軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第202話:文化祭 その6

カリンへネックレスを贈り、その後は二人で昼食を取り、午後になったらぶらぶらと歩き回り、閉会の時間がきた。

婚約者候補として過不足なくエスコートできた……と、思う。カリンは終始楽しそうにしていたし、ネックレスを贈ってからは更に上機嫌というか、笑顔がより深まっていたように思える。

以前王都でデートをした時はリンネに襲われたが、さすがに学園で襲われるようなことはなく。途中からは腕を組んであちらこちらを眺めてゆっくりとした時間を過ごした。

素直にこういう時間も悪くないな、なんて思える時間だった。これでもう少し静かならゆっくりできたんだが、お祭りだから仕方がない。商人の掛け声も、子ども達の元気な声も、家族連れの穏やかな声も、それはそれで味わいがあるってもんだ。

とりあえず閉会式のために学術棟の大ホールに向かおうとしたら、生徒が増えてきたからかカリンが俺から離れる。人目が多い場所で腕を組むのは恥ずかしかったのだろうか。視線を向けると頬を薄っすらと赤くしている。

(ダンスの時とか、ちょっとしたイベントだとパートナーと腕を組むのは割と普通なんだが……)

これまでにない反応だった。いやまあ、恥ずかしがることは割とあったけどさ。

そんな感じで疑問を覚えていると、大ホールの壇上にコーラル学園長が姿を見せる。閉会式が行われるのだが、その中で今回の文化祭における成績優秀者が発表されるのだ。

俺は生徒だから関係ないが、来訪者達がコレはという者の作品に一票を投じているだろう。そしてそれは既に教師達によって集計されており、あとは発表を待つだけとなっていた。

(ま、一位はスグリだろうな。『花コン』でも主人公が錬金レベルを上げて勝たないと優勝できないし。今年だと次点でアレクかな? 本当に何でもできるからなぁ)

俺? 俺の場合はジョージさんやアイヴィさんが身内ってことで票を入れてくれるかな? って感じだ。あとは王国東部の人間が同情票を入れてくれるかもね。

そんなわけで閉会式が始まって挨拶などが終わり、式の締めとして文化祭の成績優秀者が発表されていく。

武闘祭だと各部門のベスト4以上が表彰されたが、定期テストの成績と同じように上位十人だけの発表となる。それも各クラスではなく、学校全体でだ。

つまり、今回表彰されれば千人近い在校生の中でも上位十人に入るってことである。とりあえず俺は無理だから、知り合いから何人選ばれるかが注目のポイントだ。

「まずは得票数第十位。技術科三年――」

最初に発表されたのは第十位だ。そこから一人ずつ上位者が発表されていく形になる。

(さすがに技術科の生徒ばっかりだなぁ……それも三年生……当然っちゃ当然か)

透輝の名前が呼ばれるかな、と思ったが、第十位から第七位にかけて呼ばれたのは透輝よりも難易度が高い錬金アイテムを展示していた三年生ばかりである。つまり透輝は十位以下ってわけだ。まあ、俺よりは票数が多いだろうけど。

「続いて得票数第六位。貴族科一年、モリオン=ロライナ=ユナカイト君」

おっと、ここでモリオンの名前が呼ばれたか。もう少し上かと思ったけど、絵画や彫刻、錬金アイテムといった見た目でわかりやすい物ではなく、論文という内容が重視されるもので第六位は大したものだ。

そう思って視線を向けると、当のモリオンは少しばかり不満そうだ。もう少し上の順位だと思っていたのだろう。

「続いて得票数第五位。貴族科二年、カトレア=リンド=ラビアータ君」

モリオンに続いてカトレアの名前が呼ばれ、俺は納得と共に頷く。やっぱり『花コン』でも文化祭で好成績を収める生徒ばっかりだよなぁ、なんて。

「続いて得票数第四位。貴族科一年、アイリス=パエオニア=ピオニー君」

カトレアに続き、ネームバリューがトップクラスのアイリスが第四位に入った。忖度というか、王女の作品ならってことで投票する者もいただろうしな。もちろん、作品自体が良かったっていう前提があってこそだが。

ただ、生徒会長として壇上でコーラル学園長の斜め後ろに控えているアイリスはというと、結果を受けて苦笑いをしている。本人としても第四位は結果が良すぎると思っているのだろう。

そして次、三位には技術科の三年生が入った。おそらくは三年の技術科でもトップの成績なのだろう。なんでそうなのかというと、一位と二位は決まっているからだ。

「続いて得票数第二位。貴族科一年、アレク=サンドライト=オブシディアン君」

うーん……やっぱりというべきか、アレクが二位か。そうなると一位は決定だな。

「続いて得票数第一位。今年の文化祭における最優秀者は……技術科一年、スグリ=レッドカラント君とする」

コーラル学園長がそう言うと、歓声と同時に半分近くは納得の声が上がる。あー、みたいな、それもそうか、といわんばかりの声だ。

スグリが背負うレッドカラントという家名は錬金術師としてそれだけ有名で、優秀さの証でもあるのだから。

そうして上位十人の名前が呼ばれると、それぞれが壇上へと上がっていく。

モリオンやカトレア、アレクは慣れた様子だが、スグリはガチガチに緊張しているようだ。普段から丸まっている背中が余計に丸まっている。

(スグリが一位か……『花コン』通りだけど、中品質のミストポーション以上のアイテムを作れる生徒がいないってことでもあるんだよな……)

俺も錬金術を学んだ身で、その感覚からいえば錬金レベル一のアイテムが作れるだけでも才能の有無が出てしまう。錬金レベル十のアイテムを作れるスグリは当然すごいのだが、同じ水準まで至る生徒がゼロというのはそれはそれで怖い話だった。

