作品タイトル不明
第180話:武闘祭 その11
『召喚器』の形状や能力というものは、個々人によって千差万別である。
戦闘に向いたもの、向かないもの、特殊な能力があるもの、使用者の身体能力などを強化するものなど、『召喚器』を発現できるようになった上で能力が解放できるほどに扱いに慣れなければ能力の詳細はわからない。
仮に能力に関してわかったとしても、説明書などはないのだ。自分自身が発現したものだから使用方法や能力は感覚でわかる――らしい。
俺の場合、『瞬伐悠剣』は元々他人の『召喚器』である。今でこそ力を貸してくれているし、唯一無二の相棒だが、能力を解放する時の感覚などが自分自身の『召喚器』の能力を解放する時と同じである保証はない。
自前の『召喚器』である本の『召喚器』は名前もわかっておらず、能力も身体能力が強化されていることからバフ系の能力だろう、と勝手にアタリをつけているだけだ。
『召喚』自体は平均と比べてもかなり早かったというのに、未だに名前の一文字もわからない。身体能力を強化してくれるから『活性』の位階に踏み込んでいるとは思うが、何をどうしても『掌握』の位階に至れないのだ。
そんな俺の『召喚器』と異なり、ゲラルドの『召喚器』はその能力も一目瞭然である。『紫電征槍』という、名は体を表すレベルで能力がわかるのだ。正直羨ましい。
槍としては間合いが短めではあるが、それを補って余りあるほどに優れた能力である。打ち合えば相手を感電させ、おそらくだが電撃の発射なども可能だろう。『一の払い』かそれに似た技が使えなければ近接戦闘は自殺行為だ。
ゴムでできた剣でもあれば電気は防げるかもしれないが、相手は槍である。鋭利な穂先で両断されかねない。攻防一体過ぎてズルくすら思えるな。
そんな槍の『召喚器』を手足のように扱い、ゲラルドが次から次へと攻め立ててくる。
突き、薙ぎ払い、石突での打突。時に俺の足を狙い、時に避けにくいよう胴体を狙い、鋭利な矛先で何度も突いてと動きも速い。
俺はその全てを弾く。弾かずに回避しても近くを槍が通るため、どうしても痺れてしまうからだ。それなら最初から『一の払い』の要領で攻撃を弾きつつ電撃を無効化した方が良い。
そうすることでゲラルドとの戦いは互角――というには少し厳しいか。
なにせ間合いが違うのだ。『一の払い』で刃を飛ばせば不利を補えるが、あくまで剣を振った先に斬撃を飛ばすのであって、物理的に間合いが伸びるわけではない。いやまあ、剣先から伸ばす形で魔力の刃を延ばせるけども。さすがに『召喚器』相手に打ち合うには心許ない。
それでも弾丸のように放たれる突きを弾いて逸らし、横薙ぎに振るわれれば受け止め、石突を使った打突も剣で打ち払う。互いに立ち位置を変えつつ、時には高速で移動しつつ、何度も何度も剣と槍をぶつけ合う。
「さすがですね若様! これまで戦った相手は全員、痺れて動きが鈍ったのですが!」
「こんなにバチバチやってたらそりゃあ痺れるだろうよ! ったく、うちの未来の騎士団長サマはずいぶんと立派になって! 嬉しいよ――本当に」
「っ!?」
槍の引き手に合わせて踏み込み、一気に間合いを潰す。ゲラルドが目を見開くのを視界に収めながら、これまで防御し続けていたのが嘘のように攻撃に転じる。
すまんな、ゲラルド。三年前に一緒に戦った時と比べると俺も成長しているんだ。本の『召喚器』のページも増えたし、身体能力はあの頃の比じゃないんだよ。
でも、こうして全力を出せるのは実に喜ばしい。エリカの時は武器を交えてどうこうっていうのはなかったからな。エリカが放つ竜巻を斬れるか斬れないかの二択だった。全力で斬りはしたが、 全(・) 力(・) で(・) 戦(・) っ(・) た(・) かといえば答えは否だ。
その点、ゲラルドはこちらの動きに追従し、繰り出す刃にも全て反応し、きちんと防いで反撃もしてくる。
ゲラルドは自分で語った通り、この三年間で努力し、成長し、腕を磨いてきたのだろう。昨年度の学年不問条件不問部門で優勝したというし、その努力の量は並大抵のものではなかったに違いない。
(カトレアがゲラルドの『召喚器』の能力を知らなかったってことは、去年はまだ『召喚器』が『掌握』まで至っていなかったんだろうしな。そう考えると去年は槍と魔法だけで優勝したってみるべきか。道理でここまで 動(・) け(・) る(・) わけだ)
