軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第387話:将来に向けて その2

モリオンからの、予想外とも言える提案。

それを聞いた俺は盛大に混乱した。

(モリオンがモモカの婚約者候補に……え? マジで? 今までそんな素振り、全然見せてこなかったじゃないか……)

ジェイドやルチルのようにモモカに惚れている――なんて、単純な理由ではなさそうだが。

それでもモリオンの方からモモカの婚約者候補に関して言及したことに対し、俺は困惑と疑問を覚えた。

「こう聞くのは失礼だとわかっているが、何分、急な話だ……本気か?」

モリオンがその手の冗談を口にするとは思わないが、一応の確認として尋ねる。するとモリオンが小さいながらもたしかに、しっかりと頷いた。

(あ、いや、でも、モリオンが相手なら安心して託せるな……問題はモリオンよりもモモカ側というか、あのお転婆ぶりなんだが……)

モリオンならなんだかんだで御せる気がする。あるいは、モモカが好きなように暴れてもそれを後方から興味深そうに眺めていそうだ。

それに、先ほどモモカが言っていた俺を超えるべく在ろうとする、という条件もモリオンなら満たしていると言える。

俺よりも賢く、魔法に関しては俺どころか学園生の中でも他の追随を許さないぐらい長けているのだ。学園生以外に目を向ければメリアやオリヴィアなどがいるが、比較対象がこの二人という時点でモリオンの技量がうかがえる。

以前、モモカを託すのならモリオンかアレクぐらいじゃないと難しい、と考えたこともあった。その片割れであるモリオンからの希望なら、諸手を上げて賛成したいところなのだが――。

「…………」

先ほどまでとは違い、モモカは無言だった。まるで推し量るように無言でモリオンを見詰めている。それは俺の前で見せる無邪気な妹としての顔ではなく、貴族としての顔だった。

(警戒……に近いか? あのモモカが?)

ジェイドを拳と言葉で殴り飛ばし、ルチルも言葉だけで陥落させたモモカが見せる警戒の表情。それを疑問に思いながらも、俺はモモカの反応を待つ。

「――まあ、モリオン様ったら、冗談がお上手ですわっ!」

モモカは不意に満面の笑みを浮かべたかと思うと、両手を胸の前で合わせながらそんなことを言い放つ。その笑顔や仕草だけを見れば普段通りのモモカだと思えたが、声には貴族としての作り物めいた色があった。

「冗談などではありません。私は本気です」

そんなモモカに対し、モリオンは真剣な表情で答える。言葉の通り、本気でモモカの婚約者候補の座を望んでいるようだが……。

(あのモリオンが、 根(・) 回(・) し(・) もせずにいきなりこんなことを言うか?)

モリオンがモモカの婚約者候補に立候補する。それ自体は歓迎すべきことだが、モリオンなら事前にそれとなく希望を伝えてきているはずだ。

というか、ここまで直接的な手は打たないというのが俺の見立てである。あるいは拙速と言い換えても良い。もっと周到に準備を整え、 そ(・) れ(・) ら(・) し(・) い(・) タイミングと場所を見繕って言い出すはずだ。

間違ってもこんな、自主訓練の最中に、風情の欠片もない状況で言い出すとは思えなかった。

「本気、か……今までそんな素振りは見えなかったんだがな」

そのため、俺も少しばかり警戒するような言葉を投げかける。今更モリオンが俺を害するだとか、そういった考えはない。

ただ、ことは可愛い妹の婚約者候補にかかわることだ。疑問があるならはっきりとさせておきたかった。

そう考えての言葉に対し、モリオンはふと、表情を和らげる。苦笑するような、昔を懐かしむような、僅かな苦さが混じった柔らかくも薄い笑みを浮かべた。

「ミナト様……貴方はかつて、私のことをこの国の宰相にもなれる人間だと評価してくださいました。今でもその考えは変わりませんか?」

「ああ」

以前、たしかにそんな話をした。あれは『王国北部ダンジョン異常成長事件』の最中、モリオンを原作キャラだからとダンジョンから脱出させようと考えていた時のことだっただろうか。

