軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第94話:修行 その4

中級モンスターのバジリスクに続いて上級モンスターのコカトリスを倒した俺は、傷の手当てを全て終わらせてから地面に座り込んでいた。

『瞬伐悠剣』の能力を開放して左足の腱が切れかけたが、そちらもポーションで治してある。それでも座り込んでいる理由は単純で、少し気を抜いたらドッと疲れが襲ってきたのだ。

(うおおぉ……なんだこのだるさ……しんどい……)

命がけで戦えば大なり小なり疲れるものだが、大規模ダンジョン内での戦闘は予想よりも遥かに重い消耗を強いてきた。

ランドウ先生相手に模擬戦として剣を振るうことには慣れたが、命懸けの実戦は短時間だろうと肉体的精神的に負担が大きかったらしい。

とりあえず持ち込んだ水筒で水分を補給したり、携帯食を齧って栄養を摂取したりするが、すぐに疲れを抜くのは無理そうだ。というか、ダンジョンから出ないと取れないタイプの疲れじゃないか、コレ。

「バジリスクにコカトリスか……手傷は負ったが魔法は全て相殺したな? 一対一の二連戦だったからどうにかなっただろうが、二体同時に襲ってくることもある。下手すりゃ三体以上ってこともある。今後は複数の敵相手の戦い方も教えていくから覚えろ。いいな?」

「はい……」

返事をするが普段通りの声が出ない。でもそうか、今回は運が良かっただけで、複数の強いモンスターが同時に襲い掛かってくる可能性もあるんだ。

それを防ぐために早めに『瞬伐悠剣』の能力を使ってバジリスクを倒したわけだけど、それが間に合わない、あるいは最初から複数で襲ってきた場合にどう対処するか。

(多対一での戦い方を学んでこなかったわけじゃないけど、それが同格あるいは格上ばっかりってパターンはあまり考えてなかったな……普通は格上複数に同時に襲われたら死ぬからな……)

正々堂々さが求められる決闘ならともかく、普通は戦いの場では卑怯もくそもない。連戦とはいえ今回みたいに一対一で戦える保証はなく、複数方向から複数の相手に襲われることもあり得るのだ。

今後はそういった場合の戦い方も仕込むつもりらしいが、今はただ、疲れがきついという感想しか浮かんでこない。『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時に徹夜で戦った時も疲れたが、今回みたいに急激に疲労がのしかかってくるとまた違ったきつさがあった。

そんな俺を見たランドウ先生は苦笑を浮かべる。

「仕方ねえな……物陰で少し休んでろ。帰りはここからまた走ってダンジョンを抜けるんだからな。それともこのままダンジョンの中で一泊するか?」

「それをやったらナズナが心配するんで、なんとか疲れを抜いて帰りますよ、ええ……」

「そうしろ。たしかに大規模ダンジョンの中は疲れるが、慣れれば平気になるし、こういう状況での 疲(・) れ(・) の(・) 取(・) り(・) 方(・) っていうのもある。まずは自分なりに色々試してみるんだな」

ダンジョン内で横になって眠るわけにもいかず、とりあえず言われるがまま移動し、隠れるように木の陰に座って呼吸を整えていく。血の臭いでモンスターにバレないよう、持ち込んだ臭い消しを体に振りかけて臭いを隠せば休憩の準備は万端だ。

深呼吸に乗せて少しずつ疲労を吐き出していくイメージを脳内で思い描き、息を吸って吐き、吐いては吸う。

(あとは疲労を抜きつつ、モンスターに襲われないよう気配を消して……ダンジョンの空気に紛れる形で……)

呼吸の音を可能な限り消し、重苦しいダンジョンの空気に自分の気配を溶け込ませていく。臭い消しを使ったとはいえ血を流してしまったため、鼻が利くモンスターが近くにいれば誤魔化せないだろう。だが、無傷の状態ならある程度気配を隠せそうだ、と自己分析をする。

(さっきは断ったけど、ランドウ先生が一人なら大規模ダンジョンの中だろうと平気で寝泊りするはず……寝ている間でさえ気配を消し続けることができれば、ダンジョン内で長期間行動し続けるのも可能になるな……)

