軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第92話:修行 その2

大規模ダンジョンで修行を始めて、早一ヶ月。

ダンジョン内の空気に慣れ、その上でランドウ先生から朝から晩まで手ほどきを受け、少しずつとはいえ成長を実感していた日のことである。

「そろそろ頃合いだな……ミナト、今日は俺とモンスターを狩りに行くぞ」

ランドウ先生の目から見て及第点に至ったのか、とうとうモンスター相手の実戦を行うと宣言されたのだ。

『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時に何度もモンスター相手に戦ったが、今回の相手は大規模ダンジョンのモンスターである。最低で中級、下手すれば上級のモンスターが相手だと思うと嫌でも緊張してしまう。

過去の経験からいえば、その辺にいるモンスターが最低でもリッチと同等以上の強さという魔境なのだ。いや、改めて言葉にすると普通にやばいな。地獄かな? 難易度的には地獄に近いっちゃ近いか。油断したらすぐに地獄に直行するからな。

「少しばかり深いところまで潜る。ミナトはまだしも嬢ちゃん、お前さんの面倒までは見れねえ。今日は 駐屯地(ここ) で大人しくしているんだな」

ナズナがついてくると思ったのか、ランドウ先生がそう言って釘を刺す。

ダンジョン内でもある程度行動できるようになったナズナだが、初陣を飾るにはまだ早く、同行を許すには弱い。そのため俺としてもナズナが駄々をこねようとも置いていくつもり満々だった――が。

「そう、ですか……仕方ありませんね。若様、今日は駐屯地ではなくカールソンまで買出しに行ってこようと思います。何か購入が必要な物はございますか?」

「えっ……あー、うん。特にない……かな? 食料類に関してはナズナに任せるよ。ただ、単独での移動は危険だから町に行く騎士団の非番の連中についていくこと。いいね?」

ナズナは駐屯地でじっとしているのではなく、自分にできることを探してカールソンまでの買出しを思いついたらしい。

それでも単独行動は危険だからと注意を促せば頷くし、同行に関して思ったよりもあっさりと引き下がるナズナに内心で首を傾げつつ、その瞳をじっと見る。素直に頷いておきながらこっそりとついてくる気ではないか、なんて疑ったのだ。

(……嘘はついてない、か。ま、こっそりとついていける場所じゃないってのはこの一ヶ月で嫌でもわかっただろうしな)

そんなことをしたとしても、今のナズナの腕ではただの自殺だ。運良くモンスターと遭遇しない可能性もゼロではないが、知らず知らずのうちにモンスターの縄張りに踏み込んだり、モンスターの索敵範囲に引っかかって襲われたりすることは十分あり得る。

(でも、ナズナも俺の意図を汲んだ行動をしてくれているというか……現状に満足している? 何かある度に指示を出しているけど、今の方向性で合ってるのか?)

ナズナぐらいの年齢の子だとちょっとした拍子に大きく変わることも起こり得るが、それを意図的に起こせるかと言われると難しい。

大きな変化といえばモリオンも『王国北部ダンジョン異常成長事件』の前と後……いや途中から変貌したのかと言わんばかりに俺への態度が変わったが、ああいうことも起こり得るのだ。モリオンのアレは本当に何だったんだろうな……。

「それでは若様、お気をつけて」

悩む俺ににっこりと微笑みつつ、見送りをしてくれるナズナだった。

そんな悩みがあったわけだが、ダンジョンに入ればいつまでも考え続けるわけにはいかない。

ダンジョンに入ってすぐの浅い場所は慣れたものだが、中心部に向かって進んでいくとドンドン空気が重くなっていくのだ。

(ううむ……慣れたつもりだったのにこの空気の重さは……まだまだ大丈夫だけど、ダンジョンの広さ的にはまだ入口ぐらいなんだよな)

ランドウ先生の先導に従って移動すること一時間あまり。木々が生い茂って足場も悪い中を駆け足程度とはいえ走って移動したため少しばかり疲れたが、その甲斐あってダンジョンに入って六キロから七キロぐらいの地点まで来ることができた。

とはいえ大規模ダンジョンが一国に匹敵する広さがあると思えば、似たようなペースだと長期間かけて移動しないとダンジョンの中心部まで辿り着くことすらできないだろう。

(でも、ランドウ先生ぐらいの実力になるとモンスターを避けて移動することができる。中心部に近付けば近づくほどモンスターが増えるかもしれないけど、途中までだったらかなりのハイペースで進めそうだな)

将来、『魔王』を『消滅』させるとなるとグランドエンドを目指す必要があるし、その場合は今いるダンジョンを含めて全ての大規模ダンジョンを破壊しなければならないのだ。大規模ダンジョン内での移動方法を今の内に習得しておけば役に立つだろう。

