作品タイトル不明
追い求めた真実は残酷で-2
「何よそれ……つまり、人があまり外に出すぎていると匂いに釣られて起きてしまうから人々を外には出せないってこと?」
「そういうことだね。地上で人類が繁栄しすぎれば……あれは目覚めてしまう。だから、僕たちは地下に籠るしかなかったんだ」
「でも、ノアにいるレジスタンスの何人かは外に出て探索してたじゃない!」
「あの程度の人数なら問題ないさ。それに……レジスタンス内にはアースクリア出身の者も多くいる。星喰いデミスはアースクリア出身の人間の匂いには一切反応しないからね」
「……は? あんたさっき……人間を餌にしてるって言ったわよね? なんでアースクリア出身の人間には反応しないのよ……不味いから?」
星喰いデミスが選り好みしているとは思えず、パルナは困惑した表情を浮かべる。
「正式には匂いとは、実際に人間が放っている体臭のことじゃないよ。人間の遺伝子構造……その波長の良さに惹かれているのさ」
「い、遺伝子構造……? つ、つまりその質が良いから餌にされてむしゃむしゃバリバリ食べられちゃうってことですか?」
しかし来栖は、それ以外に考えられないとまで思っていたティナの質問に、首を左右に振って否定した。
「食べるんじゃなくて……交わるんだよ」
そして放たれた不可解な言葉に、一同は表情を強張らせた。
「交わ……る?」
言葉の真意が理解できず、ティナが確認するように来栖に視線をぶつける。
「星喰いデミス……僕はあれをどんな化け物だと最初に説明したかな?」
「まさか…………繁殖って」
その真意に気付いたのか、クルルは突然椅子を押しのけて立ち上がり、口元を抑えて信じられないといった表情を浮かべた。
「恐らく考えている通りだよ。あれは生物を媒体にして繁殖する……そして遺伝子構造が星喰いデミスとの相性が良ければ良いほど交わりやすい」
「交わりやすい? ……どういう意味ですか?」
「抵抗力の差と考えてくれればいい。例えば、星喰いデミスとの遺伝子構造の相性が良くないこの世界に住む動物たちを媒体にして繁殖しようとしても、交わるのに長い期間を必要とするか、そのまま跳ねのけられるかのどちらか……まあ、後は実際にこれを見た方が早いよ」
来栖はそう言うと、各々が座る席の目の前にホログラフィックのモニターを出現させ、当時の状況を映し出しているものと思われる映像を流し始めた。
それは、ガーディアンの最上階で見せられた星喰いデミスが、まだ眠っていない活動時の光景が映し出された映像だった。
星喰いデミスは今よりも活発に全身から生え伸びる触手を動かし、心臓が鼓動するかのような縮小を繰り返して、この世界、アースの周辺を漂っていた。
周りには、当時、ミュータント、ヒーロー、新人類、超越者と呼称されていた総じて超人と呼ばれた進化した人間。そして、ラストスタンドを初めとする古代の兵器に搭乗した者たち、その古代の兵器を大量に射出している戦艦と呼ばれていた宇宙空間を泳ぐ巨大な船。それらが星喰いデミスと激しい攻防を行っていた。
しかしその大半が、星喰いデミスに対して直接攻撃するのではなく、紫色の肌をしている以外は人間とほとんど変わらない悪魔のような見た目をした化け物と、星喰いデミスから分離してアースへと向かっているグネグネとしたスライム状の細胞のような化け物を対象に攻撃していた。
「この紫色の化け物……確かダークドラゴンがいるダンジョンにも出てきた奴じゃ?」
どこかで見たことがあるその容姿に気付き、レックスが来栖に疑問をぶつける。
「そうだね、ここに出てきているモンスターと最後の試練を行うダンジョンに出てくるモンスターは全く同じ存在だよ。仮に……星喰いデミスと戦うことになれば、このモンスターとの戦いは避けられない。だからこそ、最後の試練としてあのモンスターを配置させているんだ」
「最低限……この紫色の化け物を倒せるくらいには力がないと駄目だからか?」
「それもあるが……一番の理由は別にある。あれが何なのかを知った後、予め戦った経験を先に積ませておくことで戦うことへの抵抗を少しでも紛らわせるためさ」
「抵抗……?」
意味がわからず、レックスは首を傾げる。だがすぐに、モニターに映し出された映像から、その言葉の意味と、先程、来栖が交わり取り込まれると言っていた意味を理解した。
そして何故、アースクリアの世界において、その紫色の化け物が最後の試練のダンジョンにしかいないのかも理解した。それと戦わずに済むのであれば、その方がいいのは間違いなかったから。
「人が…………人が…………!」
あまりの光景に、ティナが口元を抑えて肩を震わせる。
そこに映っていたのは、星喰いデミスから分離したスライム状の化け物が人類の攻撃をくぐり抜け、アースへと降り立った後の光景だった。
アースの地表は阿鼻叫喚の様子だった。処理しきれなかったスライム状の化け物が空から無数に降り注ぎ、それから逃げ隠れようと人々は必死に走っていた。だが、逃走も虚しく、建物の中に隠れようが、必死に走ろうが、スライム状の化け物は位置を把握しているのか、建物の隙間をその液体状の身体を生かしてすり抜け、まるで銃弾のような速度で人々に飛びついていく。
そして飛びつかれた人々は、浸透するかのようにスライム状の化け物に身体の中へと入り込まれ、身体全体を石のように硬い物質へと変えてしまう。暫くして、鳥が殻を割って外へと這い出るように石となった硬いからをぶち抜くと、紫色の悪魔が姿を現した。
「もうわかったとは思うけど……この紫色の化け物は元々人間なのさ。そして、星喰いデミスはその人間の身体を利用し……新たな生命体として子を成す」
改めて来栖に言葉にされるが、誰も言葉を発しようとはしなかった。目の前の映像に、現実味があまりにもなかったからだ。
「それと、君たちはずっと勘違いしていたみたいだけど……」
映像に合わせて話しているのか、来栖はそこで言葉を止める。
直後、星喰いデミスから分離したスライム状の化け物が今度は人間ではなく、アースに生息してた動物たちを取り込もうと飛びつく映像が映し出される。だが、その多くが身体へと入り込まれる前に振り払い、スライム状の化け物を追い返していた。
そこで、来栖が抵抗値と言っていた意味を理解する。そしてアリスは、アースに来てから度々気になっていた一つの疑問、どうして地上に人類だけが消えてしまったかのような状態になっているのかを理解した。
抵抗する術なく交わってしまうから、人類だけが地下に潜らざるを得なかったからなのだと。
「僕が異種族とモンスターを作り出して外に排出しているっていうのには少し誤りがある。確かに僕が異種族を作ったという話はしたけど――」
映像はそこで終わらず続きがあった。全ての動物たちがスライム状の化け物を追い返せていたわけじゃなかったのだ。一部の動物はそのまま長い時間を経てスライム状の化け物をその身に受け入れると、人が紫色の化け物に変わった時と同じように……鏡たちも見慣れた化け物へと姿を変えた。
「モンスターを作ったなんて……僕は一度も言っていない」
そして全ての真実を鏡たちは理解する。この世界に居た化け物、モンスターとは。星喰いデミスによって姿を変えられてしまった。人を含めたこの世界に元々住んでいた生物たちだったのだと。