作品タイトル不明
第50話:トーグ村防衛戦 その6
思わぬアクシデントがあったものの、カリンを代官屋敷に連れて行った俺は村人達に声をかけてから再び指揮所で待機することとなった。
地面を転がったことで濡れた衣服を着替え、『火球』を叩きつけたことで火傷した場所に軟膏を塗って包帯を巻き、篝火に当たって軽く暖を取る。もうじき夏が来るとあって日中はそれなりに暑いが、雨も降っているし夜中になるとやや肌寒いのだ。
幸い、俺とカリン目掛けて降ってきたスライム以外に侵入したモンスターはいなかった。それでも一匹は通してしまったわけで、警戒の兵士を増やして監視の目を強めている。
「この場はゲラルドに任せて私もミナト様についていけば良かったですね」
落ち着きを取り戻すとモリオンが眉を寄せながらそんなことを言った。どうやら俺がアシッドスライムに襲われたことを気にしているらしいが、あんなことを予想する方が無理だろう。
「いや、モリオンがついていったとしてミナト様をどうやって助けるんだ? 瞬時にアシッドスライムだけを排除できるのか?」
「……『風刃』で……いえ、難しいですか。ミナト様のように『火球』で焼くには調節が……凍らせるにしても、ミナト様ごと……」
ゲラルドがツッコミを入れ、モリオンが真剣に悩む。それを聞いていた俺は、短い距離の移動とはいえ油断したなぁ、と眉を寄せた。
ランドウ先生から夜間だろうと雨の中だろうと戦えるよう叩き込まれたが、俺自身が油断していたら意味がない。今回は直前で気付くことができたものの、あれがアシッドスライムではなく遠距離からの魔法だったらどうなっていたか。
(眠気と疲れがあったから、なんて言い訳したらランドウ先生にボコボコにされるな。もっと気を引き締めないと……)
そんなことを思うが、どんなに鍛えていようと人間は睡眠を取らずにはいられない。疲労に関してもポーションで回復するには限界がある。
それでも、今の状況では寝るに寝れない。本当は仮眠を取るつもりだったが、一匹とはいえモンスターが侵入していたのだ。仮眠を取るのは村内に配置した騎士達からの報告次第である。
(でも、明日以降のことを考えるとある程度で切り上げて順次仮眠を取らせる必要がある、と……厄介だな)
トーグ村の防衛設備はそのほとんどが突貫作業で作り上げたものだ。特に村の周囲に作った土壁は土魔法で強引に作ったため、今夜の雨脚次第では崩れる場所も出るだろう。
(こんなことになるなら魔法に特化した兵士をもっと連れてくるんだったな)
現状、連れてきた部下の中に魔法に特化した 魔(・) 法(・) 使(・) い(・) は少ない。そもそもサンデューク辺境伯家の騎士団全体で見ても少ないし、なんなら『花コン』に登場するキャラでさえ純粋な魔法使いは少ない。
俺の教師役である魔法の先生は軍役に同行していないし、各騎士が率いる一部隊につき一人か二人、魔法が得意な者が混ざっている程度だ。火力を確保するための 砲(・) 台(・) 役(・) である。
魔力があるのに魔法が使えないランドウ先生や『火球』の扱いにさえ苦労している俺みたいなケースは稀で、きちんと学べば得意な属性の下級魔法までは習得できるのが魔法である。
中級以上は無理でも下級魔法なら扱える騎士や兵士ばかりだが、魔法に特化できるほど才能豊かな者は一握り。しかし『土槍』で防壁を作ったように下級魔法でも十分な効果を発揮するため、それ以上の威力を求めない者も多い。
中級以上の魔法は基本的に範囲攻撃になるため、使える者を一ヵ所にまとめて運用するのは過剰である。ゲームのように敵だけに魔法が命中するなんてことはなく、味方を巻き込む危険性があるからだ。そのため現状のように分散させた方が何かと便利だった。
将来の『魔王』の発生に備えるなら、広範囲をモンスターの群れごと薙ぎ払えるよう魔法使いを集めた部隊を作るというのも手ではあった……が、魔法の使い手自体は多くても部隊を作るには魔法使いが足りない。二、三十人程度の小規模な部隊なら作れるが、それをすると他の部隊の火力が足りなくなる。
(今の騎士団も試行錯誤して、一つの部隊が色んなことに対応できるよう 汎(・) 用(・) 性(・) を持たせてるんだよな。何かに特化させると他の部分にしわ寄せがくるし、ままならんなぁ……)
だからこそ『花コン』のように少数精鋭、最大で四人までのパーティの方が『魔王』を倒しやすいのかもしれない。
『花コン』では育成期間の三年間を通して主要キャラの多くが一騎当千の強者に成長していく。それぐらい強くないと『魔王』に勝てないっていうのもあるだろうけど、 こ(・) の(・) 世(・) 界(・) で実際の人間として生きてきた身としては彼ら、彼女らの才能が破格だからこそ成長し得るのだと理解できた。
まあ、ゲームの主人公と能力や好みで選んだ三人でパーティを組んだとしても、それ以外のキャラもダンジョン内での会話イベントに顔を出すから実際は同行しているんだろうけどさ。
――何故、俺がこの状況でこんなことを思考しているのか?