その時は『花コン』で実際にそんな未来があったから、と考えての評価だったが、長い付き合いとなった今なら本心からそう言える。

「それでは、 そ(・) ん(・) な(・) 私(・) が(・) 婿(・) 入(・) り(・) す(・) れ(・) ば(・) 辺境伯家の運営も十分にできると思いませんか?」

「――――」

モリオンの言葉に対し、俺は思わず沈黙してしまった。

だって、そうだろう? モリオンの言葉が実現するのは、 モ(・) モ(・) カ(・) が(・) 家(・) 督(・) を(・) 継(・) ぐ(・) 場(・) 合(・) だ。俺でもコハクでもなく、俺がここ最近頭を悩ませていた、モモカが家督を継ぐ場合の対処方法なのだ。

(たし、かに……ああ、たしかに……モリオンならそれもできる……だろうな。俺と違って本物の神童……学園に通い始めてから常に主席の座を守り続けている傑物だ。大規模ダンジョンを破壊しているから武勲も十分。勲章も授与されている……)

俺がアレクやモリオンぐらいじゃないとモモカの相手は務まらないと考えたのは、性格や能力を考慮してのことだ。

しかし、こうして考えてみると、モリオンは実績でさえ相応しいものを備えている。アレクと違って少々知識に振り回されるところがあるが、俺との付き合いがそうさせたのか、最近ではだいぶ 砕(・) け(・) て(・) き(・) て(・) い(・) る(・) 。昔と比べ、柔軟性が備わりつつある。

(実家は直臣の子爵家……うちの家の寄り子だし、つながりも相応にある……俺とカリンみたいに家のつながりがもたらす利益は少ないが、モリオンの能力を考えれば十分にお釣りが出るぐらいだ)

辺境伯家の長女に子爵家の次男が婿入りする、と考えれば珍しくはあってもなくはない、といったラインか。モリオンの武勇や知略、実績から考えればモモカの方が釣り合いが取れていないのではないか、と心配するぐらいである。

(モリオンはゲラルドの戦友でもあるし、将来の武官側のウケは悪くない……それでいてモリオンは戦闘だけでなく、文官向けの能力も高い。判断も冷静で的確だ……あれ? これ以上ないぐらい、モモカの相手にピッタリな気がしてきたぞ……)

性格の噛み合わせで考えると、実はジェイドも悪くないかな、なんて考えていたのだが。モモカに言葉と拳で殴り飛ばされ、それで奮起して自分を高める素直さを買ってはいたのだ。

だがしかし、モリオンの高い能力と比べると劣ると言わざるを得ない。

単純に結婚させるだけなら性格の良し悪しを見るだけでも問題ないかもしれないが、ことは俺が失敗した場合――俺が存在を消滅させた場合に備えての対策でもあるのだ。

友人であり、優秀でもあるモリオンになら、後事を託せる。妹だけでなく、実家であるサンデューク辺境伯家、ひいては家族全体や家臣達、領民達を任せることができる。

できるのだが――。

(……モモカ?)

肝心なモモカが、モリオンを見詰めたままで何も言わない。ただじっと、その真意を探るように見つめている。

おそらくは、だが。

モリオンがこんなことを言い出したのは、俺がアスターと相打ちになった影響がゼロではない。その後の俺の反応から、透輝が消耗した『宝玉』の重要性に勘付き、なおかつ 俺(・) が(・) 辿(・) り(・) か(・) ね(・) な(・) い(・) 未(・) 来(・) に関して見抜いたのではないか。

アレクなら確実に見抜く。そして多分、モリオンも同様だ。

そして、 そ(・) の(・) 上(・) で(・) こんなことを言い出したのはきっと。

「モリオン様。あなたのサンデューク辺境伯家への忠義……いえ、ミナトお兄様への忠義は見事だと思いますわ。ですが、わたしは 忠(・) 義(・) を(・) 示(・) す(・) た(・) め(・) の(・) 道(・) 具(・) で(・) は(・) な(・) い(・) のです」

