軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第207話:飛竜の塒 その2

『飛竜の塒』――それは王都から南東方向百キロほどの地点にある中規模ダンジョンである。

直径はおよそ十キロ程度。ダンジョンの破壊方法はボスモンスターの討伐と、ある程度情報が揃っているダンジョンだ。

このダンジョンはドラゴン系モンスターが出現することもそうだが、それ以外にもその地形が特徴として挙げられる。

俺が今まで挑んだことがあるダンジョンはほとんどが平地で、東の大規模ダンジョンの一部に丘陵や谷があったりしたが、『飛竜の塒』はなんと、山にできたダンジョンである。

ドラゴン系に鳥系に動物系と、山に生息していてもおかしくないモンスターばかりなのはその辺りが原因なのかもしれない。

そんなわけで、直径こそ十キロ程度だがダンジョン内部が山のため、実際の敷地面積は平地より広い形になる。標高は千メートル前後といったところで、場所によっては急な斜面が行く手を阻むだろう。

(『花コン』だと山頂にボスモンスターがいるんだよな……で、その途中で飛竜の巣があって、そこに卵があると……)

そして入手した卵から生まれてくるのが飛竜ではない、というのがよくよく考えると怖い話だ。

そもそもダンジョン内部でモンスターが発生するメカニズムもわかっておらず、死体がゾンビ化するなどの場合を除けば人目につかない場所で負の感情が集まり、モンスターが発生しているのだろう、とは思う。

つまり飛竜の巣に卵があってもそれは飛竜が産んだわけではなく、宝箱が出現するように『ドラゴンの卵』というアイテムが出現した、と見るべきなのだろう。

ただし竜騎士が騎乗しているドラゴンは 飛竜(ワイバーン) が多いことから、『花コン』の主人公が入手した卵は光属性の魔力を浴びて光竜に育った、と言われていた。育ったというよりもそう 変(・) 化(・) し(・) た(・) と言う方が正しいのかもしれないが。

(前世でスマートフォンのゲームでもあったけど、ガチャガチャみたいに低確率で光竜が出現する卵ガチャだった、みたいなオチはないよな?)

主人公の性別が男女どちらだろうと、何回周回プレイしようとも光竜が生まれるため、主人公だからこそ光属性に育つというのは間違いないはずだが。

(ま、それは実際に卵を見つけてから考えるか)

そんなことを考えながら俺が向けた視線の先。そこには二日とかけずに到着した『飛竜の塒』と呼ばれる山型のダンジョンが聳え立っており、これまでのダンジョンと比べると異質に感じてしまう。

ダンジョンの近くには兵士達がモンスターを間引く際に利用する兵舎が建てられており、生活の場として部屋を借りるべく駐屯している兵士達に挨拶をし、荷物を置いてからとりあえずダンジョンに潜ってみようと準備をしているところだった。

遠目に見えるダンジョン内部の山はところどころに木々が生え、岩場や地面が剥き出しになっている場所もあり、モンスターの間引きこそ行われているが人の手によって山自体が管理されているという印象はない。

ダンジョンだから勝手に木が生えたり地面が隆起したりするだろうから、管理しようにも難しいんだろうが。

遠目からのぱっと見だと普通の山に見えるため、よくこのダンジョンを見つけたなぁ、なんて思う。ダンジョンの範囲に入れば雰囲気が変化して嫌でもわかるだろうが、入らなければ外観では判別できないのだ。

山だから木が生えていてもおかしくないし、街道からも外れている。近くに町も村もなく、薪を拾いに誰かが訪れるということもなかったはずだ。

おそらくはオレア教か、ダンジョンを探す冒険者か、国の兵士が見つけたのだろう。こんな風に一見してもそうとはわからないダンジョンがあちらこちらにあり、日々少しずつ成長して巨大化していっている、なんて考えると恐ろしく思える。

サンデューク辺境伯家でも領地内を兵士達が巡回し、ダンジョンを見つけては破壊、あるいは内部の状況を確認して有益ならば管理するが、うちみたいに辺境伯家として武力と兵力に秀でた家以外だと中々厳しいんじゃないだろうか。