それは指揮官として現状を鑑みた場合、一つの案が頭の隅でちらつくからだ。
俺が考えていることは単純で、現状を打破するためにダンジョンの破壊は可能かどうか、という検討である。
ダンジョンが異常成長した際、軍監と話をしたがダンジョンを破壊する手段は基本的に二つ。
一つは特定のモンスター……ボスを倒すこと。
一つはダンジョンの 基点(コア) を破壊すること。
『花コン』でも大規模ダンジョンや特定のダンジョンは破壊する手段が決まっていたが、通常のランダムで作成されるダンジョンはこのどちらかの条件が選ばれ、達成するとダンジョンが破壊できた。
サンデューク辺境伯家が過去に破壊したダンジョンの情報と照らし合わせた結果、この世界でも同じだと確認できている。大規模ダンジョン等に関しては破壊したことがないため『花コン』と一緒かはわからないが、通常のダンジョンなら破壊手段は二択なのだ。
――今いる場所が、 通(・) 常(・) の(・) ダ(・) ン(・) ジ(・) ョ(・) ン(・) ならば。
(異常成長したダンジョンも同じ方法で破壊できるか? ボスモンスターは居場所を特定して倒す。基点も場所を特定して破壊する。基点の破壊は場所がわかれば簡単だけど、大体ダンジョンの一番奥にあったよな……)
俺は視線を巡らせ、トーグ村周辺の地形が記された地図を見る。街道や近辺にあったダンジョンへ至るまでの道、村の猟師が利用する獣道など、様々な情報が記されていた。
(『花コン』を基準にし過ぎるのはまずいけど、中規模ダンジョンのボスはかなり強い……基点は負の感情が一ヵ所に集中してできた場所だったはず…… 例(・) 外(・) の(・) パ(・) タ(・) ー(・) ン(・) でさえなければそのどっちかでダンジョンを破壊できるはずだ)
『花コン』だと攻略対象キャラの一部に設定されているイベントで、破壊方法が通常と異なるダンジョンが登場する。
代表的な例はランドウ先生で、主人公の性別が女性かつ好感度が一定以上になると出現する『桜花のダンジョン』が例外のパターンだった。
ダンジョン内で特定のルートを通って必要な会話イベントを全て発生させた上でボスモンスターを倒し、なおかつ隠された と(・) あ(・) る(・) ア(・) イ(・) テ(・) ム(・) を入手するという複合的な条件を達成する必要があるのだ。
(……まあ、先生の場合は通らないといけないルートに桜が咲いててボスモンスターのところまで迷わず行けるし、必須のアイテムもボタンを連打して会話をスキップしてなければ見落としようがなかったけどさ)
俺が今直面している異常成長したダンジョンに関して、そういった条件が設定されているだろうか? いや、ないか? あったとしても判断のしようがないっていうのが正直なところだが。
ボスモンスターを倒せばダンジョンを攻略できるっていうのは、色々なゲームでも お(・) 馴(・) 染(・) み(・) だった。基点に関しても『花コン』のグラフィック上では見るからにおどろおどろしい、呪われた邪神像みたいに特徴的な外見だったから発見さえできれば見間違えることはない。
ボスモンスターに関してはそのダンジョンに出現する他のモンスターよりも遥かに強い、あるいは厄介な能力を持っているから遭遇すればわかるはずだ。