(本当に突出した才能を持つ人間以外、効果が高いアイテムは作れない……入手するには中規模か大規模ダンジョンで宝箱を開けるしかないが、それも難しい。スグリみたいに一握りの錬金術師が頑張っても作れるアイテムには限りがある……うーん……)

錬金術で作ったアイテムには使用期限があるし、その期限も半年程度。『魔王』の発生に備えて大量にアイテムを作るとしても限界がある。

それなら腕が悪くてもいいから錬金術師を大量に用意すれば良いのだろうが、低品質の回復ポーションを作れるってだけでも錬金術師としては上澄みだ。つまり、数の確保が難しい。

(スグリが一位になったことは賞賛すべきだけど、 予(・) 定(・) 外(・) の(・) 結(・) 果(・) になってほしかったな)

そうすれば、『花コン』のキャラ以外でも突出した能力を持つ人間がいると思えたんだが。

俺は壇上の成績優秀者達に拍手を送りながら、そんなことを思うのだった。

文化祭も終わり、出店の後片付けが済んだ第一訓練場で普段通り剣を振ったら寮に戻る。そしていつもの日課通り本の『召喚器』を発現すると、その中身に目を通していく。

(多分、今日の文化祭で……やっぱりか)

七十ページ目をめくると、そこには俺がネックレスをつけたタイミングのカリンが描かれていた。あの時はネックレスの留め具を上手く留めることに集中していて気付かなかったが、僅かに視線を上げてじっと俺を見詰めているように見える。

その表情は照れ臭さが混じっているが嬉しそうだ。こうして改めてみるとネックレスを選択したことは間違っていなかったのではないか、なんて思える。大正解って保証もないけども。

(これで新しいページが追加されてなかったら何の影響も与えられなかった……つまり、何も思わなかった可能性が高いからな。良い方向に影響があったんならいいけど……)

プレゼントを贈ったけど実は 大(・) 外(・) れ(・) で、喜んだ演技をしつつもその裏では滅茶苦茶評価が下がっていて、悪い方向に影響があった可能性も……い、いや、そんな可能性は考えずにおこう。精神衛生上よろしくない。でも可能性としては考えておかないといけないジレンマよ。

(良い方向に影響があったと信じよう……そうしよう……)

そんなことを思いつつ、他に何か変化がないかと本のページをめくる。

「ん? んん?」

そして思わずそんな声を漏らしていた。

七十一ページ目。そこには新たなページが出現していたのだが、そこに載っていたのは俺とカリンが並んで歩いているところを見ているスグリの絵だった。

これは多分、俺とカリンがスグリの作品を見た直後を絵にしたものだろう。だがしかし、そうなると一つ疑問が浮かぶ。

(あれ……おかしいな。スグリと話をしたのって、俺がカリンにネックレスを贈った時よりも前だったよな?)

今日一日の出来事を思い返し、時系列順に確認して一つ頷く。スグリと話をしたのは技術科の教室を見ていた時だから、間違いなくカリンと出店を見て回る前のことだ。

そうなると順番的には七十ページ目にスグリの絵が表示されるべき……だと、思うんだが。

(この『召喚器』がおかしなことをするのは今に限ったことじゃないが……偶然か? 時間で考えると一時間程度のズレ……後ろ倒しになってるか? それともカリンのページが前倒しに? 意味としては同じなんだが……)

どういうことだ、と首を傾げる。

他にあり得るとすれば、教室で会った後に俺とカリンが一緒に歩いているところを再度目撃した、なんてことぐらいか。ただ、さすがに至近距離まで近づかれたら喧騒の中でも気配でわかるんだが。

「なあ、どういうことだ? なんでスグリのページの方が後なんだ?」

とりあえず言葉にして尋ねてみた。しかし本の『召喚器』が反応を返すことはなく、俺はため息を吐く。

(これもいつものことか……コイツ、俺がうろたえるのが面白くてこんな真似をしているんじゃないだろうな……)

もしもそうだとすれば い(・) い(・) 性(・) 格(・) をしていると思うが、さすがにそんなことはないだろう。というか自分の魂の具現と言われる『召喚器』がそんな真似をするってことは、自分自身がそんな性格だと言われているようで普通に嫌だ。

(ページの内容も内容だしな……これ、良い影響は与えてないと思うんだが)

スグリの反応を見た感じだと、明らかに悪い方向に影響を与えた気がしてならない。自惚れるようだが、あの時のスグリは嫉妬か絶望か、そんな感じの雰囲気があった。

その後のカリンの態度で持ち直したようだったが、良し悪しでいえば悪い影響だと思う。

(でもジェイド先輩みたいに対抗心とか反発心っぽい感情を抱いてもページに記載されるみたいだしな。やっぱり影響の良し悪しじゃなくて 何(・) か(・) し(・) ら(・) の(・) 影(・) 響(・) を与えると記載されるのか?)

とりあえず強く印象に残れば本に記載されるのかもしれない。

そういう意味だと以前、『王国北部ダンジョン異常成長事件』でゾンビ化した 従者(エミリー) を斬った際、それを見ていたカリンもページに追加されていた。そうなるとやっぱり、良い影響だけではないとみるべきか。

(でも今回みたいに記載の前後がおかしくなるのは初めて……だよな? まあ、以前からページの記載順がどうなっているのか疑問ではあったけどさ)

『王国北部ダンジョン異常成長事件』のように、一つの出来事に対して複数人のページが記載されることが多々あるが、その際に記載される順番に関してもよくわからない。何か法則性があるのか、この本の気まぐれか、それすらもわからなかった。

「お前さんはいつになったら俺に優しくしてくれるんだ?」

とりあえずいつも通りの愚痴と共にため息を吐き、『召喚器』を消すのだった。