軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第388話:将来に向けて その3

サンデューク辺境伯家の将来に関してアレコレと考えていたら、玉突き事故みたいにモモカ周辺の人間関係が変化してしまった。

その結果、何が起きるか?

『花コン』のメインヒーローの内、三人がモモカに 矢(・) 印(・) を(・) 向(・) け(・) る(・) という三角関係ならぬ四角関係……いやさ、モモカの場合他にも想いを向けている男子生徒が多々いるから、四角関係どころではない。栗のイガみたいにトゲトゲな関係を築くことになってしまう。

(一体誰に似たんだ……え? まさかこれも俺の影響か?)

モモカに色々と影響を与えた自覚はあるが、さすがに異性関係にまで影響を与えた覚えはない。というか、どうやれば影響を与えられるっていうんだ。

実家でそんな姿を見せていたのならまだしも、俺が複数人から想いを向けられる姿は学園でしか見せていないはずだ。改めて確認すると酷いな俺……。

実家で傍にいた女性は家族を除けばナズナぐらいである。他にいるとすればメイドさん達ぐらいで、彼女達とは雇用者と使用人といった関係だ。そりゃまあ、俺も相応に敬意を払っていたし、一個の人間として向き合っていたという自覚はあるが、それは屋敷に仕える者達全員が対象である。

つまり、モモカがあそこまでモテることに俺の影響は関係ない、と思うのだが。

(それはそれで複雑だな……天性のプレイボーイ……女性だからプレイガール? なんか違うけど、そんな感じに育ったってことだし……)

それだけモモカが魅力的な女性に育った、と思えば良いのかもしれないが。素直にはそう思えない兄心よ。いや、この場合はそう思った方が良いのか。少なくとも複数の異性の気持ちを弄んでどうこう、なんて性格に育つより遥かにマシなのだから……本当にマシか?

(いかんいかん、変なことを考えてるな)

そんなことを考えていた俺だったが、 目(・) 的(・) 地(・) が近付いてきたため意識を切り替える。

今どこに向かっているかというと、生徒会室だ。普段の御用聞きみたいな訪問ではなく、生徒会室にいるであろうコハクとカトレアを訪ねるために足を運んでいる。

時刻は放課後の遅い時間。そろそろ生徒会での仕事も終わっているであろう時間帯を狙っての来訪である。

扉をノックして、返事があったら名乗って入室。そうして足を踏み入れてみれば、どこか疲れたような様子のアイリスと、カトレアと席を並べて書類仕事をこなすコハクの姿があった。

(……まさか、生徒会室でイチャついてアイリスを精神的に疲れさせたわけじゃないよな)

まさかな、と思いながら入室した俺だったが、アイリスが助かった、と言わんばかりの眼差しをしているのが引っかかる。もしも想像通りだったらうちの弟がすいません……。

「こんな時間に来られるのは珍しいですね。何か急用ですか?」

普段と違う時間帯だからだろう。アイリスが不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。

「コハクとカトレア先輩に用がありまして……急用ではないですが、私用です」

「あら、本当に珍しいですね……それでは、わたしは退室するとしましょう。ちょうど仕事も終わったところですしね」

そう言っていそいそと帰る支度を始めるアイリス。俺はコハクに視線を向けるが、それとなく視線を逸らされてしまう。

「と、ところでミナト様、透輝さんは今、どちらに?」

そうやってコハクを見ていると、そわそわとした様子でアイリスが尋ねてくる。どうやら透輝に会いに行くつもりらしい。コハクとカトレアに 当(・) て(・) ら(・) れ(・) た(・) のかな?

「まだ第一訓練場で剣を振っていますよ。見に行くならそちらへどうぞ」

「は、はい。それでは……」

優雅に一礼し、退室するアイリス。その背中を見送った俺は、十分に気配が遠ざかるのを待ってから改めてコハクへ視線を向けた。

「違います、兄上」

「まだ何も言ってないぞ?」

何も言っていないのに勝手に弁解を始めようとするコハク。それを見た俺は、そっちの方が怪しいぞ、と思いながら苦笑を浮かべた。

「カトレア先輩と仲睦まじいのは良いことだが、時と場所と場合を考えなさい。いいね?」

「……はい」

「カトレア先輩もですよ?」

「はい……」

二人に釘をさせば、恐縮そうに肩を縮こまらせて返事がある。そんな二人の反応に、俺は一度だけため息を吐いた。

「っと、ここに来たのは別件だった。コハクとカトレア先輩の二人……いや、どちらかというとカトレア先輩に聞いておきたいことがありまして」

「わたしに?」

俺の発言に対し、予想外と言わんばかりの顔をするカトレア。

「後輩のミナトではなく、サンデューク辺境伯家の嫡男として尋ねます。もしも俺に何かあって死んだ、あるいは家督の相続が不可能になった場合、コハクを婿に迎えるのではなく、サンデューク辺境伯家に嫁ぐことは可能でしょうか?」

「兄上、それは……」

コハクが思わず、といった様子で声を上げようとする。しかし、これは確認しておかなければならないことだ。そのため直球で、明確に尋ねる。もちろん俺の表情も声色も真剣だ。こんなこと、冗談で聞けやしない。

「色々と気になることはあるけど……まずは先に答えておくわね。可能か不可能かでいえば可能よ。わたしには妹が複数いるし、そちらに婿を取らせてラビアータ伯爵家を継がせれば良い」

ただし、と言葉をつなぎ、カトレアは言う。

「あくまで可能というだけよ。長女であるわたしが家督を継ぐ前提で教育を受けているし、その分、妹達の教育は軽くなっているもの。だから、 可(・) 能(・) な(・) ら(・) コハク君を婿に迎えてわたしがラビアータ伯爵家を継ぎたいわ」

