作品タイトル不明
第57話:報告 その1
複数のダンジョンが合体して中規模相当のダンジョンに変貌し、ボスモンスターを倒したことで解決の目途が立った一件から二週間の時が過ぎた。
王都向けの報告書を作るにあたり、『王国北部ダンジョン異常成長事件』と呼称することが決まったが……まあ、情報をまとめるにしても名称があった方が便利だというのは理解できる。
二週間という短いような長いような期間。俺はトーグ村やアルバの町、それに周辺の街道の被害状況、兵士達や住民の傷病者の治療、元々あったダンジョンの跡地やはぐれモンスターの調査や討伐、周辺の王領や領主貴族への連絡などなど。多くのことに頭を悩ませ、決定し、命令を下す日々を送っていた。
調査や復興作業に関する人員の割り振り、建設資材の調達方法、ネフライト男爵や彼が連れてきた王都からの文官との協議。
それらは戦いとは異なる類の疲労が圧し掛かってくる難業だったが、それに負けず今後のスケジューリングを決めていく。
そうして二週間で粗方まとめ終え、騎士長であるマーカスを俺の名代にしてジョージさんと併せて後事を託し、王都へと向かうこととなった。
当然ではあるが、既にダンジョンを破壊したことや被害状況、今回の件に関する一連の経過報告をまとめた情報は王都へ送ってある。それに加えて毎日こちらの状況や作業報告を騎兵に託して王都へ送り出し、王都からは必要な人手や物資を送ってもらい、距離こそあるが綿密に連絡を取り合っていた。
だが、俺には諸々の責任者として直接王都に出向き、今回の件に関する詳細な報告を行う義務がある。
軍監に相談し、王国法に則って行動したから罰せられることはないと思うが、異常成長したとはいえ複数のダンジョンをまとめて破壊したことも問題といえば問題で、直接報告する必要があった。
(まあ、すぐに顔を出せって命令もなかったし……大丈夫だろ)
問題があるならすぐさま王都へ来るようにと使者が来ていたはずだが、一段落するまで何も言われることがなかったため、大きな問題はないと思われる。
アルバの町の防衛を行ったウィリアムも召喚の対象だったため同行してもらい、ゲラルドやモリオンを供にして街道を進んで行く。
他にも巻き込まれた当事者としてカリンやクリフも王都に行く必要があったが、人数が少ないし、俺を待ってもらうのも申し訳なかったため先に王都へと送り出している。
そんなわけで王都へと向かう俺だったが、ダンジョン内という過酷な環境と比べれば実に平和な道程だった。
ダンジョンを破壊した直後だからはぐれモンスターに気を付ける必要があるが、最近俺達を含めて大軍が何度も往復しているから野盗をそこまで警戒しなくて良いし、ダンジョン内と比べればそもそも空気が違う。
トーグ村での防衛戦は体力や精神がすり減り続けたし、後始末も大変だったし、馬に揺られながら王都に向かう旅路のなんと心安らぐことか。もちろん気を抜きすぎるなんて油断はしない。
そうしてかっぽかっぽと王都に向かい、道中何事もなく到着。毎日報告の使者を送っていたから事前に俺達が来ることも知らせてあったし、城門で待つこともなくフリーパスで素通りだ。
(いやぁ……あんな戦いの後だと城門と城壁のありがたさが身に染みるわ……)
王都ラクティを囲む城壁は獣系モンスターが乗り越えられないほど高く、見張りの兵士が複数すれ違えるぐらい分厚い。その事実がなんとも心強く、頼もしかった。
「それではミナト様、私は当家の騎士達の様子を見てきます。父が王都に来ているはずですから、そちらにも報告をしてきます」
王都の第三層に足を踏み入れるなりモリオンがそんなことを言ってくる。
「ああ。軍監殿を王都まで無事に送り届けた勇士達だ。労ってやってくれ。後で顔を合わせるが、御父君にもよろしく伝えてくれると助かる」