『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時のゲラルドは、今と比べればまだまだ未熟だった。
パストリス子爵家の嫡男として大事に育てられていたのだろうが、その技量は同年代の中で突出して高いというわけではなかった。爵位を持つ貴族の嫡男としては普通というか、鍛えてはいるが そ(・) れ(・) だ(・) け(・) といった感じだったのだ。
それがモンスター相手とはいえ命懸けの初陣を乗り越え、そのまま一週間近く防衛戦を行い、一皮も二皮も剥けた。そして学園に通うようになり、多くの努力を重ねてきたのだろう。
槍の使い手として基礎がある。実戦経験もある。武闘祭のような試合形式の戦いも多く経験している。
だからこそ、俺が距離を詰めた際の対処法もきちんと用意していた。
ゲラルドに魔力が集中する。それが魔法の発動を示すものだと看破した俺は、剣に魔力を込めたままで迎撃の体勢を取った……が。
「――『 水流陣(すいりゅうじん) 』」
「ハッ! そうきたか!」
ゲラルドと俺の間を隔てるように水の壁が出現したのを見て、瞬時に後退しながら思わず叫んでいた。
水属性の中級魔法である『水流陣』。『花コン』においては敵全体にダメージを与える魔法で、ついでに一ターンだけだが速度も若干低下させる。
俺の初陣の際、ウィリアムが消火のために使った魔法でもあった。そして、雷撃を使うゲラルドにとってはこの上ない助けとなる魔法だろう。
(魔法ってのは理不尽だなぁ、おい。何もなかったっていうのに、これほどの規模の水を生み出すんだから)
魔法に関しては非才のこの身が恨めしい。そう思えるほど理不尽な光景だ。ゲラルドが操る水の壁は分厚く、突破するのは容易ではない。しかも、『紫電征槍』のせいで水が電気を帯びるのだ。
これまでは『一の払い』で対抗してきたが、気を付けなければ濡れた地面を通して足元から感電しかねない。水流を斬っても飛び散った水を通して感電する可能性もある。
(武器に触れても駄目、近付こうとすれば水に阻まれて感電、足元から感電する可能性もある……まったく、対人特化というか、一対一特化というか。近付けば勝てるかっていうと、ゲラルド自身、槍が達者と)
どうやって攻略すれば良いのやら。俺は迫りくる水の束を『一の払い』で遠くから両断しつつ、ゲラルドの周囲を駆け回って隙を探す。
『水流陣』だけに限らず魔法は技量によってある程度操作が可能だが、ゲラルドは自分の周りを囲うように展開し、なおかつこちらにも水の束を差し向けてくる。
モリオンみたいに真正面から突破できる威力の魔法でも使えれば楽だったんだが……ま、ないものねだりしても仕方がない。自分の手札だけでどうにかするしかあるまいよ。
(といっても、『一の払い』でどうやって突破するかってだけの話なんだけどな)
感電せずに『水流陣』を突破するとなると、『一の払い』以外に攻略方法がない。少なくとも俺では他の手段を用意できない。時間をかけて『火球』を使っても『水流陣』は突破できないため、MPを無駄に消費するだけだろう。
(動き続けてゲラルドのMPが尽きるのを待つ……実戦ならともかく、試合でそれをやるのは 逃(・) げ(・) だな)
こちらは身体能力の強化にMPを使っていない。本の『召喚器』による強化だけで常に並の援護魔法を上回るほどに身体能力が強化されている。そのため逃げ回ってゲラルドのMP切れを待つこともできたが、そこまで勝ちに徹するのは命懸けの実戦だけで十分だ。
(さて、そうなるとどうやってアレを突破するかね……『一の払い』を連射して強引に突破するぐらいしか思いつかないが……)
蛇のように蛇行しながら飛んでくる水の帯を切り裂きながら、そんなことを考える。
遠距離から『一の払い』を連射して『水流陣』を破壊し、そのまま斬り込むぐらいしか思いつかない。ランドウ先生ならともかく、俺には一回の『一の払い』で『水流陣』を突破できるだけの威力がないから仕方がない、のだが――。
(俺は無理だけど、ランドウ先生なら一撃で斬れる……よな? つまり、『一の払い』は『一の払い』でも、俺が使っている技はランドウ先生とは別物になる……か?)
