軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再び-4

「まあでも、一度で成功するとは俺たちも思っていないさ。やはり理解には時間が必要だ」

そんな來栖に呆れながら、セイジは冷静に言葉を添える。

「その通りだ。各国の王にも演説、昼夜問わずに映像をステータスウインドに流し続けて徐々に洗脳していけばいい。次第に『これは避けられないものなんだな』と認識してアースに出てきてくれるよ。むしろ……魔王を倒さず、1万ゴールドを集めずに外へと出れるんだ。最高じゃないか?」

しかし、折角入れたフォローをすぐさま台無しにする來栖。

「とにかく……暫くは準備のための期間があるのね。なら、その時間を無駄にせずに活用しないといけないわ……本当ならデビッドさんと久しぶりに愛を語り合いたいところだけど」

「ほっほっほ! 時間を無駄にはできませんからなぁ!」

一度も愛を語ったことなどなく、一瞬焦燥した顔を見せるが、すぐに暫くは接さなくてもよいことを喜び、デビッドは笑顔を浮かべる。

そんな二人のやりとりでどういう関係なのかを一瞬で察知したフローネは、「嬉しそうですね……」と引きつった顔を浮かべながら、デビッドに同情した。

「それでは僕たちも……レックス君たちの元へと向かうとします。確か、トレーニングルームに先に向かってるんですよね? 僕もそこで、新たに身についた力を慣らさせてもらいます」

「あ、それでしたら私も……!」

すると、無駄に時間を潰すのも勿体ないと、ロイドが席を立ちあがり、隣に座っていたフローネも、同行しようと慌ただしく立ち上がる。そして一言、「送っていただけますか?」とロイドが笑顔をセイジに向けると、二人は青い光を放つサークルに包まれて転移し、部屋を立ち去った。

「……クルルさん、今の見た?」

「ええ、あれは……雌の顔でした」

「雌って……でも、あれは絶対そうだよね? クラスチェンジしてから……フローネさん大胆になった気がする。常にロイドさんの隣をキープしてるし……!」

「彼女もまた……能力だけではなく、乙女としても大きく覚醒したということなのでしょう。確かにロイドさんはとても紳士的で、好感が持てますし……むしろ今まで静観できていたのが不思議なくらいです」

「俺、最近お前ら怖いんだけど……かつてのタカコちゃん並みの狂気を感じる」

恋沙汰に興味を示してどこか興奮するクルルとアリスを、鏡は引きつった顔で見つめる。

「確かに私も昔はそういうミーハーな時期があったわね。今はとても落ち着いた……クールビューティーって言いたいのよね鏡ちゃん?」

その言葉に鏡はデビッドに視線を向けて助けを乞う。しかしデビッドはすぐさま視線を逸らして水槽の中の魚の鑑賞を始めた。今はそれ以上にヤバイとは、クラスチェンジを果たしたタカコを前に鏡も迂闊に言葉にできなかったから。

「でも駄目よ鏡ちゃん? 私が落ち着いたってのは……か ん ち が い」

ウインクをしながら誰もが既に知っていることを言葉にするタカコ。

「乙女はね? いつだってラブハンターなの。そう、クルルちゃんもアリスちゃんも……そしてあたしも……だから、ね? デビッドさ――」

くねくねと身体を動かしながら「あはんあはん」と色気アピールをするタカコの姿を目にし、男性陣だけではなくクルルとアリスまでの瞳から生気が失われそうになった瞬間、タカコは青い光を放つサークルに包まれて転移し、部屋から消え去った。

「さっき身体を慣らすとか言ってたからな、トレーニングルームに転移させておいた」

眼鏡を押し上げながら放たれたセイジの言葉と機転に、すかさず鏡、デビッド、ライアンの三人は、無言で親指を立ててセイジへと向ける。

「お前たちはどうする? ここでゴロゴロするつもりはないんだろう? トレーニングルームに送ればいいか?」

「あ、ボクはここの施設を見て回りたいな! いざって時に道に迷わずに目的の場所にいけるようになっておきたい! 力のないボクができるのって……皆のサポートくらいだし」

「私はトレーニングルームに行きたいところですが……ここが戦いの拠点になるのであれば、アリスちゃんと同じで先に施設を知っておこうと思います。エデンに住まわれる方々と交流もしたいですし」

「クルルさんも一緒に来てくれるの! 良かった、ボク一人じゃちょっと心細かったんだ!」

セイジは二人の仲睦まじい会話に首を傾げる。てっきり二人は鏡を奪い合う犬猿の仲だと勝手に思っていたからだ。実際は、鏡が絡んだ時だけ醜い争いをしているだけで、それ以外の時はパルナと同じく仲は良い方だった。

「……とりあえず、そういうことならエデンにいる誰かに案内させる。そうだな、ディルベルトでいいか? あいつもエデンの施設内は熟知しているはずだからな」

ディルベルトと聞いて、二人は声を揃えて「別の方でお願いします」と頼み込む。何かと「美しい」と連呼されては、変に気疲れしそうだったからだ。

「ふむ……ならば妾もトレーニングルームに向かうとするかの。魚を見るのにも飽きてきたところだしな」

「フラウがトレーニングルームに行って何をするんだ? シモンがまた心配するぞ?」

「お主に言われずともわかっておるわ。だが、疲れた者やうっかりでケガした者のサポートくらいはできよう? 妾も、妾にできることをさせてもらう、自分の答えとやらを見つけるまではな」

