軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第211話:飛竜の塒 その6

『飛竜の塒』におけるモンスターの間引きは、最初に起きた透輝の問題を除けば順調に進んでいった。

動物系モンスターはホーンラビットにファングウルフ、ワイルドベアにグリフォンと下級から中級のモンスターが。

鳥系モンスターもキラーバードに火吹き鳥、雷鳥と下級から中級のモンスターが。

ドラゴン系はワイバーンや地竜といった中級モンスターが現れ、こちらの良い練習相手になってくれた。

動物系モンスターはその毛皮や牙、爪などが。

鳥系モンスターは羽や骨などが。

ドラゴン系モンスターは全身余すところなく利用価値がある。

『飛竜の塒』は山のため、麓からジグザグに進んで広範囲を移動しつつ山頂を目指し、その過程で出会ったモンスターを片っ端から仕留めていく。

モンスターを倒すのは基本的に俺と透輝だ。中級の中でも手強いモンスターは俺が倒し、それ以外の比較的倒しやすいモンスターは透輝に任せ、倒させる。

ナズナとモリオンはそのサポートで、複数が相手の時はナズナが止めてモリオンが仕留めるという、シンプルだが強力な戦法で次から次へと倒していく。

そうすることで毎日二十体近いモンスターを倒すことができ、透輝にとっては実に良い経験になっていると言えるだろう。いやぁ、毎日斬り放題なんて経験が積めていいな。

ここ最近は学園でのんびりした生活を送っていたし、やっぱりこうしてダンジョンにこもって剣を振るうってのはいいもんだ。まあ、剣士としては良くても貴族としてはだいぶ駄目な生活なんだけどね?

(しかし、モリオンも加減が上手くなってるし……ずいぶんと成長したなぁ)

空飛ぶモンスターの対策としてついてきてもらったモリオンだが、相手に合わせて必要最小限の威力で魔法を使い、きっちりと仕留めるという熟練の業を披露してくれていた。

出会ったばかりの頃は威力が過剰で魔力を無駄に消耗していたけど、今では的確なタイミングで的確な威力の魔法を使い、きちんと成果を挙げることができるようになっている。

さすがは透輝とは別種の、魔法における天才と言えるだろう。

ナズナもナズナで大規模ダンジョンでの訓練を思い出すのか、生き生きとした様子でモンスターの打撃や魔法を捌き、弾き、逸らしてと盾役らしい動きを見せている。

回復役がいない、やや攻撃に偏ったメンバーだが、『飛竜の塒』で間引きをするだけなら十分にパーティとして機能していると言えた。ポーションは数を揃えてあるし、そもそもポーションが必要となるような怪我自体滅多に負わないしな。

透輝が光属性の中級魔法を覚えてくれたら味方全体の回復ができるようになって、更にバランスが良くなるが……まあ、それを現時点で求めるのはさすがに贅沢か。

そんなわけで遠回りの形で山登りしつつ、山頂――正確にはドラゴンの卵がある場所を目指してモンスターを狩りながら進んでいく。

既にモンスターの間引きを始めて一週間が過ぎており、『飛竜の塒』も七割方登り詰めた。

(卵が入手出来てもすぐには孵らないし、生まれた後も成長するのに時間がかかる……乗って移動できるようになるまでどれぐらいだ? 半年から一年もあれば大人数でなければ乗せて飛べるようになるか?)

竜騎士が主に騎乗している飛竜でさえ、複数人を乗せて飛ぶことができる。これが光竜になればどうなるか……先のことだが楽しみだった。

(とりあえず卵を見つけて持って帰って、あとは透輝に竜騎士になることを勧めれば今回の依頼は達成かな? 卵が孵るまでは透輝が卵を管理するようにして……あとはアイリスにも面倒を見てもらうか)

『花コン』だと透輝とアイリスが持ち回りで卵の世話をしていたし、卵から生まれたドラゴンは 建(・) 前(・) 上(・) は(・) アイリスが所有者になる。

アイリスが召喚した透輝が騎乗するドラゴンということで、最上位者がアイリスになるからだ。それとアイリスはルートによっては水属性だけでなく光属性に目覚めるため、光竜とは相性が良いというのもあった。

まあ、アイリスが光属性に目覚めるのはグランドエンドルートだから、上手くいくかは微妙なところだが。

そんなことを考えつつ、道と呼ぶには整備されていない山道を通って『飛竜の塒』を登っていく。昨日までにかなりの範囲を間引きできたため、今日は七合目付近から山頂目指して間引きをしていく予定だった。

