軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第206話:飛竜の塒 その1

透輝の誕生日パーティーが終わり、十二月の第二週に行われた定期テストも終わり、『飛竜の塒』に向かう日がやってきた。

ちなみにだが定期テストは相変わらずモリオンが一位を取り、二位がアレク、三位がアイリスとこれまで通りの順位になっている。

前回六位だった俺は一つ順位を上げて五位だったが、まあ、上位になると割と僅差だ。ちょっとしたミスで順位が入れ替わるため上位勢はほとんど差がないと思うべきだろう。

そしてモリオンから誕生日プレゼントとして試験対策の資料を渡された透輝はといえば、前回貴族科の平均点に届かなかった成績を大きく伸ばし、平均点に手が届いた。

貴族科だと平均点が八十点程度だが、この世界で生きてきて自然と覚える前提知識がなかったにもかかわらず、平均点に到達したのだ。

これがどれだけすごいことかというと、幼い頃から家で勉強していたはずの貴族科の生徒数名が透輝に順位で負けた点からも明らかだ。

まあ、実家を離れて楽しい学園生活を送った結果、以前ほど勉強に力を入れていない生徒はゼロじゃないし、むしろ多い。

授業で勉強もするが、貴族として実家で厳しく躾けられ、勉学にも励んでいた反動なのだろう。同年代の同性異性と喋って遊んで恋をしてと 楽(・) し(・) く(・) や(・) っ(・) た(・) 結果、成績が下がっている者がちらほらと出始めているのだ。

それでも透輝の努力は認められるべきもので、モリオンの資料があったとしても最下位脱出はめでたい話である。

「いやぁ、これで心置きなくダンジョンに連れ出せるな!」

「そっすね、ししょー……」

俺が笑顔で言うと、透輝は虚無感漂う顔で返事をする。なんだいその顔は。これから楽しくダンジョン目指して出発するっていうのにさ。

『飛竜の塒』は王都から南東方向へ百キロほどの場所にあり、馬車を使って街道を進めば二日とかからずに到着することができる。学園からはなるべく健脚かつ頑丈な馬を借りるが、さすがに走りっぱなしは無理なため、馬を休ませる時間も込みでの日数だ。

今回は戦うモンスターがわかっているため、相手が空を飛んでいても大丈夫なようにモリオンにも協力を頼んでいる。

その代わりに東部派閥の維持のためにナズナを置いていこうとしたら断固として拒否されたため、派閥に関してはバリーなどの比較的親しい生徒や 実(・) 家(・) が(・) 大(・) き(・) い(・) 生徒に頼んでおいた。

往復の時間込みで一週間、長くても平誕祭が始まるまでには帰ってくるつもりのため、その程度の期間なら大丈夫だろう。仮に他の派閥から何かちょっかいをかけられた場合、俺達が帰ってくるまでは我慢してもらう形になるが……まあ、反撃を警戒するなら下手な真似はしないだろう。

そんなわけでパーティの構成が 剣士(おれ) 、 剣士(とうき) 、 盾役(ナズナ) 、 後衛(モリオン) と相変わらずバランスがいまいちな感じになっているが、仮にドラゴン系モンスターが襲ってきても余裕を持って対処できる面子である。

本当はアレクが入って援護係がいるとバランスが良くなるんだが、さすがに引っ張り出せなかった。あるいは回復役が欲しいけど、アイリスは無理だし、アイテムで回復できるスグリは前回連れ出しているからなぁ……。

まあ、回復用のポーションは数を揃えているし、現地ではダンジョンを管理するために兵の駐屯地があるそうだから回復手段には事欠かないだろう。

「中規模ダンジョンとは……『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時を思い出しますね」

「あの時ほどダンジョンはでかくないし、守るべき民もいないから楽だけどな。先方はモンスターの間引きを御所望だし、戦うだけで済むなら気楽ってもんさ」

学園を出発したら馬車の御者をナズナに任せ、 客車(キャビン) でモリオンと話す。透輝は御者に興味があるらしく、ナズナから教わるべく御者台に座っているためキャビンにはいなかった。

ちなみにだが透輝は誕生日パーティーでプレゼントとして贈られた短剣やグローブ、ポーションだけでなく、外套もきちんと着ている。冬の時期だからきちんと着込まないと寒いしな。あと、アイリスが期待の目で透輝を見ていたし。

