軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再び-5

「お父……どうしてそんな嫌そうな顔してるです?」

そこで、露骨に嫌そうな顔をしている鏡に気付いて、紙飛行機を飛ばして遊んでいたピッタが覗き込むように鏡の隣のソファーにポスっと座る。

「俺をさらし者にしようとしてるんだよ。俺がいるからデミスに勝てる! 君も戦おう! って怪しい商売をする人たちみたいなことをしようとしてるんだ」

「人聞きの悪いことをこんな小さい子に吹き込むな! 言っておくが鏡浩二、お前は全人類の命運を握るリーダーということを忘れるな? かつてのリーシアと同じようにな」

「まあ俺が戦うから大丈夫っていうのはいいけどよ。俺も一緒に行く必要あるのか? どうせ過去に俺が戦ってきた映像を見せるんだろ? ガーディアンで戦った時のとか」

「デミスを倒せる力をあるということを伝えるために、当然過去の映像は使わせてもらう。だがそれだけでは足りない。お前という存在が本当にちゃんといて、戦う意思があることを示すためにお前が演説する必要がある」

その時、何がおかしかったのか、鏡の膝元から「ぶふっ」と噴き出すような笑い声が聞こえる。

「おっとぉ? 狸寝入りちゃんかな?」

「ち、違います。今さっき起きて……鏡さんが演説するとかどうとか聞こえてきたから笑ってしまっただけですよ。凄く滑稽な演説になりそうって」

「この子、人の膝借りといてすごく失礼」

暫くしてティナが眠たそうに眼をこすりながら起き上がった。

「俺の膝枕は気持ちよかったかな? ん~? 涎垂れてますよ」

「うわ……ここぞとばかりに恩着せがましいことを。絶対後で嫌な要求されますよこれ」

「お父……悪い顔してるです」

すっかり気を抜いて寝入ってしまっていたと、ティナは鏡を睨みつける。それと同時に、隣でおとなしく座って待っていたピッタが、鏡の膝元へと座った。

「とにかくだ。お前には壇上に立ってもらいたい。やってもらえるな?」

「まあ……それはいいけど、何を話せばいいんだ? カンペはあるのか?」

「俺が用意した言葉を読み上げたところで人々の心には響かない。お前が考えるんだ」

偽りの言葉をいくら並べても、魂の宿っていない言葉はわかる人にはわかってしまう。かつて、リーシアの悪人すらも味方に引き入れた演説を知っているセイジにはそれがわかっていた。

しかしそれを知らない鏡は、予想外な無茶ぶりに「うげー……」と苦い顔を見せる。

「さて、そろそろ行こうか。まだ余裕があると言っても、無駄にしていい時間なんてないからね。デビッドは一旦はセイジの下でサポートしてくれ。鏡君も一人くらいは頼れる相談役がいないと心細いだろうからね」

來栖が声をかけると、準備はできているのかライアンとメリーと油機は頷く。その後、セイジによって來栖たちはラストスタンドのある保管庫へと転送された。

「あれ……ていうか皆どこいったんですか?」

「皆はティナ姉が寝ている間にどこかに行ったです。ほとんどトレーニングルームとかいう場所に行ったです」

トレーニングと聞いてティナは「それなら……私も自分のスキルを扱いこなせるように――」と言いかけるが、すぐに何か閃いたのか途中で言葉を止めてポンッと手を叩く。

「やっぱり鏡さんの演説が気になるのでそっち見てからにします」

「これあれだ。絶対面白がるためについてくるやつだ」

「はぁ? それ以外に、何があるんですか?」

「清々すぎません?」

心底不思議そうに見つめてくるティナの顔が、これまた鏡の心を抉っていく。

「じいじ、どうして笑ってるです?」

そんな二人の会話を、微笑ましそうな顔で見つめるデビッドにピッタが気付く。

「ふぉっふぉっ、ティナ様と鏡様のやり取りが懐かしくてつい口角が上がってしまいまして」

「そういえば、デビッドと再開してからゆっくり話せてなかったな」

「ええ、鏡様がこの世界で何をしていたのかはある程度お耳にしましたが、他人の口から聞くのと本人の口から聞くのとでは結構な違いがありますからな」

「この後いくらでも話してやるよ。まだ時間はあるみたいだからな」

昔のように、デビッドが入れたお茶を片手に会話をしていた頃を思い出して、二人は微笑を浮かべた。同時に、こんな状況でも、昔のようにまだ笑える自分たちがいることを、嬉しく思うと共に、どこか安心感を覚えた。

「そういう話は後にしてくれ、とにかくお前は、アースクリアの住民に話す内容を今のうちに考えておけ、言っておくが、やり直しはきかないし……変なことを口にすれば、誰もお前にはついてこないぞ?」

「そんな重要なこといきなりやらせんなよ」

「いきなりだからこそ意味があるんだ。じっくりと考えて作られた言葉など、人の心に響かん……お前が今抱く心を話すんだ」

その表情を見て、これから行う演説の重要性がわかっていないような気がしてセイジはため息を吐く。鏡も、文句を言いつつも何を話すべきか頭を悩ませた。

とりあえずは考え始めたのを見て、セイジは部屋に残った一同を転移させて別室へと運ぶ。

「え……マジで? いきなりすぎるだろ」

有無を言わさぬ移動に、鏡は何故か焦った表情を浮かべる。

まだ心の準備ができていないのか、そんな不安な顔を浮かべる鏡に対し、セイジは「お前なら大丈夫だ」と、デビッドは「鏡様なら、どんな言葉でも人々の心を動かせるはずです」と背中を押すと、そのまま鏡をその場に置いて前へと進んだ。

