作品タイトル不明
第二十四章 追い求めた真実は残酷で
「さて? 何から話して欲しいかな? 約束通り、何でも質問に答えてあげるよ」
「好きな女性のタイプは?」
「あれだけ聞きたがっていたのに、いざ聞けるとなると話を先伸ばそうとするのは君の癖かな?」
至って真剣な顔つきでどうでもよいことを聞く鏡に、来栖は深い溜息を吐く。
星喰いデミス。一つの星であるアースと同サイズの圧倒的な存在を眼にした一同は、来栖より「ここではなんだ」と提案を受け、一度落ち着いて話が出来る場所に移動しようと、ガーディアンの地下施設内にあるセントラルタワー内へと足を運んでいた。
セントラルタワー内の一室から見える地下施設内は、ノアの地下施設のように貧困しているような様子はなく、アースクリア内にあるヴァルマンの街ような、冒険者の街に似た活気が見えた。
とはいえ、最上階に辿り着ければ解放されるという夢を与えられるだけで、ここから一歩も外に出られないことを考えると、まだ貧困ながら自由が残されているノアの方がマシなのかと錯覚してしまう。
今こうして、何も知らない人々を視界に、イスとテーブルが揃った休憩室のような場所でお茶を飲んでいるのが、何処か皮肉にも思えた。
「何となくわかってはいたんだよ。こっちには勘の鋭いパルナとタカコちゃんがいるからな。あれに挑戦できるのは……一回だけなんだろ? だから、生半可に倒せるかもしれない程度で挑まれたら全てが終わってしまう」
「その通りだよ。だからこそ、倒せる大きな可能性も持たず、かと言って諦めることの出来ない中途半端な者たち……つまり君たちに教えるわけにはいかなかった。特に鏡君、君なんか変に力を持ちすぎていたせいで、「倒せる!」と暴れられる可能性もあったからね」
しかしすぐに来栖は涼しい顔で「今の君は別だけどね」と、淹れたての紅茶が入ったカップに口をつけた。
「ノアや、ガーディアンの皆さんに真相を話さないのはやはり……あれを見せないためですか?」
脳裏に焼きついた映像がまだ離れないのか、青ざめた表情でクルルがつぶやく。
よく見れば、星喰いデミスを既に眼にしたことのある者と、鏡以外の全員は顔を曇らせ、淹れた紅茶にすら手をつけていなかった。
「君たちは今どんな気分だい? 当ててやろうか? 鏡君がいなければ諦めてアースクリアに帰りたくなっている頃さ。実際、真相を知ったものの多くは口々にアースクリアに帰ると言っていたよ。油機君やバルムンク君もそうさ……彼らには残ってもらったけどね」
図星だったのか、クルルは顔を俯かせる。
星喰いデミスの存在は圧倒的だった。「星サイズの敵を相手に何が出来るのか? 星の上で暮らす小さな豆粒の存在でしかない自分たちに?」そう考えるのが普通だった。だからこそ、説明されずとも理解できた――
「ガーディアンに住む者たちや、ノアに住む者たちは、君たちと違ってアースクリアに行くことは出来ない。だからこそ、教えるわけにはいかないのさ。あんなのが居て……どうあがいても救うことができない世界、そこで窮屈な生活をし続けなければいけない未来のない人生に……誰も耐えられないから」
来栖が言葉にしたその事実に。
「フローネが言っていた人々には希望が必要って言っていた意味がわかったよ……確かに、あんなのがいるなんてわかったら皆……何をやっても無駄だって頑張るのを放棄しちまう……」
唯一、アース出身で力を持たないメリーには、その気持ちが痛いほどわかった。
無力。逆らう気も起きない力の差を確かに感じたからだ。
「でもだからこそ疑問があるんだ。どうして地下施設に籠ってなきゃいけないんだ? あれはこの星の外にいるんだろ? だったら地上に出ても、あれに怯えながら暮らすことだって出来るんじゃないのか?」
それでもまだ、生きるための活路を見出す方法はあるはずだと、メリーは来栖に視線を送る。しかし、その質問も想定内だったのか、来栖は静かに左右に首を振った。
