作品タイトル不明
追い求めた真実は残酷で-6
「しかし……参ったわね」
今にも握力で手に持ったコーヒーの入ったコップが潰れてしまいそうな勢いで、タカコがため息を吐く。気付けばタカコだけではなく、休憩室内は表情の暗い顔ぶれで溢れかえってきた。
その中で表情を変えずに優雅にお茶を飲んでいられたのは、シモンとミリタリアだけだった。
「情けないな。まだ戦う時でもないのに……今からそんなのでどうする?」
「全くですね。最近の若い者は肝が据わってなくて困りますな」
「いや、あんたらは知ってただろ」
そう言う鏡も全く動じていない様子だったため、あまりフォローにはなっていなかったが、それでもいつも冷静沈着なデビッドすらも青褪めていたため、この状況で落ち着ける方がむしろ異常であることが窺えた。
「星サイズの敵か……攻撃するにしても、地面に剣を刺すようなものだろ。コアを破壊すると言っていたが、あのサイズから推測するに……そのコアも」
「それにそのコアだって……デミスの体内にあると言ってました。モンスターを作り出す怪物の体内に……想像しただけで気分が」
レックスとクルルも、想像を越える敵を前に既に戦意を喪失させた様子だった。
「デビッド……何かあれを倒すための良い案はないのですか?」
「そうですな……映像を見た感じ、指揮に優れたものを各所に配置させ、効率良くモンスターとデミスの分離体を倒す術はありそうですが、デミス本体を倒すことに関しては策の練りようがありませんな」
デビッドもお手上げだったのか、クルルの問いかけに首を左右に振ってため息を吐く。
「それが普通の反応だと思いますよ。僕も……フローネも油機さんも、バルムンクさんも、誰もが通った道です。勝てる……いや、立ち向かおうと考えるのが異常なんですよ」
「ロイドだっけ? あんた確かレベル450の勇者様だったわよね? あんたでも……やっぱりあれには勝てないと思っちゃうわけ?」
表情を暗くする一同を馬鹿にすることなく励まそうとするロイドに、パルナが丁度全員が気になっていたことを問いかける。すると、間を待つことなく「当然です」と即答された。
「確かに僕はそれなりには巨大な力を持っています。ですがそれは、アースやアースクリア上に住む生物を対象とした場合であって。世界と同規模の相手に対してではありません」
「挑戦するだけ無駄って思ったわけ」
「無駄と思ったわけじゃありませんが……倒せるとは思いませんでした。デミスの体内は未知数、何があるかはわかりません。どこにそのコアがあるかさえも不明です。恐らく……仲間を失っていく過程で絶望して、心が折れるのでしょうね」
それを聞いて、全く同じことを考えていたと一同は更に表情を曇らせた。ゴールが見えず、敵の姿もわからず、そして辿り着いたからといって、コアを破壊できる保証はない。
実際に辿り着いたリーシアがどれだけの力を持っていたかはわからないが、融合することを自分から選んだことからコアを破壊出来なかったのが窺えた。
「だからこそ、鏡さんのようなどんな絶望的な状況でも心折らさず、諦めないで最後まであがいて勝利を掴み取れる方に価値があるのです。我々は……あれだけ絶望的な状況に陥っても屈さずに立ち向かうあなたに希望を見出したのですから」
「そうですね、鏡さんであれば最後の一人になったとしても。その命が尽きるまで諦めない……まだ出会ってから間もないですが、そう思えました」
ロイドに同意なのか、フローネが柔らかい笑みを鏡に向ける。
「まさか……フローネさん」
「ボクも今、危険な何かを感じたよ」
「え? え?」
その笑みに危機を感じ、すかさずクルルとアリスが眉間に皺を寄せてフローネを睨みつける。
「そうやって会話が出来るだけでもマシだよ。あたしとか、一週間は何も喋れなかったもん……『ああ、何をやっても無駄なんだ』って、全部……やる気をなくしてた。アースクリアに帰りたいってずっと思ってたくらいだし。でも、どうせならいつかは倒せることを夢見て前に進もうとしてる人に協力しようって。見えない希望にすがりついて……」
言いながら徐々に落ち込んだような苦笑い油機の気持ちが理解出来るのか、ロイドとフローネも苦笑いを浮かべる。そこで表情を暗くさせないのは、それが過去の話であり、今、確かな希望である鏡が居てくれているからだった。
「よし……そういうことだから皆、俺に感謝しまくって、もっと俺に優しくしよ?」
そして、ここぞとばかりに存在をアピールし始める鏡。
だがまんざらでもないのか、油機、ロイド、フローネは素直に頷くと明るい笑みを浮かべた。
「そういや聞くの忘れてたけどよ、こうやって呑気に休憩室でお茶をしてるが、これから私たちはどうするんだ? いつあれと戦うんだよ?」
「メリーちゃん……妙にやる気だね?」
「当たり前だろ? ようはあれを倒せさえすれば……ずっと欲しかった自由が手に入るんだ。私は戦うぞ、ラストスタンドに乗って戦ってやる」
「き、危険だよ! メリーちゃんは普通の人間で、デミスに取り込まれる可能性だって!」
「今までとどう違うんだよ?」
その言葉に、一同は目を丸くする。いつだって世界を取り戻すために戦い続けてきたメリーにとって、命をかけて戦うことに対する抵抗はなかった。希望がないのであればメリーも絶望していたかもしれない。だが今は、成功率は低くても命をかけて戦えば掴めるものがある。ならば、メリーに戦わないという選択肢はなかった。
命惜しさに落ち込むのではなく、成功のために戦おうとするメリーの姿に、表情を暗くさせていた一同も気持ちを切り替える。
「マア……命は大事にシロよ。ウチは応援シテル」
「いや、お前も戦えよ!」
「戦ウが……恐ラク内部侵入は無理ダ。恐怖デ身体が動かん」
至って冷静に内部への侵入を拒否するペスに、レックスがすかさずツッコミを入れるが、本当に難しいのかペスは困った表情を浮かべた。そしてどういうことなのかを確認するべく、一同はウルガへと視線を向ける。
「……恐らく俺モ無理ダ。アレを見タ時……身体が動かナかっタ」
「ピッタも……動かなかったです」
ウルガとピッタも同じことを言ったため、ペスが冗談で言っていたわけじゃないのがわかり、一同は困惑した表情を浮かべる。
「五感が強いものは、生存本能も強い。絶対に倒せない巨大な敵を前にした時、命が危険な状態にでもならないと身体が竦んで動かなくなるんだよ……それが獣牙族の欠点なんだけどね。星喰いデミスの体内で動くのは難しいと思うよ……五感が狂う」
その時、部屋の外で話を聞いていたのか、タイミングを合わせたかのように説明しながら來栖が休憩室内へと入る。隣には、車椅子に座ったライアンの姿もあった。
「元々獣牙族は、星喰いデミスの分離体や、モンスターを相手にしてもらうために作っていたから……仕方がないといえば仕方がないのだろうけどね」
「来栖さん……どうしたんです? ライアン様も一緒になって」
先程解散したばかりなのに、再び顔を出した二人を疑問に思い、ロイドが不思議そうに問いかける。ライアンや来栖のような管理者が、この休憩室に来ることは稀でもあったからだ。
「言い忘れていたことが二つあってね、伝えに来たんだよ」
「言い忘れていたこと?」
「これから具体的に……どうしていくかだよ」
丁度、メリーが疑問にしていた話題が上がり、一同は顔つきを変えて来栖に注視する。
「君たちには一度……アースクリアに戻ってもらいたい」