俺よりも情報が少ないと言うのに、おそらくは俺と同じ結論に達したのだろう。

モモカが貴族然とした、冷たさすら感じる口調で明確に拒絶を示す。

俺はモモカに西の大規模ダンジョンでの一件を伝えていない。俺が死んだこと、生き返ったことは限られた相手にしか伝えていないからだ。

それでもなお、モリオンの隠された意図に気付いた。それだけモモカの頭の回転が優れているのか、あるいはただの勘か。優れた嗅覚で答えを見つけ出したのかもしれない。

そもそも、俺が死んだことはともかくとして、俺が将来存在を消滅させるかもしれない危険性をコハクやモモカに伝え、一緒にその対策を講じるのが最善なのだろう。

俺一人で考えてアレコレと動くよりも、本人達を交えて対策を講じる方が確実だし、誠実でもあると思う。

それでも、コハクやモモカに心配をかけたくない、俺が死んだことや将来存在を消滅させる可能性を伝え、心配させたくないという思いがあった。

無論、それで本当に存在を消滅させてしまった場合、黙っていた以上の迷惑がかかってしまうのだが――存在を消滅させずに『魔王』をどうにかしてみせるという、兄としての意地もある。

そうやって黙っていた結果、モリオンが 気(・) を(・) 利(・) か(・) せ(・) て(・) 動いたというわけか。

(……こうなったらもう、近しい人間にはこれまであったこと、これから起きることを全部話して……って、それはまずいか)

既に起きてしまったことはともかく、これから未来で起こるかもしれない出来事を語るのは駄目だ。未来が変わる可能性もあるが、それ以上に俺が も(・) し(・) も(・) の(・) 手(・) 段(・) を取れなくなる可能性がある。

最悪、存在を消滅させる可能性がある方法を使います――そんなことを言われたら、絶対に止めるだろう。俺が逆の立場なら絶対に止める。

それが『魔王』をどうにかするための手段だとしても、理性が感情を上回る者ばかりではないのだ。

それでも、後を託すことを考えると、モモカはともかくコハクには話をした方が良いのかもしれない。

俺がそんなことを考えているほんの数秒の間に、モリオンもモモカの言葉を理解したのだろう。その顔に苦笑を浮かべ、眼鏡のツルを指で押し上げる。

「これはこれは……見誤った、と言うべきなのでしょうね。さすがはミナト様の妹君だ。評価を改める必要がありますね」

そう話すモリオンに、俺は思わず『花コン』のことを思い出してしまう。モリオンが『評価を改める必要がありますね』と言った時は好感度が上がったサインだった、なんてことを思い出してしまった。

事実、モリオンがモモカに向ける視線はそれまでと比べて柔らかさを帯びているように思える。もちろん、今のやり取りだけで惚れたというわけではないのだろう。あくまで評価を高くした、程度の話だ。

「ミナト様。今の話はあくまで提案です……が、 そ(・) う(・) い(・) っ(・) た(・) 選(・) 択(・) 肢(・) もあるのだと、それを忘れないでください」

「……ああ。わかった」

それは、もしもの場合に後事を託してほしいというモリオンなりの励ましなのだろう。ただし、モモカ本人にやり方がまずいと咎められてしまったのだが……。

「それでは、この場はいったん退かせていただくとしましょう。モモカ様」

「なんでしょう?」

貴族としての仮面を被って答えるモモカに対し、モリオンは小さく微笑みながら言う。

「――ミナト様への忠義は関係なく、貴女を正面から口説く分には構いませんか?」

真っすぐに言葉をぶつけるモリオン。それを聞いたモモカは数回目を瞬かせると、にっこりと笑う。

「それなら構いませんわっ! でもわたし、色々と厳しいですわよ?」

「なに、それこそ構いません。厳しい方が楽しさもあるというものです」

モモカに応えるよう、モリオンも笑う。それを見た俺は、思わずジェイドやルチルの顔を思い浮かべてしまった。

(思わぬ強敵の参戦……か?)

親しい 友人(モリオン) までもがモモカの争奪戦に参戦した事実を前に、俺は現実から逃避するようにそんなことを考えるのだった。