小規模ダンジョンの内に発見し、手練れを投入してダンジョンを破壊。また新しいダンジョンが発生しては手練れを投入して破壊と、いたちごっこみたいになりそうだ。

ダンジョンを捜索する人員が足りず、少数でダンジョンを破壊できる手練れもいなかったらどうなるか? その場合は寄り親や近隣の貴族を頼るしかないだろう。面子がかかるため選び難いだろうが、手をこまねいてダンジョンが中規模に成長したらもっと手に負えなくなる。

(うちもなぁ、大規模ダンジョンと接してないなら余裕があるはずなんだけどなぁ)

定期的に大規模ダンジョンでモンスターを間引くが、他のダンジョンと比べて難易度が段違いだからリソースを大量に取られてしまう。そうなると他のダンジョンの破壊や管理にしわ寄せがいくわけで……。

(うーん……『魔王』をどうにかできたらダンジョンも消えるんだっけ? その辺りは『花コン』でも語られてなかったんだよな……)

『魔王』を『消滅』させてめでたしめでたし、長期間『封印』できたからめでたしめでたし、で終わっていた。『封印』はともかく、『消滅』させられればダンジョンも消えそうだが……ま、その辺りを今考えても仕方がないか。

「おお……なんというか、今までのダンジョンと比べると迫力があるな……」

俺にできることはといえば、遠くに見える『飛竜の塒』へ視線を向けつつ緊張した様子で呟く透輝を鍛え、『魔王』を倒せるよう誘導することだけだ。

「資料によると『飛竜の塒』は誕生してから今までで五十年以上経っているみたいだからな。他の中規模ダンジョンと比べると 年(・) 季(・) が(・) 入(・) っ(・) て(・) る(・) ってわけさ」

「はー、五十年かぁ。あれ? その割に大きくない……よな?」

「ああ。国が徹底的に間引きをして管理しているからな。領主貴族の軍役として『飛竜の塒』の間引きが指定されることもあるし、有益だと思えばダンジョンでも利用するってことさ」

『王国北部ダンジョン異常成長事件』が発生したことで代替となったが、俺が軍役で王都を訪れた際は中規模になりかけている小規模ダンジョンの破壊を依頼された。その点からわかるように、王領で管理されているダンジョンの破壊や間引きは軍役として割とスタンダードだ。

「今日のところは時間も限られているし、ダンジョンの空気に慣れるところまでで切り上げよう。本格的な間引きは明日からとする」

「はい! ミナトせんせー! 質問です!」

「どうぞ、透輝君」

ダンジョンに歩いて向かう道すがら、透輝が挙手をしながら叫んだため続きを促す。

「この前はダンジョンの調査だっただろ? 今回は間引きって言うけど、本当にモンスターを倒すだけでいいのか?」

「その認識で構わない。修行を兼ねているし、倒せるだけ倒して構わんぞ。あ、ただ、倒したモンスターは素材として兵士が回収してくれるからなるべく綺麗に倒してくれ。それも修行の一つってことで」

大規模ダンジョンで修行をした際は、ランドウ先生の知り合いの冒険者達がモンスターの死体を回収して金に換えてくれた。今回はその役割を兵士が担うというわけだ。

(学園の生徒が間引きをして、兵士がその後ろでモンスターを回収するっていうのもおかしな話だけどな……)

ただ、今の透輝はともかくとして、モリオンもナズナも『花コン』のメインキャラとして高い才能を持ち、現時点でも優れた実力を持っている。そんな二人とその辺の兵士を比べた場合、大きな差があるのは事実だ。

兵士達を動かすよりも、俺達が動いた方が確実かつ安全にモンスターを狩れる。これが大規模ダンジョンなら話は別だが、中規模ダンジョンなら俺達だけでも問題はないだろう。

ランドウ先生然り、メリア然り、この世界において突出した実力者というのは並の兵士が束になっても敵わない存在なのだ。

冷たい話だが、実力が低い兵士をダンジョンの間引きに投入して危険に晒し、最悪命を落としてその補償に手間と金を割くぐらいなら最初から腕が立つ者に 外(・) 注(・) し(・) て(・) 金だけで片付ければ良い。