まあ、役に立つといっても『花コン』の主人公やメインキャラ達を長期間学園から連れ出し、大規模ダンジョンに挑ませる方法が思いつかないが。

(その辺りはオレア教のオリヴィアさんにも案を出してもらうとして……挑むとしてもボスモンスターのところまで片道何日だ? ゲームなら固定マップだし、いくらダンジョン内を移動しても時間は経過しなかった。それをモンスターに気取られにくい少人数で、この精神的にきつい環境に耐えながら長期間……現実的じゃないな)

仮にダンジョンの中心部まで行けたとして、ボスモンスターが見つからなかった場合は滞在期間が更に延びる。その場合、引き返してダンジョンから脱出するのは体力的にも精神的にも厳しいだろう。下手すれば 片(・) 道(・) 切(・) 符(・) になりかねない。

(そういえば、『花コン』だと移動手段としてドラゴンが手に入ったな……主人公が卵から育てたドラゴンは光属性に育ってダンジョンにも突入できたはずだし、上手くいけばかなりの期間を短縮できるか?)

『花コン』ではパエオニア王国のあちらこちらにあるダンジョンへと赴くという話の都合上、途中でドラゴンの卵を入手するイベントがある。

育てたドラゴンの背中に乗って移動するため、広いパエオニア王国でも移動に時間がかかりませんよ、とプレイヤーを納得させるためのイベントだったはずだ。

つまり、『花コン』の主人公が召喚されなければどのみち『魔王』どころか大規模ダンジョンを破壊することすら困難なわけで。

(……その場合、ランドウ先生と……あとは能力的にアレクとモリオン、生きていれば俺もついていってダンジョンを破壊する? メリアがいれば楽だけど、オレア教の最終兵器を連れ出すのはオリヴィアさんが認めてくれるか……)

あまり考えたくないことだが、『花コン』の主人公が召喚されなかった場合のことを俺は考えていく。

(いや、それなら大規模ダンジョンを破壊しなくても、『魔王』が発生してから敵陣突破して、ランドウ先生に首狩り戦術をやってもらった方が確率が高そうだな……そこにメリアが加われば少しは成功率も上がるか? 露払いはオレア教の手も借りて、人類側の強者を集めて一点突破。あとはランドウ先生とメリアに任せる)

人類側のある程度の犠牲を許容する必要があるが、『魔王』を『消滅』なり長期間『封印』なりできる方法。それを思い描いた俺は大きくため息を吐く。

(そこまでやって成功率は何パーセントだ? 人類側の被害は? 少なくともパエオニア王国が半壊するぐらいの被害は出るだろうな)

半壊で済めばまだ良い方か、なんて思う。すると、そんな俺のため息をどう捉えたのか、ランドウ先生が声をかけてきた。

「どうした? 移動しただけで疲れたか?」

「……少し、ですけどね。ダンジョンを進むにつれてここまで空気が重くなってるとは思いませんでしたよ」

今は必要がない、余計なことを考えていた。それを誤魔化すように答え、俺は周囲を見回す。

「それで先生、モンスターの気配はありませんがどこまで移動するんですか?」

空気が重くなってきたのは本当だが、そこに混ざったモンスターの気配を嗅ぎ分けながら尋ねる。

鼻が曲がりそうな悪臭の中からほんの僅かな花の香りを嗅ぎ分けるような難業だが、この一ヶ月でそれができるぐらいには大規模ダンジョンという場所に慣れた。もちろん、気配を見落としている可能性もあるため油断は禁物だが。

「いつもこの辺りを 狩(・) 場(・) にしていたんだが……間が空いたからモンスターが戻ってきていると思ったんだがな」

「近付いたら必ず死ぬ場所でしょう? そりゃ間が空いても近付きませんって」

モンスターというか、野生の動物は警戒心が強い。いくら大規模ダンジョンとはいえランドウ先生が暴れ回る区域があると知れば、モンスターとて寄ってこないだろう。たとえ間が空いたとしても誘い込むための罠を疑うはずだ。

少なくとも俺なら一生近付かない自信がある。時間が空いたから大丈夫だろう、なんていうのはただの死亡フラグだろう。そんなことを口に出した瞬間、ランドウ先生に斬られて死ぬに違いない。前世のホラー映画かホラーゲームでありそうだ。

