軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

絶対的な強さの壁-9

「わぁぁぁぁああ! すごい……すごいね鏡さん!」

「おいアリス。狭いんだからあんまキンキンした声だすなよな! 空を飛んでるくらいでその……はしゃ、はしゃぐなよ!」

澄んだ青い空が平行線上に広がり、太陽の光を反射して煌びやかな輝きを放つ海原の上空で、アリスとメリーの二人は興奮した様子で笑顔を浮かべる。

「とかいうお前の目が、かつてないくらいキラッキラしてるんだが?」

ラストスタンド内の操縦席に座りながら、右隣と左隣でそれぞれキョロキョロと落ち着きなく周囲を見回す二人に「遊びに行くんじゃないんだぞ?」と、鏡は呆れたようにため息を吐きだす。

起動を終えたラストスタンドの操縦席内は外部のカメラから外の映像が360度映し出され、まるで自分自身が空に浮いているような状況になっていた。

「もうちょっと落ち着いてくれよ? ただでさえ狭いんだからさ」

「あ、じゃあボクが鏡さんの膝の上に座るとか? そうすれば右側は広くなった感じすると思うよ!」

「それ意味あります?」

鏡の言葉通り操縦席内は狭く、ラストスタンドを操作している鏡が席に着き、その両隣にある僅かなスペースにアリスとメリーがそれぞれ鏡にしがみつくようにして座っていた。

「仮に乗せるなら身長的にも体重的にも邪魔にならないメリーを乗せるっての。それにお前もその……もう子供じゃないんだからさ、その、なんていうか、ね? 俺も……ね? 色々と困るというか……ね?」

「は? 鏡てめぇ私のこと子供扱いしてんのか? いいか? 私はこれでもな……」

「ふへぇ! めんどくせぇ!」

出発前の殺伐とした雰囲気から一転し、昔のようにのんびりとした穏やかな会話を繰り広げる鏡を前に、アリスは少し嬉しくなって笑みを浮かべる。

バルムンクに格納庫へと案内されてから三時間が経過し、三十分前にノアの地下施設を出て鏡たちは現在ロシアへと向かっていた。

ラストスタンド内には鏡、メリー、アリスの三人と、タカコ、レックス、ペスでそれぞれ別れて搭乗し、現在北西へと向かって飛行している最中である。というのも、ロシアの拠点となる地下施設ガーディアンは、かつてモスクワと呼ばれていたロシアの中でも西側に位置する場所に存在するためだった。

そして現在、どう渡ったものかと頭を悩ませていた日本海の上空に一同は来ている。

猛スピードで目を見張るほどの美しき輝きを放つ海を移動する爽快感に、先程からメリーとアリスの二人は興奮しっぱなしだった。

「しかし凄い速さだな……俺が全力で走った時くらい速いんじゃないかこれ?」

「おじきは確か説明で、推進力を殺さないように真っ直ぐに進む場合のみこの速さを出せるって言ってたな。確かにこの速さなら半日でモスクワに着くかもな……っていうか、お前この速度で走れるって、どんだけ速いんだよ」

「いや、走れるって言っても一瞬だぜ? 長時間この速度で走るのは無理だっての……まあその代わり、機動力はあるつもりだけどな。逆を返せばラストスタンドは持久力もあるし、これくらいの速さを出せるパワーはあるけど、機動力がないのが欠点ってわけだ。だから俺たちも生身で倒せたわけだし」

ついこの間、生身でラストスタンドと戦ったことを思い出し、本当にとんでもない兵器を生身で相手にしていたんだなと、今更ながら鏡は表情を青褪める。

「ところで鏡さん」

「ん? どうしたアリス?」

「タカコさんたち大丈夫なのかな? さっきからボクたちの前を飛んでるけど……なんかふらふらしてるし、あ……ほら今も!」

言っている傍から同じ速度で前方を飛行しているラストスタンドがフラフラと揺れているのを見て、アリスが心配そうな表情を浮かべる。

内心、中で何が起きているのか予想をつけながらも、鏡は一応連絡を取ろうと、予め登録していた他のラストスタンドと通信できる手元のボタンを押して、前方を飛んでいるラストスタンドを操縦しているタカコへと連絡を取った。

「おーいタカコちゃん? なんかフラフラしてるけど大丈夫か?」

「全然大丈夫じゃないわ」

その直後、突然目の前にタカコの顔がアップで映し出された平面上のホログラフィックのモニターが鏡の目の前に出現し、あまりの迫力に鏡は思わず「ウッ⁉」と口元を抑える。

「ウッ? 鏡ちゃん? ウッってどういう意味かしら?」

「いやね? ウッつくしいなぁ~と思って。それよりどうしたんだ? 結構不機嫌そうだが」

咄嗟の誤魔化しに「やるな鏡」と尊敬の眼差しを送るメリーを横目に、鏡はため息を吐くタカコが映るモニターを注視する。

暫くしてタカコが「これを見たらわかるわ」と言いながらタカコの右隣側をモニターに映し出すと、そこには、鏡たちのように操縦者の両隣に分かれるのではなく、一ヵ所に固まってぎゅうぎゅう詰め状態のレックスとペスの姿があった。

無論、大人二人が居座れるほどのスペースはそこにはなく、タカコを押し出そうとするような形でペスが尻をタカコへと向けていた。

「し……師匠。何とかしてくれ! いや、交代してくれ!」

「じゃあ通信切るな」

「待て師匠!」

よくよく見ると、レックスも被害を受けている立場のようで、ペスが何食わぬ顔でいつも通りレックスの肩へと密着していた。

「さっきからペスちゃんがレックスちゃんから離れようとしないのよ……おかげで私も窮屈な想いをさせられてるってわけ」

右隣から押し出そうとする力が働いているのか、タカコは右腕を左手でポンポンっと叩いて再び深いため息を吐く。

「わぁ……パルナさんが見たら大変なことになりそうな光景だね」

予想以上のへばりつき具合に、アリスが「うわぁー」と愛想笑いを浮かべる。

「なんでパルナが見たら大変なんだ?」

「え? 鏡さん気付いてないの?」

「え? 何が? どうして?」

「そっか……まぁそうだよね。鏡さんだしね」

そして、どこか勝手に納得されて腑に落ちない表情を鏡が浮かべ、「気付いてなかったまでも、そこまで言われたら普通気付くだろ」と、あまりの鈍感さにメリーが乾いた笑みを浮かべた。