問題は、ボスモンスターがいる場所までこちらから出向かなければならないという点だろう。ボスらしくダンジョンの奥深くだったり、何かしらのギミックを解除して通れるようになった秘密の部屋だったりにいるのだ。
ゲームと違ってダンジョンの中を闊歩している可能性もあるが……その場合は他のモンスターと同じようにアルバの町かトーグの村を襲うはずである。端から端まで徒歩で数日、下手すると一週間を超えそうな広さのダンジョンを無秩序に移動されたら遭遇することすら困難だが。
そこまで思考した俺は元冒険者の男性へと視線を向けた。
「確認したいが、ダンジョンを破壊する方法はボスを倒すか基点を破壊するか。この二つで間違いないな?」
「へい、そうでさあ。それがどうかしやしたか?」
「少しな……参考までに聞かせてほしいんだが、元冒険者としてこのダンジョンをどう見る? ボスモンスターがいると思うか? それとも何かしらの基点があると思うか?」
何かを判断するとしても基準となる情報が欲しい。そう思って問いかけると、元冒険者の男性は遠くを見るように目を細めた。
「大将、俺ぁ上級に手が届かなかったしがない冒険者なんであまりアテにゃならんと思いやすが……ボスモンスターの方かと」
「理由は?」
「消去法ですわ。基点ができる場所ってのは何かと曰くがあって、野盗の集団が討伐されただとか病気で村人が大勢死んだだとか……そういう話が噂程度でも耳に入るんでさ。しかしこの村に住んでから近辺でそういったことはなかったんで、ボスモンスターの方かなと」
「……なるほど」
立場上全面的に信じるのは危険だし、他の村人にも確認をしたいところだが、負の感情が溜まって云々って情報を知っていると今の話に納得ができる。
「ボスモンスターの方だとして、肝心のボスはどんなやつだと思う?」
「いやぁ、さすがにそいつぁわかんねえです。今んところ出てきたモンスターは獣系に鳥系に亜人系に軟体系に死霊系でしょ? 種類がバラバラすぎて推測のしようがないですわ」
無茶言わんでください、と締め括る元冒険者の男性に俺は苦笑を返す。
「若様、そのようなことを確認して一体何を……あっ、駄目ですよ! 絶対に駄目です!」
俺達の会話を聞いて何を思ったのか、ゲラルドがそんなことを言い出した。一体何事かと疑問の目を向けるが、ゲラルドは妙に焦った様子である。
「何の話だ?」
「とぼけても駄目なものは駄目です。ボスモンスターを倒しに行こうとしているでしょう?」
「……いや?」
思わぬ疑いをかけられ、理解するのに少し時間がかかってしまった。
俺がボスモンスターを倒しに行く? 異常成長して中規模ダンジョンっていう危険地帯に変貌した場所の、一番強いであろうモンスターを? 死ぬわ。そもそもボスモンスターのところに辿り着く前に他のモンスターに殺されるわ。
ボスモンスターの居場所がわかっていて、なおかつトーグ村の防衛に就いている騎士や兵士の中から最精鋭を選抜すれば挑むところまではいけそうだが……モリオンも連れて行って遠距離から魔法で削れば倒せる可能性はあるか?
(でも、『花コン』だとボスは通常のモンスターよりもステータスが高いからなぁ。弱点の属性の魔法をMP切れになるまで連射してもらえば勝てるか?)