ふと、ランドウ先生と自分を比べて 引(・) っ(・) か(・) か(・) る(・) も(・) の(・) があった。俺を追うようにして迫ってくる水の帯を、高さ二メートルほどの観客席の壁を足場にして走って回避しながら思考を巡らせる。
(……俺も透輝に倣うか)
剣を教えた俺を真似た透輝のように、ランドウ先生の姿を脳裏に思い描く。
俺は『一の払い』、『二の太刀』、『三の突き』、そして奥義である『閃刃』と、スギイシ流の技は曲がりなりにも修めた。
『閃刃』はランドウ先生に見せていないし、完成したとは胸を張って言うことができないが、『一の払い』や『二の太刀』に関してはそれなりに完成度を高めてきたつもりだ。
そんな俺の技とランドウ先生の技の威力を比べた場合、確実にランドウ先生に軍配が上がる。
積み重ねてきた経験の差か、技術の差か、努力の差か、あるいは才能の差か。たとえば『一の払い』で斬撃を飛ばしてぶつけ合えば、俺の方が一方的に押し切られるだろう。
つまり、そこに 差(・) が(・) つ(・) く(・) 何(・) か(・) が存在するのだ。
昔ならいざ知らず、俺も成長期を迎えて体が大きくなり、筋肉もついた。つまり、体格差や筋力差で斬撃の威力に差が出ているわけではない。むしろ俺の場合は『召喚器』による身体能力の強化があるから、その辺りはランドウ先生より有利なぐらいだ。
そうなると単純に技術の差が威力の差につながっているんだろうけど、当然ながら技術的にも成長しているわけで。
(俺とランドウ先生じゃあ、比べ物にならないぐらい剣の技術に関して差があるのかもしれないが……それだけでここまでの差がつくか? ランドウ先生だから、で片付けてないか?)
『花コン』でも『魔王』を倒し得る存在ということで、俺と大きな差があっても当然と受け止めていた。しかし戦闘でも剣術でも何でも、理由もなく差はできないのだ。
俺はたしかにスギイシ流の技を修めた。だが、 極(・) め(・) た(・) わ(・) け(・) で(・) は(・) な(・) い(・) 。
逆にランドウ先生は技を極めた――というと本人に殴られそうだが、少なくとも俺より遥かに習熟している。
(技を覚えたけど、まだまだ先がある。それは理解しているつもりだし、日頃の鍛錬で少しずつ強くなっているつもりだったが……っと)
思わぬ難敵を前に、俺は自らの剣技に関して思考を巡らせていく。ついでに、電気を纏った『水弾』が飛んできたため『一の払い』で両断し、それを目隠しにして『水流陣』が迫ってきていたためその場から離脱して回避する。
水属性の魔法と組み合わせることで遠近問わず、届く場所なら押し潰すと同時に感電させるという凶悪なコンボだな。えげつないわ。
ゲラルドはアリーナの中央に立ち、体の向きを変えるだけで周囲を駆け回る俺を視界に収めることができる。つまり死角を突いて接近するというのは不可能だ。ただでさえアリーナには遮蔽物がないし、遮蔽物を用意することも俺にはできない。
そうなるとやっぱり、真っ向から突っ込んでゲラルドの水と雷の壁を斬り破るしかない。だが、それが可能かと言われると『一の払い』の連射で突破できるかどうか、という博打になる。
(ランドウ先生なら、か……俺にも透輝みたいにできるか?)
透輝みたいな才能はないが、あの人の剣に憧れ、追い続けてきたという自負はある。完全な再現は無理だとしても、あの人が剣を振るう姿は脳裏にしっかりと焼き付いている。
(今の俺が、少しでもランドウ先生に近付くにはどうすればいいか……)
手持ちの手札を確認する。スギイシ流の技に絞り、何ができるかを頭の中で描いていく。
『一の払い』と『二の太刀』と『三の突き』。これらの 要訣(ようけつ) を混ぜ込んで奥義たる『閃刃』に至るわけだが、奥義だけあってその威力はすさまじいものがあるし、考えなしに連発できるほど消耗が軽いわけではない。
しかし、威力に関しては俺が出せる中で間違いなく最強なのだ。火竜の首を落とせたし、並大抵のモンスターが相手なら一撃で仕留められるという自信がある。
ランドウ先生の剣を模倣するなら、『閃刃』は必須だ。少なくとも威力だけなら並べる……というのはさすがに過大評価か。いや、ランドウ先生が繰り出す技以外の斬撃ぐらいには届くかもしれない。
(……ん? あれ?)
そこまで考えた俺は、飛んできた『水弾』を斬りながら思った。色々と難しく考えていたが、ちょっと考え方を変えてみれば答えが見えた気がしたのだ。
簡単に、シンプルに考えてみよう。『一の払い』の威力を引き上げるための方法。
それはつまり――『一の払い』で『閃刃』を飛ばせば良いのでは?
理屈の上ではそういうことだよな、と俺は脳裏に閃くものを感じるのだった。