作品タイトル不明
第66話:縁談 その3
クリフの言葉を聞いた俺は理解するのに数秒を要し、そこから言葉を発するのに更に数秒ほどかかってしまった。
「クリフ……いや、今はもう呼び捨てにするのは相応しくないな。クリフ殿、それは一体どのような意図があってのことでしょうか?」
「以前のようにクリフとお呼びください。たしかに私の忠誠は御当主様に捧げております。ですが僭越ながらミナト様のことは戦友で、尊敬に足る方だと思っておりますので」
平静を装ったが、本当に装えたかはわからない。ここ最近、動じずに受け流すには難易度が高い出来事が多すぎる……。
(ダンジョンの中でカリンに対して思うところがありそうだったけど、まさかこんなことを……いや、でも……)
クリフはカリンに対して隔意を抱いている節があったが、 そ(・) れ(・) が悪さをしたのだろう。そう思った俺だったが、クリフの表情があまりにも真剣だったため思い留まる。
そもそも、仮にカリンが俺の婚約者候補に相応しくなかったとして、その代わりに姉のランジュを引っ張り出してくるというのもおかしな話だった。
ランジュは俺の四歳年上で、王立学園に通っている侯爵家の長女だ。その立場上、当然ながら婚約者候補も既にいるだろうし、そちらを破談にさせてまで俺の婚約者候補にするメリットが見えない。
カリンやクリフ達を助けたことに報いるためだとしても、仮にカリンの評価がキドニア侯爵家の中で下がっていて俺の婚約者候補に相応しくないと判断されたのだとしても、ランジュの婚約者候補からすれば知ったことではないだろう。自分に無縁の事柄で関係が解消されるなど、面子を潰すにもほどがある。
そうなった場合、キドニア侯爵家はもちろんだが下手せずとも俺に、ひいてはサンデューク辺境伯家に有形無形の不利益となって襲い掛かってくるに違いない。
ランジュに婚約者候補がいなければこの話は成り立たないし、いたとして『花コン』のミナトみたいに関係の解消も止む無しという相手だったなら、キドニア侯爵の先ほどの親馬鹿ぶりを見ると可能性がゼロとは言えないが――。
(いくら娘が可愛くても、そこまで馬鹿な真似はしないだろ……それで嫁ぎ先がなくなる方が問題だしな)
相手がいた場合、その面子を丸ごと全部潰すような所業だ。さすがにあり得ない、と判断する。クリフの発言については『真実の鐘』も鳴ってないし、本当のことだろうけど。
「それでは改めて聞こう。クリフ、一体何を考えてそんなことを?」
とりあえずはクリフの意図を確認しなければならない。そう思って尋ねるとクリフはキドニア侯爵へと目線を送り、キドニア侯爵が一度頷くのを確認してから口を開く。
「意図といっても大した意味はございません。カリン御嬢様ではミナト様の婚約者候補は務まらない……その言葉の通りの意味しかないのです」
『真実の鐘』は……鳴らない。少なくともクリフにとっては本音ってことか。
それでも俺が無言で続きを促すと、クリフはその場で片膝を突いて最敬礼を向けてくる。
「恩人にして他家の嫡男相手に無礼は承知なれど、私の忠誠は侯爵閣下へ捧げています。それ故に忠言を怠る不義はできませんし、貴方が相手ならばこのまま首を落とされても文句も後悔もありません。ですが叶うのなら、戦友の 誼(よしみ) として私の考えをお聞きいただきたく」
「……貴公にそこまで言わせて俺が聞かないと思うか?」
返答としてそう答えてみれば、クリフはどことなく嬉しそうに笑う。自分の命を盾にした脅迫ではなく、俺ならそう答えると信じていたと言わんばかりの笑顔だった。
「ミナト様、貴方はカリン御嬢様を婚約者候補にと考えられているようですが、それは何故ですか?」
(う……侯爵の前でそれを聞くか? まあ、交渉をしに来たと思えば仕方ない、か……)
娘可愛さで『真実の鐘』を鳴らしてしまったキドニア侯爵相手に、本音で答えるのは少々怖い。しかし『真実の鐘』がある以上、嘘は通じない。