問題は、寝ている間も気配を消し続けるのってどうやるの? ってことだ。それって人間辞めてる気がするんだが……ランドウ先生だからな、で済ませられる範疇を超えている気がする。

(でも、慣れたら案外いけるのかもしれないし……さすがに試してみる度胸はないけどさ)

しかし、強くなる度にランドウ先生の背中が近付くどころか遠ざかっている気がして、いっそ笑ってしまいそうだ。

本当に笑うことはしないが、それなりに気配を消せているのだろう。周囲にモンスターの気配がしないのもあり、ランドウ先生が離れてモンスターを狩りに行くのが感じ取れた。まあ、実際は何かあってもすぐに駆け付けられる距離にいてくれるんだろうけども。

(大規模ダンジョンで一人、か……むしろ難しいことを何も考えずに済むから、気が楽な感じが……)

周囲に誰もいないこともあって、ふと、そんなことを考える。

というか、生まれ変わってから身の回りに誰もいないのって、人生で初めてかもしれない。屋敷の自室で一人になることはあるが、部屋の外には兵士や部屋付きのメイドさんが待機していたりするし……そう考えると希少な時間と言える。希少だからと言って、何かできる状況じゃないが。

(誰にも会わなくていい……何も考えなくてもいい……ああ、そりゃ気が楽なわけだ……)

この世界に転生してからというもの、辺境伯家の嫡男として常に周りの目があったし、何か学んだり考えたりしていたし、暇があったり考え事で頭がパンクしそうになったりすると剣を振っていたし、回復のためとはいえこうしてじっとしていると安らぐな。

(大規模ダンジョンの中で、戦いで疲れたから休んでいるだけなのにこうして安らぐ……なんて……な……)

あ、いかん。気を抜きすぎて、意識が――。

「…………んぁ?」

自分の変な声で目が覚めた。そして数回瞬きをして、背中を預けていた木から体を離して。そのまま空を見上げて太陽の位置を確認する。

(……嘘だろ……一時間以上寝てたのかよ……)

道に迷わないためにも太陽の位置は頻繁に確認しているが、明らかに角度が変わっていた。時計がないため正確な時間はわからないものの、確実に一時間は寝ていただろう。

周囲にモンスターの気配はない。というか、ランドウ先生の気配もない……が、急に気配が現れて近付いてくる。

「起きたか」

「ええ……おはようございます?」

俺が起きた気配に気づいたのだろう。いや、けっこう距離があったと思うんですけど、どうやって気付いたんですかね?

「まさか寝るとは思わなかったぞ。いつの間にかずいぶんと度胸がついたな」

「ははは……すいません、先生。思ったより疲れていたのか、気を抜いたらそのまま寝てました」

俺はランドウ先生に向かって頭を下げる。以前の異常成長したダンジョンでの経験によるものか、まさか気を抜いた拍子に寝るとは思わなかった。

「いや、別に構わん。気配を消したまま眠っていたからな。近くに鼻が利きそうなモンスターもいなかったからそのまま寝かせておいたが……疲れはどうだ?」

「座ったまま寝てたんで体が固まった感じがしますが、疲れはだいぶ取れましたね」

「そうか……ダンジョンの中で寝泊りするとなると、のんびり横になって眠ることはできないからな。今みたいに木に背中を預けて短時間眠り、モンスターの気配が近付いてきたら起きて斬る。そうすれば長期間ダンジョンに潜り続けることができるぞ」

ランドウ先生がそんなことを教えてくれるが、それって絶対精神がおかしくなるやつじゃ……いや、ランドウ先生は実際にやっているんだから、絶対とは言えないのか。ランドウ先生が例外ってだけだと思うけど。

(短時間眠って疲れを取る……数回はできても回数が増えていくと本格的に眠ってしまうか、途中で気が狂いそうな……)

