軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第179話:武闘祭 その10

期待はしていたが、実現できるかは怪しいと思っていた透輝の優勝。

それを目の当たりにした俺は観客席に背中を預け、大きく息を吐く。

(まさか本当に優勝するとは……何度驚かされることか……)

たしかにこの五ヶ月間、しっかりと透輝を鍛えてきた。しかし剣術部門に出場した者達の多くはその十倍、二十倍と長い年月をかけて努力してきたはずである。それだけの努力を覆せるからこその天才というべきなのか、あるいは異才というべきか。

(たしかに前世でも競技を始めて数ヶ月なのに大会で優勝した、なんて話を聞いたことはあるが……)

実際に見ると驚くやら呆れるやら。あまりの異常さに脱力すらしそうだ。

「 本(・) 物(・) にはほど遠いですが、中々、良い物を見れました」

そう言ってモリオンが観客席から立ち上がる。どことなく楽しそうというか、気合いが入った様子だ。

「私も優勝してミナト様に勢いをつなげたく思います。少々滾るものがありますからね」

「 学(・) 園(・) の(・) 生(・) 徒(・) の(・) 中(・) で(・) は(・) 魔法においては君が最強だろうし、ほどほどにな?」

それこそメリアなどの例外を除けばモリオンに魔法で勝てる者はほとんどいないだろう。王国騎士団の中でさえモリオンに勝てる魔法使いは数えるほどしかいないかもしれない。モリオンはまだ学生なんだけどね。

(ま、滾るものがあるのは俺も一緒か)

透輝の戦いを見て、正直なところ興奮を抑えるだけでも大変だ。良い試合を見た結果、俺も早く試合をしたいという気持ちに駆られている。

それでもまずは優勝した透輝を褒めるべきだろう。そう思った俺は観客席を離れてアリーナにつながる廊下へと向かう――っと?

「優勝おめでとうございます、透輝さん。まさかこの短期間で優勝できるほどに成長しているなんて……」

「いやぁ……あはは。嬉しいけど複雑でもあるんだよな。結局、自力じゃ勝てないからミナトの真似をしただけだしさ」

「真似られるだけの実力を身に着けたんですから、誇るべきですっ! 少なくともわたしは誇ります。あなたの優勝を、これまでの努力を、その全てを」

「アイリス……」

透輝に声をかけようと思ったけど、どうやらアイリスに先を越されたようだ。割って入ることもできるけど、良い雰囲気だし……ここは大人しく引き上げるとしよう。

「あっ……若様……」

そして引き上げた矢先にナズナと顔を合わせることとなった。どことなく気まずそうにしているのは、透輝に勝つつもりだったのに負けてしまったからだろうか。

「お疲れ、ナズナ。負けた君の前でこう言うのもなんだが、良い試合だったな」

俺がそう言うとナズナは苦笑し、視線を床へと向ける。

「これまで何度も手解きをしてきましたが、あれほどまでに成長しているとは思わず……驚きました」

うん、この武闘祭のこれまでの試合の中でもガンガン成長してたからな。そりゃあ実際に戦ってみると驚くと思うよ。昨日までの透輝と比べても一段強くなっているだろうからな。

「それに、最後に見せたあの一撃……言い訳になりますが、意表を突かれました。若様がお教えになったわけではないのですよね?」

「ああ。俺が使うところを見て真似たんだろうさ。まったく、大した才能だ」

透輝が努力した部分もあるだろうが、やっぱりその煌めくような才能に目をひかれる。

「たしかに優れた才能があると思いますが、その才能を磨いたのは若様では? いくら才能があっても磨かなければ意味がないのですから」

「……ま、それもそうだな。実戦ならまだまだ未熟だが、試合の範疇なら君を超えられるぐらいにはなった。これからはもっと厳しく指導してもいいか」

将来的にスギイシ流をランドウ先生から教えてもらうつもりだったが、事前にある程度仕込んでもいいかもしれない。いや、勝手に見て学ぶから教える必要はないのか? 変な癖をつけたくないから基本だけ教えていたけど、この分だと逆に教えた方が癖はつかないか。

(基本が身に付いたから応用を教えるみたいに……いや、その前に魔法か。予定通り魔法を教えて、並行して剣術も更に鍛えて……手頃なダンジョンがあれば放り込みたいな。下級でもいいから光属性の魔法を覚えたら中規模ダンジョンぐらいは大丈夫か?)