その過程でドラゴンの卵を探して見つけ出すのが今日の目的だ。宿として利用している兵舎に詰めている兵士達からも、もしも卵が複数あったら取ってきてほしいと言われている。一つ持ち帰るごとに今回の報酬が上乗せされるため、まさにボーナスみたいなものだ。

(卵を一つ持ち帰るだけでも良い額になる……透輝がアイリスからのプレゼントと同額の物を贈ろうとするなら、金は多い方がいいからな)

というかアイリスもなんであんなに高額の物を贈ったのやら。前世の価値で考えると軽く数十万、下手すれば百万円はするような代物だぞ。

アイリスが透輝に贈った外套は質こそ良いがデザインは割と普通で、装飾も少ないからこそ数十万円から百万円程度で済んでいると思う。

これが逆にアイリスに同価格帯の物を贈ろうとすれば難易度が上がり、もう少し安めか逆に更に高い価格帯で選ぶことになるだろう。そのため金は多く稼げるに越したことはない。

(ま、アイリスなら安い装飾品でも喜びそうだけどな。むしろ高い物を贈るより手作りでプレゼントを用意する方が喜ぶかもしれん)

王族として幼少の頃から様々な贈り物を受け取ってきたのがアイリスである。そのため値段よりもそれ以外の部分で勝負した方が喜ばれそうだ。今後透輝に教えておくとしよう。

「っと……この辺りか?」

そうやって山道を登ることしばし。今日はモンスターが少ないなぁ、なんて思っている内に目的地と思しき場所に到着した。

山頂まで登るとボスモンスターがいるため、その手前で足を止めて そ(・) れ(・) ら(・) し(・) い(・) と(・) こ(・) ろ(・) を探してみたら岩場があり、そこに草や枝葉を集めて作った大きな巣があったのだ。

そこに一つ、一抱えほどの大きさの卵が置いてあるのが見える。

(パッと見、飛竜か地竜が巣を作って卵を産んだって感じだな……でもその実態は『ドラゴンの卵』ってアイテムが巣に現れただけかもしれない、と)

この世界の不思議というか、ダンジョンの不思議というか。兎にも角にも、今回の依頼の目的を達成することができそうである。

――そう思った、瞬間だった。

「っ!? なんだ!?」

急に周囲を覆っていたダンジョンの威圧感が弾けた。膨らんでいた風船から空気が抜けるようにして、急激に威圧感が消え失せていく。

(これは……ダンジョンが破壊されたのか?)

俺は思わずこの場にいる者の中でダンジョンを破壊できるであろう、モリオンを確認した。しかしモリオンも驚いたように俺を見ており、互いに口を開く。

「国で管理されているダンジョンが破壊されるとは……」

「一体どこの馬鹿だ? って、この状況だと俺達が破壊したって思われるか。仕方ない、山頂に行くぞ。密猟者がうっかりボスモンスターを殺したとか……自分で言ってて可能性は低そうだが、とにかく状況を把握して、犯人がいれば確保だ」

国が管理しているダンジョンを破壊するなんてことは、よっぽどの事情がない限り許されない。そのため俺としては疑われることを避けるためにも犯人を捕まえる必要があった。

「透輝、とりあえず卵を確保しておけ。せっかくの戦利品……って、まずいな」

そう呟いた視線の先。そこには慌てた様子で駆けてくる兵士の姿があった。今日はモンスターがあまり出てこなかったし、素材を回収する必要がほとんどなかったから俺達に追いつきかけていたのだろう。

それに気付いた透輝がすかさず卵を回収してくる。うん、ナイスだ。とりあえず最低限目標は達成できたな。

「サンデューク殿! ダンジョンが破壊されましたが一体何が起きたのですか!?」

「申し訳ないが、こちらも情報が全くない。今しがたこの場所に到着したところでね。卵を回収しようとした矢先だったんだが……」

やましいところは何もない、と言わんばかりに答える。当然ながらダンジョンを破壊した犯人ではないため、やましいところは本当に何もないのだが。

「ダンジョンが破壊された以上、卵がどうなるかわからない。諸君らも今すぐ回収した方がいいんじゃないか?」

「それもそうですな……少しでも残っていればいいのですが」

そう言いつつ、ため息を吐く兵士。これからダンジョン周辺の町や村に向かってはぐれモンスターが出現することを伝え、同時に山の周辺でモンスター狩りをしなければならないためその大変さを想像したのだろう。

「我々はとりあえず山頂に向かい、可能ならボスモンスターを殺した者を捕らえるつもりだ。できれば諸君らにも同行を頼みたいのだが……」

「おっと、たしかにそれは重要ですな。本来なら我々がしなければならないところですが、ボスモンスターを殺したとなれば手練れでしょう。申し訳ないですが、サンデューク殿に御助力いただきたく」

