軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第51話:迫る限界

「報告! 西側の壁が突破されました! 現在マーカス様達が迎撃中ですが救援を求めるとのこと!」

「中央から兵を連れていけ! モリオン! 予備の戦力は十二人で間違いないな!?」

「はい! っ! ゲラルド! 『風刃』を撃つぞ! 下がれ!」

「すぐ下がるから当てるなよ!」

「……よし、四人連れていけ! 残りは他の方面の援護に回す! 重傷者は引きずってでも下げろ! 残っているポーションを使え!」

ダンジョンに取り込まれて一週間が過ぎ、俺は朝から剣を振るいながら指示を飛ばしていた。

以前のように自ら飛び出してモンスター相手に斬り込んだわけじゃない。トーグ村の内部に侵入してくるモンスターが増え、指揮を執るだけじゃ 間(・) に(・) 合(・) わ(・) な(・) く(・) な(・) っ(・) た(・) のだ。そのため今は指揮官兼遊撃部隊として動いている。

防衛戦を始めて三日目の夜に降った雨が切っ掛けだったのか、一気に悪い方向へと事態が動いてしまった。

トーグ村周辺に設けた土壁は既に意味をなさず、代官屋敷を中心として縮小した防衛網を再構築せざるを得ない状況へと追い込まれているのだ。

四日目はまだ良かった。天候が回復したのに合わせて崩れた土壁の補修をしたり、疲労が酷い者を休ませたりと余裕のある行動ができた。

五日目になると疲労と緊張がピークを迎えたのか、体調不良を訴える村人が一気に増えた。兵士の負傷者も増え、回復魔法を使える者の限界が近づきつつあった。

六日目になった時点でトーグ村全体の防衛を諦めた。代官屋敷を中心にして四方へ土壁を築き、 守(・) る(・) 範(・) 囲(・) を一気に狭めた。この時点で回復魔法に使うMPが払底。薬とポーションによる治療のみに切り替えたものの戦線離脱する兵士が増え始めた。

そして、七日目の今日。

朝も早くから襲ってくるモンスター相手に剣を振るいつつ、指揮を執りつつ。時折蹴り倒して殴り倒してと大忙しだ。

総指揮官である俺が指揮だけに専念できず、最終防衛ラインである代官屋敷の傍で、周囲の防衛網を突破してきたモンスター相手に戦わざるを得ない状況に陥っていた。

(どこでミスった……最初からもっと狭い範囲で守るべきだったか? でも大人数を守りつつ生活できるだけのスペースを確保するってなると、村の中央広場周辺以外なかったしな……)

モンスターを片付け終わって僅かに確保できた時間に、水分を取りながらそんなことを思う。

雨が降った時と同様に、村人達は代官屋敷とその敷地内に収容してある。重さで屋敷が崩壊しないことを祈りつつ、一階に病人や兵士の重傷者を詰め込み、二階に健康な村人を詰め込み。庭には突貫作業でテントを増やして軽傷者や仮眠を取る兵士を放り込んである。

幸いなことに死者は出ていないが、それは治療に使えるリソースを全投入してきたからだ。このままいけば死者が出るのは時間の問題だろう。回復魔法が使える者はMPが少しでも回復すれば治療に当たらせているが、既に重傷者が複数、軽傷者は多数出ており、戦力は防衛当初の半分以下となっている。

最初から代官屋敷に村人を詰め込み、その周りを兵士で固めていればもっとマシな状況だっただろうか――なんて考えて、俺は思わず苦笑してしまう。

過ぎたことを言っても仕方がないし、そもそも、現状は村人を代官屋敷に 文(・) 字(・) 通(・) り(・) 詰め込む形になっている。村人一人ひとりが横になって眠るスペースはなく、膝を抱えて眠るのが精々。プライバシーもクソもない劣悪な環境に置く羽目になっている。

もしも最初から代官屋敷に村人を詰め込んでいたら、今頃どうなっていたか。更に言えば村の中は建物があるためモンスターが潜みやすく、地形に邪魔されて戦い難い場所がある。村の外周に壁を築いて戦うのとでは雲泥の差だ。

だから己の選択は間違っていなかったのだと自分に言い聞かせるが、結局はこうして限界が見え始めている。

(こうなると、壁で囲われたアルバの町が羨ましいな。守りやすいっていうのは大事だったわ)

