作品タイトル不明
絶対的な強さの壁-10
「ウチは何カニしがみツイテないト落ち着かナイ。だからレックスには生贄ニナッテモラッタ」
「じゃあタカコちゃんにしがみつけばいいんじゃないの?」
「タカコは何か落ち着カン」
その気持ちを少し理解してしまったのか、鏡はそれ以上何も言わずに押し黙る。
「悪いけど鏡ちゃん、そういうことだから海を越えて陸地が見えてきたら適当な場所で一回地上に降りて休憩にしてもらえないかしら? 搭乗者を交代するか、運転をレックスちゃんに代わってもらいたいのよ」
「あー……そうだな。じゃあとりあえずそれまで辛抱してくれ。レックスもあんまり暴れるなよ」
「いや僕は何もしてな……!」
弁解しようとモニターに顔を近付けてきたレックスと、ご満悦の様子でレックスにへばりつくペスを最後に鏡は通信を強引に遮断する。
「レックスも大変だな……皆にいじられすぎて全然勇者に見えないところとか、チクビボーイなところとか」
「チクビボーイは関係ないと思うけど……でも、レックスさんあんな感じでも容姿は整ってるからモテるんだと思うよ」
「お前はレックスに惹かれたりしないのか?」
「ボクには鏡さんがいるから」
恥ずかしげもなくハッキリと告げられ、メリーは「そうかよ」とにやつきながら鏡の肩をバンバンと叩く。対する鏡も昔と違って大人になったアリスに改まって言われると、どこかむずがゆい気持ちになるのか「……そ、そうですか」と照れくさそうに頬をポリポリと掻いた。
「あれ……?」
その時、メリーが一瞬何かに気付いたのか、目を凝らして操縦席内の左側の壁に張り付く。
「どうしたんだ?」
「いや……今なんか一瞬見えた気がしてさ。あそこの雲の中に入っていったと思うんだけど……何だったんだろうな?」
「渡り鳥か何かじゃねえのか? さっきからめちゃくちゃ飛んでるし……ほら、もう陸地も見え始めてるしな。…………ほら、やっぱり」
鏡が言葉を発した次の瞬間、メリーが見ていた方角にあった雲の中から数羽の鳥が突き抜けて姿を現した。しかし、ラストスタンドがすぐにその地点を通り抜けたせいで鳥たちの姿は見えなくなる。
だが、一瞬でも確認はできたため、鏡は速度を落とすことなくその場を突き抜けた。
「んー……あの鳥だったか? なんかもうちょっとデカかった気がするんだけど、でもまあ私の勘違いかもしれないし……いやでも気になる」
「そんなに心配しなくても敵ではないと思うぞ? 仮にお前が見たのが旧文明の兵器とか、他のラストスタンドとかだったらすぐにこのラストスタンドが検知して知らせてくれるってバルムンクが説明してただろ?」
「まあそうだけど……ぬぁぁぁ気になる! あれは何だったんだ⁉」
心底先程自分が見た何かが気になるのか、頬を膨らませながらメリーは顔を操縦席内の後ろ側へとこすりつけた。
「仮にさっきのが鳥じゃなかったとしても別種のなんかだろ。モンスターって可能性もあるしな」
そんなメリーを見て「子供っぽいところもあるもんだ」と、鏡がポンポンっと頭を撫でて宥めようとするが、すぐに「子供扱いするな!」と逆に頬をつねられてしまう。
「でも、さっきメリーさんが何かを見たって言ってように……こんな海の上でもたくさんの生物がいるんだね」
「そりゃな、ノアの地下施設の地上周辺にも動物がのさばってるんだ。むしろ喰人族や獣牙族とかに喰い荒らされてない分、たくさんいるんじゃないか?」
「そうだよね! さっき魚がたくさん海の上を跳ねてたし……僕、本でしか読んだことのなかったイルカも見たもん!」
「な、なに⁉ イルカがいたのか⁉ どこに!」
「もう通り過ぎちゃったよ」
よほどイルカを見たかったのか、そのアリスの言葉にメリーは「……そうか」としょぼくれた表情で顔を俯かせる。そんなメリーに「いや、どう考えてもお前こど……」と言いかけた鏡の顔を、メリーは黙らせるようにして殴りつけた。
「で? それがどうしたってんだ?」
「あ……うん。なんだかね? どうしてそんなにいるのかなーって思って」
「はぁ? どういうこった?」
言葉の意味がわからず、メリーが怪訝な表情で首を傾げる。
対して鏡は、アリスが何を言わんとしているのか何となく察し、難しい表情になって言葉に耳を傾けた。
「お? 陸地が見えてきたみたいだぜ!」
直後、アリスの言葉に合わせたかのように海を抜けて一同は陸地へと辿り着いた。
すぐさま鏡は、先程タカコが提案した通り適度に休めそうな場所をさがすために減速し、ゆっくりと辿り着いた陸地の上空を飛び続ける。
「……やっぱり」
そして、陸地に広がる日本と大した変化のない廃墟となった街並みを眺めて、アリスが感慨深そうに言葉を漏らす。
街には、日本と同じく長い年月の経過によって建物に苔や雑草が生い茂り、太陽光を木々や草が反射してどこか神秘的な雰囲気が漂い、点々と各地に大昔に何かがあったのが窺える大地を削ったかのようなクレータが残っている。
「やっぱりって……何がだよ?」
そんな街並みを見て難しい表情を見せるアリスと鏡に、メリーは恐る恐る何に気付いたのかを問いかけた。
「メノウと一緒に……ビルの屋上で座って日本の街並みを見ている時にも思ったんだけどね?点々と大地がえぐり取られたような場所はあるけど……それ以外の建物は、苔や草がびっしりと生えてるだけで大昔のままの形で綺麗に残ってるんだなーって」
そう言われて、メリーはキョロキョロと街並みを見渡し始める。アリスの言葉通り、街は経年劣化によって苔や草が生い茂り、風化しているだけで、何かの襲撃にあって壊滅させられたかのような痕跡は残されていなかった。
「確かに……上空から見たらそうだな。綺麗に残ってやがるが……でも、それがどうかしたのか?」
「本当にこの世界に何があったのかなーって……思っただけ。だって、この建物のあった場所全体に人がいたんでしょ? なら、滅んだにしても何かと戦ったような痕跡がないと変じゃない? でも……そんな痕跡なんてなくて、建物は綺麗に残ってるでしょ?」
「あの大地がえぐり取られたような場所で戦ったんじゃないか? 街には被害が行かないようにさ」
メリーの答え返しに、アリスは首を左右に振って否定する。「それともう一つ気になることがあるんだ」と付け加えながら。
「どうして世界は滅んだはずなのに、動物たちはこんなにもたくさん残ってるの? 草や木は綺麗に生い茂ってるの? ボクにはまるで……人だけが綺麗にいなくなったように見えるんだ」