いやぁ、どんな風に育てるか、どこまで育つかが楽しみだ。手塩に掛けた以上に成長していく姿を見ると、無理難題をぶつけてみたくなるな。それすら乗り越えて更に成長しそうだ。

「若様……テンカワの、いや、透輝の成長ぶりは大したものだと思いますが、ほどほどにしないと潰れてしまいますよ?」

そう言って苦笑するナズナの姿に、おや、と内心で首を傾げた。

剣術だけの勝負とはいえ負けたことで、透輝を認める気になったらしい。その証拠か苗字ではなく名前で呼んだナズナはどこか嬉しそうだ。まあ、ナズナから見ても初めて指導した弟子みたいな相手だしな。

「ちゃんとほどほどに、適切な難易度にするさ」

俺はナズナの透輝に対する呼び方が変わったことは指摘せず、ただ苦笑しながら肩を竦めるのだった。

その後、タイミングを見て透輝に優勝を祝う言葉をかけ、決勝の準備をしながらモリオンの試合を観戦し、決勝にもかかわらずほぼワンサイドゲームで圧勝するモリオンに少しだけ引き、剣魔部門の決勝を見ると俺の番がやってきた。

学年不問条件不問部門の決勝は 大(・) ト(・) リ(・) である。そのため観客席で応援する観客のテンションも高く、開始前にもかかわらず既に多くの声援が飛び交っているのが聞こえてきた。

そんな中でアリーナに姿を見せると、観客の声援がよりいっそう大きくなる。学園の生徒なのか『ミナト様ー!』やら『サンデューク様ー!』やら応援っぽい声が聞こえるが……あっ、『ミナトくーん! がんばれー!』って声はエリカだな。

そうやって応援に背中を押されるようにしてアリーナの中央へと歩を進めると、反対側からゲラルドが歩いてくる。こっちは『委員長がんばってー!』やら『先輩頑張ってください!』やら聞こえてくる。なんだ、人気者じゃないか。

「若様。こうして武闘祭の決勝で 相見(あいまみ) えることができ、家臣として喜ばしく思います」

「俺もだよ、ゲラルド。こうして君とこの場で戦うことになるなんて……実に、嬉しい」

そう言って俺は笑う。『花コン』のメインキャラの中でも屈指のバランスの良さ、剣術、魔法、『召喚器』の扱いと全てにおいて高水準にあるカトレアを難なく下したその実力を前に、称賛と高揚を込めて笑う。

「……一応確認しておきますが、家臣として手を抜いて若様に勝利を譲った方が良いでしょうか?」

「そんなことをすればどうなるか……わかるだろ?」

「一応ですよ、一応。こちらとしても去年優勝した身ですから、下手に情けないところも見せられません。決闘委員会の委員長でもありますからね。舐められるわけにはいかないんですよ」

家臣として勝利を譲るか、なんて聞きながらもその瞳にはそんな気配は全くなかった。むしろ俺と同じか、それ以上に戦意を滾らせているのが見て取れる。

「そうか……成長したな、ゲラルド」

中身はともかく、外見は相手の方が年上だが俺としてはそう言うしかない。軍役を共にして初陣を飾らせた時はどうなることかと思ったが、あれからの三年間でしっかりと成長している。

「ははは、年齢はこちらの方が上のはずですが、若様が相手だとどうにも違和感がありませんな」

そりゃあ中身の年齢が上だからな。あとは立場上、領主と家臣って関係性もあるし。

試合が始まる前にそうやって言葉を交わしながら、ゲラルドを見る。 父親(ウィリアム) 譲りの濃い緑色の髪を若者らしく適度な長さで切り、顔立ちは大人びて精悍さを帯びている。

身長は俺よりもやや大きく、百八十センチを僅かに超えるだろうか。実習服の上からでもしっかりと体を鍛えているのがわかるほどに筋肉がついており、三年前と比べると心身共に成長したことがうかがえた。

ゲラルドは俺と同じように観察するような目付きをしたかと思うと、何かを懐かしむように笑う。

「若様、私は『王国北部ダンジョン異常成長事件』で共に戦い、貴方が兵を率いてモンスターを倒し、ボスモンスターのデュラハンすら倒してみせたことを、今でも昨日のことのように思い出せます。端的に言えば憧れた、というやつでしょうな」