水分を取ったついでに愛剣の手入れを簡単に行う。刃に付着したモンスターの血や脂を雑に拭うだけだが、連戦になると徐々に響いてくるのだ。

自分自身の『召喚器』なら消して再度召喚するだけで済むが、この剣はランドウ先生からの貰い物である。刃こぼれしない頑丈さ、優れた切れ味こそあるが付着した血や脂は手入れしなければ取り除けない。手入れさえすれば切れ味と頑丈さを保持できると思えば武器として十分だが。

「若様……」

そうやって俺が休憩を取りつつ武器の手入れをしていると、顔色を悪くしたゲラルドが声をかけてくる。体調不良とまではいかないが、肉体的、精神的な疲労が溜まっているのだ。

「先ほど援軍に回した分で予備の戦力が底を突きました。これからどうすれば……」

おっと、状況が状況だけに弱気が出てきたか? 不安そうな顔をしながら話しかけてくるゲラルドに俺は苦笑を向ける。

「どうしたゲラルド、しっかりと顔を上げろ。それにどうするも何もやることは変わらんぞ。救援が来るまで防衛を続けるだけだ。そうだろ?」

「それは……そうなのですが……」

「予備の戦力については負傷者の中から怪我が軽い者を選んで頑張ってもらうしかないな。まだなんとか……そうだな、十人程度なら捻り出せるはずだ」

現在治療中の者達を思い浮かべて俺はそう口にする。戦力は限界が近付いているが、まだ限界ではないのだ。

(そろそろコレを使わざるを得ない、か……)

俺は自らの 命(・) 綱(・) として持ち歩いているポーションを意識する。

負傷者の治療に使っているポーションと薬も、兵力同様限界が見え始めていた。節約しながら治療に使っていたがダンジョンに取り込まれて既に七日目である。事前の予測通り物資の不足が目の前に迫っていた。

俺が持っていたポーションは全部で五本。高品質のポーションが一本、中品質のポーションが二本、低品質のポーションが二本あったが、中品質と低品質のポーションは既に一本ずつ使っていた。

それでも各品質のポーションが一本ずつ残っているため、上手いこと分けて使えば重傷者を数人は治療できる。

(スグリの店からポーションを買ってなかったら既に死人が出てたな。今度会ったら礼を言っておかないと……無事に帰れたら、だけど)

そんなことを思いつつ、これからどうしたものかと頭を悩ませる。

早ければ今日中に救援が来てもおかしくはない。あの軍監のことだ。脱出した時と同様に、ダンジョンに入れば魔法を撃ってこちらに救援の存在を知らせるぐらいはしてくれるだろう。軍監がいないとしても、そうするよう言い含めるぐらいはしているはずだ。

そうなればあとは楽勝――とまではいかないが、救援の存在を周知して士気を上げ、トーグ村に到着するまで守り切るのは難しくない。

救援の合図を見落とさないよう、比較的元気な村人に頼んで代官屋敷の二階から四方に目を向けさせている。見つければすぐに周囲に伝わるだろう。

問題は、今日中に救援が来ない場合である。

最短で一週間程度と伝えてはあるものの、当然ながら一週間過ぎても救援が来ないことは十分にあり得る。しかし今の状況だと一秒でも早く救援が駆け付け、助けてほしいと思うのが普通だろう。 最(・) 短(・) で(・) 、という言葉を無視したように願ってしまうことを止められはしない。

そんな状況で、今日中に救援が来なければどうなるか。村人が自棄になったりパニックを起こしたりしないか? 暴れるだけなら鎮圧できるが、多数に同時に逃げられたら追うのも困難だ。

ま(・) だ(・) 安全が保たれている状況でトーグ村から逃げ出すとは思わないが、パニックになると予期せぬ行動をする者も出るだろう。ただでさえストレスがかかる環境で、日毎に負傷者と病人が増え、じりじりと戦力が目減りしているのだ。

こうなったらいっそのこと、竜騎士でも派遣してくれればいいのに、なんてことを考える。たとえ少数でも援軍が到着すれば士気が回復するし、救援物資を届けてくれるだけでも大助かりだ。

そこまで考えたものの、そういえば、と『花コン』の知識を思い出す。

『花コン』では主人公がドラゴンの卵を入手し、孵化させて移動手段にするイベントがある。それによって遠くのダンジョンにも挑戦できるようになるのだが、主人公が育てたドラゴン以外はダンジョンに近付くと 野(・) 生(・) に(・) 帰(・) っ(・) て(・) し(・) ま(・) う(・) のだ。