「どうして地下に籠らなければいけないのかを説明する前に……まずは、星喰いデミスが何なのかを知る必要がある。君たちは星喰いデミスの恐ろしさをまだ半分も知っていないからね。……あれは今、さっきも言ったけど眠っている状態なんだよ。だからこそ、挑戦できる回数が一回だけなんだけどね……起こしてしまうから」
「……あんなにウネウネ動いていたのにですか⁉」
全身から触手を伸ばし、ウネウネと動かしていたのを思い出してティナが声をあげる。
「うん、眠っているんだよ。いや……戦いの果てに眠らせたと言った方がいいかもしれないね」
「戦いの果て? なんです……その戦いって」
「君たちはもう知っているはずだよ。この世界に君たちが来た時に、僕が直接話した内容を覚えているかい? この世界のこととかね」
数週間前、この世界に足を踏み入れた時に来栖より聞いた、この世界とアースクリアの真実のことを言っているのだと気付いた一同は、思考を巡らせて話の内容を思い出そうとする。
「もしかして……あの時あなたが言っていた当時の科学力で作られた兵器や、ミュータントや超人類でもモンスターと異種族には敵わなかったって話のことかしら?」
そしてタカコは、すぐさま来栖の指している戦いがなんなのかに気付いた。
「ご明察。さすがはタカコさん……鏡君が認める参謀なだけはあるね。あの時……僕は最悪の悲劇をモンスターや異種族と戦った結果としての話に見せかけたけど、実は違う。最悪の悲劇とは……モンスターや異種族なんかじゃなくて、星喰いデミスのことだよ」
「じゃあ……あの時話していた内容は全て本当のことって考えていいのかしら?」
「ええ、全て本当のことだよ。相手が違う点を除いてだけど」
その時、メリーは油機の顔を見た。少し前に油機に裏切られ、捕らえられる直前に言っていた言葉を思い出したからだ。
『皆さ、この世界……アースに最初に来た時、来栖から何一つ隠されることなく、この世界の事情と、あたしたちが住んでたアースクリアの仕組みについて教えてもらったよね?』
油機はどこか、感慨深い悲しそうな表情で言っていた。
『あれは全部本当の話。でも、本当の話だからこそ皆……騙される』
その言葉の意味がようやくわかり、油機なりに背負っていた苦しみを伝えようとしてくれていたのだと気付いて、どこか複雑な気持ちになった。それでも一度、見限って自分たちを裏切ったことには変わりはなかったから。
「疑問には思っていたわ……ラストスタンドが昔からあったのなら、獣牙族や異種族に遅れをとるとは思えないもの」
「だからこそ、ラストスタンドの存在も隠す必要があった。獣牙族にも負けてしまうくらいの弱い兵器が、実際は凌駕する力を持っているなんて知られたら、今成り立っているノアの住民たちの世界観が崩れてしまうからね」
薄々感じていた疑問が確信に変わり、タカコは頬に汗を垂らした。つまり、ラストスタンドが束になってかかろうが、星喰いデミスには通用しないことに繋がったから。
「それで、あれは……一体なんなわけ? 星サイズのデカい化け物ってのはわかったけど、何であんなのがこの世界のすぐ傍にいんのよ」
まだ星喰いデミスを見た時の恐怖が残っているのか、どこか落ち着かない様子でパルナが話の本題に戻ろうとする。
「あれがどこから来たのかは未だに僕もわからない。でも……あれがアースに来た理由ならわかる」
「……なんなのよ?」
「あれは……このアースに住む生物、特に人間が放つ匂いに引き寄せられて現れたんだ」
「何言っているか……わからないんだけど」
不可解なはずなのに、至って真剣な表情で話す来栖にパルナは思わず息を飲んだ。
「星喰いデミス……あれは、生物を餌にして繁殖する化け物なんだよ」
直後、どうして人々が地下に籠らなければいけなくなったのか、その理由をたったそれだけの説明で全員が理解した。