軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第396話:救援の途 その7

イチジョウ――その家名は、かつてランドウ先生から 昔(・) 話(・) を聞いた際に出てきた名前だ。

ランドウ先生が仕えていた主君の家名にして、オウカ姫の家名でもある。

ランドウ先生からすれば、守り切れなかったオウカ姫の実家だ。かつて仕えた相手ということもあってか、その態度は硬い。

「おおっ……ランドウ! お主か! 久しいのう! いや、この状況では大きな助けだ! まさに万の援軍を得たも同然よ!」

だが、そんなランドウ先生とは裏腹にイチジョウの態度は明るかった。片膝を突くランドウ先生の肩に手を置き、立ち上がらせようとしている。

「……改めまして。ランドウ先生の一番弟子。ミナト=ラレーテ=サンデュークと申します」

「なんと、ランドウの弟子? それならば疑う方が無粋というものか!」

改めて名乗り直すと、イチジョウの態度が柔らかくなる。どうやら同盟国に所属する辺境伯家の嫡男より、ランドウ先生の弟子って言う方が好感度が高いらしい。

(ご、豪快な人だなぁ……いや、助かるけどさ……)

国が違えば常識も違う。それでも、一応の信用を得られたことの方が大事だ。

「イチジョウ様! 敵の増援です!」

そうやって言葉を交わしていると、イチジョウと比べると地味目の甲冑を着込んだ武者が駆けてくる。おそらくは部下なのだろう。

「避難民の盾となれ! 相殺できる者は魔法で相殺! 身を挺してでも被害を出すな!」

イチジョウがすぐさま指示を出す。それを聞いた俺は表に出ないよう注意しつつ、内心だけで眉を寄せた。

(魔法で相殺? って、あれは……)

まさか、と思いながら視線をずらす。相変わらず降りしきる雨のせいで視界が遮られているが、遠目にぼんやりと、いくつもの人影が見えてきた。

人影の多くは筋骨隆々な男―― 腰蓑(こしみの) だけを身に着け、手にはトゲのついた金棒を握る偉丈夫だ。肌の色は赤色だったり青色だったりと、前世でもどこかで見たことがあるような格好をしている。

(亜人系モンスター……鬼か!?)

『花コン』においては『桜花のダンジョン』でのみ出現する中級モンスターだ。高いHPや攻撃力を持ち、接近戦を得意とするモンスターである。

そして、そんな鬼達に混ざって進んでくるモンスターの姿があった。こちらは骸骨に甲冑を着せれば そ(・) う(・) な(・) る(・) だ(・) ろ(・) う(・) と言わんばかりの外見である。

(あっちは死霊系モンスターの……骸骨武者だったか?)

鬼と同様、『桜花のダンジョン』でしか出現しない中級モンスターだ。そして死霊系の中級モンスターということは、 ア(・) レ(・) を使ってくるわけで。

「失礼! 私が前に出ます!」

魔力の高まりを感じ取った俺は、すぐさま駆け出して避難民や武者の前へと飛び出す。そして飛来した『暗殺唱』を『一の払い』で両断しつつ、更に前へと駆けていく。

『ガアアアアァァッ!』

俺を見た赤鬼が笑い、声を上げながら金棒を振り下ろしてくる。力強く、常人がまともにくらえば一撃で潰れそうなほどに重そうだ。

――まあ、当たらないんだが。

抜いた剣先で金棒に軽く触れつつ、 進(・) 路(・) を(・) 誘(・) 導(・) して受け流す。そして金棒が地面にめり込んだ隙に踏み込み、すれ違いざまに赤鬼の胴を薙いで両断した。ついでに返す刃で心臓付近を貫いて即死させる。

『ッ!?』

鬼や骸骨武者が驚いている間に、俺は更に剣を振るう。最優先で狙うのは骸骨武者だ。後ろにランドウ先生がいるとはいえ、万が一にも『暗殺唱』が避難民を襲うとまずい。

そうして真っ先に骸骨武者を三体ほど仕留め、続いて手近なところにいた鬼を片っ端から斬り伏せていく。

「おお……何者だ!?」

「誰かはわからんが助太刀感謝する!」

そうやって斬って回っていると、殿にいた者達から声をかけられた。それぞれ鬼と斬り結んでいたが、こちらが片付けばそちらへと踏み込み、端から順に斬り飛ばしていく。

「手伝うぜ師匠!」

俺が鬼や骸骨武者を片付けていると、上空から降ってきた透輝がそう叫んで鬼の相手を始めた。続いてリリィやナズナもキュラスから飛び降りて加勢し、モリオンとメリアはキュラスに乗ったまま頭上から魔法を撃って援護をしてくる。

