳にして、ティナの表情はますます暗くなる。
「もし……もしですよ? 私がスキルを扱いこなせなかったら……どうしますか?」
「どうしますかって……そりゃ、それでも戦うしかないだろ」
「それでもし負けたら、それはやっぱり……私のせいになるんでしょうか?」
恐る恐る問いかけてきたティナの顔を見て、鏡は目を丸くする。
「いや? 全然? なんでティナのせいになるの?」
そして、心底不思議そうに首を傾げながら、ティナの不安をはっきりと否定した。
「な、なんでって……私のスキルがあるから挑むことになった戦いなんですよ? 私のスキルが発動しなかったら……皆、私のせいで無駄に戦って死ぬことになるじゃないですか」
あまりにも拍子抜ける言い方をされたため、少し驚きながらティナは聞き返す。
「それでもし、ティナのせいになるんだったら、俺は皆……他力本願すぎると思うけどな」
「他力本願って……私のスキルじゃないとデミスの攻撃を防ぎようがないから、私に頼ってるんじゃないですか! だから……守れなかったらそれはもう、私のせい……」
「あのなぁ……絶対なんてないんだぜ? もしかしたらデミスが俺たちの想像もつかない攻撃をしてくるかもしれない。それで守れなかったからってティナのせいにはならないだろう?」
「予想通りの攻撃だったら?」
「それでもさ。絶対にティナが守ってくれる保証なんてない。だからこそ、一人一人がもしものことを考えて挑むべきなんじゃないのか?」
問いかけたつもりが逆に問いかけられて、ティナは困惑しながら考える。現に今、スキルを扱いこなせていない時点で守れる保証はない。そもそも、デミスという巨大すぎる脅威からの攻撃をたった一人で防ぐこと自体がありえないはずの芸当で、守れなかったら全てティナのせいというのはどこかずるく感じた。
「確実に守れる保証なんてないのにさ、もしものことを考えずに戦いを挑んで、それでティナが守ってくれなきゃ全部ティナのせいなんて言うのは無責任だろ? 俺なら、ティナが守りきれない可能性もあるって考えて戦うけどな」
「でも……私が守らなければどうやってデミスの攻撃を防ぐんですか?」
「……さあ?」
「さあ? ……って! 鏡さんこそ無責任じゃないですか!」
「いやいや、それを一緒に考えればいいじゃねえか。もし失敗したらどうしようって不安になりながら戦うよりさ、失敗する可能性があるのでその時のことも考えといてくださいって」
その言葉を聞いて、ティナは不思議と気持ちが楽になる。でもそれは一瞬のことで、すぐにまた表情を暗くして顔を俯かせた。