作品タイトル不明
第393話:救援の途 その4
「父さん……俺の娘のリリィです」
「は、はじめまして……リリィです」
せっかくの機会だからと色々と相談したら、未来の子どもがいることまで見抜かれた俺である。改めて言葉にするとレオンさん、かなりおかしいな……いやまあ、アレクとかもそうだけど、優秀な貴族って本当にすごいわ。
それでもリリィが未来の世界では果たせなかったこと――俺やメリア以外の家族とはまともに話せなかったことを思えば、ここで祖父であるレオンさんに会わせておくのも吝かではない。いや、むしろ良いことだろう。
(たとえリリィが未来に戻ったとしても、父さんには会えない……それを思えば会わせない方が良いかとも思ったけどな……)
今の時代でなら俺も生きているし、こうしてリリィを紹介して会わせることができる。しかしながら未来の世界ではそれもできず、祖父と孫娘としての交流は困難を極めるだろう。
それでも、今回の出会いはリリィにとっても 大(・) き(・) い(・) はずだ。俺やメリア以外の家族と顔を合わせ、言葉を交わす。レオンさんならきっと、こちらの意図を汲んでくれるはずだ。
そう思いながらの紹介に対し、レオンさんはなんといえば良いのか。苦笑と微笑みの中間みたいな、柔らかい笑みを浮かべて頷く。
「だと思ったよ……先ほど見た時、目がお前にそっくりだったからな。ただ……」
どうやら目付きが俺とそっくりだと思われていたらしい。よく言われるけど、そんなに似ているか? なんて思っていたら、レオンさんは表情を苦笑へと変える。
「顔立ちと髪の色がこの子にそっくりな子も同行していたな? 彼女が母親か?」
「……はい……ご想像の通りです……」
簡単に見抜かれてしまったが、こればかりは仕方がない。俺の目から見てもメリアとリリィはよく似ており、並んでいたら血のつながりを容易に察せられるからだ。
銀髪で、顔立ちも似ていて、背格好も近い。そんな二人がいたら最低でも親族だとわかるだろう。年齢的には姉妹と思われそうだが、 リ(・) リ(・) ィ(・) が(・) 俺(・) の(・) 娘(・) という情報を加えると簡単にバレてしまう。
「えと……お父さん? わたし、どうすれば……というか、なんで連れて来られたの?」
「すまない。父さんと話していたらリリィの存在に気付かれてしまってな」
あっさりと推測されてしまったよ、と最早笑うしかない。そうやって俺が事情を説明すると、リリィは気まずそうな顔をしながらレオンさんを見る。
「あの……その……な、なんとお呼びすれば?」
「…… そ(・) ん(・) な(・) 質(・) 問(・) が出るっていうことは、未来の世界では孫として認知されていないのか……」
そして、リリィのちょっとした言葉から未来の情報を読み取るレオンさん。その表情には憐憫の色が浮かんでおり、複雑そうにリリィを見ている。
「君の好きに呼んで良いさ。お勧めはおじいちゃん……かな?」
だが、すぐさま柔らかい表情を浮かべると冗談混じりにそんなことを言う。それを聞いたリリィは目を瞬かせると、視線を彷徨わせてから口を開く。
「そ、それじゃあ……えっと……お、おじいちゃん……って、呼んでいい……ですか?」
「……ああ……もちろんだとも」
リリィが恐る恐る尋ねると、レオンさんは微笑みながら頷きを返す。そしてリリィの緊張を解くためか、微笑んだままで口元だけを苦笑の形に歪めた。
「しかし、困ったな……事情が事情だけにローラには話せないが……こんなに可愛らしい孫娘と俺だけが話したと後から知られたら 大事(おおごと) になりそうだ」
そう言って笑うレオンさんだが、リリィのことは胸の内に留めておくつもりなのだろう。誰にも口外しないとその目が告げていた。
「未来の孫娘、か……そんな君が 現在(いま) に現れたということは、未来の失敗を回避するためだろう。苦労をかけるね」
「あ、いえ……わたしもお父さんやお母さんに会いたかったので……」
「そうか…… そ(・) う(・) 言(・) う(・) ってことは、未来では君の両親は亡くなっているんだね」
レオンさんの視線が俺へと向けられる。そこにあるのは、何故死んだのかという疑問と怒りだ。リリィのちょっとした言葉から見抜いたらしい。
「ミナト、これだけは覚えておきなさい。子どもにとって親という存在は大きなものだ。年齢の差から先に逝くのは仕方がないことだとしても、せめて子どもが独り立ちするまでは傍にいてあげなさい。ましてや、自ら命を絶つようなことがあってはならない……いいね?」
まさか、未来の俺が自決したことまで見抜かれてる? なんて思いながらも俺は首肯する。リリィのことは抜きにしても、正論だと思えたからだ。
「……どうしよう、お父さん。おじいちゃん、察しが良すぎて怖いぐらいなんだけど……」
「だろう? 俺もこの人の跡を継ぐ自信がなくなってきたところだ」
リリィから密やかに言われ、俺もまた、小声で返す。レオンさんはそんな俺とリリィのやり取りを楽しそうに眺めているが……うん、多分、普通にこっちの会話を見抜かれてるわ。
「そうやって話をしているところを見ると、実に親子らしいね。そっくりだよ」
「は、はあ……」
笑いながら言われても、俺としては反応に困ってしまう。似ていると言われるのは嬉しいが、そんなに似ているのだろうか?
