作品タイトル不明
第383話:試行錯誤 その2
アスターに殺された結果一週間ほど療養することになった俺だったが、毎日空き時間があればずっと剣を振る生活を送っていたのが悪かったのか、一週間の療養は体が鈍るどころか良い方向へと転がっていた。
もちろん多少なり剣の腕が鈍ったのを感じるが、体の芯に溜まっていた疲労が抜け落ち、楽になったように感じるのだ。
ただまあ、体は良いとして、『召喚器』に関して相変わらずである。色々と試しているし、暇があれば話しかけたりもしているのだが、『掌握』に至る気配が全くなかった。
(こういう時は基本に立ち返ろう……剣術と一緒だ……この『召喚器』と意思疎通ができるようになった原因はなんだった?)
今日も今日とて第一訓練場にて自主訓練をしていた俺だが、剣を振る合間、軽い休憩中に『召喚器』を発現してここ最近の日課となりつつある対話を行う。
(カリンへの想いを明確にしたこと……あとはこの世界が現実だと思ったこと……でも、この世界が現実っていうのは最初からわかってたしな)
『花コン』に似た世界だとは思っていたが、現実かどうかを疑ったことはない。
たしかに、転生した当初は前世で不審者に刺されたものの近所の人が通報して救助され、病院のベッドに寝かされているものの目が覚めずに夢を見ているだけ、なんて可能性も検討した。
だが、転生してから既に十八年近く経つのだ。時間の流れは前世と同じだし、この世界が夢の中の作り物とは思えない。もちろん、意識不明で眠り続けている可能性が完全に否定できるわけではないが。
「ミナト」
そうやって俺がアレコレ考えていると、ランドウ先生が声をかけてきた。そして俺が握る『召喚器』に目を向け、小さく眉を寄せる。
「どうだ? 何かつかめたか?」
「いえ、相変わらず手がかりもない状態です」
俺は素直に首を横に振る。ランドウ先生相手に見栄を張っても仕方がないのだ。
「そうか……剣に関してなら教えてやれるが、さすがに『召喚器』に関してはな。詳しそうな相手にも尋ねたんだろう?」
「はい。学園長や友人に尋ねてみました」
『召喚器』使いとでも呼ぶべきコーラル学園長、それにエリカにも話を聞きに行った。しかし、その結果は芳しくない。
コーラル学園長は『『召喚器』と向き合っていたら自然と『掌握』に至った』とのことだった。
エリカはまだ『掌握』に至っていないものの、『召喚器』との対話は十分に行える。というか、『掌握』に至っていないのにあれだけの猛威を振るえる『 天震嵐幡(てんしんらんまん) 』がおかしいだけとも言えるが。
とにかく、エリカに話を聞いたところでは『『召喚器』の言うことをよく聞く』とのことだった。たしかに、以前話をした時も『召喚器』の機嫌の良し悪しがわかるような口振りだった。
そんなわけで、コーラル学園長やエリカに話を聞いた結果、『召喚器』と向き合うこと、対話することが重要だと思えたのだが――。
「相変わらず呆れたような感じがするだけで、『掌握』に至れる感じがしないんですよね……」
ここまでくれば何かしらの条件が必要なんだろうな、なんて思えた。その条件が何なのか、いまいちわからないが。
(ページ数が百ページに到達すること……とか? でもなんかピンとこないんだよな……)
感覚的に そ(・) れ(・) は(・) 違(・) う(・) と訴えかけてくるものがある。それでもまあ、百ページになってみないとわからないだろう。期待は薄いが。
「そうか……まあ、『召喚器』にはこうすればできる、ああすればいい、なんて基準はないからな。それなら今、磨けるものを磨く方が有意義だろうよ」
そう言いつつ、ランドウ先生が腰元の刀を軽く叩いてみせる。つまり、俺の腕の錆び付きがきちんと取れたかを見てくれるようだ。
「孫弟子、お前は見て学べ。今のお前にはできないものが見れるはずだ」
「了解です、大師匠!」
透輝を呼び寄せ、見取り稽古をするよう命じるランドウ先生。そんな命令に僅かに首を傾げるが、ランドウ先生の言うことだ。無意味なことではないと判断し、剣を抜く。
「それでは……」
「いつでもこい」
俺が剣を構えると、ランドウ先生も緩やかに刀を構えた。いつ見ても淀みがない流麗な動きで、刀と体が一体化しているんじゃないか、なんてことを考える。
そうしてランドウ先生と向き合い、先手を譲られたためこちらから仕掛ける。地面を蹴って一気に加速し、互いに必殺といえる間合いへと踏み込んだ。
「シィッ!」
「――――」
鋭い呼気と共に剣を繰り出す俺に対し、ランドウ先生は無言かつ平常なままで刀を振るい、斬撃を受け止める。刃金同士がぶつかり合う甲高い音が響き、剣を握った両手の中に反動の衝撃が返ってくる。
一合、二合、三合。瞬時に三度斬り結び、互いに傷はなし。こちらの動きを確認している面もあるのだろうが、久しぶりにランドウ先生と模擬戦をしたからか、相手の動きが よ(・) く(・) 見(・) え(・) る(・) 。
「っと」
振るわれた刃を紙一重でかわし、ほんの僅かな、これまでは見えなかった技の継ぎ目に向かって剣を繰り出した。すると僅かにランドウ先生の眉が寄り、やや強引ともいえる軌道でこちらの斬撃を弾く。
「ふむ……試してみるか」
何かを確認するような呟きだった。そして、俺がそれに疑問を抱くよりも先にランドウ先生が動く。
「っ!?」
いきなりランドウ先生の動きが本気になった。瞬時に五度の斬撃が繰り出され、俺はギリギリのところで――本当にギリギリのところで刃を弾き、逸らし、受け流す。
(なんでいきなりこんな!?)