モリオンが王都まで同行したのも、自分のところの騎士や兵士と合流するためだ。軍監を連れてダンジョンを脱出できていなければ王都側が異常事態を察知するのが遅れ、援軍の到着も遥かに遅れていたはずである。
負傷者が多く出たため援軍としてトーグ村に戻ってくることができず、王都に残って治療を受けていたそうだ。後々俺の方からも正式に感謝の場を設けなければならないだろう。
トーグ村での防衛戦に関してはモリオンの助力が非常に大きかった。しかしあくまで指揮官は俺やウィリアムで、モリオンは今回王城にも呼ばれていない。
(モリオンの同行を頼んできたユナカイト子爵に感謝しないとな……モリオンがいなかったら詰んでたわ)
ユナカイト子爵家としても軍役の一環だったわけだが、それはそれ、これはこれである。モリオンがいてくれて助かったことを伝え、感謝の品なり礼金なりを用意するべきだろう。
そしてモリオンが口にした通り、今、王都にはユナカイト子爵が来ているはずだ。それはモリオンだけでなく、うちの家も同様なのだが――。
「若様、あちらを」
そう言ってゲラルドが俺を促し、何事かと視線を向けてみるとそこには一台の馬車が止まっていた。馬車にはサンデューク辺境伯家の家紋が刻まれており、それを確認した俺は馬を向ける。
「お久しぶりです、父上」
馬車に近付いて声をかけた相手は、領地にいるはずのレオンさんだ。するとそれに応えるように馬車の扉が開き、レオンさんが顔を見せる。
「ミナト……」
俺の名前を呼ぶレオンさんだが、どうにも態度がおかしい。困惑しているというか、戸惑っているというか。
――そもそも、何故レオンさんが王都にいるのか?
それはトーグ村で王都とやり取りをしている時に知ったのだが、王都に事件の発生が伝わるなり国王陛下の命令のもと、関係する貴族の領地へと竜騎士が飛んで報せていたらしい。
竜騎士は希少だが、こういった緊急事態が発生するとすぐさま王国全土へ飛んで情報の伝達を行い、必要とあらば関係者を輸送する。遠く離れた場所にいるはずのレオンさんが王都にいるのもそのおかげだ。モリオンがユナカイト子爵に報告してくると言ったのも同様である。
「……とりあえず馬車に乗りなさい」
そう言われて俺は馬を下り、手綱をゲラルドに預けてから馬車へと乗り込む……が、その間も頭の中には疑問符が飛び交っていた。
レオンさんが王都にいることは問題ではないが、別邸ではなくこうして馬車で出迎えたことが疑問だった。心配して出迎えに来たのかもしれないが、辺境伯としてどっしりと構えるのが普通だろう、とも思う。
「まずは……そう、まずは、だ。よく無事に帰ってきた……心配したぞ。ローラもコハクもモモカも、サンデュークの屋敷で働く者達も全員が心配していた……ああ……本当に良かった」
そう言ってレオンさんが破顔する。
軍役に送り出した息子が異常成長したダンジョンに取り込まれたと聞けば、驚きもすれば心配もするだろう。だからレオンさんの発言におかしなところはない――のだが。
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました。あー……それで父上? 何やら歯切れが悪いというか、何かありましたか?」
少し迷ったものの、結局は直接尋ねることにした。まずは、なんて前置きをしているし、何かしらあったのだろう。ウィリアムやゲラルドに労いの言葉をかける余裕すらないみたいだしな。
俺の言葉を聞いたレオンさんは苦虫を噛み潰したような顔になるが、数秒も経つと表情を苦笑へと変え、ゆるゆると頭を振る。
「いや……ミナト、お前が悪いわけじゃないし、今回の件での功績を思えば理解もできることなんだが……」
なんですかその前振り。今の時点で嫌な予感がヒシヒシとするんですが?