男児が生まれなかった貴族の長女に生まれた者として、カトレアはそう宣言する。可能なら、と。俺の方にある事情をある程度汲みつつ。

「……兄上、何かあったのですか? その……兄上が突然そんなことを言い出すなんて……」

俺とカトレアの会話を聞いていたコハクが不安を滲ませながら尋ねてくる。たしかに、突然こんなことを言われたら困惑もするし、不安にも思うだろう。

「この機会に聞いておきますが、兄上達が学生の身でありながら大規模ダンジョンを破壊していることと何か関係があるのですか? 今のはまるで……」

遺言のような、と呟くコハク。それを聞いた俺は苦笑を浮かべると、コハクの傍に歩み寄り、子どもの頃のように頭に手を乗せてぐしゃぐしゃと髪を撫で回す。

「言い方が悪かったな。すまん。 そ(・) う(・) い(・) う(・) わ(・) け(・) じゃないんだが、一応の確認ってやつさ」

コハクは次男のため、『魔王』や『魔王の影』に関して詳細を知らされていない。それに対し、カトレアは将来家督を継ぐことを視野に入れていたからだろう。俺に対して怪訝そうな、まさか、と言いたそうな目を向けてくる。

「ミナト君……さすがにそれは通じないわよ。コハク君だけならまだしも、わたしが一緒にいる時に話したんだもの。きちんと説明してちょうだい」

「あー……そう、ですね」

言われて納得してしまう。たしかに、隠すなら 匂(・) わ(・) せ(・) る(・) だけでもまずいだろう。慎重になろうとして失敗した馬鹿な自分に苦笑を向けると、俺は一度だけ深呼吸をしてから話をしていく。

話すのは西の大規模ダンジョンで『魔王の影』と交戦し、一度死んで生き返ったこと。

そしてコハク向けに『魔王』が御伽噺の存在ではなく、かつて実際に発生し、今後また発生する可能性が非常に高いことを伝えていく。

「『魔王』……歴史の授業で習いましたが……正直なところ、実感が湧きません。『魔王』が発生する……」

「『魔王の影』、ね……お父様から話には聞いていたけど、実在していたなんて……それに、まさかミナト君を殺せるほど強いだなんてね」

「アレは不意打ちでしたから。油断した俺が悪いですよ」

この場にリリィがいるわけではないが、俺は一人の剣士の意地としてそう答える。俺があの時油断していなければ、リリィに化けたアスターに背中を向けていなければ、今みたいな面倒な事態になっていなかったのだ。

「というか兄上、死んだって……父上には?」

「手紙で報告してる。国王陛下にも報告したから、黙ってるわけにもいかんだろ」

本当はキュラスを借りて直接報告に行くべきなんだろうが……怒られるのが怖いという レ(・) オ(・) ン(・) さ(・) ん(・) の(・) 子(・) ど(・) も(・) としての心が若干あった。

「……モモカには?」

「話していない。あの子には余計な心配をかけたくなくてな……まあ、勘が鋭いから気付いているかもしれんが……」

そこまで言って、俺はコハクに申し訳なさを含んだ視線を向ける。

「すまないがその分、お前には迷惑をかける。 頼(・) ら(・) せ(・) て(・) く(・) れ(・) 」

「っ……」

俺の言葉を聞いたコハクが、何故か息を飲んだ。そして少しだけ、どこか嬉しそうな様子で頷く。

「兄上が、僕を……は、はいっ! いくらでも頼ってください!」

「いや、いくらでもは頼れないんだが……」

お兄ちゃん、さすがにそこまで強欲じゃないよ? でも家督を継がせる云々は十分に迷惑な話か。

「なるほどね……だからさっきの話が出たわけか。ミナト君としてはどうなの? あなたが そ(・) こ(・) ま(・) で(・) の(・) 覚(・) 悟(・) をする状況なの?」

「可能性はゼロじゃない、とだけ…… 何(・) か(・) あ(・) っ(・) て(・) いきなりコハクが家督を継ぎます、なんてことになったら先輩も困るでしょう? だから事前に話をしておこうと思ったわけですよ」

未来の、俺が存在を消滅させるかもしれない可能性については伏せておく。それはあくまで最終手段であり、俺としても使うつもりは極力ない。ないが、もしもの備えは重要なのだ。

前世だと言霊というのだったか。実際に伝えてしまうと、本当に そ(・) う(・) な(・) っ(・) て(・) し(・) ま(・) い(・) そ(・) う(・) で怖いというのもあった。

「……一応、わたしに何があっても良いよう、妹達への教育をもっと手厚くするよう実家に手紙を出しておくわ。それでいいわね?」

コハクを婿にもらう予定だったところに、コハクに嫁ぐという選択肢をねじ込む形になってしまう。それでもそう提案してくれるカトレアに対し、俺は深々と一礼を向けた。

「はい。お手数おかけします」

「あくまで備えるだけだからね? わたし、コハク君をお婿さんにもらうつもりなんだからね? あくまで 将(・) 来(・) の(・) 義(・) 兄(・) からの提案で、わたしがサンデューク辺境伯家に嫁ぐ可能性も考慮するよう実家に伝えるだけだからね?」

重ねるように念押ししてくるカトレアに対し、俺は苦笑を浮かべながら頷く。

お婿さんにもらう、のあたりでコハクが盛大に照れていたが、こちらの提案に対処してもらえるのは非常に助かる話だった。

そしてこの日の夜のこと。

本の『召喚器』を発現し、いつも通りページの確認をしていたら、今日の生徒会室でのコハクとのやり取りのページが新たに表示されていた。

これで百ページ全てが埋まり――そのまま、百一ページ目が出現してカトレアとのやり取りも新規のページとして表示されたのだった。