軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第203話:依頼

それは、文化祭が終わって秋も過ぎ去り、冬の到来を感じさせる寒さが厳しくなり始めた十二月の頭のことだった。

いつもどおり自主訓練を終えてシャワーを浴びる前に本の『召喚器』のチェックをして、オレア教の教主たるオリヴィアから何か報せがないかとタンスの一番上の引き出しを開けたところ、一通の手紙が入っていた。

何の用件だろうか、なんて思っていたら中身は呼び出しの手紙である。図書館まで来るように記されており、それを確認した俺は外套を羽織ってすぐさま部屋を後にした。

(十二月……それも夜になるとさすがに寒いな……)

極寒というほど気温が下がっているわけではないが、吐く息が白く染まっては闇夜に消えていく。雪が降るには早いが冬らしい寒さだと言えるだろう。まあ、自主訓練で剣を振り回していると汗だくになるし、この程度の寒さなら平気なんだが。

それでも日中の温かさが嘘のように肌寒いし、足を運んだ石造りの図書館は更にひんやりと感じられる。目が慣れているから良いけど、明かりが少ないから余計に寒々しい雰囲気があるのだ。

そんな図書館を進み、いつも通り奥まで足を運ぶ。図書館の一番奥にある休憩スペースで密談である。

「……っと、メリア?」

しかし、今回はそこに先客がいた。机にランプを置き、本を読むメリアがいたのだ。しかも何故かパジャマ姿である。いかにも風呂上がりです、と言わんばかりに髪が湿っているし、肩にはタオルがかかっている。

「おいおい……そんな格好で。風邪ひくぞ?」

さすがに寒いだろう。そう思った俺は外套を脱いでメリアにかけると、メリアは礼を告げるように小さく頭を下げ、いそいそと俺の外套を着込んでいく。

体格差があるからダボダボだし、袖が余っていて袖口から手が出ていないが、メリアはどこか満足そうな様子だった。

「あれ? オリヴィアさんは?」

姿も気配もないためメリアに尋ねると、小さく首を傾げる。どうやらメリアは知らないらしい。そのため、困ったなぁ、と呟くと、メリアは何を思ったのか椅子から立ち上がり、座面を叩いて座るよう促してきた。

「あー、座って待てばいいってことか? そうだな、少し待ってみるか」

そう言って俺はメリアが叩いた椅子の隣、もう一つの椅子に腰を下ろす。するとメリアは無言で俺の顔を見て、椅子を見て、もう一度俺の顔を見た。

「ん? どうした?」

俺が首を傾げると、メリアはもう一度椅子を見る。そして今度は俺を見たかと思うと、その視線を俺の両膝へと向けた。

何かあっただろうか、なんて思いながらメリアを見ていると、トコトコと近付いてくる。そして俺に背中を向けたかと思うと、そのまま俺の膝の上に腰を下ろした。

「…………?」

突然膝の上に座られ、俺の脳内に疑問符が飛び交う。いやもう飛び交うっていうか乱舞した。

なんだ? 一体何を考えて俺の膝の上に座ったんだ? どういうことだ? 何が起きているんだ? 膝の上に座られたんだ。なんでだ?

背中を向けられているため表情の全ては確認できないが、メリアはどことなくご満悦な感じである。機嫌良さそうに俺に背中を預けたかと思うと、そのまま顔を上げて俺を見上げてきた。

「……あー……うん、メリア? いきなりでビックリしたんだけど、なんで俺の膝の上に座ったんだ?」

とりあえず疑問をぶつける。行動が不思議過ぎて推測もできない。たしかに実家だとモモカも似たようなことをして甘えてきたし、膝だろうと背中だろうと飛び乗ってきたもんだが、メリアは関係性も性格もモモカとは異なる。

「……?」

俺の疑問に対し、メリアは不思議そうな顔をした。うん、そんな顔をしたいのは俺の方なんだ。

「メリア? あー、メリア嬢? いいかい? いきなり異性の膝の上に座るなんて、淑女としてだね」

「メリア」

「そこは譲らないんだな。うん、メリアかメリア嬢かの二択を迫ったわけじゃないんだ。俺が言いたいのは、いきなり異性の膝の上に座ってはダメだってことで」

「座る」

「事後承諾かぁ……そもそも座っちゃダメ、いいね?」

おかしいな、ここまで無垢というか常識がないというか……少なくとも『花コン』ではこんな行動は取らなかったんだが。主人公が相手でももう少し大人しい、常識ある行動を取っていたはずなんだがなぁ。

というか、ミナト相手だと絡むことが全くなかったはずだ。眼中にもないというか、認識すらしていないというか。会話するようなイベントもなかったはずである。

ただ、俺としては甘えられると妹のモモカを思い出してしまい、ついつい甘やかしてしまいそうになる。小さい子どもに甘えられると甘やかしてしまうのは、中身の年齢のせいだろうか。いや、メリアは行動が幼いだけで年齢は小さい子どもじゃないけどさ。

(えぇ……なんでこんなに甘えて……どういうことだ? 思い当たる節がないんだが……え? 本当にどういうことなの?)