「王城から使者が来てな。先の一件について、王領の民に死者を出すことなく守り抜いたことを称えて勲章が与えられることとなった」
「……勲章ですか」
俺は小さく眉を寄せ、思考に没する。
勲章――それは前世でも存在した栄典で、『花コン』においては特定の条件を達成すると入手できる代物だ。
『花コン』では条件の難易度によって第一等、第二等、第三等、第四等とわけられ、第三等の勲章が四種類と合計で七種類の勲章が存在した。
たとえば第一等勲章である『 黄金神花勲章(おうごんしんかくんしょう) 』は国を救うほどの偉業、救国の英雄に授与される勲章で、『魔王』を『消滅』させることに成功すると授与されるというとんでもない難易度の勲章である。
俺が貴族教育を受けた際にも習ったがその辺りの授与の条件はこの世界でも変わっていないようで、一体誰に与えるつもりなのかと疑問に思ってしまう――が、前世でも特別に勲章を作ったものの、受章者が一人だけしかいなかった勲章もあるしなぁ。
そうなると、実際に得られるとすれば第二等以下の勲章になるだろう。
ただし、第二等勲章の『 白銀王花勲章(はくぎんおうかくんしょう) 』も軍事、政治、その他の類稀なる功績を挙げた者へ贈られるもので、『花コン』だと大規模ダンジョンを攻略すればもらえるっていう高難易度の条件が定められている。
つまり、勲章がどうこうっていうならそれ以下の勲章になるのだろうが。
「ああ。『 赤銅百花勲章(せきどうひゃっかくんしょう) 』が与えられることになるが……受けるか?」
「内示とはいえ拒否できる代物でもないでしょうに。しかし『百花勲章』ではなく第三等、それも軍事関連の勲章である赤銅とはなんとも……妥当と言えば妥当でしょうがね」
功績を称えて勲章を授与しますって言われて、いや、いらないですって拒否できる立場じゃない。そのため受け取るしかないが、当然ながら『花コン』でのミナトは勲章なんて手に入れていない。
『赤銅百花勲章』は『花コン』でも中規模ダンジョンを攻略すればもらえるものだから、今回異常成長して中規模相当になったダンジョンを破壊した成果だと思えば妥当だろう。
第三等勲章は軍事関連の赤銅、政治や経済関連の青銅、錬金術等の技術関連の黄銅、それ以外の功績で与えられる白銅と分類わけされている。そのため『赤銅百花勲章』を与えられるのは 普(・) 通(・) な(・) ら(・) おかしな話ではない。
「父上、軍役の一環でダンジョンを破壊する場合、勲章は出なかったと記憶しているのですが」
しかし、今回の騒動はイレギュラーな事態だったとはいえ、軍役は貴族が負う義務の一つだ。その一環でダンジョンを破壊したからといって勲章を与えていては王家も大変だろう。
何が大変かというと、勲章には年金がつくのである。第三等勲章は金貨百枚、前世の感覚でいえば一千万円ほどの金額を毎年もらえることになる。
辺境伯家の嫡男という俺の立場から見れば、金貨百枚というのは大きくない。しかし大量に勲章をばら撒けばそれだけ金がかかるわけで、王家としてもよっぽどのことがなければ授与はしないはずだ。
つまり、何かしらの 裏(・) が(・) あ(・) る(・) と考えるべきか。
「たしかに、通常の軍役だと勲章は出ない。しかし今回は別だ。いくら軍役だったとはいえ人的被害が大きいし、用意した物資もほとんどを消耗してしまった」
「なるほど……こちらへの補填を兼ねているわけですか。そう考えた場合、今度は額が少なすぎると思うのですが」
金貨百枚という年金は個人に与える分としては良いが、今回のように死者が十名以上、傷病者が多数、治療に使ったポーションや薬代が高額となると全くもって足りない。物資に関しては軍役のために用意していたからいいとしても、人的被害は普通に軍役を行うよりも大きいだろう。
「もちろん『赤銅百花勲章』を与えて終わり、なんてことはないさ。勲章とは別に慰労金を出してくださるそうだ。今回の被害に見合った金額かと聞かれれば……まあ、足りないがな」
亡くなった騎士や兵士に関する補償だけでなく、負傷した者の治療費、生きてはいるが腕や足を失って兵士として働けなくなった者への補償、あるいは別の仕事の斡旋など、やるべきこともかかる金も多い。
さすがにその辺りの割り振りは当主であるレオンさんの仕事だが、今回の軍役の責任者として俺も無関係ではないのだ。
(……あれ? 勲章がどうこうっていうのはたしかに大事だろうけど、レオンさんがわざわざ馬車で出迎えるようなことじゃないよな?)