そうして戦うこと一分少々。群れで襲ってきた鬼や骸骨武者が全滅したことを確認した俺は剣を鞘に納め、イチジョウの元へを足を運ぶ。

「ひとまず敵は全滅させました。今の内に撤退を」

「ランドウの一番弟子と聞いたが、その若さで大した腕だ……いや、今は撤退を進めるべきか」

感心したようにイチジョウが言ってくるが、すぐに現状を思い出したのだろう。部下と思しき武者達に指示を出し、避難民の誘導を再開する。

「ところで、上空のドラゴンについてだが……もしや王国の竜騎士だろうか?」

「そんなところです。私の弟子、トウキ=テンカワの乗騎であるキュラスと申します」

実際には王国に認められた竜騎士ではないが、王女であるアイリスが管理する竜でもあるし、将来の竜騎士であることにも間違いはない。それにダンジョンで竜騎士が活動していることへの疑問を覚えられるのも面倒だったため、軽く流す形で説明をする。

「そうか……先ほどはすまなかった。鬼共だけでなく、空からドラゴンが襲ってきたのかと思ってな……」

「いえ、こちらこそ紛らわしくて申し訳なく」

普通の竜騎士ならダンジョン内に突入できないし、ダンジョンにドラゴンがいれば敵だと思うのも当然だろう。そう思ったため素直に謝罪を受け取ると、イチジョウは小さく破顔するのだった。

避難民を護送しながら話を聞いた結果、北島では現在、『桜花のダンジョン』に取り残された者達の脱出が行われているそうだ。

ダンジョンが発生した当初は各地で防衛し、その間にダンジョンを破壊するつもりだったようだが、ダンジョンの破壊に失敗――正確に言えばボスモンスターのところまで辿り着くことができなかったそうだ。

『 基点(コア) 』らしきものが見つからないためボスモンスターの撃破がダンジョン破壊の鍵だと想定されているが、『桜花のダンジョン』は相当に広く、ボスモンスターの位置を探り当てることができなかったらしい。

そのため防衛の戦力が残っている内にダンジョンからの撤退を決定。被害を出しつつも避難民を連れて撤退し、ダンジョンから順次脱出していっているそうだ。

話を聞いた限りでは、『桜花のダンジョン』は北島全体を覆うほどの大きさはない。それでも多くの町や村が飲み込まれ、撤退を余儀なくされたとのことだ。

イチジョウは北島ノ将――つまりは北島全体の指揮官に当たる存在らしく、今回の大規模な避難の指揮を執っていたらしい。

「北島全体の指揮官というのなら、後方で指揮を執って部下の方に脱出の指揮を任せるべきだったのでは?」

『王国北部ダンジョン異常成長事件』で指揮を執ったことを棚に上げ、そう尋ねる。あの時はいきなりダンジョン内に取り込まれたし、仕方がなかったのだ。

「何を言う。指揮官たるもの、皆の前に立って動かねば誰もついてこないではないか」

「……たしかにそういう面もありますか」

俺は納得したように頷く――が、それは現場指揮官の考えであって、全体的な指揮を執る場合は違うんじゃないか、とも思った。ただ、 お(・) 国(・) 柄(・) も関係するだろうし。深くは追究しない。

現在避難中の民は千人ほどになるが、軍事教練でも受けていたのかと疑いたくなるほど整然と列を成し、黙々と進んでいく。

これもまたお国柄というやつなのだろうか。パニックから立ち直ると冷静かつ沈着に行動し、イチジョウ達指揮官や兵士の指示に従い、彼らに守られながら歩いている。

見れば、列の端に当たる場所を歩く民は刀や槍を持ち、『召喚器』を発現できる者は発現していた。仮に兵士達が突破されようと、自分達で対処するんだと言わんばかりである。

(さすがランドウ先生が生まれた国だ……ただの農民だろうと戦闘民族っぽいぞ……)