メリアなりの親愛の表現なのだろうか。それとも俺が知らないだけで誰が相手でもこんなことをしている? それはちょっと危機感が足りないよ?

「ごめんなさい、待たせ……あなた達、何をしているの?」

そうやって疑問を覚えていると、足音が近付いてきてオリヴィアが姿を見せた。そして俺と、俺の膝の上に座るメリアを見て怪訝そうな顔をする。

「いや、それは俺も知りたいところなんですが……メリア? なあ、メリア? ほら、教主殿が来たし、そろそろ下りないか?」

「……ん」

オリヴィアをチラリと見て、メリアが俺の膝から下りた。そしてトコトコと歩いて暗がりへと消えていく――が、完全に姿を消す前に何かに気付いたように振り返り、俺に向かって手を振ってから立ち去った。

(なんだったんだ……あ、俺の外套……)

そこまで寒さを感じないから構わないが、外套を持っていかれてしまった。ま、まあ、メリアが風邪をひくよりはいいか。

「それで? あの子を膝の上に乗せて何をしていたのかしら?」

「何を、と言われると何もしてないんですが……椅子に座るよう促されたから座ったら、そのまま膝の上に座ってきましてね?」

お宅ではどういう教育をしているんですか? なんて意図を込めて視線を向ける。するとオリヴィアはメリアが歩き去った方向へと視線を向け、顎に手を当てた。

「ふむ……あなたがやっぱり『魔王の影』で、こちらの最高戦力であるメリアを口説いて骨抜きにして、『魔王』との戦いに参加できなくする策略を進めている……なんて可能性が思い浮かんだわ」

「そんな意図は微塵もないんですが……メリア、そういうのに引っかかるタイプですかね?」

なんだかんだで警戒心が強い性格だと思ったんだが……うん、俺に対してアレコレとしてくるのはイレギュラーな事態だ。『花コン』だと主人公以外には興味がなく、何が起ころうとも眉一つ動かさない性格だったはずなのだが。

「引っかかるというか、そもそもあの子があんな風に甘えているのを見たのは初めてね。厳しく訓練をさせても顔色一つ変えない子なのだけど」

「そうなんですね……いや、思い当たる節が本当にないんですが」

メリアに聞いても本人が理解していないのか、いまいち要領を得ない。そのためここで予想を話しても仕方がないと考え、オリヴィアへと視線を向けた。

「それで、今回はどうされたんですか? 何かありましたか?」

何かあるからこそ呼び出したんだろうが、尋ねるのは様式美みたいなものだ。言葉のキャッチボールである。

「何か、というほどの事態は起きていないわ。ただし一応確認をしておこうと思ってね。貴方、竜騎士に興味はあるかしら?」

「ふむ……竜騎士ですか」

出てきた言葉に俺は眉を寄せる。これはもしかすると、『花コン』で発生する 移(・) 動(・) 手(・) 段(・) を確保するイベントの前振りか?

「興味のあるなしでいえばありますね。移動手段として竜騎士ほど便利なものはないですから」

敵として戦う分には厄介だが、移動手段として人間に慣れさせたドラゴンの機動力はすさまじい。なにせ王都から王国最東端のサンデューク辺境伯家の領地まで一日とかからないのだ。

『花コン』でもドラゴンの卵を入手するイベントがあり、その卵から生まれたドラゴンが成長すると遠方のダンジョンに挑戦できるようになる。

ゲーム的な都合なのか距離の壁というリアリティを意識したのか、移動手段としてドラゴンを入手しないと王国の東西南北にある大規模ダンジョンには挑むことができないようになっていた。

(そりゃあ片道何十日とかけて大規模ダンジョンまで移動していたら、あっという間に三年目の最終日を迎えるからな。移動手段は必須か)

様々な魔法が存在するこの世界でも、ワープしたり空を飛んだりする魔法はない。木属性の風魔法を使って強引に飛ぶことぐらいはできるが、長距離の移動は不可能だ。

オリヴィアの発言はその辺りを解決してくれるものではないか、と密かに期待しながら返答を待つ。

「十二月に入ったし、もう少しで平誕祭があるでしょう? その前にいくつかの中規模ダンジョンでモンスターの間引きが予定されているのだけど、その中の一つに『飛竜の 塒(ねぐら) 』というダンジョンがあるの」

