作品タイトル不明
第204話:誕生日パーティー その1
『花コン』において各キャラクターには誕生日が設定されており、その誕生日を迎えるとプレゼントを贈って好感度を上げることができたりする。
そしてこの世界では当然ながら生まれた日が誕生日で、貴族ならパーティーを開いて人を招いたり、平民でも家族で祝ったりする。
ちなみにだが俺の誕生日は七月九日、『花コン』のプレイヤーからは誕生を喜ぶべき日じゃなくて泣く日か、なんて言われていたりもした。ルートによっては『魔王の影』に殺される日でもある。まったくもってめでたくねえな。
なんでそんなことを考えているかというと、透輝の誕生日が十二月五日と目前に迫っているからだ。
『花コン』では主人公の性別問わず、学園内で誕生日の週を迎えるとイベントが発生し、その時に『友人』以上の関係性にあるキャラが祝ってくれる。
生徒会室で誕生日パーティーが行われ、駆け付けてくれるってわけだ。他のイベントとかぶった場合は後ろにずらして行われ、発生しないということはない。
なお、主人公の性別を女性にすると誕生日が八月五日になり、男性主人公と比べて好感度を稼げる期間が短いため、誕生日パーティーに各キャラが駆け付けるのに必要となる好感度が低く設定されていたりもする。
そのため『友人』になっていないキャラが誕生日パーティーに駆け付けることもあり、女性主人公は魔性の女なのでは、なんてことをプレイヤーの間で噂されたこともあったが……人たらしという意味では女性主人公の方が上だし、否定できなかった。
さて、なんで俺が透輝の誕生日云々考えているかというと、だ。
「それで、その、ミナト様? ミナト様の方から透輝さんのお誕生日パーティーについてお誘いいただけませんか?」
「いやいや、はとこ殿の方から誘った方が絶対透輝も喜びますって」
生徒会室でアイリスから相談があると言われ、透輝の誕生日をどうやって祝おうかと相談を持ち掛けられたのがきっかけだった。どうやらサプライズでパーティーをして透輝を喜ばせたいらしい。
オリヴィアから聞いた『飛竜の塒』に挑むのは来週のテストが終わってからだし、テスト前の勉強のラストスパートの前に騒げる最後の機会になるだろう。
なお、透輝の誕生日に関しては俺が知っていたらおかしいため、訓練ついでに事前に聞き出し、それをこっそりアイリスに伝えておいたのだが、誕生日パーティーを開くにあたって直前で日和りだしたのである。
アイリスは王女であり、誕生日を迎えれば王都中の貴族や商会から、あるいは王国全土からお祝いのメッセージやプレゼントを贈られる立場だし、誕生日パーティーに出席してもらおうと招待状を大量に送られる立場でもある。
王族を招いての誕生日パーティーともなると名誉なことだし、招く側も気合いを入れて招待状を出すし、当日は趣向を凝らしたパーティーになる。アイリスからすれば公務の一環みたいなものだが、だからこそ誕生日パーティーにも慣れているはずなのだが。
(友人、あるいは気になっている異性の誕生日パーティーとなると勝手が違うってことかね……それならなおさらアイリスの方から透輝を誘って欲しいんだが)
俺が誘っても喜んでくれると思うけど、透輝からすればアイリスの誘いが一番嬉しいはずだ。
こういうパーティー自体は学園でも珍しくないため、食堂にお金を払って料理やケーキを作ってもらうことができる。あとはそれを運び込めばパーティー会場の完成ってわけだ。
ただ、当然ながら主賓である透輝を誘わないことにはどうにもならない。サプライズとして俺が放課後の訓練をしてから透輝を誘導し、生徒会室まで連れて行くことはもちろん可能なのだが。
せっかくだし、アイリスが主体となって動き、透輝の誕生日パーティーを開いてほしいと思うのは贅沢だろうか。王女に求めることではないが、建前が必要なら透輝を召喚した主、できれば透輝を憎からず思っている者として動いてほしいんだが。
ちなみにだが、相談を持ち掛けたアイリスの髪には今までになかった、アイリスの花をモチーフにした髪飾りが留められている。おそらくは文化祭で透輝が贈ったのだろう。その結果、以前よりも距離感が縮まって逆に誘いにくくなったのか。
「まあ、はとこ殿がどうしても恥ずかしい、自分では透輝を誘えないと仰るのなら俺が当日に誘導して連れてきますが……本当にそれでいいんですか?」
「う、うぅ……」
俺が煽るように言うと、アイリスは恥ずかしさからか唸るような声を上げて俯いてしまう。そうやって恥ずかしそうな顔をしながら誘えば一発だと思うよ。年頃の男が気になる異性にそんな顔を向けられたら本当に一発だよ、一発。
そんなことを俺が考えていると、話を聞いていたカトレアが不思議そうな顔をする。
「殿下、透輝君の誕生日パーティーを開くのは良い考えだと思いますが、参加者はどうするんですか? もう日にちがありませんが……」
「そちらは大丈夫です。透輝さんと親しい人向けの招待状は既に用意しているので、明日渡してきます」
そう言って自信満々に封がされた招待状を取り出すアイリスだが、俺が目配せをするとカトレアが疑問を込めて問う。
「殿下が、ですか?」
「……えと、ミナト様? お願いしても?」
うん、そうだよね。アイリスからの招待状ってだけでも大変なのに、直接渡されたら実質断れないし、俺から渡した方が無難だよね。
透輝の誕生日パーティーに強制的に参加させたいのならアイリスから渡してもいいけど、それはさすがに望まないようだ。
本当はもっと早いタイミングで渡しておくべきだが、学生が主催する誕生日パーティーならその日に誘ってもいいか。一応、まだ二日ほど時間があるし、明日渡せば一日は余裕がある。
(というか、アイリスから見た透輝と親しい人って誰だ?)
