軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第392話:救援の途 その3

キュラスに乗り、学園から出発して東へと飛ぶ。

キッカの国があるのはアーノルド大陸から東にいった場所のため、東へと飛ぶのは当然だろう。だが、そのまま真っすぐ飛び続けて良いかというと話は別である。

パエオニア王国の中ならある程度自由に飛んで良いが、他国も同様かといえばそうではない。飛行機が存在しないこの世界では領土や領海はともかく、領空という概念に乏しいが、ないわけではないのだ。

それに、学園からキッカの国の間には東の大規模ダンジョンも存在する。そのため真っすぐ飛んで東を目指すわけにはいかず、サンデューク辺境伯家の領地で一泊したら東の大規模ダンジョンに沿う形で飛び、その後は国境線の境目付近を飛行して東へ向かうこととなる。

東の大規模ダンジョンを挟んだパエオニア王国の反対側。そこにはモクレー、ハーチス、ロータスといった国名の国々が存在するため、その国境線を縫うようにして飛んでいくのだ。

もっとも、そうやって他国との接触に神経を尖らせるよりも先に、俺としては気にしなければならないことがあるが。

(丁度良いと言えば丁度良いから寄っていくけど、父さんにどんな顔を見せればいいのか……)

キュラスに乗って夜間も飛ぶのは危険なため、移動は日中だけになる。そのためパエオニア王国の東端、サンデューク辺境伯家で一泊する予定なのだが、西の大規模ダンジョンでの一件があるためどうにも気まずい。速達で手紙を送ったから既に事情は知られているだろう。

かといって別の場所で一泊するというのも気が咎めるという、自分のことながら困った状況なわけだ。

そんなわけで、移動中はやきもきとしていた俺である。それでも生まれ故郷であるラレーテが見えてくると不思議と郷愁を感じ、胸が詰まるものがあった。

ラレーテの前でキュラスを旋回させて敵意がないことを知らせ、ラレーテ側の誘導に従って町の外れへと降りる。するとすぐさま兵士が駆けてきたが、俺の顔を見るなり驚愕の声を上げた。

「職務により誰何を――ミナト様!?」

「先触れの使者もなく、突然すまない。急用でな。父上は屋敷にいるか?」

「は、はいっ! すぐさま伝令を出します!」

こちらが要望を告げるとすぐさま兵士が馬に乗って駆けていく。俺はそれを黙って見送るが、一緒にいた透輝がどこか感心したように声を上げた。

「はー……知ってはいたけど、ミナトって本当に 偉(・) い(・) 立(・) 場(・) なんだなぁ」

「なに、実家が辺境伯家というだけの話さ」

立場に見合った教育は受けているし、功績は立場以上に挙げているが、それはそれ、これはこれ。感心したように言われてしまえば、俺としては苦笑を返すほかない。

そうして少しの間待っていると、何やら二台の馬車が走ってくるのが見えた。どうやら迎えとして馬車を用意してくれたらしい。そのため俺はキュラスの世話を頼み、透輝達と馬車に乗り込んで屋敷へと向かう。

学園に通い出して以来だから、二年と少しぶりになるか。久しぶりのラレーテの町は以前と変わりなく、それでいて懐かしさを感じさせる。

ガタゴトと音を立てる馬車に揺られることしばし。ラレーテの町以上に見慣れた、生まれ育ったサンデュークの屋敷が見えてくる。

(まさか、こんな形で帰郷することになるとはな……)

本当、こればかりは予想外だった。それでもせっかくの機会だからと前向きに考え――にっこりと笑うレオンさんが自ら出迎えているのを見て、やっぱり早まったかな? なんて思う俺だった。

母親であるローラさんにも構われたものの、状況が状況だけに早々と解放してもらった俺は、レオンさんが使っている執務室で一対一でレオンさんと向き合っていた。

「お久しぶりです、父上」

「ああ、久しいなミナト。元気そうでなによりだ……と、言いたいところなんだが」

そう言いつつレオンさんが取り出したのは、俺が先日送った手紙である。西の大規模ダンジョンでの一件に関して記されたもので、何度も中身を読み返したのか、封筒が少しばかりくたびれているように見える。

「色々と言いたいこと、聞きたいことがあるが……最初にこれを確認しておこう。一度死んだというのは事実かい?」

「はい」

俺は隠すことなく頷く。するとレオンさんは深々とため息を吐き、額に手を当てながら空を仰ぐように天井へと視線を向けた。

「ということは、生き返ったというのも事実なわけか……それを成してくれたテンカワ君に対し、当家はどんな礼をするべきだろうね?」

「俺もそう思ったのですが、突き返されましたよ。親友だから助けた……それ以外に理由はないそうです」

「それは……」

レオンさんは小さく目を見開くと、苦笑を浮かべる。

「……良い友人に恵まれたようだね」

「はい。自慢の 親友(とも) です」

俺が断言すると、レオンさんは仕方がない奴だ、とでも言わんばかりに笑う。それでいて椅子から立ち上がったかと思うと、そのまま俺の方へと歩み寄って抱き締めてきた。

「だが、この手紙を最初に読んだ時、私がどう思ったかわかるか? まったく、いくつになっても心配させる子だ……」

「……すみません」

素直に謝罪する。というか、他に反応のしようがない。死にたくて死んだんじゃない、なんて反発できるほど若くもないのだ。

だけどまあ、怒られるんじゃないかと怖がっていたのも事実なわけで。子どもとして父親に甘えてしまっているなぁ、なんて思った。

「……それで? 今度はキッカの国だったか。こう言っては何だが、お前達が現地に赴く必要があるのか? しかもランドウを連れてまで……キッカの国は精兵揃いだ。放っておいても自分達でどうにかすると思うが……」