「……そうなのか? そりゃあ気付かなかったな」

ゲラルドの言葉に俺は目を瞬かせる。一緒に戦った仲だし、憧れる必要はないと思うんだがなぁ。

「あれから三年の間、私は私なりに腕を磨いてきました。貴方に届くかどうか、それはわかりませんが……お見せして無様ではない程度には腕を上げたつもりです」

「無様ではない程度、か……」

笑みを消して真剣な表情へと変わったゲラルドに対し、俺は頭から爪先まで観察するように視線を向ける。

「その割にはずいぶんと自信がありそうに見えるぞ?」

「……そう見えますか?」

「ああ。きちんと勝算があるって顔に書いてある」

いやはや、ウィリアムに見せてやりたいぐらい 良(・) い(・) 顔(・) をしているじゃないか。領地から王都まで距離があるのが惜しいな。まあ、ジョージさん達が見ているから、手紙でウィリアムに今日のことは伝わるだろう。

そうなると、俺も無様な試合はできないな。相性次第では完封される可能性もあるか。

俺とゲラルドの会話が一段落したと見たのか、審判の教師が確認するように視線を向けてくる。それに頷きを返せば俺とゲラルドの間に立ち、試合開始の宣言を始めた。

「それではこれより学年不問、条件不問部門の決勝戦! 貴族科一年のミナト=ラレーテ=サンデューク君対貴族科三年のゲラルド=ブルサ=パストリス君の試合を行います!」

俺はゲラルドから十メートルの距離を取る。そしてゆっくりとした動作で『瞬伐悠剣』を鞘から抜けば、ゲラルドもそれに応えるように短槍の『召喚器』を発現した。意識を集中した様子もなく瞬時に発現してみせたことから、相当扱い慣れているのだろう。

「両者構えて……試合、開始っ!」

開始の合図と同時に俺は剣を中段に構え、ゲラルドも槍を中段に構える。

ゲラルドの槍は二メートルに満たない短槍だが、それでも俺が振るう『瞬伐悠剣』と比べれば間合いが長い。長槍みたいに一方的に叩ける長さじゃないが、槍は叩いてよし、突いてよし、投げてよしの便利な武器だ。そこに『召喚器』としての能力が加われば厄介だろう。

(カトレア先輩を完封するような能力だからな……さて、何が出るか……)

一体どんな能力があるのか、なんて思いながら、繰り出される槍の穂先を剣先で弾く。

「――ッ!?」

それと同時に、剣を通してこちらの全身を違和感が襲った。それは一瞬のことだったが、全身が 痺(・) れ(・) た(・) よ(・) う(・) に(・) 硬直する。

(これは……電気か!?)

そう判断すると同時、魔力を操って剣に通し、こちらの硬直を狙って放たれた二度目の突きを『一の払い』で打ち払う。すると狙い通り槍に宿っていた雷を斬ることができ、痺れることはなかった。

「さすがですね、若様。準決勝で見せていなければもう少し大きな隙になったのでしょうが……」

ゲラルドは俺の行動を見て苦笑する。『一の払い』か同質の技がなければ防ぎようがない、厄介な能力といえるだろう。モンスター相手でも有利に立てるだろうが、武器で打ち合う人間同士なら更に有利に立てるはずだ。

(魔力が続く限り『一の払い』は使える……魔力が尽きるよりも勝負を決める方が早いはずだ。 こ(・) の(・) 程(・) 度(・) ならどうとでもなるが……)

自信がありそうだったが、この程度か。そんな意図を込めて視線を向けると、ゲラルドは苦笑を深めて槍をひと振りする。

「やれやれ……我が主君は相変わらず厳しいお方だ。ですが、ご安心を。これはあくまで前座にすぎません」

驚かされたが、俺には感電させるだけでは足りないと判断したのだろう。ゲラルドは槍を構え直し――バチリと槍から雷が弾ける音が響く。

「我が槍よ。 紫電(しでん) を 征(せい) する力を我に与えたまえ――『 紫電征槍(しでんせいそう) 』」

(能力の解放! 『掌握』の段階に至っていたか!)

それまでが静電気だとすれば、能力を解放したゲラルドの槍に宿るのは目視可能なほど凝縮された雷だ。バチバチと音を立てながら紫電が迸り、距離を空けても肌の表面が薄っすらと痺れる。

「さて……ここからが本番ですよ、若様」

「そうみたいだな……」

口の端を吊り上げて笑うゲラルドに、俺もまた、笑って返すのだった。