堂々と胸を張って話せば、思った以上に疑われずに済んだ。続々と兵士が集まってきているが、こちらを疑う視線は想定よりもかなり少ない。

(なんでだ? まあいい、助かるっちゃ助かるしな)

あとは入手した卵を安全に持ち帰れば依頼は達成だ。ダンジョンが破壊されたことに関しては、もうどうしようもない。直す方法もないからだ。開き直りとも言うが。

「今から山頂に向かうが、 こ(・) ち(・) ら(・) が(・) 確(・) 保(・) し(・) た(・) 卵(・) を麓まで運んでもらってもいいか? 透輝、割れにくいよう外套に包んでおけ。アイリス殿下から賜った外套にだ」

「え? それって……あ、いや、わかった。ミナトがそう言うってことは何か意味があるんだよな」

アイリスからのプレゼントで卵を包めと言うと一瞬、透輝が嫌そうな顔をした。しかしすぐに表情を変えると、素直に卵を外套で包む。

うん、要はネコババ対策だ。ないとは思うけど、ダンジョンが破壊されたことで今後入手が困難になったドラゴンの卵を ポ(・) ケ(・) ッ(・) ト(・) に(・) 入(・) れ(・) る(・) 兵士が出ないよう、釘を刺すためだ。

あとはまあ、純粋に邪魔だ。一抱えもある卵を抱えて山頂に向かうのは大変だしな。素材を運搬するついでに卵も運んでもらおうって腹である。

そんな感じで兵士に指示を出し、俺達は軽く装備を確認してから山頂へと足を向け――。

(……なんだ?)

それは、なんとも形容しがたい違和感だった。リンネが行う何かしらの違和感とは異なる、生物としての根底がざわめくような、 背筋(せすじ) を体の内側から撫でられるような気持ち悪さ。

山頂に続く荒れた山道の向こうから、 何(・) か(・) が近付いてくるのを感じる。尋常ではない何かだ。

「ミナト様……」

「ああ」

額に汗を滲ませながら杖の『召喚器』を発現したモリオンの声に、俺は険しい声色で応じる。『瞬伐悠剣』を抜いてしっかりと握り、目を細めて山道の先を注視する。

視界の端ではナズナが盾の『召喚器』を発現して握るのが見えた。透輝もまた、『鋭業廻器』を発現して両手でしっかりを握り締めている。

「あの、サンデューク殿? 一体何が――」

他に卵がないかを確認していた兵士の一人が俺達の様子を見て声を上げ、途中で途切れさせる。

(……貴族の男、か?)

そして、何気なく山道の奥から姿を見せた相手を見てそう内心で呟いた。

外見は身長が百八十センチ程度の男性で、髪は金髪のオールバック。顔立ちは整っているがどこか人間離れしているというか、感情が見えない。無表情かつ無感動な様子で山道を歩いているが、その服装は山道に不釣り合いなタキシード姿だ。

(おい……おいおい、まさか、あの外見は……)

こちらを見ているようで見ていない、羽虫が群れているとでも言わんばかりの眼差し。それを見た俺は前世の、『花コン』を遊んだ時の記憶が刺激されるのを感じた。

同時に、ダンジョンが破壊されたというのに凄まじい威圧感が襲い掛かってくる。全身に鉛を括り付けた状態で深海に潜ったような気分だ。

「ッ……貴様、何者だ?」

半ばその正体を確信しつつも、俺は問いかけていた。

そして、口を開くことができたのはこの場において俺だけだった。圧し掛かるように放たれるプレッシャーは重く、初めて大規模ダンジョンに潜った時と比べてもより重苦しい圧力が全身を襲う。

「――――?」

そんな俺の問いかけに対し、男はようやくこちらの存在を認識したらしい。俺の顔を見て不思議そうにしたかと思うと、この場の面々を見渡してから口を開く。

「仕事だ」

「……仕事?」

「そうだ。我々の上司がかつて作ったダンジョンが、人間に利用されていると聞いてな。破壊しに来た」

それは、こちらの問いかけからはズレた返答だった。何者かと聞いて目的を答えるなど、情報は得られるが真っ当な返答とは言えないだろう。

だが、 上(・) 司(・) が(・) 作(・) っ(・) た(・) ダ(・) ン(・) ジ(・) ョ(・) ン(・) を破壊しに来た、という発言から俺は確信を深める。

(『魔王の影』の一人――バリスシアか!)

『魔王の影』の中でもダンジョンの操作に長けた個体。外見と発言からそう看破した俺は、歯噛みしながら内心だけで悲鳴のような声を上げるのだった。