軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第394話:救援の途 その5

サンデューク辺境伯家の屋敷を出発した俺達は、キュラスに時折指示を出しながら空の旅を往く。

といっても、キュラスも光竜として相応に賢く、一度指示を出せば後は目的地に向かってしっかりと飛んでくれる。それでも時折指示を出しているのは、現在飛んでいる場所が 色(・) 々(・) と(・) 複(・) 雑(・) な(・) 場(・) 所(・) だからだ。

サンデューク辺境伯家から東に――正確に言えばパエオニア王国の東には大規模ダンジョンが存在する。かつてランドウ先生やナズナと共に修行で利用した、俺としては馴染み深い場所だ。

そんな大規模ダンジョンだが複数の国に接しており、サンデューク辺境伯家は東の大規模ダンジョンおよび他国からの防波堤としての役割を担う家でもあった。

そ(・) ん(・) な(・) 場(・) 所(・) を飛んでアーノルド大陸の東端まで行き、そこから更にキッカの国まで飛ぶ必要があるわけで。

「そうだぞ、キュラス。しっかりとダンジョンを沿うように飛んでくれ」

『キュウッ!』

俺が指示を出すと、キュラスは嬉しそうに返事をしながら翼を羽ばたかせる。最初はあんなに小さかったキュラスも、今では七人と荷物を乗せても力強く飛んでくれるほど、立派に育っていた。

そんなキュラスに対して俺が出した指示は、東の大規模ダンジョンに沿って飛ぶというものである。

キュラスなら大規模ダンジョンに突入することもできるため、本当はそのまま突っ切っても良い。そっちの方が早くアーノルド大陸の東端まで到着できるのだが、どの道キッカの国に渡る前にもう一泊する必要があるため、キュラスのことが『魔王の影』に少しでもバレないようにすることを優先した結果だ。

あとは大規模ダンジョンを通過して他国に出た場合、ダンジョンからモンスターが飛び出してきたと勘違いされて攻撃される可能性がある。それならパエオニア王国の竜騎士が使うであろうルートを辿り、他国の兵士に攻撃される可能性を減らしたいという思いもあった。

この世界において、前世であったような国際的な無害通航権みたいなものは存在しない。怪しい行動をしていたら誰何され、そのまま攻撃されるし、最悪捕縛なり殺害なりされる。そのため発見されにくい、比較的安全なルートを通っていく必要があるのだ。

それが大規模ダンジョンの傍、そして他国間の国境線である。

普(・) 通(・) な(・) ら(・) 大規模ダンジョンの傍や国境線では見張りの兵士が配置される。だが、兵士が見張っているのはダンジョンからのモンスターや他国の兵士だ。つまり、空を移動している相手は索敵の対象外である。

もちろん、練度が高い兵士なら空もしっかりと監視しているだろう。モンスターの中には鳥系やドラゴン系といった飛行を可能とするモンスターがいるからだ。だが、こちらが乗っているのは光竜である。

兵士に発見されるよりも先に、キュラスの方が発見できる。そうして先に発見できれば進路を変えるなり、高度を上げて雲を壁にして突破するなりできるのだ。

そうやって 地(・) 表(・) の(・) 面(・) 倒(・) 事(・) をひとっ飛びに越えつつ、大規模ダンジョンを沿うようにぐるりと進んだら今度は東へと進路を取る。さすがの俺も直接は行ったことがないが、キッカの国に一番近い場所までまずは移動する必要があった。

パエオニア王国の東南および東にはいくつもの国があり、その内の三つ……ロータス、ハーチス、モクレーの順番に通過していく。東に進路を取ったのは最後、モクレーに到達してからだ。

モクレーの東端がアーノルド大陸の東端であり、そこから海を渡ってキッカの国まで飛んでいくのである。

「俺、パエオニア王国から初めて外に出るけど、どこの国でも上空から見る分には大して変わらないんだなぁ」

そうやって空を飛んでいると、ふと、透輝がそんなことを呟く。キュラスの手綱を握りながらどこか感心したように言うが、俺としては苦笑を返すしかない。

「俺もパエオニア王国から出るのは初めてだから、なんとも言えないな」

前世のように気軽に海外旅行に行けるような世界ではないのだ。自分が生まれ育った国から出たことがある者となると、外交官や商人、旅人ぐらいだろう。あとはこの世界では少ないが、他国との戦争でもしない限り自国から出る必要も機会もないと言える。

あと、パエオニア王国はアーノルド大陸の中でも一、二を争う大国だが、他の国と比べて極端に文化や技術が発展しているということもない。そのため透輝が言う通り、上空から見る風景に大きな差はないだろう。

「そんなもんか……」

透輝は納得したように呟き、キュラスの手綱をしっかりと握り締める。そうやって時折会話をしつつも、空の旅は順調に進んでいくのだった。

そして、夕方の少し前になると今日の目的地へと到着することができた。

アーノルド大陸の東端。キッカの国に最も近い港町、ラーシンである。俺も実家での貴族教育の中では聞いたことがある場所だったが、実際に訪れるのは初めての場所だ。

ラーシンの港町が属しているモクレーはパエオニア王国と東の大規模ダンジョン越しに国境を接しているが、最低限の国交はともかく、友好国と呼べるほどの交流はしていない。

そのためキュラスで乗りつけると問題になると判断し、少々離れた場所に降りてもらい、そこからは徒歩でラーシンまで移動し、オリヴィアが用意してくれた身分証で町へと入ることにした。