「チッ……軟弱なモンスター共め。仕方ねえ。少し移動するか」

「大規模ダンジョンにいるモンスターにそんな文句をつけるの、ランドウ先生だけでしょうね」

モンスターがいないことを嘆くのはランドウ先生ぐらいじゃないだろうか。モンスターを間引きにきた騎士団だろうともう少し大人しいはずである。

それでもランドウ先生の意見を覆すことはできず、更に移動すること三十分あまり。後々死骸を回収する冒険者のためなのか時折地面や木に傷をつけるランドウ先生を追いかけた俺は、徐々にモンスターの濃い気配が漂ってきていることに気付いた。

「……今度はちゃんといますね」

「おう、気付いたか。何がいるかは運次第だが……運が良いな、ミナト。こんな浅い場所だっていうのに上級のモンスターがいるぞ」

「え?」

それって運が悪いのでは、なんて尋ねようとした矢先だった。ここ一ヶ月ほどで徹底的に感覚を磨いたおかげか、遠く距離があるというのに魔力の集中を感じ取る。その魔力は膨大で、強力で、以前戦ったボスモンスターのデュラハンと似たような魔力の集中具合いで。

「ら、ランドウ先生!? 上級魔法が」

俺の言葉を遮るように、視界の先で赤い光が瞬いた。そして射線上の木々を飲み込みながら真っすぐに、紅蓮の炎がこちらへと飛来する。

火属性の上級魔法、『 火炎旋封(かえんせんぷう) 』だ。

「仕方ねえな。さすがにコイツはお前の手には余るか」

だが、ランドウ先生は慌てない。迫りくる炎の波を前に平然と刀を構え、目にも留まらぬ速度で数度振るう。本当に目に見えないから何回振ったかわからないのだ。

ランドウ先生が行ったのは素振りなどではなく、飛ぶ斬撃の『一の払い』である。迫りくる炎の波に向かって『一の払い』を叩きつけることで魔法を切断。それも数回の斬撃によって俺やランドウ先生を飲み込むはずの上級魔法を削り、被害がないよう防ぎきったのだ。

(アレが『一の払い』による、魔法への最適解……一太刀で斬れないのなら斬撃を重ねて斬る……単純だけど、単純だからこそ効果も大きいな)

俺もここ二週間ほど飛ぶ斬撃の練習をしているが、ランドウ先生やリンネみたいに斬撃を飛ばすことはできていない。ただ、魔力を剣に乗せて 伸(・) ば(・) す(・) ところまではできたため、もうしばらく訓練をすれば実現できると思われた。

もっとも、『一の払い』も魔力を消耗するため限界がある。普通に魔法を使うよりは消耗が少ないといってもゼロではない。今みたいに上級魔法を正面から斬って削って相殺するには相応に魔力を消耗する。

こちらも上級魔法が使えたと仮定して、上級魔法を撃ち合って相殺するよりは魔力の消耗が半分以下で済むだろうけど。

そんなことを考えて向けた視線の先。『火炎旋封』を撃ってきたモンスターの姿が見えた。

(って、嘘だろドラゴンかよ……火属性魔法を使ったから火竜……うわ、でけぇ……あれがドラゴン……ボスモンスターを除けば最強格のモンスター……)

遠目に見えたのは、翼が生えたデカいトカゲのようなモンスター――火竜である。

赤い鱗に十メートルを超える巨体。そして何より荒々しく獰猛な気配と魔力が漂っており、荒事に無縁の人間なら相対するだけで心臓が止まりそうだ。

まあ、そんなドラゴンも、刀一本で『火炎旋封』を切り裂いたランドウ先生を見て驚いたのか動きを止めているが。

「ミナト、あのトカゲは俺がやるが……他にもモンスターが近付いてきているのはわかるな?」

「……はい。うっすらとですが、小さめの気配があります」

そして、やばい相手に絡んでしまった、と言わんばかりに硬直しているドラゴン以外にも、俺達の背後に回り込むように気配が移動しているのが感じ取れた。こちらは気配が小さいためドラゴンのような巨体ではないだろう。

「よし。それならそっちは任せた。いいな? 俺はあのトカゲを斬ってくるから、 俺(・) の(・) 背(・) 中(・) は(・) 任(・) せ(・) る(・) ぞ」

「――――」

それは、何気ない言葉だった。だが、これまでは決してランドウ先生がかけてくることがなかった言葉でもあった。

おそらくは背後に回り込んでいるモンスターがどの程度の強さなのか、ランドウ先生は見抜いているのだろう。そしてそれは俺でも十分に対処できる、ランドウ先生にとっては片手間に処理できるモンスターに違いない。

それでも任せると――託してくれた。

「はいっ! 任せてください!」

俺はその期待に応えるべく、『瞬伐悠剣』の柄を力強く握り締めるのだった。