そんな疑問を抱えつつ、アイリスから招待状を受け取る。そして宛先を確認していくが、モリオン、アレク、ナズナ、ルチル、スグリ、エリカと物の見事に『花コン』のメインキャラばかりだった。
「一応渡しておきますね?」
続いて、俺とカトレアに向かって招待状が差し出される。俺とカトレアも透輝にとって親しい人間扱いのようだ。俺は剣を教えているし当然か。
(カリンは以前押し倒したから除外、コハクとモモカ、ランドウ先生は学園にいない、コーラル学園長やジェイドは接点が少ない、と。メリアについてはアイリスも知らないのかな?)
アイリスの選択は妥当なものだった。ただ、招待状を出しても相手が受けてくれるかは別である。それでもこれまでの透輝との関係から察するに、招待状を出せばほぼ確実に受けてくれるメンバーばかりだと思うが。
(誕生日パーティーに出席するメンバーは透輝に対する好感度が最低でも『友人』……数値でいえば五十以上だ。メインヒロイン、メインヒーローはできる限り多く参加してくれるといいんだが)
『花コン』で『友人』以上の関係にあるキャラがゼロだった場合、アイリスと二人きりでの誕生日パーティーになる。こういうイベントだと必ずアイリスだけは参加してくれるあたり、メインヒロインにして主人公の召喚者というのは伊達ではないのだろう。
(……あれ? 透輝とアイリスをくっつけてアイリスルートに進ませるのなら、他の人は参加しない方がいいか? グランドエンドを目指せるなら目指したいところだけどさ……)
ただ、特別な理由もなく断るのは難しいだろう。特に俺なんて剣を教えている立場だし、透輝との親しさは自他共に認めるところだ。そうなるとやっぱり断るのは無理だな。
「それじゃあ明日にでも招待状を渡しておきますね。はとこ殿の覚悟が決まらないようなので、パーティーはサプライズで行うとしましょうか」
とりあえず招待状の運搬役は請け負うとしよう。 本(・) 当(・) の(・) ミ(・) ナ(・) ト(・) なら『そんな雑事に俺を駆り出すとは!』と怒るところだろうが、俺としては是非とも誕生日パーティーを開いてほしいから快諾する。
俺にだって、純粋に透輝を祝う気持ちがあるのだから。
透輝の誕生日当日。
俺は放課後になると普段通り透輝に訓練を付けていたが、日が暮れるのを合図として訓練を切り上げる。
「あれ? もう終わりか? いつもならもっとやるよな?」
すると透輝が不思議そうな顔をした。
いつもなら日が暮れようと視界が限られた中での戦いに慣れるべく、訓練を続けるところである。真っ暗だから戦えない、なんていうのは甘えなのだ。
そういう意味では雨が降ろうと雪が積もろうと訓練をするし、日が暮れた程度で訓練を切り上げようとするのを透輝が疑問に思うのも当然だろう。
「ああ、今日はこれから生徒会に顔を出す用事があってな。アイリス殿下から透輝も連れてくるように言われているんだ」
「俺も?」
何かやっちまったか? なんて視線を彷徨わせる透輝。大丈夫だ、安心しろ。ただのサプライズパーティーだ。
とりあえず透輝を促して生徒会室に向かうが、当の本人は今日が誕生日だって気付いていない様子である。
招待状を渡した面々にも誕生日のことは触れないでくれ、と念押ししたから大丈夫だったようだ。性格的にエリカが失言しないか少し怖かったけど、クラスが違うから話す機会がなかったのだろう。
不自然にならない程度に汗を拭わせ、服の汚れなども落とし、生徒会室へと向かう。アイリスが日和らなければパーティーらしく着替えさせたんだが、今回は仕方がない。サプライズパーティーとして楽しんでもらうとしよう。
「さ、透輝が先に入ってくれ」
「えぇ……なんか企んでない? 違和感があるんだけど……」