ただ、こういった交渉ごとに『真実の鐘』を持ち出したことに関しては違和感がある。お互いに嘘をつけない、実に 紳(・) 士(・) 的(・) な(・) 交渉が行えると思うべきか、何かこちらを疑う腹があるのか。
「王都で縁があったというのもあるが、キドニア侯爵家とは是非とも 結(・) び(・) 付(・) き(・) が欲しいと思っていた。こちらが求めるものをお持ちなのでな」
嘘は言わないが、意味が通じる程度にぼかす。建前として錬金術の素材が欲しいという理由は用意したが、それを口にしたら『真実の鐘』が鳴るかもしれない。
だからこそ求めるもの――『花コン』におけるカリンとの婚約者候補という関係が欲しいと裏に滲ませつつ、俺は答えていた。
結果は……セーフ。『真実の鐘』は鳴らず、沈黙している。そして肝心のキドニア侯爵はといえば、机に両肘をついて顔の前で指を組みつつ黙り込んでいた。
「つまり打算による提案ですか?」
「身も蓋もなく言えばそうなるな」
そう、打算だ。錬金術の素材がどうこうではなく、『花コン』で婚約者候補だったから そ(・) う(・) じ(・) ゃ(・) な(・) い(・) と(・) 困(・) る(・) という身勝手な打算だ。
俺がそう考えていると、クリフは手を打つようにそれです、と指摘してくる。
「打算だけで考えるのなら、別にカリン御嬢様の婚約者候補になる必要はありません。我々をお助けいただいた縁があります。それをもとに交渉を行えば良いではないですか」
その発言に俺は小さく眉を寄せてしまう。これはアレか? レオンさんにも勘付かれたように、俺の言動から何かがバレた……か?
「ミナト様がカリン御嬢様を 恋慕(こいした) い、異性として求めてのことなら私もお止めしません。ですが、現状ではミナト様にとってもカリン御嬢様にとっても良い結果にはならないと思った次第です」
「そう思った理由は?」
レオンさんにも似たようなことを言われたな、なんて思いながら尋ねる。俺は自分のことをそれなりに客観視できているつもりだったが、複数の人間から同じことを思われるような問題点があるのだろうか?
(……あるからこうして言われてるんだよな。思い当たる節は……あるけどさ……)
カリンを一個人ではなく、『花コン』のキャラとして見ているから――なんて残酷なことはさすがに思っていない。
それはこの世界に生きる全ての人間に対する侮辱だからだ。それでも無意識の内に他の人間と区別している可能性は否定できないが。
(そもそもそれを言ったら 俺(ミナト) が一番該当するし……つまり、アレだな。自分で言うのは恥ずかしいけど、 俺(・) の(・) 価(・) 値(・) が上がり過ぎたか?)
貴族の若手の中ではトップクラスの武勲を挙げて、今度勲章をもらうことまで確定しているのだ。我がことながら出来過ぎで、そんな俺が自分からカリンを婚約者候補にしたいと言い出す。
つまり、傍目から見れば婚約者候補にならずとも有利な条件で交易が可能な状況だというのに、わざわざ不利な条件を掲げて交渉に挑んでいるのだ。
これで俺がカリンに惚れていて、条件なんて知ったことか、君が欲しいんだ! みたいなノリで求婚しているのなら周囲も納得したのだろうか。しかし俺はカリンと婚約者候補の関係になれればそれで良い、というスタンスだった。
(……うん、そりゃおかしいか。クリフが言う通り錬金術の素材が欲しいだけなら先日の件を引き合いに出して交渉すれば良いし、わざわざ婚約者候補っていう貴重かつ強力なカードを切る必要はないわな)
なんだかんだで自己評価が上手くできていなかったのかもしれない。でも、ミナトにとって過信は強烈な死亡フラグだ。俺が『花コン』のキャラではなく一人の人間だとしても、いや、人間だからこそ怖いし恐ろしい。
それは何故か? 理由は簡単だ。俺が一度死んだ身で、輪廻転生して今があるからだ。
