作品タイトル不明
第384話:試行錯誤 その3
先日、ランドウ先生と模擬戦をした時の絵が『召喚器』に表示された。訓練をしてから自室に戻り、日課の確認をしたら新しいページが出現していたのである。
これでランドウ先生は九ページ目、本全体で見れば九十九ページ目である。あと一ページで百ページに到達するが、どうなることやら。
(ページ数が少ない人が『想書』を書いてくれるようそれとなく促すか、あるいは十ページ目が見えている人を狙うか……狙うって言うとなんか印象が悪いな……)
今のところ、『召喚器』に表示されているのは『花コン』のメインキャラだけである。ここでいうメインキャラはメインとサブを問わないヒロイン、ヒーローのことだ。主人公である透輝、隠しヒロインであるメリアは除く。
そんなメインキャラの中で一番ページ数が少ないのはアイリスとモモカの三ページである。次にコーラル学園長が四ページ、カトレアが五ページ、ジェイドとエリカが六ページ、ルチルとコハクが七ページだ。
モリオンとランドウ先生が九ページで、カリン、ナズナ、スグリ、アレクが十ページまで到達しており、最後の十ページ目が淡く輝いている。
(……こうして振り返ってみると、モモカのページが案外少ないんだよな。割と影響を与えている自覚があるんだが……)
おそらくは何かしらの影響を与え、それが『想書』に書かれると俺の『召喚器』に表示されるのだと思うが……モモカは『花コン』の性格と比べても大きな差異がある人物だ。ただし、その割に『想書』に書かれた回数が少ないのか、推測が的を外しているのか。
(アイリスが少ないのは理解できるし、納得もできる。コーラル学園長もだ。ゲームじゃないんだし、学園長と接する機会は少ないからなぁ……)
アイリスに関しては透輝が召喚されてからというもの、二人をくっつけようとしていたから俺に対する印象等が薄れるのは当然だと思っている。そしてコーラル学園長みたいに接触する機会自体が少ない相手のページ数が少ないのも当然だろう。
そうなるとやはり、接する機会が多かったのに『想書』に書き込まれた回数が少ないと思しきモモカが異質に思える。双子であるコハクは七ページとモモカの倍以上のページ数が記録されているのにだ。
(単純に、面倒臭がって『想書』を書かなかっただけ、なんてオチもあり得るが……)
コハクは真面目な性格だが、モモカは大らかというか、大雑把というか、『想書』を書くよりも庭先を駆け回っていそうなイメージがある。そのため単純に『想書』に書く回数が少なかっただけかもしれない。
(……そういえば昔、勉強が嫌でよく逃げ出してたっけ……俺が教師の代わりに教えたこともあったか。懐かしいなぁ)
ただ、あまり『想書』を書かないランドウ先生でさえ九ページも表示されているのだ。それを考えると、モモカがどれだけ筆不精なのかよくわかる。
(いや、『想書』は書いてるけど俺があまり影響を与えられていない可能性も……って、それならあんな性格に育ってないか)
『花コン』のモモカとは明らかに別人と呼べるほどに違う性格に育ったのだ。それに関して俺の影響がゼロということはない、と思う。
(あるいは、影響を与えているけど一回あたりの影響が大きくて、それ以上書くことがないとか? もしくはないと思う……いや、思いたいことだけど、実は今のモモカの性格は演技で、本当は全然影響を与えられていないとか……)
俺はモモカの顔を、普段の言動を思い出す。仮にアレらが演技だとすれば、モモカは俺以上に 貴(・) 族(・) に(・) 向(・) い(・) て(・) い(・) る(・) と言えるだろう。さすがに長年一緒に家族として過ごしていた俺やコハクの目を欺いてきた、なんて思いたくはないが。
俺は椅子に腰かけ、発現していた本の『召喚器』へと視線を落とす。そして一つ、疑問というか提案を口にした。
「俺のことを『想書』に書いてくれって頼むのは……あ、駄目なんだ」
すると、『召喚器』から否定的な感情が飛んできた。どうやら誰かに頼んで俺のことを『想書』に書いてもらうのは駄目らしい。というか、書いても効果がないと考えるべきか。
(駄目かぁ……いや、こうして事前に駄目ってわかるだけでも助かるし、大きな前進だと考えよう。そうしよう)
今までは何の指針もなく、こうして可否の判断すらできなかったのだ。『召喚器』の方から駄目だと訴えかけてくるのなら俺としては助かる話である。
(普通はこうして意思疎通ができるものっぽいし、これからだな、うん)
剣術は訓練すればほんの少しずつでも成長するが、『召喚器』に関しては全くの手詰まり状態だった。そのため、少しでも前進できていると感じられる今に感謝をしようと思う俺だった。
翌日。
これまた定例というか、毎日の恒例というか。東部の派閥で 大(・) 名(・) 行(・) 列(・) を作って登校する際、俺は列の先頭近くを進むモモカへと視線を向けた。そしてモモカの隣を進むコハクとあわせ、軽く話を振る。
「そういえば二人とも、最近の学園はどうだ? 授業にはついていけているか?」