生徒会室に到着して、先に扉をくぐるよう促すと怪訝そうな視線を向けられた。うん、勘が磨かれてきたな。いいことだ。
「ないない。何か企んでハメるぐらいなら直接斬る方が早いしな」
「それもそうか……うわ、俺、今めちゃくちゃ変な納得の仕方しちゃった……」
そう言いつつ、扉を開ける透輝。冗談だったんだけど、あっさり納得されるとそれはそれで複雑だな。
「アイリスー? ミナトだけじゃなくて俺も呼んで……っとぉ?」
透輝が生徒会室へと足を踏み入れ、不思議そうな声を上げた。それを聞いた俺は透輝の背中を押して生徒会室へ押し込み、さりげなく部屋の中を確認する。
(おお……ちょっと心配だったけど、アイリスは当然としてモリオンにナズナにアレク、カトレア先輩にルチルのメイン勢、それにスグリとエリカも参加とは……)
思ったよりも『友人』以上の関係になっている生徒が多いようだ。いや、『花コン』を基準にし過ぎるとまずいか。単に招待状を出したから参加したってパターンの可能性もある。
それでも俺を含めると九人の生徒が透輝を祝うために集まった。一応メリアにも声をかけようと思ったもののこういう時に限ってこちらから探すと見つからず、誘うことが出来なかった。それでも全員で九人なら十分多いといえるだろう。
「え? え? なにコレ? 何の集まり?」
自分の誕生日パーティーだと気付いていないのか、透輝は困惑する一方である。
普通なら気付きそうなものだが……いや、たしかに集まりとしては割と無秩序というか、関係性が薄いつながりの面子がいるからな。
ルチルなんて俺と透輝以外はスグリやエリカとクラスメートってだけの関係で、他は面識すらない奴が多い。それでも商人としての仮面をかぶっているのか、平然とした顔だが。
「透輝さん、お誕生日おめでとうございますっ!」
そして透輝の疑問に対し、アイリスが満面の笑みを浮かべながら言う。もしもこの世界にクラッカーがあれば一斉に鳴らしていることだろう。爆弾はあってもさすがにクラッカーはなかったわ。
「あっ……これ、俺の誕生日の……?」
「ええ。お祝いのパーティーですっ」
アイリスが嬉しそうに言うが、透輝は困惑したままだ。そして何かに気付いたように俺を見てくる。
「もしかして、前にミナトが誕生日を聞いてきたのって……」
「今回のためだな」
聞いてないのに透輝の誕生日を知っていたらおかしいから聞いたんだが、今回のためでもあるから嘘は言っていない。透輝は視線を動かしてテーブルに置かれたケーキや料理を見て、次に参加者達を見る。
「うわー……俺、こういうパーティーを開いてもらったことがないから、どういう反応をしたらいいかわかんねぇ……い、いや、家族が祝ってくれたことはあるんだけどさ」
一瞬、家庭環境がやばかったのか、とか、地球のことを思い出して何か思うところがあるのではないか、なんて思ったが、透輝は照れ臭そうに頬を掻くだけだ。
「殿下が君の誕生日を祝いたいと言ってパーティーを企画してな。いやはや、王家の花たるアイリス殿下がこのような会を開いてくれるなんて、男冥利に尽きるというものじゃないか?」
俺は透輝の意識を逸らすべく、からかうように言う。アイリスが俺を見て『どうしてバラすんですか』とでも言いたげに顔を真っ赤にしたが、事実だろ。
あとアイリス? 王家は透輝に近衛兵や竜騎士の立場を用意するべく色々と考えてくれているけど、君が透輝にやったことを身も蓋もなく表現すれば他所の世界からの誘拐だからな? 召喚してくれないとこの世界が詰むからそれを指摘する気はないけどさ。
「そ、そっか……アイリス? その、すごく嬉しいよ。ありがとう」
「あ……ど、どういたしまして……」
俺の言葉を聞いた透輝が礼を言えば、アイリスは顔を赤くしたままで縮こまってしまう。
こうして、透輝の誕生日パーティーが始まったのだった。