これぐらいの内容なら別邸で聞いても良いはずだ。なんでわざわざこんな場所で、と思ったらレオンさんが御者に声をかけて馬車が動き出す。
「お前達が王都に到着したことは城にも伝わっているだろうし、そろそろ行かねばな」
「……あの、父上? 父上以外全員旅装ですし、王城に直接向かうのはさすがに失礼だと思うのですが」
レオンさんの口ぶりから察するに、このまま王城へ直行するつもりらしい。しかし王城は当然ながら相応の礼儀を払うべき場所だ。以前訪れた時はしっかりと礼服を着込んだが、今は何かあっても戦えるよう鎖帷子や部分鎧を身に着けた状態である。
一応、戦装束も礼服といえば礼服かもしれないけど……騎士が鎧を身に着けて馬に乗っていれば見栄えが良いが、俺は騎士ではない。辺境伯家の嫡男ではあるものの公的な爵位等は持っていないのだ。
というか、トーグ村での戦いで防具にガタがきているし、ところどころ破損して紛失しているから見た目もいまいちなんだが。
「たしかに普段なら失礼に当たるが、今回は構わんさ。その見た目も む(・) し(・) ろ(・) い(・) い(・) 。それだけの激戦だったとわかるし、着替えることよりも 陛(・) 下(・) の(・) 領(・) 地(・) に(・) 関(・) す(・) る(・) 報(・) 告(・) を優先したという建前があるからな」
そう言ってレオンさんが意味ありげに微笑む。それを聞いた俺はなるほどなぁ、と思ったものの内心で首を傾げた。
(なんか、レオンさんの雰囲気がちょっと……怒っている? この格好で良いっていうのも当てつけっぽいな。 嫡男(むすこ) が危険な目に遭ったし、部下にも大きな被害が出たことへの抗議……直接言うとまずいから理由をつけて外見で抗議……とか?)
事前の情報では小規模ダンジョンの破壊が目的だったのに、いざ現地に行ってみれば異常成長したダンジョンで二手に別れて町と村の防衛戦を行い、なおかつモンスターの発生数が多いわ死霊系モンスターが襲ってくるわボスモンスターが襲ってくるわと異常事態のオンパレードだ。
国王陛下とレオンさんは王立学園の先輩後輩同士で仲も良さそうな感じだったけど、さすがに今回は抗議せざるを得ないということか。あるいは国王陛下以外……今回の軍役に関する情報を集めてサンデューク辺境伯家に割り当てた宮廷貴族への抗議か。
(うちの騎士や兵士に死人が出てるし、その辺りは疎かにはできないか……)
別邸で軽く休んで着替えるぐらいの余裕は欲しかったが、これも お(・) 仕(・) 事(・) の内だ。休憩も着替えもなしで王城に直行して報告という名の文句をぶつけるぐらい怒っている、というアピールになるだろう。
元々予定していた軍役で犠牲が出るのは仕方ないとしても、予定外の事態で想定以上の犠牲が出たことは許容しかねるってことかね。
だから仕方ない――そんな風に自分に言い聞かせて王城に向かい、大して待たされることなく謁見の間へ通され、以前と比べても見物人が増えたなぁ、なんて思いながら帰還の挨拶と事件の報告を行っていく。
既に詳細な報告書が送られているため、俺が行うのは事件のあらましを短くまとめて報告するだけだ。
防衛戦が二ヶ所で行われた都合上、今回ばかりは陪臣であるウィリアムからも報告が行われ、簡単な質疑応答を経て報告は終了となる。
今回は報告のみで、レオンさんが言っていた勲章に関しては話にも出なかった。こっちの格好が格好だし、また後日、改めて授与されるのだろう。
「皆様方、国王陛下がお呼び出しでございます」
そうして報告を終えて謁見の間を後にし、今度こそ別邸で休めるかと思えば出待ちしていた執事にそんなことを言われてしまった。
うわ、これ前にも同じことがあったぞ、なんて思いながらレオンさんを見ると何やら渋い顔をしている。ウィリアムも同様に渋い顔で、初めて王城に来たゲラルドはガチガチに固まって瞬き一つしていない。