要は死にたくないからで、こればかりはこの世界に生まれ変わってからずっと、ガキの頃から変わっちゃいない。それを遠因として死亡フラグにつながりそうな過信を抱くことを忌避しているのではないか、なんていうのが俺の見立てだった。
そんなことを考えて、自分の境遇を自分で振り返って納得していると、クリフが真剣な表情にどこか心配そうな色を混ぜながら言う。
「辺境伯家の嫡男たる人物を相手に、ただの騎士でしかない私がこんなことを言うのもどうかと思いますが……ミナト様、貴方は良いとしても 貴(・) 方(・) の(・) 隣(・) に(・) 立(・) つ(・) こ(・) と(・) に(・) な(・) る(・) カリン御嬢様のことをどうか、少しでも良いので慮ってはいただけないでしょうか?」
「……いや、それこそ俺が言うと角が立つが、カリン殿もそちらの家で相応の教育を受けているだろう?」
俺の評価が高いとしても、辺境伯家の長男と侯爵家の次女なら釣り合いも取れている。これで相手が平民なら俺もクリフの言葉に納得しただろうが、カリンとて幼少の頃から貴族として教育を受けてきたはずだ。
もちろん、性別や生まれた順番によって受ける教育の内容は大きく異なる。
サンデューク辺境伯家で考えてみれば嫡男である俺、俺のスペアになるコハク、他家に嫁ぐことになるモモカは全員が全員、教育の種類も質も量も異なるのだ。
男児が生まれず婿を取る必要がある、なんて場合を除き、貴族の女性は基本的に他家に嫁ぐことになる。その際、きちんと教育を受けていなければ生家だけでなく相手の家の面子も潰しかねないのだ。
そのためカリンも貴族としての教育はしっかりと受けているはず、というのが俺の認識だった。少なくとも『花コン』では勉強、礼儀作法、魔法、権謀術数となんでもござれの才女だったのである。まだ勉強中だとしてもあと三年弱あるし、十分間に合うだろう。
そう判断した俺に対し、クリフは表情を歪めながら首を横に振る。まるで、 認(・) め(・) た(・) く(・) な(・) い(・) 何(・) か(・) が俺にあるような素振りだった。
「違います……そうじゃありません。ミナト様、言葉を飾らずに言わせていただきますが、貴方は非常に優秀だ。私よりも年下で、学園に通う前でありながら異常成長したダンジョン内で指揮を執り、死者を出すことなく民を守り抜き、ボスモンスターさえ倒した。優秀すぎるのです」
そう言われて、今の状況にもかかわらずお世辞かどうか、言葉をそのまま受け取って良いものかと悩む俺がいた。
貴族として教育を受けてきた。ランドウ先生に師事した。相応に努力もしてきた。それらを加味し、自らを評価してもやはり凡庸の域を出ない。甘く評価しても秀才が精々だろう。剣士としては凡才だってランドウ先生にも言われている。
たとえ凡庸でも今はまだ良い。年齢と中身のギャップがあるし、なんだかんだで結果を残してきたからさぞ優秀に見えるだろう――が、 そ(・) れ(・) が俺の首を絞めているというのか。いや、この場合首が絞まるのは俺ではなくカリンだとクリフは言っているわけで。
(隣に立てない、釣り合わない、相応しくない……そう言いたいんだろうけど、それは……いや、キドニア侯爵を前にしてそこまで言うんだ。本当にカリンや俺のことを考えての発言ってことか)
だからこそキドニア侯爵も止めないし咎めないのだろう。それはつまり、クリフの意見に賛同しているということでもあるが。
(ランジュさんは……ん?)
姉であるランジュはどう思っているのか、なんて思いながら視線を向けた俺だったが、ふと疑問を覚えて改めてランジュの服装を見る。カリンと同じ、真紅の髪色とは 反(・) 対(・) 色(・) のドレスが妙に目を引いたのだ。
貴族が身に着ける服には色々な意味がある。服の種類、色、装飾、手に持った小物に至るまで、何かしらの意味を持たせているものだ。ランジュはドレスの装飾が控えめで、シンプルに髪とは反対色のドレスを選んだように思える。だが、そこに何か意味があるとすれば?