身分証があるから直接乗り付けても問題がない……と言いたいところだが、パエオニア王国ならまだしも、他国では竜騎士の存在は希少である。モンスターの襲撃と勘違いされたら困るのだ。

そんな安全策を取って足を踏み入れたラーシンだが、港町だけあって様々な国の人間が訪れているのだろう。服装を見た感じ、モクレー以外の国の商人や旅人もちらほらと見受けられる。

(服装やちょっとした顔立ちが違うのに、言語は全て日本語っていう違和感が……オリヴィアさんに聞いた話だと、世界規模で言語の統一がされたみたいだから当然っちゃ当然なんだけどさ)

周囲の会話に聞き耳を立てていると、そんなことを考えてしまう。俺としては一つの言語で会話ができるのだから楽で良いが、前世の感覚だと明らかに外国人の風貌なのに日本語がペラペラで違和感を覚えてしまうのだ。それも周囲の人間全てが そ(・) う(・) な(・) の(・) だ(・) か(・) ら(・) どうしても違和感を拭えない。

そして、そんな俺の違和感を共有できるであろう透輝はこの場にいない。キュラスを一人だけで留守番させるのは心苦しかったらしく、キュラスを隠すべく降り立った森の中で野営をするとのことだ。

更に、そんな透輝が心配になったのか、あるいは別の理由があったのか。リリィも森の中に残り、そんなリリィを心配したのかメリアも森の中に残りと、二手に別れる形になっていた。

「初めて訪れましたが、どうにも雰囲気がおかしいような……」

「若様、気のせいか浮足立っているような空気を感じませんか?」

モリオンとナズナが怪訝そうな顔をしながらそんなことを言い出す。それを聞いた俺は改めて周囲を観察するが、二人の言う通り、町の喧噪とは別種の 何(・) か(・) が紛れているように感じられた。

「聞いたか? キッカの……」

「ああ、例の……」

聴覚に意識を集中すれば、そんな会話が聞こえてくる。どうやら『桜花のダンジョン』が発生したことに関し、噂話が流れてきているようだ。

(発生から既に一週間……船でどれぐらいの時間がかかるかはわからないが、こうして他国まで情報が流れてきているのか……)

おそらくはもっと早い段階で情報が届いているだろう。そうでなければ道行く人々に広範囲で噂が広がるということはないはずだ。

「…………」

そんな周囲の噂話が聞こえていないはずもなく。沈黙しているランドウ先生をチラリと見る。その表情からは何を思っているのかうかがい知れず、かといってそれを尋ねられるほど空気が軽くない。正直に言えば、雰囲気が怖くて何も聞けない。

「失礼。オレア教の者だが、今の話、少しばかり詳しく聞かせてもらえないだろうか?」

そのため俺は情報収集に努めることにした。今回の俺達はオリヴィアに身分証をもらっているし、オレア教関係者といっても過言ではないだろう。

「オレア教の……?」

「はぁ……別に構わないが……」

少しばかり怪訝そうな顔をされたが、それでも俺が堂々としているからか。声をかけた二人組の男性は気前良く話をしてくれる。

キッカの国はミカドなる一族が治める中央の島――首都はキョウというらしいが、中央の島を基点に東西南北に大きな島が存在する。他にも多くの小島が存在するが、それらを上空から見ると菊の花の形のようになっているからキッカの国、というのが『花コン』での説明だった。

そして東西南北に存在する島の一つ、 北島(ほくとう) に突如として巨大なダンジョンが発生した。それこそが『桜花のダンジョン』と呼ばれることになったダンジョンで、現地では住民の避難と並行してダンジョンの破壊が進められているらしい。

ただし、俺達がいるラーシンと北島の距離は船で二日から三日程度とのことだが、今のところダンジョンの破壊に成功したという話は入ってきていないようだ。

「そんな状況なのか……噂程度で構わないが、被害状況は?」

そう言いつつ、俺は情報料として銀貨を一枚手渡す。現地に到着すればパエオニア王国の外交官、あるいはオレア教徒から話を聞けるが、今の内に聞けるだけ聞いておきたかった。

「具体的な被害はさすがに……ただ、ダンジョンから住民を避難させる際にそれなりに死傷者が出ているって噂だ」

「ここの港からもポーションや薬、食料なんかを積んだ船が何隻も出ているらしくてな。負傷者相手に売りつけるんだろうけど、それで採算が取れると見込めるぐらいには怪我人が出てるんだろうよ」

「なるほど……」

どうやら既に商人も動いているらしい。いや、おそらくは情報が入ってすぐに動いたんだろうけどさ。こういう時、商人って生き物は動きが早いものだし。

他にも色々と噂話を聞いた俺は、追加でもう一枚銀貨を手渡す。

「ありがとう。参考になったよ。良ければこれで一杯やってくれ」

「いいのか? いやぁ、こんなにもらっちゃって悪いなぁ」

「キッカに渡るのか? それなら何かの縁だ。旅の無事を祈っておくよ」

そう言って立ち去る二人組。それを見送った俺はランドウ先生へと視線を向ける。

「というわけで先生、北島という場所がダンジョン化しているようなのですが……」

「……俺がかつて仕えていたのも そ(・) こ(・) だ(・) 。そうか……あの場所が……」

一応話を振ってみれば、ランドウ先生からの反応があった。その反応を見た俺は、明日は朝一で出発した方が良いな、なんて思ったのだった。