そんなことを考えていると、レオンさんは真剣な表情を浮かべてから口を開く。
「それで、だ……ミナト、リリィ。俺は……いや、私はこの国の辺境伯として尋ねないといけないことがある」
どこか、緊張感を含んだ声だった。そのため俺も真剣な表情で応じると、レオンさんは僅かに躊躇してから疑問を口にする。
「リリィがミナトを助けるために過去に来たというのはわかった……だが、ミナトの話から推察するに、 ミ(・) ナ(・) ト(・) が(・) 一(・) 度(・) 死(・) ぬ(・) という結果は変えられなかったのだろう?」
「そういうことになります」
俺は静かに頷く。そのついでにリリィの頭に手を乗せ、リリィは何も悪くない、気にする必要はない、と言わんばかりに優しく撫でた。
そんな俺の仕草に数秒だけ目元を柔らかくしたレオンさんだったが、すぐに元の真剣な表情に戻ったかと思うと、一度だけ深呼吸をしてから言う。
「そして、 こ(・) の(・) ま(・) ま(・) い(・) け(・) ば(・) 人類は『魔王』に対して中途半端な勝利を収め、数十年の後に再び『魔王』が発生する……ミナトが死ぬのを避けようとしたのは、『魔王』に対して完全な勝利を収めるために必要なことだった、というわけだ」
確認をするように、話をまとめるようにそう言って、レオンさんの眼差しによりいっそう力が宿る。それはどこか切羽詰まったような、焦りを感じさせる眼差しだった。
「それなのに、ミナトの死は回避できなかった……つまり、未来は変えられないということか?」
「――変えます」
レオンさんの言葉に対し、遮るようにして断言する。
「俺がきっと、変えてみせます」
それは以前、カリンに対して誓ったことだ。俺ならできると、俺なら未来を変えられると信じる彼女を、俺は信じる。
だからこそ、断言をした。
死なず、存在を消滅させず、『魔王』を『消滅』させると。
俺一人の力では達成できないことだが、仲間達の力を借りて成し遂げてみせると。
そう、断言する。
もちろん、多少の無理無茶無謀はやるし、最悪の場合、 存在(たましい) を削ってでも『魔王』を仕留めるつもりではある。だが、それは本当に最終手段だ。
俺は死にたくないし、カリンや透輝達に忘れられたくない。
今回、キッカの国で『桜花のダンジョン』が発生したように、『花コン』での知識も通じなくなってきている部分がある。だが、それが普通なのだ。先のことなどわからないのが現実なのだ。
だ(・) か(・) ら(・) 変(・) え(・) ら(・) れ(・) る(・) のだと、そう強く思う。
「……そうか」
俺の言葉をどう思ったのか、レオンさんは微笑みながら頷く。明確な根拠があるわけではないが、それでも俺の宣言を信じてくれたのだろう。そこにはたしかな安堵の色があった。
(…………?)
そうやって宣言した俺のことをどう思ったのか。
姿を見せることはなかったが、『召喚器』から向けられる呆れの色が薄くなったような……そんな気がしたのだった。
明けて翌日。
サンデューク辺境伯家の屋敷で一泊した俺達は、早朝には出発の準備を整えた。
丁度良いからと道中で購入予定だった携帯食料等も用意してもらい、屋敷へと呼び寄せたキュラスが問題なく飛べることを確認したら背中に乗り込んでいく。
「ミナト」
そうして出発準備を進めると、見送りに来ていたレオンさんが声をかけてきた。当然ながら見送りはレオンさんだけでなく、ローラさんやアンヌさん、屋敷に務める使用人達と大人数である。
「ランドウがいるとはいえ、あまり無茶はしないように。それと、俺も当主として色々と考えてはいるが、家督を譲る第一候補はお前だ。それを念頭に置いて行動するように。いいね?」
「はい」
言外に 死(・) ぬ(・) な(・) と言われ、俺は真剣な表情で頷く。
それでもレオンさんも世界を天秤にかけることを考えているのだろう。その表情に僅かな苦みが走っていることを隠しきれていなかった。
「それでは……いってきます」
「……いってきます」
俺が出発の挨拶を口にすると、リリィもまた、小声で挨拶をした。するとレオンさんは小さく破顔し、何度も頷く。
「ああ……気を付けていってらっしゃい」
そんな 当(・) た(・) り(・) 前(・) の(・) 挨(・) 拶(・) で十分だったのだろう。破顔するリリィの背中を押して促し、キュラスに乗り込んでサンデューク辺境伯家の屋敷を後にするのだった。