俺から身を離し、再び椅子に座ったレオンさんが尋ねてくる。だが、今回ばかりはその疑問に明確な答えを返せない。

「それがわからないから現地に行く、というのもありまして……」

「ん? ミナト、 お(・) 前(・) の(・) 未(・) 来(・) 予(・) 知(・) になかったのか?」

「ええ。俺が知る知識から外れたことが起きました」

レオンさんには俺のこともある程度バレているし、隠さずに返事をした。すると顎に手を当て、思考するように目を細める。

「ふむ……ということは、お前が知る未来から外れつつあるのか……あるいは無理矢理 外(・) そ(・) う(・) と(・) し(・) て(・) い(・) る(・) 者がいる? そんなことを考え、実行できるとすれば限られるが……」

「『魔王の影』ですね」

それ以外に選択肢はないだろう。そう思って呟くと、レオンさんは表情を変えずに思考を続けている様子だった。

「あるいは、 別(・) の(・) 何(・) か(・) が影響してそうなった可能性もある……か? ミナト、お前の未来予知を変えるような何かが起きてたりしないか? あるとすれば……過去を変えた結果、未来が変わった……とか」

「…………」

おかしいな……リリィのことは手紙に書いた覚えがないんだが。以前も思ったことだが、この世界の優秀な貴族って頭の回転が良すぎてついていけない……レオンさん、もしかして俺とは別の転生者だったりしない? タイムリープ物とか前世で見てないですかね?

「いや、それならお前が死んでいないか……すまないな、変なことを言った。そんな存在がいるならお前が死ぬようなことは避けているだろう。傍目から見ていると『魔王』対策の重要人物だからな。避けようとして失敗した、なんて可能性もあるが……」

「…………」

やばい、沈黙しているだけでも情報を与えてしまうが、沈黙以外の選択肢が取れない。

(この人の跡を継いで辺境伯になる自信がなくなってきた……やばい……今からでもコハクに代わってもらえないかな……)

駄目だし、無理だともわかっているが、そんなことを考えてしまう。『魔王』を倒して俺が辺境伯を継ぐつもりだったが、能力が不足している気がしてならない。少しは成長したつもりだったが、ランドウ先生に対するものとは別の意味でこの人に追いつける気がしなかった。

俺がそんなことを考えていると、俺の反応から見抜いたのだろう。レオンさんが苦笑しながら言う。

「ミナト、それでは答えを言っているも同然だぞ? それで? そんな存在がいるのか?」

これも一種の甘えだろうか? 思わずバレてしまうような態度を取ってしまった。そのため見抜かれてしまったが、ここまでくれば隠し通すのは無理だろう。

「……ちなみにですけど、仮にそんな存在がいればどんな存在だと思いますか?」

「その存在がお前の未来予知を知っているという前提で考えるが……未来の話だからな。あり得るとすればお前の子どもか? お前から事情を聞き、何かしらの手段で過去に移動してきたとか……いや、待てよ? その場合……っ!?」

途中まで言葉を紡いでいたレオンさんが不意に言葉を途切れさせ、驚愕したように目を見開く。そして落ち着きを失ったように視線を彷徨わせたかと思うと、最後には大きな、深々としたため息を吐いた。

「そう、か……そうなるってことは、『魔王』への対処は 失(・) 敗(・) す(・) る(・) のか……いや、未来が続いているということは、単純な失敗とも言えないのか?」

「…………」

何度目かになる沈黙を返し、俺もまた、深々とため息を吐く。

「父上……やっぱり俺、家督を継ぐ自信がないのでどうにかなりませんか? 父上がそのまま当主を続けて、コハクの子どもを養子にして継がせるとか……あ、モモカに優秀な婿を取らせて継がせるってのもアリでは?」

今度は心中ではなく言葉にして言う。するとレオンさんは苦笑を浮かべた。

「俺はお前以外に考えていないよ。兄として頑張りなさい」

「ですよね……」

半分冗談、半分本気で提案するが断られてしまった。

「それで? その子は今でもいるのか? というか、もしかしてだが今回同行しているんじゃないか?」

俺の様子からそこまで読み取ったのだろう。どこか楽しげに尋ねるレオンさんに対し、俺は降参するように両手を軽く上げる。

「同行してますが……会いますか? 父さんにとっては孫娘になりますが……」

「是非とも」

孫娘と聞いて、満面の笑みを浮かべるレオンさんだった。