そのダンジョン名を聞いた俺は、ビンゴだ、と内心で呟く。『花コン』でドラゴンの卵を入手するためのイベントに登場するダンジョン名である。

出現するモンスターはドラゴン系、鳥系、獣系の三種。規模は中規模で、時折ドラゴンの卵を見つけることができるため、王国が潰さずに管理しているダンジョンだ。

ここでいう管理とは『穏やかな風吹く森林』みたいにガチガチな管理ではなく、ダンジョンが大きくなりすぎないよう適宜ダンジョン内のモンスターを間引き、その成長を阻害しているダンジョンのことだ。

モンスターの間引きは面倒だし危険でもあるが、その見返りがドラゴンの卵ならメリットも大きい。もちろん、ドラゴンの卵以外にも色々と素材が入手できるため、挑める実力があるなら お(・) い(・) し(・) い(・) ダ(・) ン(・) ジ(・) ョ(・) ン(・) だ。

(でも『飛竜の塒』関係のイベントが発生する条件って、主人公とパーティメンバーのレベルが平均で二十を超えた時だったよな……現実だとレベルはないし、前倒しになったのか?)

透輝はそれなりに強くなっているが、習得している魔法などから考えると『花コン』基準でレベル二十には到達していない。中級魔法も覚えていないし、レベルで考えれば十を超えた程度だろう。

(パーティの平均レベルだから、他のメンバーのレベルが高ければイベントが発生するけど……もしかして俺やモリオンがパーティ扱いされてる? いや、モリオンは『花コン』のヒーローだからいいとして、俺も?)

透輝の周りにいる者の内、レベルが高いであろう人物を思い浮かべる。

『花コン』を基準とするなら上級魔法を扱えるモリオンはレベルが二十を超えている。そしてそんなモリオンが相手でも一対一ならなんとかなるし、俺も二十レベルを超えている、と思う。

(もしくはレベルは関係なく、特定の時期がきたら発生するイベント扱い? 現実だしただの偶然って可能性もあるが……もしくは俺がオリヴィアさんと協力関係にあるからか?)

ま、その辺りを考察するには情報が足りないし、ゲームじゃないんだからコレだという答えも見つからないか。

「二学期のテストが終われば平誕祭まで暇でしょう? 興味があるならオレア教の推薦ということで『飛竜の塒』に挑めるけれど、どう思うかしら?」

「……個人的には挑んでみたいダンジョンですが、仮にドラゴンの卵を入手できたとして、ドラゴンの所有は竜騎士に限定されていたはずですが」

『花コン』なら入手したドラゴンの卵は自分のものになったが、現実たるこの世界ではうちの実家でさえ所有していないのが竜騎士だ。移動速度が速く、上空から空爆できる点から、所有を制限するのもわかるのだが。

(上空から火属性の上級魔法でも撃てば、単独で王都を火の海にすることもできるからな……城壁を無視して城を直接狙うこともできるし、 管(・) 理(・) す(・) る(・) 側(・) からすれば厳重に扱うのも当然っちゃ当然か)

わざわざ間引きがどうこうって話を持ち込むってことは、そんな危険性があるドラゴンの卵を入手して良いよ、という提案だ。本当に大丈夫なのだろうか。

「貴方が、というより、 例(・) の(・) 少(・) 年(・) が……ひいては王家の姫君が所有する形になるわ。あとは少年の出来次第だけど、近衛か竜騎士か……そういったポジションを用意しておくって話ね」

「なるほど、それが王家が用意した召喚の代償ですか」

他所の世界から召喚した透輝に対する、王家が用意した身分保障の一環ってわけだ。竜騎士の適性があるかを確認するために、ダンジョンに行ってドラゴンの卵を入手してもいいよ、という話である。

(それなら事前に卵を用意してほしいところだが、入手できるかどうかもテストのうち、か……その助けとしてオレア教側から俺を戦力として推薦する、と)

もちろん『魔王』をどうにかしなければ透輝が将来得る立場も泡と消えるわけだが、『魔王』への対処に失敗したら人類も滅んでいる可能性が高いわけで。俺としても移動手段が手に入るのは非常に助かるから、透輝を手伝えってことなのだろう。

「それで、どうかしら?」

「良いと思います。微力ながら力を尽くしましょう」

中規模ダンジョンなら出てくるモンスターも強くなるし、透輝に実戦経験を積ませるチャンスだ。そう判断して、俺はにっこりと笑うのだった。