移動した先は、初めて來栖に見せられた、カプセルが立ち並ぶアースクリアのメインコンピューターがあった場所と似ていた。

ノアと同じくカプセルが無数に並び、システムの稼働音が部屋中に響き渡るどこか重々しい空間。その中央に設置されている、アースクリアを管理しているメインコンピューターが目の前へと、鏡たちは降り立っていた。

「お父、これなんです?」

「ピッタ様、勝手に触っては怒られてしまいますよ」

移動するや否や、周囲にあったものに興味を示して触ろうとするピッタをデビッドが抱き上げる。それを見て安心したのか、セイジは一歩前へと出るとメインコンピューターに手を触れた。

「どうしたティナ?」

「やっぱり……ここは慣れません」

ふと、ティナの顔色が悪くなっているのを見て、鏡が声をかける。

初めて來栖にアースクリアという世界の真相を伝えられた時の衝撃を思い出して、ティナは苦い顔を浮かべていた。それでも、臆さずに立っていられるということは、少しは自分も成長したのだろうかと考えて気を取り直す。

「いえ……やっぱり」

しかしそれは勘違いで、今安心感を得ているのは、鏡が傍に居てくれているからなのかもしれない。そう感じて少し赤面すると、誤魔化すようにティナは鏡の背中を押して、「ほら! 早く始めてください!」と、急かした。

その光景にセイジは「緊張感のない奴らだ」と苦笑すると、アースクリアの三ヵ国に住む全員に声が聞こえるようにシステムを稼働させる。

「……初めまして。アースクリアで暮らす諸君。さぞ……突如現れたステータスウインドウに映る俺の姿に驚いていることだろう」

そして、大きく深呼吸をした後、言葉を吐き出した。

「まずは、夢だと思わず聞いてくれ……これは夢じゃない。俺の名前はセイジ……この世界、アースクリアを作った者だ」

そして、順を追ってセイジは説明を始めた。どうしてモンスターが存在するのか? どうしてモンスターがお金を落とすのか? どうして魔族はモンスターを生み続けるのか? どうして役割なんてものが存在するのか? スキルとはなんなのか? ステータスウインドウとはなんなのか――それは、かつて鏡が順に気付いた疑問。

その答えは、アースクリアが偽物の世界であり、いくら平和を求めて戦おうと、何度もやり直させられるというものだった。それは、その世界が本当の世界だと信じてきた者たちにとってはあんまりな真実で、多くがアースへと辿り着いた者たちと同じように驚愕し、目を見開いた。

だが絶望はそれだけではない。どうしてこんな世界を作ったのか?

その答えこそが、一番の絶望だから。

「この糞みたいな世界から抜け出したいか? モンスターのいない、魔王を殺してもリセットのされない本当の平和が欲しいか? ならば……デミスを倒せ」

鏡もかつて、その答えを求めてあがき続けた。

どうして求めたのか? 鏡はそれを考える。そして、すぐに答えは見つかった。

その世界が、ある者にとってはひたすらに――理不尽だったから。

「すぐに受け入れなくていい。受け入れた者からその意思を示してくれればいい。俺たちの住む世界に、本当の世界へと招待しよう……救いようのない、地獄の世界に」

仮に、自分の役割が能ある者であれば、きっとこの場所にいなかったのだろう。鏡は、デミスという絶望を目の前にして、改めてそれを感じていた。

デミスを前にしても――――「いつも通り」という感想しか、漏れなかったから。

村人だったから、弱くてみじめで、かつてはレベル1の村人だったから――世界の理不尽を知っている。生まれて今日に至るまで、絶望にずっとまみれて戦ってきたからこそ、どんな絶望を前にしても、立ち向かうことができる。

弱かったからこそ、世界の理不尽に怒りを抱いた。

強くなったからこそ、その理不尽を壊そうと挑んだ。

そしてここまで来たのは、その理不尽に一言物申すため。

「……鏡さん」

「ああ、わかってる」

セイジの視線に気付いて、鏡は今なおセイジの姿が流されている壇上の傍へと寄る。

「無論、絶望だけが待っているわけじゃない……希望もある。お前たちの世界が、俺たちにもたらした……たった一つの小さな希望だ」

セイジが放った言葉を最後に、鏡はセイジと見つめ合ってお互いに頷き合うと、壇上へと登った。

その希望こそが、自分であると主張するかのように、真っすぐな眼差しをカメラに向け、真剣な表情を浮かべて―――――――――――鏡はゆっくりと口を開いた。

「お前たちにまず話さなければならないことがある。そう、それは俺が今猛烈にトイレに行きたいことについてだ。わかるか? 俺の苦しみがお前たちにわかるか? ……まずは、『演説するよ!』とか言われて無理やり連れられて、結局、あまりのシリアスな雰囲気にトイレに行きたいことを告げられず、しかもその状態で壇上に上がらされて……あまりの便意で言いたいことが脳内で纏まりそうで全く纏まらないのにこうやって喋らされている俺の気持ちを理解してほしい。まずそこから俺たちは始めるべきだと思うんだ。理解できたなら聞いてほしい……おっとわかってる。強制的にこんな話を聞かされる身にもなれって言いたいんだろ? 気持ちはわかる……俺だっていきなり目の前で便意の話をされたら『なんだこいつ』って思うからな。そんな奴の話を聞いていられるほどお前たちは暇じゃないだろう…………だから、俺は手短にこの演説を終わらせてトイレに行こうと思っている。そうすることでお互いWINWINな関係を築くことができるんじゃないかと信じているわけなんだが……ここで一つ問題がある。それは、俺の話を聞いて、お前たちがちゃんと理解してくれるかどうかという点だ。トイレに行きたいあまりにちゃんとお前たちに俺の気持ちが伝わらなかったら意味ないだろう? これが一番の問題だ」

「はい、カット」