前回はまだしも、今回は名代ではなく正式な辺境伯であるレオンさんがいる。そのため判断を委ねていると、レオンさんは一つため息を吐いてから承諾した。
執事に先導されつつ、それとなく周囲からの視線を感じつつ、王城の三階へと移動する。レオンさんとウィリアムは表情を平然としたものに戻しているが、ゲラルドは事態を飲み込めていないのか焦ったような顔でひたすら周囲を見回している。
「わ、若様、本当に俺、じゃない、私も一緒についてきて良かったんでしょうか? ここは王家の方々が住まわれている場所では……」
「向こうが呼んだんだから気にするなよ。貴重な経験ができた、ぐらいに思っておけばいいさ」
不安そうに聞かれたから答えたけど、多分、ゲラルドを王城に連れてきたのもレオンさんの抗議の一環なんだろうな、なんて思う。
防衛戦の指揮官で、陪臣とはいえ子爵位の立場にあるウィリアムはいいとしても、ゲラルドは無位無官の身だ。それは俺も一緒だけどウィリアムと同じで防衛戦の指揮を執ったし、軍役の責任者だし、辺境伯の名代だったしでゲラルドとは立場が異なる。
そのためこの場にゲラルドがいること自体、レオンさんからの意思表示なんだろう。
(推測はできてもそれが合っているかわからないけどな……ま、それは今更か)
俺はレオンさん本人じゃないし、何を考えているか推測はできても合っている保証はない。レオンさんが全然違うことを考えている可能性もあるが、答え合わせを求めても本心から全てを教えてくれるかどうかもわからない。
サンデューク辺境伯家の跡継ぎとして過不足なく――いやさ、むしろ過剰に教育を受けた気がするけど、俺ぐらいの年齢で辺境伯の名代として軍役に向かい、そこで異常事態に巻き込まれてなんとか乗り切り、後始末をある程度片付けているだけでも上等だろう。
そこに追加で王家や宮廷貴族への政治的なアレコレまでやれってのは無茶ぶりが過ぎる。だからこそレオンさんが竜騎士に運ばれて王都まで来て、俺達への援軍をジョージさんに託し、王都で色々と采配を揮っていたのだろう。
俺も将来辺境伯を継ぐために教育を受けてきたが、レオンさんは現役の辺境伯だ。これまで蓄積してきたであろう知識、経験は俺の遥か先をいくはずである。
(前世で勉強した分を上乗せしたら知識面では多少追いつけるかもしれないけど、経験に関しちゃなぁ……貴族としての経験なんて前世じゃ積んでないし……)
そんなことを考えながら、執事に先導されるがままに進んでいく。場所は 前(・) 回(・) と同様応接室だったが、前回とは大きな違いがあった。
それはこちら側にレオンさんとゲラルドがいて、向こう側にはネフライト男爵とアイリスがいないことである。国王陛下と護衛の騎士が一人、あとは給仕の女性が一人と少なくなっていた。
「お呼び出しと聞き参上いたしました」
こちら側の代表としてレオンさんが口火を切り、俺はその後ろに控えて片膝を突いて最敬礼を行う。いくら私的な場といっても相手が相手だ。ウィリアムも俺の隣で最敬礼の姿勢を取り、数秒遅れてゲラルドも片膝を突く。
「そこまで畏まらずとも良い。まずはミナトよ」
「はっ」
私的な場ということもあり、国王陛下が纏う雰囲気を察して軽く顔を上げる。すると目が合ったが、それを咎めることもなく国王陛下はどこか安堵したように微笑んだ。
「この国の王ではなく、 従兄弟伯父(いとこおじ) として言わせてくれ……よくぞ無事に帰ってきた。謁見の間でも会ったが、其方の顔を見て安心したぞ」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