(……妹想いなんだな)
おそらくは、ランジュもカリンが俺の婚約者候補になることを反対している。あるいはランジュ自身が俺の婚約者候補になることへの反対、抗議か。さすがにそれを尋ねることはしないが、こうなってしまっては俺一人が孤立してしまったと考えるべきか。
(レオンさんが交渉を任せるって言ったのも、こうなるってわかってたのかもなぁ……)
レオンさん自ら色々と話し、それでも改善したように見えない俺に対する教育の一環だったのかもしれない。そう思えるぐらい追い詰められている。
――この流れはまずい。
カリンの婚約者候補にならなければ、と思うのに明らかに厳しい。キドニア侯爵が反対に回った時点で詰んでいる……いや、クリフを止めないだけで本当に反対に回っているかはわからないが。
俺がカリンの婚約者候補になれなかった場合、『花コン』が始まった後に潰れるイベントはいくつだ? カリン関係のイベントだけでなく、他のキャラに関しても絡む部分があるからなんとも言えないが……少なくともカリンと主人公が親しくなるきっかけのイベントは潰れる。
『花コン』で主人公とカリンが出会うイベントで色々と起きた結果、ミナトが面子に泥を塗られたということで主人公に決闘を挑み、そして負けるのだ。
他のイベントの発生状況次第だがその時点で最低でも二戦目かつ二度目の敗北になり、決闘を挑んだものの敗北したことで評判が更に落ちたミナトに対し、チャンスだと思ったカリンが色々と謀略を仕掛け始めるきっかけとなるイベントでもある。
これは俺の能力や評判に関係なく、ミナトとカリンが婚約者候補同士だからこそ起きるイベントだ。他にも婚約者候補だからこそ起きるイベントがあるが、それらが潰れると他のルートまで予測がつかなくなるかもしれない。
この場は退いたとして、後々カリンの婚約者候補になれるか? 改めて話を持ち込んで受けてもらえるか? 交渉次第かもしれないけど、そこまでやってカリンの婚約者候補になろうとするのを怪しまれるのでは?
「クリフ……君が言いたいことは理解したよ」
それなら、この場でどうにかするしかない。レオンさん相手に押し通したように、カリンを婚約者候補にするべく理由を捻り出すしかない――が、今回ばかりは簡単だ。幸いなことに、『真実の鐘』という素晴らしいアイテムがあるのだから。
ズキリと、脳が痛むような感覚がした。僅かな違和感と吐き気が胸を過ぎるが、すぐに霧散する。
「そして君の忠言……いや、敢えて言い方を変えよう。君からの友情に感謝する。戦友とは実に得難いものだな」
俺はクリフに対して膝を突き、手を差し出して一緒に立ち上がる。
言葉通り、俺はクリフに感謝していた。こうしてギリギリのところで 手(・) を(・) 打(・) て(・) る(・) ことを忠告してくれたのだから。
俺はそのままクリフから視線を外し、キドニア侯爵を見た。
「先日、父であるサンデューク辺境伯にも似たようなことを指摘されましたよ。どうにも私……いや、俺は誤解を招くらしい」
敢えて口調を崩し、本音であることをアピールするように喋る。身振り手振りは不自然にならない最小限に抑えて。
「……誤解とはなにかね?」
俺の言葉や態度に反応したのか、キドニア侯爵が尋ねてくる。それを聞いた俺は大きく頷き、困ったように頬を掻いた。
「正直に話しましょう。俺はクリフが言うようなことまで深く考えていませんでした。それが何故かというと……ああ、そうだ。丁度良い物がありますね」
俺は机に置かれた『真実の鐘』を指さす。そして自信満々な子どもに見えるよう胸を張り、口元に笑みを浮かべた。
「宣言しましょう。もしもその鐘が鳴れば今回の話は破談で結構です。それでも俺は敢えて断言します」
そして、笑みを浮かべたその裏で切に願う。
――これは、嘘偽りない本音だ。
「ミナト=ラレーテ=サンデュークにとって、カリン=プセウド=キドニア以外を婚約者候補として求めることはあり得ないと」