まあ、今は疲れが取れたから良しとしよう。俺は自分にそう言い聞かせて立ち上がり――ふと、視界の端に先ほどまではなかった物体が出現していることに気付いた。

「あれ? 先生、あの宝箱ってさっきまでありましたっけ?」

「なかったな。お前が寝ている間に出現したんじゃないか?」

ランドウ先生は気にも留めずそんなことをいうが、もしもあの宝箱がミミックだったらと思うと少し怖いな。開けるまではミミックだって確定しないと思うけど、寝ている間に宝箱が移動して襲ってくる、なんてホラーな展開もあり得そうだ。

(寝ているすぐ傍に宝箱が出現して、寝相で開けちゃったらどうなるんだ……いや、さすがに気付くか)

俺は体を伸ばして解しながらそんなことを思う。そしてついでに剣を抜き、魔力を込めながら宝箱へと近付いていく。

さっきの戦闘でポーションを消費したし補充できると助かるんだが、なんて思いながら宝箱を開ける。そしてすぐさま蹴り飛ばして斬れるようにと構えていたが、今回もミミックではなかったらしく、何も起きない。

(さあて、中身は何かなっと……お?)

品質はなんでもいいから回復ポーションが出てくれれば、と思っていたら予想外の代物が宝箱に入っていた。それを見た俺は目を見開き、驚きながらも宝箱に手を突っ込む。

「なんだ、またミミックじゃねえのか……まあ、大した相手でもないし、アイテムの方が良いか」

ランドウ先生が残念そうに言うけど、バジリスクやコカトリスと戦って倒した今となってはその発言も理解ができる。闇属性の魔法を使って確率で即死させてくるとしても、魔法が当たる前に斬ればいいのだ。実戦経験として一度は戦っておいた方が良いんだろうけどさ。

「ランドウ先生、コレなんですが……」

そう言って俺が宝箱から取り出したのは、金属製の指輪だ。『召喚器』か装備アイテムのどちらかだと思ったが、感覚的に『召喚器』っぽくない。おそらくは装備アイテム……いわゆる ア(・) ク(・) セ(・) サ(・) リ(・) ー(・) 枠(・) に装備するアイテムだ。

(たしかに宝箱から出現するアイテムだけど、確率はかなり低かったはず……というか、この世界で初めて見たな。全然出回ってないんだよな)

一応、効果的には一番弱くてレアリティが低いやつになる。指輪、首飾り、腕輪の順番で効果が強く、レアリティが高くなり、宝箱からも出現しにくくなるのだ。

『花コン』だと確実に手に入れるなら錬金術のレベルを上げて作るか、店売りのものを買った方が良い。ただ、今の世界だと店売りのやつを見たことがないから売っていない可能性がある。

「珍しいものが出たな……ミストポーションといい、案外運が良いのか?」

「どうなんでしょう? あまり意識したことはないんですが……」

運が良いならミナトの体に転生なんてしてないと思う。しかしそれを知るのは俺だけのため何も言えず、とりあえず指輪のデザインを確認する。

金属製だということはわかるが何を使って作られているのかまではわからない。全体的に青みを帯びており、意匠自体はストレートラインで宝石もついておらず、模様が打ち込まれてもいないシンプルなものだ。

「ランドウ先生はこの手の装備は?」

「宝箱で何度も出たが、どうにも合わなくてな。売っちまった」

「合わない?」

単純に指のサイズが合わないってことだろうか? そう思って尋ねると、ランドウ先生は小さく眉を寄せる。

「力を底上げしたり速さが上がったりと便利なんだろうが、上がった分、感覚が微妙にズレて剣が鈍る。それならない方がマシだな」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

『花コン』でもアクセサリー類は装備すると ス(・) テ(・) ー(・) タ(・) ス(・) が(・) 上がる。これが援護魔法だとステータスをもとにした攻撃力などの数値が増加する。

攻撃力に関係するステータスが5上昇したからダメージも5増える、なんて計算式ではないのだ。ステータスが5上昇したらダメージはもっと増える。多少のランダム性はあったはずだが、指輪を装備した際の ズ(・) レ(・) が気になるというランドウ先生の気持ちもわかった。