言葉に迷ったが、失礼にならない程度に 軽(・) さ(・) を意識して答える。さすがに親戚のおっちゃん扱いして接するには互いの立場があるが、従兄弟伯父として、なんて前置きしているから多少は崩しても問題ないだろう。
「ウィリアムもだ。色々と思うところがあるのは察するが、まずは無事の帰還を祝わせてくれ」
「……はっ」
言葉少なく応じるウィリアムだが、言葉の通り国王陛下もウィリアムの心情を察しているのだろう。僅かに気遣わしげな眼差しを向けたかと思うと、その視線を滑らせてゲラルドを見る。
「そちらの者は……報告書にあったウィリアムの息子だな。よく似ておる。お主もミナトをよく助け、よく奮戦してくれたな」
「は……はっ! お、お言葉ありがたくっ!」
おっと、ゲラルドにも声をかけるとは思わなかった。でも公的な場じゃないし、学園の後輩の息子って意味じゃ俺と大差ない。防衛戦で頑張ってくれたのも事実だし、労いの言葉をかけるべきだと判断したのだろう。
俺がそんなことを考えていると国王陛下の視線がこちらへと向く。
「中でもミナト、其方の活躍は非常に大きい。レオンからも聞いているだろうが、『赤銅百花勲章』を用意している。後日、正式な授与式を行うが受けてくれるな?」
「……はっ。ありがたく」
レオンさんから聞いた通りだが、国王陛下本人からも内示があるとなると確定だろう。
(最初に挨拶してからレオンさんが喋らねえ……え? このままこっちで喋り続けるの?)
既にレオンさんとの間では話が済んでいるのか、あるいは何かしらの意図があるのか。単純に防衛戦を乗り切った俺達を労うことを優先しているだけかもしれないが。
「ウィリアムもそうだが、他にも優れた武勲を挙げた者には勲章を用意してある。さすがに全員が全員『赤銅百花勲章』とはいかないがな」
その発言に俺は小さく眉を寄せる。トーグ村はともかく、アルバの町は無事に守り抜いて住民に死者もいないが少々大盤振る舞いが過ぎるのではないか。
勲章も直臣であるレオンさん、その名代である俺が相手ならそのまま渡せるだろうけど、ウィリアムや騎士のみんなは陪臣だ。レオンさんが一度受け取り、レオンさんから授与する形になってしまう。
「此度の一件の責任者として、そして何より殊勲者としてミナトから家臣へと下賜するのも良いと思うが……サンデューク辺境伯はどう思う?」
「さて、そこはミナトとの相談次第ですな」
あー……勲章用意したから 次(・) 代(・) の(・) サンデューク辺境伯として家臣に渡せってことか。それで騎士や兵士の忠誠を得ろと。これも陛下からの恩賞って言える……か?
(でもそれをやると俺が跡継ぎで確定するような……嫡男だからおかしくないけど、『花コン』が始まったら死ぬ可能性が高いのにそれはちょっと……)
コハクか、モモカ本人か、モモカの夫が辺境伯を継いでも不満や問題が出にくいよう家臣からの忠誠はある程度分散させておきたい。だから断りたいけど、断る理由が見当たらないから困りものだ。
それでもレオンさんが明言せずにはぐらかしているし、俺も誤魔化し笑いをしておこう――なんて思って微笑んで国王陛下と目が合った途端、首の裏がチリチリとするような感覚を覚えた。
「それにしてもミナトよ。その若さで兵達を見事に統率し、ボスモンスターを討ち果たした優れた武勇。本当に大したものだ。さすがはレオンの息子と言うべきか」
「……ありがとうございます」
さっきからお礼の言葉しか言っていないけど、他に何が言えるのか。俺は少しずつ警戒感を強めるが、国王陛下は妙にこちらを持ち上げてくる。
なんだろう、一応、血縁上は親族だし、褒める内容もおかしなところはない。それでも腑に落ちないものを感じていると、国王陛下は本題だが、という前置きをしてから言った。
「――我が娘、アイリスの婚約者候補にならないか?」
そんな、俺にとって問題しかないことを。