その辺に野生の達人が混ざっていたりしないだろうか? なんて考えてしまう。杖を突きながら歩く老人が古強者に見えてくるほどだ。

そうして歩くことしばし。時折襲ってくるモンスターを倒しながら進んでいく内にダンジョンの端についたのだろう。 境(・) 目(・) を超えるとダンジョン特有の威圧感が消え去り、民や兵士の間に安堵の空気が広がっていく。

ダンジョンを抜けた先にあったのは、救助の拠点として使っているであろう村だ。パエオニア王国の村と異なり、建ち並ぶ家屋は木造のものが多い。それでいて屋根は藁葺きだったり、木造だったり、瓦葺きだったりと、前世でいうところの戦国時代や江戸時代で見られるような建物が多かった。正確に言えばテレビの時代劇で見たような建物、というべきか。

(和風……っと、こっちの世界だとキッカ風か。懐かしさを感じる前に異国情緒を感じてしまうのは、こっちの世界に馴染んだ証なのかねぇ……)

俺だけでなくナズナ達も物珍しそうに建物を観察している。特に目を輝かせているのは透輝で、『すげえ! 時代劇みたいだ!』なんて言ってはしゃいでいた。どうやら考えることは一緒らしい。

だが、時代劇みたいな景色は良いとして、どう見ても避難民を収容できるほどの家屋があるようには見えない。特に今は雨が降っているため、下手すれば体調を崩す者が出てきかねないだろう。

そうやって心配する俺だったが、案内されて移動してみると村の外れにいくつもの天幕が張られているのが見えた。

突貫で作ったのか支柱を立ててロープを通し、布地で屋根を作っただけの簡素なものだが、きちんと雨除けの処置が施されているのか雨漏りをしているようには見えない。

避難民達は文句を言うこともなく、それらの天幕に向かったかと思うと思い思いにくつろぎ始めた。なんというか、慣れているというか図太いというか……。

「サンデューク殿達はこちらへ」

兵士にそう言われ、案内されたのは一際立派な天幕である。避難民達の天幕は屋根しかなかったが、案内された天幕はテントのように壁として布地が張られ、雨風を防ぐよう作られていた。

天幕に入った俺達は外套を脱ぎ、水気を払う。もっとも、戦闘まで行ったため服は中までぐっしょりと濡れている。そのため最低限水気を払うに留め、失礼にならない程度に服装を正してからイチジョウと向き合った。

「改めて……今回は助かった。礼を言う」

そう言って頭を下げるイチジョウは、これまでと違って兜を脱いでいるため様相が異なる。

前世で見た時代劇のように 月代(さかやき) は剃らず、ランドウ先生のように 総髪(そうはつ) の形で白髪混じりの黒髪を結っており、それを見た俺は内心だけで首を傾げる。

(兜とかが蒸れるから月代を剃ってるんじゃなかったっけ? いやまあ、俺も詳しくないから間違ってるかもしれないけどさ)

髷(まげ) 自体は 茶筅髷(ちゃせんまげ) と言うのだったか。お茶を立てる時の道具みたいな形で結ってある。

おそらくは五十代に差し掛かっているのだろう。イチジョウの顔立ちには年齢相応の皺が刻まれているが、顔立ち自体は精悍そのものである。指揮官として先頭に立つと言っていたように、自らを鍛えている者特有の引き締まった肉体と気配があった。

「いえ、礼の言葉は受け取りますが、こちらも悪天候で進路を見失い、偶然ダンジョンに突入してしまった面がありまして……」

そう言って俺は苦笑を浮かべる。生まれ故郷だし、師匠だし、ランドウ先生に受け答えをしてほしいのだが、先ほどから妙に大人しいのだ。そのため俺がリーダーとして答えると、イチジョウはチラ、とランドウ先生を見てから視線を俺に移す。

「助かったのは事実だ。特に、敵の魔法を斬ったあの技。アレがなければもっと被害が出ていただろう……大したものだ」

「我が師より教わった技になります」

そう言いつつ俺もチラ、とランドウ先生を見る。

さすがに間を取り持ってほしいのだが、今日のランドウ先生は普段以上に口数が少ない。どうやらかつての主君が相手ということもあり、言葉に迷っているらしい。

あるいは――彼がオウカ姫の父親だからだろうか。

(仕方ない……この場は俺が対応するしかないか)

口数もそうだが、普段と比べて雰囲気が重いランドウ先生の横顔を見た俺は、周囲に聞こえないよう心中だけで大きく息を吐くのだった。