むむむ、と俺は考え込む。モリオンがいるし、他の騎士や兵士にも援護で魔法を撃ってもらえば倒せるかもしれない。
ボスモンスターがいる場所に関しては、モリオンに頼んで以前みたいに高所から探してもらえば見つかるか? 水平線に隠れるとしても、高所からなら目視できるかも……。
「ゲラルド、君の発言でミナト様が本格的な検討を始めたようだが?」
「え? これって俺が悪いのか? い、いやでも、若様は単独で村から飛び出してモンスターを倒しに行くぐらいだし……」
「あの時は弓を使うゴブリンがいたしリッチもいた。早急に倒さなければ村の中に攻撃が届いたかもしれないし、私の援護もあった。ミナト様が何も考えずに突撃するわけないだろうに」
俺が考え事をしていると何やらモリオンとゲラルドが言い合っている。まだ元気が残っているようで何よりだ。
(ま、いくら考えてみても無理なものは無理か。このまま防衛に徹するのが妥当かつ最善だな)
そう結論付け、モリオン達と眠気覚ましを兼ねて雑談をしていると、雨に紛れて足音が近付いてくる。鎧を着た人間が駆ける、金属音が混じった重さを感じる音だ。
緊急時は鐘を鳴らす手筈になっているため何かしらの伝令か、定時報告か。雨天かつ夜間かつ光源も乏しい現状、伝令に馬を使うと危険なため兵士が直接走ってくるしかないのだ。
足音に気付いた兵士が警戒態勢を取って誰何し、いくつか言葉を交わしてから俺の前へとびしょ濡れの兵士を連れてくる。
「マーカス様よりご報告です。村の東部に大きな異常なし。壁が崩れた場所から侵入しようとしたモンスターとの戦闘が現時点で二回発生し、軽傷者が二名。出現したモンスターは獣型ばかりでこれまでと変わらず。もう少し様子を見てから順次兵士に仮眠を取らせていくとのことです」
「わかった。だが、この雨だ。負傷した者は軽傷でもきちんと手当をするよう伝えてくれ」
雨で不衛生な状況だし、怪我が悪化したらまずい。そう言い含めて伝令の兵士を送り出すと、村のあちらこちらに配置した各部隊から続々と伝令の兵士がやってくる。
今のところ負傷者は出ても死者はなし。出現するモンスターが変化した様子もない。ただし、雨で土壁が崩れている場所が何ヵ所かあるようだ。そのためかき集めた木材や住民の家屋から徴発した机や扉を使って無理矢理塞いでいるらしい。
報告を聞いたモリオンが逐一地図に情報を書き込んでくれるが、やはり急ごしらえの防衛設備では色々と無理があったようだ。
「負傷者が多い、または疲労が酷い者が増えたらすぐに報告を頼む。最低限の護衛を残してここから交代の兵士を出す」
十人しかいないから予備の戦力としては心許ないけどな。状況によっては代官屋敷周辺で警戒をしてくれている冒険者や村の若い衆に頼み、伝令を任せないと人手が足りないかもしれない。
本音としては今の段階で任せたいけど、村にモンスターが侵入する可能性が高い状況では不安の方が大きい。冒険者はまだしも、村人だとモンスターに襲われたらそのまま殺されかねん。
状況が悪くなれば休ませている兵士を叩き起こして動かすが、休憩時間が短いと明日以降に差し障るから最後の手段だ。
(というか、俺もそろそろ寝ないとまずいな……)
一通り報告を受けてからそんなことを思う。色々と眠気覚ましの手段を講じてはいるものの、さすがに疲労と眠気が無視できなくなってきた。しかし安穏と眠るには状況が悪すぎる。
「次の報告が来るまで少し休む。みんなも交代しながら休んでくれ」
そう言って俺は椅子に体を預けた。本当は横になって眠りたいが、そうすると仮眠どころか熟睡してしまいそうだ。
各部隊からの報告も何か問題があれば報せる程度で頻度を減らしたいところだが、各部隊の無事を確認する意味合いもあるため難しい。
あってほしくないが、どこかしらの部隊が不意打ちを受けて全滅していることに気付かずモンスターが大量に侵入していた、なんてことも起こり得るのだ。特に、リッチのような複数に対する即死攻撃を可能とするモンスターがいる以上は手を抜けない。
そう考えると少しの時間とはいえ眠るのも怖いが、これ以上起きていても頭が回らなくなる。そう自分に言い聞かせ、俺は目を閉じた。
そして翌朝。