俺の場合は本の『召喚器』が全体的な能力の底上げをしているため、ランドウ先生みたいなズレは気にならない。普段から強化されているし、慣れてしまえば気にならなくなる。

ただまあ、さすがに一気にページが増えて身体能力の強化も一気に上がった場合、体を慣らすために多少の時間が必要になるが。

「ちなみに、この指輪の効果はわかりますか?」

「青色は速さが上がるやつだったはずだが……」

そうなると『俊足の指輪』か。素早さを5上昇させる効果があり、『花コン』でも序盤に出ると助かるやつだ。

「ちょっと試してみますね? 指輪の大きさは……ちょっと小さいな」

小指なら入るけど、自動でサイズ調整したりは……さすがにそんな機能はないか。まあ、それでもきちんと小指が入ったから良しとしよう。

さて、それで効果は……んん?

「どうだ?」

「……何も変わってない……ような?」

軽くジャンプしてみたり、反復横跳びをしてみたりするが、何か変わったようには思えない。たとえ5でもステータスが上がれば効果を実感できそうなものだが。

(もしかして、『召喚器』で強化されているから効果が打ち消されてる? 効果の重複はしないのか? 『花コン』だと……アクセサリー枠は一つだったし、他は武器や防具を装備する欄だったからな。無理か?)

仮にステータスを強化する効果が重複するとすれば、アクセサリーを見つけて大量に装備すればすさまじい効果を得られるはずだ。

それを可能とするほどアクセサリーが見つかるかどうか、という問題はあるとしても、もしも可能だったら『魔王』や『魔王の影』と戦う時に便利だと思ったんだが。

(世の中そんなに甘くない、ってか……しかし一つぐらい効果があれば良かったのに……)

もしかすると本の『召喚器』による強化が大きく、『俊足の指輪』程度では効果を感じられないだけかもしれない。だが、ステータスは目で見えるわけではないし、感覚的に何も変わっていないなら俺には効果がないと判断するべきだろう。

ランドウ先生はいらない。俺は他の強化手段と被っているっぽいから必要ない。そうなると誰かにプレゼントするか、売るかの二択か。

(この前のミストポーションと一緒にスグリに送って量産を……いや、待てよ? 『花コン』だと錬金術で作れたけど、現実になった今の世界で同じように作れる保証はない……というか、錬金術の勉強は続けてるけど全然聞かないしな)

あと、スグリに装備アイテムとはいえ指輪を贈るのはまずい気がする。『花コン』でも指輪をプレゼントすると好感度が大幅に上昇したはずだ。

反対に指輪をプレゼントした場合に好感度が下がるのは……ナズナか。『花コン』で男性主人公がプレゼントした場合、受け取るは受け取るが、『指輪など軟弱な!』と謎理論で怒るのだ。そして好感度が微妙に下がる。

他のキャラだと男性主人公がヒーローに指輪を贈るような真似をしなければセーフだったはずだ。アレクだけは好感度が上がるけど、他の男性キャラは受け取らないかドン引きかだった。女性主人公がヒロイン達に渡すとほとんどの場合で好感度が上がるのだが。

(カリンに『花コン』だと好感度が下がるはずのぬいぐるみをプレゼントしても大丈夫だったし、ナズナはどうだろうな? 少しとはいえステータスが上がるのは助かるだろうし、プレゼントしてみるか)

その時のナズナの反応次第で、カリンみたいに性格の違いによるものか、あるいは 渡(・) す(・) 人(・) 物(・) の(・) 違(・) い(・) によるものかがわかるだろう。

指輪を異性に渡す意味は前世と似たようなものだが、今回の場合はただの指輪ではなく『俊足の指輪』だ。身体能力を強化できる装備アイテムを家臣に渡すというのはそこまでおかしなことではない。

そして、それ以上に――。

(ナズナと色々話すのにちょうどいい機会……か)

指輪を渡した際の反応で色々とわかることもあるだろう。俺は思わぬ形で飛び込んできたきっかけを有効活用しようと、『俊足の指輪』を強く握りしめるのだった。