光属性である主人公が育てたことでダンジョンへの抵抗力を得たのだろう、というのが『花コン』での推測である。

竜騎士の数は少ないし、普段から重要な仕事が山積みになっていたはずだ。少数で人員のピストン輸送をするのも難しく、それならば最初から軍を編成して派遣した方が混乱も少ないだろう。

可能性があるとすれば、ランドウ先生みたいな強者をダンジョンの近くまで輸送し、単独でも少数でも良いから突入させて救援に向かわせることぐらいか。

(俺が『魔王の影』なら絶好の機会だって判断して殺すな。人類側の強者を削れる良い機会だろうし……この時期だとどこに潜んでるんだ? その辺の描写は『花コン』でもなかったんだよな)

今日も今日とて元気に暗躍していることだろう。というか、俺が今いるダンジョンに『魔王の影』がいる可能性もあるのだ。そうなるとやっぱり竜騎士での援軍は……無理か。国の上層部も同じことを考えそうだ。

(無理なものは無理で、結局、追い込まれる形になったか……)

仮に『魔王の影』が裏にいて負の感情を得ることが目的だとすれば、狙い通りに事態が推移してしまったといえる。防衛を始めた当初は『魔王の影』が関与している可能性は低いと思っていたが、今となっては半々ぐらいの確率で関与を疑っていた。

その理由は三つ。

一つは、未だに死者が出ていないこと。

負の感情を得るためにじわじわと嬲り殺しにしている、と考えれば納得もいく。こちらが治療に使えるリソースを全投入しているとはいえ、実に見事な匙加減と言えるだろう。

一つは、死者が出ていないことに関連するがリッチやレイスが途中から出てこなくなったこと。

雨が降ってからは獣系モンスターやゴブリンなどの亜人系モンスターが増え、攻城戦でも行うように攻めてくるようになった。闇魔法で即死することはなくなったがこちらが築いた土壁を破壊したり、ゴブリンが民家の屋根に登って遠くから弓矢で攻撃してきたりと、対処が面倒な行動を取り始めている。

最後の一つは、現状そのものへの疑問だ。

俺よりもダンジョンに詳しく、騎士団長としてこれまで働いてきたウィリアムがトーグ村を守り切れると判断するだけの戦力を俺に託してくれたというのにこの様なのだ。

ウィリアムの見立てが甘かったのか、俺の指揮が下手だったのか。そのどちらか、あるいは両方か―― そ(・) れ(・) な(・) ら(・) まだ良かった。

俺はモンスターが襲ってきていないことを確認してから指揮所に置いてある紙の束を手に取る。

トーグ村で防衛を始めてからいつ戦闘が発生したか、戦闘の際に誰がどんなモンスターを倒したか、どの戦闘で誰がどんな負傷をしたかなど、戦闘に関する報告書である。

この戦いを乗り切れた後に騎士や兵士へ論功行賞を行うための資料であり、ないと思いたいがこのまま全滅してしまった時にこの場で何が起きたかを他者に伝える重要なものでもある。

(……やっぱり、襲ってくるモンスターが多いよな)

斜め読みだが資料を再確認し、俺はそんなことを思った。

さすがに襲ってきたモンスター全て、一匹すら漏らさずに戦果が記載されているわけではない。それでも誤差が大きすぎると論功行賞に使えないためある程度は正確で、だからこそ現状の異常さをまざまざと伝えてくる。

『花コン』でも『魔王』が発生した際には 津(・) 波(・) の(・) よ(・) う(・) に(・) モンスターが押し寄せてくると表現されたが、それに大きく劣るとしても、モンスターの質が低いとしても、単純な物量で押し潰されそうになっていた。

仮に『魔王の影』が裏にいたとしても下手な指し手だと思ったが、延々とモンスターに襲わせるだけでこちらは敗北するのだから強引な力押しで十分ということだろう。

「大将、戻りやした」

「御苦労。どうだった?」

そうやって俺が戦闘に関する報告書を確認していると、元冒険者の男性が姿を見せた。その後ろにはトーグ村にいた現役の冒険者達の姿もあり、それぞれが疲労と緊張を隠しきれずにいる。