そう言って相槌をセイジに送ると、フラウは水槽のガラスに手をつけた状態のまま、転送されてトレーニングルームへと向かう。てっきり「妾にもできることくらいはあるわ!」と言い返してくると思っていた鏡は、素直に何もできない自分を認め、やれることを模索するという大人びた言動をしたフラウに驚愕した。

「自分の……答え?」

そして、聞き覚えのある不可解な言葉に、鏡は首を傾げる。その言葉の真意はわからなかったが、レックスと覚醒の試練を終えてから色々と考えたことがあったのか、シモンに吐いていた「考えがあって同行をしている」という言葉に嘘はなさそうだと、少しだけフラウを見直した。

「姉さまが……あんな大人な発言をするなんて…………! ど、どうしましょう。お父様に報告……いえ、ニニアン姉さまに報告しないと!」

自分よりも階級の下の民のために尽くそうとしているフラウが信じられないのか、誰よりもクルルが衝撃を受けていた。

「皆……それぞれの考えを持って頑張ってるんだね」

ほんの少し前まで自分を贔屓するように我儘ばかり言っていたフラウの変わりように、アリスも嬉しそうに微笑を浮かべる。

「これは俺の経験だが、戦うための理由を各個人で抱いているやつは強いぞ? 身体的な面ではなく、精神的な面でだ。世界のために戦わなきゃいけないのは大前提だが、誰もが抱く集団意識だけで戦うやつよりかは、それとは別の何かのために戦うやつの方がしぶとく生き残るからな」

そして、アリスの言葉に賛同してライアンが頷く。フラウには微塵も期待はしていなかったが、その精神の成長が周りに良い影響を与えてくれるだろうと思っての言葉だった。

それから、クルルとアリスの二人もエデンを熟知しているグリドニア王国出身の者に連れられて、セイジのプライベートルームから去る。

「さて、俺たちも行くか」

すると、部屋に残された油機とメリーに視線を送りながら、ライアンが切り出した。

「行くってどこにだよ? 言っておくが、アースクリア出身の変態共と違って私できることは少ないぞ? 手伝えてもせいぜい武器のメンテナンスか……飯を作る準備くらいだ。私は油機みたいに機械いじりもできないぞ?」

「さっき話しただろう? 俺が作った改良型のラストスタンドを完成させに行くんだよ」

「油機だけでいいじゃねえか。私は必要ねえだろ?」

「何言ってんだ。作っても動かす奴がいないと話にならないだろう? 確かお前……ラストスタンドに乗ってでも戦ってやるって意気込んでいたじゃねえか。それに、來栖から聞くに、お前の狙撃の腕はかなり優秀なんだろう? お前専用に作るから、お前にも一度ガーディアンにまで戻ってもらわないと困る」

専用と聞いて、メリーの耳がぴくぴくと動く。ふと視線を油機へ向けると、油機は任せてと手を胸に当てて笑みを浮かべていた。それを見て「し、仕方ねえなぁ」とライアンに同行することを決意する。

「ああ、ライアン。戻るなら僕もついて行くよ……ガーディアンに戻る前に悪いんだけど……先にノアに寄ってもらえないかい? 異種族やノアにいる住民たちにことの全てを伝えにいくのと……そろそろバルムンクを戻してあげないと」

早速向かおうとしたところ、來栖にそう呼び止められる。

バルムンクが誰かわからないのか、ライアンが首を傾げると、來栖は「油機と、メリーがよく知っている人物さ、二人に任せれば大丈夫だよ」と、笑みを浮かべる。

「嫌な役を押し付けるね……あたしはいいけどさ」

まだ和解をちゃんと終えていないからか、気持ちを察して油機が不安そうにメリーを見つめる。

「ああ、構わないぞ」

対するメリーは、何食わぬ顔で、來栖の提案を承諾した。その毅然とした態度に、來栖が「へぇ」と感嘆の声をあげた。

「いいの? メリーちゃん?」

「構わねえよ。私もどこかで話はしないと駄目だとは思ってたんだ。それに、今はそんなことを言っている場合じゃねえってのは、鏡から嫌って程教えてもらったしな……だから私は、本当に見つめないといけないことに向き合っていくつもりだ」

照れくさいのか、言いながらメリーは鏡から視線を逸らして鼻頭に手を当てる。

これまた、敵とわかれば問答無用で襲い掛かってきた頃に比べ、心身が大きく変化したものだと、油機と鏡は微笑した。

「それじゃあセイジは……その間、例の件を頼めるかい?」

「ああ……この村人を借りるぞ」

「ん? なんか俺に手伝えることがあるのか」

その時、來栖の言いだした例の件が何かわからず、鏡は首を傾げる。

「アースクリアの住民が、こちらに来れるように誘導しなければならない。そのために、これから時間をかけてアースクリアの住民に理解を示してもらう必要がある」

「それはわかっているけど……なんで俺が必要なんだ?」

「ただ絶望を見せるだけでどうする? その絶望に対抗する手段がしっかりあることを示さなければ誰も戦おうとはしないだろう。勝算のない戦いに誰も協力等しないからな」

その説明で理解し、鏡は少し嫌そうに「なるほど」と呟いた。