「しかし解せませんね。平誕祭の前にダンジョンの間引きをしておきたいという気持ちはわかりますが、わざわざ学生であるミナト様に依頼が回ってくるとは……一体 ど(・) こ(・) の(・) 伝(・) 手(・) から回ってきたのか」

「ああ、そいつはオレア教さ。ついでにっていうとおかしいけど、王家からの依頼でもあってな。透輝へのアレコレに間引きっていう依頼をくっつけた形さ」

「……なるほど……そうなるとテンカワへの補償の一環ですか」

馬車がガタゴトとうるさいから透輝には聞こえないし、モリオンが相手なら隠す必要もないと判断して小声で伝えると、その裏側まであっという間に読み解いてくれる。いやぁ、頭が良い奴が相手だと楽だわ。

「『飛竜の塒』ではドラゴン系モンスターの卵が取れるみたいでな」

「ということは、テンカワの将来は竜騎士という可能性もあるわけですね。あるいは近衛兵か……少なくとも食いはぐれることがないようでなによりです」

ついでに『飛竜の塒』で取れるであろうアイテムについて伝えると、モリオンはどことなく安心した様子で言う。モリオンはモリオンなりに、透輝のことを心配していたのだろう。魔法を教えている弟子みたいな存在でもあるしな。

「ただ、そちらは良いとしてもミナト様を動かすに足る報酬があるようには思えませんが…… 例(・) の(・) 件(・) について何か関係が?」

声を潜め、『魔王』関係の話かどうか確認してくるモリオン。馬車の中という密室だが、どこに耳目があるかわからない、などと警戒しているのだろう。

「いや、そっちにはあまり関係がない。俺としては腕を磨くことにもつながるし、報酬がなくても構わなかったんだがな……まあ、サンデューク辺境伯家の人間としてはそうもいかないし、報酬は将来への布石に使わせてもらうことにした」

「と、仰いますと?」

「俺の師……ランドウ先生を学園の講師として呼ぶことへの後押しさ」

『花コン』では二年目になるとランドウ先生が臨時講師として学園に赴任するが、この裏側にはサンデューク辺境伯家と取引しているように、かつての主君の遺品を探すための協力を求めることが報酬になっていたりする。

要はパエオニア王国全土から情報を集め、オウカ姫の遺品を探す手伝いをする代わりに学園で辣腕を振るってね? って話だ。

ランドウ先生という野生の達人……もとい、在野の逸材を活用すべく、国王陛下やオレア教が手を組んで手を回した形になる。

もっとも、オレア教が『魔王』の発生を予想していたように、ランドウ先生という強力な戦力を王都近くの学園に呼び寄せておくことの意味を考えると……うん。

(ランドウ先生の弟子である俺が言うのもなんだけど、教えるのに向いているかというと微妙な人だからな……)

俺みたいに死にたくないからと必死になって食らい付ける 何(・) か(・) があるか、透輝みたいな天才か、何があっても諦めないド根性タイプならランドウ先生の教えも理解しやすいというか、ついていけるだろう。

だが、その辺の生徒を捕まえて教え込もうとしたらどうなるか? 下手したら死ぬんじゃないだろうか、なんて危惧が浮かぶ。

「ランドウ=スギイシ……『剣聖』、『キッカの剣鬼』という呼び名、その実力は王都まで噂が伝わっていますが……今のミナト様でも勝てませんか」

「自惚れて言うぞ? 今(・) の(・) 俺(・) で(・) も(・) 到底勝てないな」

足元にも及ばない、とまでは言わない。だが、心身共に万全で絶好調の俺が、最低最悪に調子が悪いランドウ先生と戦っても勝てるとは思えない。それぐらいに差がある。その条件なら一太刀ぐらいは届くかもしれないが……まあ、勝つのは無理だわな。

で、そんなランドウ先生を学園に呼んでほしいなぁ、と俺からもオリヴィアへ伝えておいた。ないとは思うが、ランドウ先生が学園に赴任してこなかったら『魔王』対策が詰むと判断してのことである。