ああ、そうだ。そうだとも。こればかりは断言できるとも。
俺(・) は(・) と(・) も(・) か(・) く(・) 、ミナト=ラレーテ=サンデュークという存在にとってカリン以外が婚約者候補になることはあり得ないのだ。
だからこそ、『真実の鐘』を鳴らすことなくこんな宣言ができる。それ以外はあり得ない、あり得てしまえば世界が滅びかねないと知っているが故に。
「……ふむ……そこまで娘のことを求めていると?」
困惑したようにキドニア侯爵が尋ねてくる。おそらくは事前にクリフの話を聞き、俺と直接会ってクリフの話が正しいと思っていたのだろう。言葉に出さなかったのは俺の反応を見てから全てを決めるつもりだったのかもしれない。
それを覆すように『真実の鐘』を鳴らすことなく、カリンの婚約者候補になりたいと俺が断言すればどう思うか。
「はい。婚約者候補としてこれ以上なく、彼女を求めています」
カリンの父親であるキドニア侯爵の前でここまで言うのは恥ずかしくも思えるが、ここまでくれば断言しなければ破談になる。そのため俺は声に力をこめ、まばたきすることもなく目にも力を入れてキドニア侯爵を見る。
好きなのか、愛しているのか、なんて尋ねられるとまずいが、その時はとぼけるだけだ。自分の感情を断言できないというのはおかしなことじゃない。
今は愛していませんがこれから愛情を育めるよう努力したいと思います、なんて優等生な解答で誤魔化してもいい。努力するだけなら嘘にはならないのだ。
もちろん、俺が 好(・) 意(・) を(・) 口(・) に(・) し(・) て(・) い(・) な(・) い(・) ことなんて気付いているだろうけど。
キドニア侯爵は思考するように沈黙し、俺の目をじっと見つめてくる。そのため俺も疚しいところは何もないといわんばかりに真っすぐに見返す。
そして、先に折れたのはキドニア侯爵の方だった。
「……わかった。今回の件、前向きに検討させてもらうよ。君以上の相手となると同年代で探すのは困難だろうしね」
そう言いつつ、キドニア侯爵は苦笑を浮かべて机の上に置いていた『真実の鐘』に手を伸ばす。
「先ほどの君を見て、血筋なんだと強く感じたよ。やはり君は あ(・) の(・) ジョージ殿のお孫さんだ。多少わかりにくくともその内側にはしっかりとした熱を秘めているというわけだ」
「…………?」
ちょっと待ってほしい。なんでそこでジョージさんが出てくるの?
「おや? もしかして何も聞いていないのかね?」
困惑する俺に気付いたのか、キドニア侯爵は小さく目を見開く。そして何故か表情を一気に柔らかいものへと変えた。
「王立学園に『真実の鐘』という鐘楼があるんだが、その伝説は知っているね?」
「それは……はい。有名ですから」
とある男性が他者の婚約者候補に惚れてしまい、それでも諦めきれずに想いを伝えて高らかに鐘を鳴り響かせたという、恋愛シミュレーションゲームなら定番の 伝(・) 説(・) の(・) 鐘楼だ。
その時は二組の婚約者候補同士で互いに互いの婚約者候補に惚れていたという、人間関係が複雑骨折したような有様だったから上手くいったと聞く。『花コン』でも語られていた話だ。
(……いや、待って、待ってくれ……まさか……)
話の流れ的に、俺はキドニア侯爵が何故俺の言葉に納得したのか悟ってしまう。
「私も学園であの伝説を聞いて、当時は大層憧れたものだったよ。そう、君の祖父であるジョージ殿こそがあの伝説を成し遂げた張本人なんだ」
そう語るキドニア侯爵の表情と声色に、嘘は見当たらなかった。その昔にすごいことをした人がいた、その行いに憧れたんだと目を輝かせて語る様はいっその少年のようで。
(レオンさん……いや、この場合はジョージさんか? なんで……なんで教えてくれなかったんだ……)
祖父(ジョージ) がやったことを知らない内に実演していたことに、俺は密かに愕然とするのだった。