兄として軽い世間話を振る俺。まずは 聞(・) き(・) た(・) い(・) こ(・) と(・) の前振りだ。
「僕は問題ありません。次回の定期テストでも良い成績を取れるよう、毎日の勉強を欠かしていませんよ」
「う、運動関係の授業は得意ですわっ! それ以外の授業も、お兄様の妹として恥じないよう頑張ってますわっ!」
コハクは自然体で答え、モモカはやや慌てた様子で答える。うん、モモカ? 得意な授業があるのは良いことだが、貴族の令嬢が『体育が得意です!』と断言するのは中々……。
(俺の妹として恥じないように頑張っている、か……お兄ちゃん、その言葉は嬉しいんだけどな……頑張っているイコール成績が良いってわけじゃないのが……)
ちなみにだが、コハクは一年生の時からトップクラスに成績が良い。どれぐらい良いかというと、定期テストでは常に一位を争い、運動や美術などの文化的活動でも上位。
総合的に見れば主席を取り続けており、優れた才能と己を磨く努力を怠らない勤勉さを併せ持つ秀才だ。
そんなコハクに対して、モモカは勉強は中の上から上の下。辺境伯家の教育があるからこそ平均以上の成績を取っているが、コハクと比べると大きく劣ると言わざるを得ない。定期テストも順位で言えば十位から二十位といったところか。
ただし、運動神経は一年生の中でもトップだ。男子生徒が相手でも譲らず、トップである。それに意外というべきか、美術関係に強かったりもする。独特のセンスがあるというか、天才の気があるのだ。
「そうか……それなら良いんだ。授業以外はどうだ? 俺に相談したいこととかはないか?」
聞(・) き(・) た(・) い(・) こ(・) と(・) に関して少しずつ寄せていく。それでいて兄として確認しておきたいという気持ちもあった。
「そう、ですね……女性が喜ぶ物とか……あ、い、いえ、今のはなしでお願いします。そういうのは自分で考えるべきだと思いますし!」
慌てた様子で首を横に振るコハク。どうやらカトレアとの関係で聞こうとしたものの、自力で考えることにしたらしい。うん、そっちの方が喜ぶと思うよ。
「相談したいこと……うーん……」
モモカはといえば、口元に指を当てながら思考を巡らせるように宙を見ている。何か気にかかることでもあるのだろうか?
「最近、後輩の女生徒から手紙をいただいたんですの」
「ほう、手紙」
「お姉様と呼ばせてください、という内容だったのですが、わたしに妹はいないのでどうしたものかなぁ、と」
「…………」
違う、そうじゃない、と内心でツッコミを入れる。どうやら我が妹は後輩の女性にも大人気なようだ。兄としては誇らしい……いや、誇っていいのか、これ。
「モモカ様。それはきっと、モモカ様を強く慕うが故の申し出です。モモカ様もカリン様に対して姉と呼ぶでしょう? それに近いものと思えば良いかと」
話を聞いていたナズナが苦笑しながらモモカへ答える。当たり障りのない、無難な答えと言えるだろう。
「そうなんですの? わたし、妹がいないから大歓迎だったのですけれど、 そ(・) う(・) い(・) う(・) こ(・) と(・) なら断った方が良さそうですわね」
その女生徒が純粋に姉と慕っているわけではなく、 別(・) の(・) 何(・) か(・) があると感じたのか。モモカは少しだけ複雑そうな顔をした。
「何か困ったことがあったら相談すること。あとは……そうだな。気晴らしになるだろうし、『想書』に書いてみてもいいんじゃないか?」
ここで俺は本題として『想書』に関して話を振る。モモカが『想書』をどんな風に扱っているか、それを確認したかったのだ。
「…………『想書』?」
すると、モモカの動きが止まった。そして忙しなく目線を彷徨わせたかと思うと、ポンと手を打つ。
「あ、あー……『想書』、『想書』……知ってますわ、ええ……」
やべえですわ、とその表情が語っている。もっと具体的に言えば、『『想書』? どこに置いたか記憶が曖昧ですわ』、なんて考えている顔だ。
これが演技なら俺の負けだが、長年接し、教育にすら携わってきた俺にはよくわかる。
(寮で一人暮らしを始めたから、『想書』を書いてどうこうっていうのを忘れてたな……)
実家にいた時は夜になると『想書』を書くための時間が設けられていた。そのためモモカもきちんと書いていたのだろう。
俺の『召喚器』に表示された、モモカの最後のページ。それは入学直後にクラスメートに群がられている光景で、おそらくは俺に関して聞かれたんだと思う。
そう―― 入(・) 学(・) 直(・) 後(・) に一ページ更新されただけなのだ。
多分、実家を離れてそれほど時間が経っていないから、『想書』を書く習慣がまだ残っていたのだろう。それが時間が経ち、『想書』を書く意識が薄れた結果、今まで忘れていた、と。
(それとなく誘導するつもりだったけど、これじゃあ『想書』に書きそうにないな……)
妹の新しい一面を知ってしまった。
それでも俺はモモカが『想書』に何かしら書いてくれることを祈ったが、本の『召喚器』に新たなページが追加されることはなかったのだった。