餅は餅屋ということで、冒険者達に周囲の情報収集を依頼したのだ。

「相変わらず死霊系モンスターの姿はねえんですが、モンスターの数が尋常じゃねえ。異常成長したにしても中規模になり立てのダンジョンとは思えねえっすわ」

「やっぱりそうか……モンスターの強さは?」

「体感だが規模の割にゃ弱めって感じで……だよな?」

元冒険者の男性が話を振ると、現役の冒険者達もそれぞれが頷く。それを見た俺は顎に手を当て、脳内で算段を立てていく。

「脱出させたい者を少数、諸君らに託したとして……ダンジョンから脱出することは可能か?」

「その脱出させたい少数っていうのが、大将やそっちの魔法使いの坊主、もしくは腕が立つ騎士様なら……それ以外だと足手まといになるから絶対に無理ですぜ?」

「諸君ら冒険者だけなら?」

「……この村で派手に戦ってモンスターを引き付けてもらって、その隙に俺達がこっそり抜け出して、その上で運が良ければなんとかいけるかも……って感じですかねぇ」

なんでそんなことを、と訝しむ元冒険者の男性に俺は小さく笑って誤魔化す。

(この村の近辺を調査するぐらいなら大丈夫でも、脱出は困難か。いけそうならダンジョンから出てもらって、こっちに向かっている救援の軍を急かしたかったけど……)

まあ、さすがに無理があるか。モリオンだけなら脱出させられるかもしれないっていうのは魅力的だけど、この場で一番魔法に長けていると断言できる存在がいなくなるのはきつい。予備の戦力を他の場所に回せるのも、この場にモリオンがいるからといっても過言ではないのだ。

それでも、『花コン』のことを思えばまだ余裕が残っている内にモリオンを脱出させたいところだが。

「モリオン、魔力はどれぐらい残っている?」

「体感で残り半分……といったところでしょうか。節約のために下級魔法しか使っていないので、まだまだ戦えます」

俺が尋ねるとモリオンが戦意旺盛に答える。なんとも頼もしいことだが、これでMPが厳しいようなら脱出させることを本気で検討したんだが。

(今日は耐えられる。明日もまだなんとか耐えられる。明後日以降は……)

どんなに甘く見積もっても、明後日以降は時間の経過と共に加速度的に犠牲が増えていくだろう。兵士も騎士も、防衛網を突破されれば村人も、そして最後には俺も死ぬ。

その前に逃がせる者だけでも逃がすか、あるいは逃げている途中で死ぬ危険性が高いからこのまま守り続けるか。その辺りの判断も全て俺がするべきことで、肩が重いし紐で縛り上げたように胃が痛む。

「……? ミナト様、アレを!」

モンスターを処理して僅かに空いた時間に休息しながら思案していると、モリオンがそんな声を上げた。何事かと思えば代官屋敷の二階を指さしている。

「――――! ――!」

四方を見張らせていた村人が、慌てた様子で何かを叫んでいた。距離があるため聞こえないが、何かを必死に訴えている。

「っ!? 救援が――」

間に合ったか、という言葉は、俺の口から出る前に掠れて消えた。目を凝らしてみれば、村人の顔が恐怖に歪んでいるのが見えたからだ。

俺は近くにあった家屋の屋根に飛び乗り、村人が指をさしている方向へ視線を向ける。ダンジョンの外側ではなく内側、すなわち 中(・) 心(・) 部(・) の方向を注視する。

「…………ははっ」

そして思わず笑ってしまった。楽しくも喜ばしくもないが、笑うしかなかった。

(なんで……ここにいるんだよ……)

最早防壁として機能していない土壁の向こう。ダンジョンが異常成長したことで生えた木々の奥からこちらへと近付いてくる存在を見て、俺は心中でそう呟いていた。

遠く離れていても伝わってくる威圧感。同じ中級のモンスターであるリッチがかすんで見えるほどの存在感。そして何よりも、何百メートルと離れているはずなのに感じ取れる死の気配。

それらが理屈ではなく実感として俺に教えてくれる。

(そう、だよな……ゲームじゃなくて現実なら、あり得るよな)

――ボスモンスターが自ら移動して殺しにきた、と。

「っ……総員傾聴! 村の外に強力なモンスターを確認! 推定ボスモンスター! 種類は……」

そこにいたのは首がない巨大な漆黒の馬にまたがり、二メートルを優に超える巨体に 全身鎧(プレートアーマー) を纏ったこれまた首から上が存在しない異形。

できればこんなところで会いたくなかった、厄介極まりないモンスター。

「デュラハンだ!」

絶望が声に滲まないよう気を付けながらも、俺は警戒を促すべくそう叫ぶのだった。