(透輝もどんどん育ってきているし、ランドウ先生が来たら育成をバトンタッチする……そうすれば『花コン』を何回も周回した主人公には勝てないとしても、一発勝負の育成としては最上の実力に育つはずだ)

未来の知識があるとオリヴィアに思われている俺が、 必(・) 要(・) な(・) こ(・) と(・) だからとお願いしたのだ。元々戦力として呼び寄せる準備はしていただろうが、オリヴィアも本腰を入れてランドウ先生をスカウトしてくれるはずである。

その点から考えると今回の依頼に関する報酬は無料に近いか。一応金での報酬も出るが、俺がランドウ先生の招聘を優先してもらったからな。

(理想としては前衛にランドウ先生と透輝、後衛にメリア、回復役にアイリスの四人パーティ……でもゲームじゃないんだし、援護にアレク、火力にモリオン、俺も前衛として動くのもアリだ)

ゲームではなく現実ならば、『花コン』で魔王を倒し得る可能性がある三人に回復役のアイリスという、これ以上ない布陣に追加で戦力を付け足しても構わないだろう。なにせ失敗したら人類が滅びかねないのだ。

「それは、なんとも……私にとって、最強の剣士はミナト様なんですけどね」

「ははは、ありがとうモリオン。だけど弟子としてはランドウ先生こそが最強の剣士……いや、 最(・) 強(・) だと思うよ」

他に『魔王』を倒し得る透輝やメリアが相手でも、ランドウ先生が勝つ。だからこそ剣士ではなくその存在こそが最強なのだと弟子として胸を張る。

「ちなみに私とミナト様のタッグなら?」

「そりゃあ勝ち目も出てくるさ。俺が前衛で踏ん張って、その間にモリオンが上級魔法を叩き込めば……いや、その前に俺が死んでそうだな。やっぱり無理か……」

そんな仮定の話をして笑うと、俺は振動が伝わってくる座席に背中を預ける。

「ま、今回は間引きしつつドラゴンの卵を探して、あとは透輝に実戦経験を積ませるのが目的だ。死線をいくつか潜らせればもっと強くなるだろ」

「なるほど、これまで以上に追い込むわけですね?」

「ああ。透輝は追い込めば追い込むほど輝くみたいだし、ワイバーンや地竜と戦わせるのもいいな」

まだ剣術に下級魔法だけだが、追い込めば一気に輝くんじゃないだろうか。名前に輝くって漢字が入っているし、きっと期待に応えてくれるだろう。

「ちょっと!? 今なにか怖い話してなかったか!? 滅茶苦茶悪寒がしたんだけど!?」

「気のせいだ。御者台は寒いだろうからしっかりと外套を着込んでおけよ」

怖い話はしていないからね。気のせいだよ。ほら、モリオンも怖い話はしてないって頷いてる。

本当かなぁ、なんて呟きながら御者台に戻っていく透輝を見送ると、俺はモリオンと視線を交わして頷き合った。

「出現するモンスター次第だが、楽しみだな」

「ええ。私も透輝の魔法の師として楽しみになってきました」

そんなことを言って笑い――その裏で俺は思考を巡らせる。

(今回の件、手紙じゃなくてオリヴィアから直接依頼を受けた……俺が参加することについてもオレア教の推薦ってことで伝える相手は限ってある。学園にも詳細は学園長や教師ぐらいにしか伝えていない。これで 何(・) か(・) 起(・) き(・) る(・) ならどこから情報が漏れているか推測ができるはず……)

王城側か、オレア教の上層部か、学園の内部か。リンネがどこかに潜んでいるのか、あるいは別の『魔王の影』がいるのか。他に何かこちらの動向を知る術があるのならお手上げだが……潰せる可能性を潰していけば自ずと答えがわかるはずだ。

人(・) 類(・) 側(・) の(・) 指(・) し(・) 手(・) はオリヴィアで、俺は言うなればその駒の一つだ。危険は伴うが、俺という駒を動かすことで何か見えてくるものがあるかもしれない。

もちろん、こちらの意図を見抜いて何も仕掛けてこないということもあり得るが。

(ま、それはダンジョンに行ってみないとわからないか)

俺にできることは目先の対処が精々だ。そう自分に言い聞かせ、ガタゴトという馬車が走る音を聞きながら小さくため息を吐くのだった。