内心驚きつつも、ランドウ先生の動きは止まらない。『二の太刀』等の技を繰り出すことはしないが、手加減が感じられない、全力に近い威力の斬撃が次から次へと繰り出される。
それに対し、俺は必死に意識を集中させる。受け損なえばおそらく寸止めしてくれるとは思うが、そのままうっかり俺を両断しそうな斬撃の雨を前に、必死に剣を操って受け流していく。
(…………あれ?)
そうしてランドウ先生の斬撃を受け流し続けていたが、やがて疑問を覚えた。なんというか、以前と比べると対処が楽になっている気がしたのだ。
俺とランドウ先生の実力差が劇的に縮まったというわけではない。ただ単に、俺の方がランドウ先生の繰り出す斬撃に対して 余(・) 裕(・) を(・) 持(・) て(・) る(・) よ(・) う(・) に(・) な(・) っ(・) た(・) だけだ。
(――そこっ!)
斬撃を受け流し、ほんの僅かな合間を縫って剣を繰り出す。それは当然のように防がれるが、防御に回った瞬間だけは攻撃が飛んでこない。
ランドウ先生が繰り出す斬撃を受け止められる。受け流すこともできる。合間を突いて踏み込み、攻撃を繰り出すこともできる。
一進一退――そう言えるほど互角な戦いではない。七対三、いや、八対二ぐらいの割合で押されているが、ある程度は勝負になっている。
死に近付くどころか、一度死んでしまったからだろうか。以前、ランドウ先生と一対一で戦った際にコツを掴んだ感覚があったが、あの時と比べても更に 踏(・) み(・) 込(・) め(・) る(・) ようになった感じがする。
ランドウ先生が繰り出す刃は死の気配が濃厚に漂う、一撃必殺の領域にある。だが、当たらなければ死なないのだ。
ギリギリのところでかわし、剣で弾き、受け流し。そうしてしのいだところでこちらも攻撃に転じる。よく見えるし、体が動く。壁を一つ、乗り越えた感じがする。
(その対価は俺の命……まさに命懸けってか。懸けたは良いものの、本当に死んでしまったけどさ)
思わず苦笑してしまう。同時に、苦笑の割にランドウ先生と渡り合えている事実に対する喜びが混ざる。
まだまだ一本は取れそうにない。だが、防戦一方とはいえ勝負になっているのだ。『召喚器』は相変わらずだが、剣の方は成長が感じ取れる。それが嬉しい。
そうやって斬撃を交わし合うことしばし。決着は順当というか、俺の集中力が途切れた瞬間に決まった。ギリギリのところで綱渡りをするような状況だったため、消耗も早かったのだ。
「っ……参り、ました」
剣を上へと弾かれ、胴体が開いたところで刀を突きつけられる。それは奇しくも、俺がアスターに殺された時と同じで丁度心臓を貫く位置だった。
「なるほど……普通、死にかければ委縮するもんだが、お前の場合は死を恐れない方向に転がったか」
死にかけるというか死んだんだったか、と呟きながらランドウ先生は刀を鞘に納める。
「以前よりも動きが良くなったってわけじゃねえ。ただ、紙一重まで見切れるようになったな。その分、動きに余裕が出ているぞ」
以前コツを掴んだ際は、透輝が相手なら紙一重で攻撃を見切れるようになった。だが、さすがにランドウ先生が相手の場合は無理だったのだが……どうやらそれが可能になったらしい。
「このままいけば、あと数年としない内に防御だけなら俺と互角になるかもな。防御を重点的に仕込んだ分、攻撃の意識がやや薄いが……お前の年齢なら十分、合格点をやれる。あとは『召喚器』の能力次第でどこまで化けるか、だが」
そう言いつつ、ランドウ先生は透輝へと視線を向ける。
「孫弟子みたいに大幅な身体能力の強化なら良いんだが……ま、その辺りは『掌握』してみないとわからんか」
「大ししょー、その大幅な身体能力の強化があるのに、ししょーに勝てそうにないんですがどうすればいいんでしょう?」
「訓練だ」
「ですよねっ!」
『絆石』が三つ輝いたおかげで三割ほどステータスが向上しているはずだが、俺には勝てないというのが透輝の見立てらしい。
その後、物は試しと透輝とも模擬戦をしてみたが、割と危なげなく勝利することができた。ランドウ先生が相手だと攻撃に転じる余裕がそこまでないが、透輝が相手なら突ける隙がいくらでも作り出せたのだ。
こうして、『召喚器』に関しては不調だが、剣に関してはそれなりに調子が良いと言える俺だった。