仮眠を取っては報告の兵士が来る度に起き、指示を出しては仮眠を取るという健康によろしくない夜を乗り越えた俺は、夜明けと共に回復しつつある空模様を眺めながらため息を吐く。
(あー……こいつはまた、きついな……)
体調や眠気もそうだが、明るくなるにつれて昨晩の被害状況が詳細に判明し、体が重くなっていくように感じられた。
幸いなことに死者はいない――が、負傷者の数がこれまでにないほど増えている。
重傷、軽傷、あとは雨の中長時間行動したことで体調を崩した者。それらをまとめると兵士全体の二割ほどの数になる。
騎士は全員健在だが疲労が溜まりつつあり、顔色が悪くなってきている者が数名いた。まあ、総指揮官ってことで比較的安全な場所にいた俺も鏡を見れば目の下に隈ができているぐらいだ。現状だと絶好調な者はいないだろう。
俺は目元を揉みつつ、思考を回す。負傷者は治療して復帰してもらうが病人はどうしようもない。視界が確保できる日中にやるべきことをやらなければ。
「村の中にモンスターが入り込んでいないか、目視での再確認を行う。その後は崩れた土壁の補修を行うが……モリオン、魔法使いとして答えてくれ。地面がぬかるんでいる場合でも『土槍』を使って壁を作れるか?」
「不可能とは言いませんが、すぐに崩れるかと。それなら地面を掘って人力で土を積む方が形になると思います」
「そうか……外壁から遠い場所の補修は村人から作業者を募ろう。外壁の補修は兵士達で行う。作業の割り当てに関しては一任する。すまないが早急に頼む」
正直に言えば休みたい。でも休めないし、襲ってくるモンスターは待ってなどくれない。
「ミナト様、ご報告が」
「クリフか。どうした?」
代官屋敷で村人達の安全確保を任せていたクリフが指揮所にやってきたが……どうにも表情が冴えない。ああ、これは良くない報告だわ。
「村人に関して確認したところ、体調不良の者が現時点で十二名、その兆候がある者が三十四名ほどいまして」
「っ……」
その報告に一瞬眩暈がしそうになる。この状況で病人が発生? 兆候がある者を含めれば村人全体の十分の一の数だぞ?
(……いや、待て、落ち着け……トップが取り乱すと下も取り乱すし、守られている側も不安に思う……)
俺は意識して深呼吸をすると、表情を隠すように口元に手を当てた。
「発熱や咳は? 重い症状が出ている者は?」
「発熱している者が多く、咳は一部に見られます。今のところ重い症状が出ている者はいません。この村にいた薬師の見立てでは疲労と緊張で風邪を引いたのだろう、とのことで」
「……病人は隔離だ。看護する者は必ず清潔な布で口と鼻を覆わせ、看護が終わった後はうがいと手洗いを徹底させろ。可能なら症状が軽い者に看護を任せたいが、無理そうなら人を回す」
病気はポーションや回復魔法でも治らないし、看護するしかない。感染する病気だとまずいから病人を看護する場所は新しく用意しなければ。
「モリオン、怪我人とは別に病人を寝かせるための場所を作りたい。防備が厚くてなるべく広い家屋にベッドを運び込む形にしようと思うがどうだ?」
「恐れながらミナト様。 こ(・) れ(・) か(・) ら(・) も(・) 病人が増える可能性を考えるなら代官殿の屋敷にベッドを運ぶ方が良いかと。敷地内に井戸もありますし、後々分散して管理する羽目になるよりは最初からまとめて管理した方が却って手間もかからないと思います」
「なるほど……また天候が崩れた時に病人を移動させるのも手間、か。それなら健康な者が使う部屋は換気を徹底させろ。感染する病気なら一気に広がるからな」
おそらくは薬師の見立て通り疲労と緊張感が原因で体調を崩している者ばかりだと思うけど、感染性の病気にかかっている者がいれば一気に広がりかねない。そのための手洗いとうがい、換気の徹底だ。
他にも細々とした指示を出し終わると、周囲に聞こえないようこっそりとため息を吐く。
(……今日で四日目、か)
最短で救援が来るとしても、今はまだ丁度折り返し程度の日数しか経っていない。これでもしも救援が遅れれば、その時は――。
(いや、まだだ。まだ余裕があるし耐えられる。雨が上がったから立て直せる)
俺は自分に言い聞かせるようにして、頭を振って弱気を追い出すのだった。