兵士としての義務だとか責任感だとかそういったものが傷つく可能性はあるが、命には代えられないし、こういってはなんだが強い弱いは当人の問題でもある。これを機に奮起して強くなってくれれば、なんてことを思うのは傲慢だろうか。

(ランドウ先生みたいなこの世界でもトップクラスの強者に師事して、年単位で大規模ダンジョンに挑んで訓練する余裕があればその辺の兵士でも十分に強くなるんだろうけど……これって少数を鍛えるやり方であって、大量の兵士を鍛えるのには向いてないか)

大量の兵士を均一に、達人と呼べるほど強くできる方法があるならオレア教が既に発見して広めているか。なにせ強者を大量生産できれば『魔王』対策も捗るってもんだ。津波のようにモンスターが押し寄せても、大勢の強者で迎え撃つことができれば押し返せるだろうしな。

そんな絵に描いた餅のようなことを考えたものの、頭を振って思考を打ち切る。そんなことが可能になる方法とリソースがあれば、オレア教も苦労はしていないだろうから。

(まあ、今回の依頼は将来の透輝の身分の保証を兼ねてるし、透輝も金を稼ぎたい理由ができたし、修行にもなる。一石三鳥ってところだな)

透輝は来年のアイリスに誕生日に向けて、可能な限り金を貯めておきたいところだろう。その点からも頑張ってほしいところである。

そうやって話をしている内にダンジョンとの境界線近くまで辿り着く。木々の生え方で境目がわかるのだが、外から見る分にはモンスターの姿がない。本当にいないのか、隠れているのか。

「本物の、なんて言うとおかしいのかもしれないけど、これが中規模ダンジョンか……どれどれ……お?」

透輝がそんなことを言いながらダンジョンの境界線を越える。

「っ!?」

そしてすぐさま戻ってきた。表情を強張らせ、冷や汗を一筋流して俺の方を見てくる。

「えっ、ちょ、ちょっ、なんか滅茶苦茶空気が怖いんだけど!? これって本当に中規模ダンジョン? ミナトが話してた大規模ダンジョンじゃなくて?」

「そんなに空気が違ったか? どれどれ……」

透輝の反応に眉を寄せ、俺もダンジョン内部に足を踏み入れてみる。あー……。

「たしかに 重(・) め(・) だけど中規模だな。大規模ダンジョンはもっと空気が重いし、まとわりついてくる感じがする。ま、この辺りは慣れだよ」

「本当かよ……うぇ……鳥肌が立つんだけど……」

再びダンジョンへと足を踏み入れた透輝だが、嫌そうな顔をして周囲を見回している。そして何かに気付いた様子で頬を引きつらせた。

「ししょー、質問っす……」

「なんだ、透輝?」

「この空気の中で戦うんだよな? なんか足が重いし、普段通り剣が振れなさそうなんだけど……」

『飛竜の塒』に満ちている威圧感は中々に重く、大規模ダンジョンを除けばこれまでで一番と言っても良いかもしれない。そういう意味だと『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時はまだ空気が軽かったんだなぁ、なんてことを思えるほどだ。

「さっき言っただろ? 今日のところは空気に慣れるところまでだって。さすがにいきなりは戦えないと思ったんだが……モンスター、探してみるか?」

「いやいやいや! 無理だって! さすがししょー! 弟子想いだなぁ!」

透輝は焦った様子で無理だと言うが、俺やナズナは平然としている。モリオンも中規模ダンジョンで修行をしてきたと言っていたからか、平気そうな顔だ。

(ランドウ先生なら慣らすことなく即モンスターと戦わせているだろうけど……大事を取って次の日に回すぐらいの余裕はあるからな)

俺はそう考えて、透輝を中規模ダンジョンの空気に慣れさせるべく素振りをさせていく。何事も 準(・) 備(・) 運(・) 動(・) は大事だからだ。

だが、翌日に問題は起きた。

――獣系の中級モンスター、ワイルドベアに透輝が腕を折られるという問題が。