作品タイトル不明
『ふーん』って感じ-8
「圧倒的ボス感……俺なら逃げるね」
「そうですね……僕も迷いましたが、逃げますね」
いつからそこにいたのか、気付けばレックスとティナとパルナの隣に、鏡とロイドの二人が何食わぬ顔でナチュラルに合流を果たしていた。
「最初から一緒にいたみたいな雰囲気出すのやめてもらっていいですか?」
「つれないこと言うなよティナたん。俺たちも今来たばかりなんだから」
「というより、どうしてロイドさんまで一緒にいるんですか」
「君に会いに来たんですよ? ティナさん」
「ロイドさんって……冗談言うんですね」
「さすが鏡さんのお仲間……訓練されていますね」
その微笑みで今まで何人もの女性を口説き落としてきたロイドにとって、ティナのそのあまりにも簡素な失笑は初めて向けられる反応であり、戦慄する。そして、「ふふ、面白くなってきました」と一人で勝手に興奮し始めた。
「まあ色々あって、フローネとロイドと合流して、ここに来た」
「説明……端折りすぎ。他の皆はどうしたのよ? 馬車の中にいるの? なんであんたたち二人だけ別行動してんのよ?」
いつも通り適当な説明で済まそうとする鏡に、パルナが呆れた表情で問いかける。
「ケンタ・ウロスに乗るのも嫌だし、タカコちゃんも気合入りすぎてて怖かったから俺たちだけ走ってここまできた。ほら、新しいスキルのおかげで長距離走っても疲れなくなったし、ケンタ・ウロスより俺たち早いし」
「僕は少し疲れましたけど、右に同じです。タカコさんたちには、道中のモンスターは駆除しないとスムーズに進めないから必要な行動だということで誤魔化してますけどね」
とにかく一緒に行動するのが嫌だったと告げる二人を前に、「この身体能力変態ブラザーズは本当に……」とパルナは呆れた顔を見せる。
しかしすぐに、仁王立ちしているタカコへと視線を向けて、「気持ちはわからないでもないわね」と少し納得した。
現在タカコたちのいる馬車の周囲には、大勢の兵士が囲うように詰め寄っており、「姫様たちには一歩も近付けさせん!」と警戒されまくっていたからだ。
「えっと……その……皆さん、下がってください。そちらの方々は私の友人です」
「え⁉ この者たちがクルルの友人じゃと……⁉ 随分と変わった友人を作ったのだな……」
暫くして、あまりにも豪快な登場をされてどう説明したらいいのかと頭を悩ませていたクルルも、諦めて溜息を吐きながら兵士を下がらせる。同時に、タカコたちと面識のなかったフラウは、クルルの交友関係に不安を抱いた。
「なるほど……こちらから出向かわずとも来てくれたということか。まさか城下町の大通りを猛スピードで、それもケンタ・ウロスで駆けるなんて不届きな行為をこの王都で平然とやるとはな、さすがは最強の男……犯罪者の烙印などもう恐れるに足りんということか」
一方、ニニアンは不敵な笑みを浮かべてタカコを見つめていた。その一方でニニアンの言葉に耳を傾けていた鏡は、「え、俺のせいになったんだけど」と驚愕した表情を浮かべる。
「ケンタ・ウロスを完璧なまでに扱いこなしている。なるほど……噂に違わぬ強そうな見た目ではないか。肉体も……まるで武闘家のように洗練されている。納得した……クルル、これがお前も認めた男……鏡なのだろう? っふ……お前はレックスのような細身の美形が好みだと思っていたが……私と好みが似ていたようだな。私でも惹かれてしまいそうなくらい男の強さを全身から放っている。素晴らしい……認めざるをえんな」
そして、納得したようにそう呟く。隣にいたフラウも、その強さと禍々しさを肌で感じ取ったのか、「これが……例の⁉」と畏怖しながらも驚愕の表情を浮かべていた。
「あの……姉さま。違います」
「え?」
「この方は……鏡さんじゃありません。武闘家のタカコさんです。レベルは245と高いですが」
「え?」
「それと、タカコさんはその…………女性です」
「えぇ……?」
どうりで、友人であるはずのクルルと再会し、兵士の警戒を解いてもらったにも関わらず、眉間に皺を寄せたまま怒った表情を変えないのかと理解し、ニニアンは頬に汗を垂らす。
「し……しかしこの暴力的までな威圧感は……馬車の中に乗っているその、鏡という男が放っているものなのだろう? それで勘違いしてしまったのだ! ゆ、許せタカコとやら!」
「鏡ならこの馬車に乗ってねえぞ? あいつとロイドだけ先に走って行っちまったからな」
必死に取り繕うとするが、馬車の中からカーテンを開けてピョコッと出てきたメリーの言葉で無駄に終わる。馬車の中には言葉通り鏡とロイドの姿はなく、余程大急ぎでヴァルマンの街から王都まで走ってきたのか、馬車の揺れに慣れていないフローネとアリスと油機がぐったりとした状態で横たわっていた。
ちなみに、メリーだけはその揺れがアトラクションのようで楽しかったと難を逃れていた。
「どうやら姉さまが感じ取った暴力的な威圧感は、タカコさんから感じ取ったもののようですね」
「ふ……ふふふ、あははははは! その、なんだ? まあ……タカコとやら? その…………スマン……かった」
未だに威圧的な視線を真っ直ぐに落としてくるタカコに耐えきれず、ニニアンは徐々に視線を逸らしながら呟くように謝罪した。
「そ、それより! 鏡とやらはどこにいる⁉ そこの橙色の髪をした小娘の言葉通りならばこの街にもういるのだろう? 近くに隠れているのではないか?」
「師匠ならここにいます!」
「おお、そこにおったか!」
誤魔化すようにキョロキョロとあたりを見回すニニアンを援護し、レックスが挙手をする。
その場から逃げ出すようにニニアンがレックスの元へと近寄ると、そのまま流れるような動作で隣に立っていたロイドの手を掴んだ。
「主が鏡だな。言わずともわかるぞ……自然でいて隙の無い立ち方、全てを見透かしたかのような視線。戦いに疎い私であっても余程の経験を積んできたのが一目でわかる。あのプライドの高かったレックスが師匠と呼びたくなるのもわかるな! 顔立ちにも品がある」
多くの経験積んできたロイドにとって、言ってることは間違いではなかったが、どうしたらいいものかと困った表情で鏡へと視線を向ける。
「あの……その、俺が鏡……なんですけど?」
「え?」
最早、見る目がないと詰められても言い逃れの出来ない勘違いの連続に、ニニアンは顔を青褪めさせた。同時に、レベル999の境地に辿り着いた強そうな男のイメージとはかけ離れた平凡かつ弱そうな見た目に、「え? これが?」と思わず口走ってしまう。
すぐさま傍にいたレックス、パルナ、ティナに視線を向けて確認するが、それぞれやってしまったかのような顔で、面白いのか満面の笑みで、呆れたような冷めた視線で頷き返した。