軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百六十四話 ノネッテ国の王城にて

ノネッテ本国に渡り、俺はチョレックス王と面会し、連続した戦争の顛末を語った。

「――ということで、ノネッテ国の国土は以前の倍となりました」

「ふむっ。国土が増えたことは喜ばしいことだが、騎士国と帝国の距離が縮まったことは、今後の懸念であろうな」

ペイデン地域を挟んではいるけど、確かに騎士国と帝国の領土は接近している。

でも俺は、チョレックス王が心配するようなこと――騎士国と帝国の関係が悪化することにはならないと、そう判断していた。

「いままで、騎士国と帝国の間には、国らしい国が存続できませんでした。しかし、今はペイデン地域があります」

「ミリモスの言いたいことが分かったぞ。我が国が間に入る形で、ペイデン地域を騎士国と帝国の対話の場所にするのだな」

「その通りです。まあ、両国とも戦争を続けて長いですからね。水面下では、色々な交渉をする方法はあったと思いますが」

「大っぴらに会談できる場所があることは、あの二つの国にとって悪く働くことはあるまい」

「その分、ペイデン地域の領主には、胃の痛い思いをしてもらわないといけなそうではありますけどね」

「ペイデン地域の領主は、労せずして小国一つ分の土地が加増されたのだ。騎士国と帝国との折衝を手助けする仕事ぐらいは、引き受けてもらわねばな」

チョレックス王は笑顔で言うが、正直俺なら、そんな仕事はゴメンだな。

そんな感想を抱いていると、ノネッテ国宰相のアヴコロ公爵が注意を入れてきた。

「新たに我が国に加入した領地ですが、しばらくは見張りが必要になるでしょう。いまの状態のまま放置しては、いつかは独立を唱えるやもしれませんから」

「多くの地域では国だった頃の役人をそのまま登用し、その内のいくつかでは領主は元王族であるからな」

二人の懸念は最もだけど、そればっかりは仕方がないと思っている。

「領土経営を任せられるような、ノネッテ国の人材は払底しているんです。実際、ルードット地域なんかは代理の者を置いている状態で、新たな領主を決めないといけないぐらいなんですよ」

俺だって、正直に言えば、打ち倒した国の王族を領主になんてしたくはない。

でも、彼らを登用しないと、新領土の運営が崩壊してしまうんだ。

俺の苦悩が伝わったのか、チョレックス王も苦い顔だ。

「分かっているとも。とはいえ、新たな領主たちに好き勝手させ続けるわけにもいくまい。なあ、宰相よ」

「カヴァロ地域の領主となったソレリーナ様に、彼の地域の睨みを利かせて欲しい所ですね」

「そう上手くはいくまい。カヴァロ地域は帝国領に頭を抑えられている形である。周辺国の情報を掴むのは一苦労であろう」

もしもカヴァロ地域がペイデン地域と接続できていれば、ソレリーナが周辺領土の代表のような形に出来たんだろうな。

「いっそ、ソレリーナ姉上をルードット地域の領主に配置換えをするのではどうでしょう?」

俺の提案に、アヴコロ公爵が首を横に振る。

「ソレリーナ様は、カヴァロ地域が気に入ったようでして。あの地をより良くしようと動いている最中。転封を命じる真似をすれば、ヘソを曲げられてしまうでしょう」

「ソレリーナ姉上の機嫌を損ねると、後が大変だろうなぁ……」

ソレリーナは、次期王の立場を捨ててまで、愛した者の下に出奔するような女傑だ。

その機嫌を損ねたら、どんな不利益がやってくるかなんて、想像すらしたくない。

俺とアヴコロ公爵が『残念だ』と顔を歪めていると、チョレックス王が何かを思いついた顔をする。

「転封の案は使えるのではないか?」

「……誰に命じる気ですが」

俺は問い返しつつ、嫌な予感がしていた。

その予感が当たったようで、チョレックス王は俺を示した。

「お主だ、ミリモス」

「お言葉を返しますけど、ロッチャ地域はノネッテ国の軍事を支える場所ですよ。おいそれと、他者に任せるわけには」

「であるなら、ルードット地域をお主の領地の飛び地とすればよいのではないか?」

要するにチョレックス王は、俺にロッチャ地域だけでなくルードット地域も治めろと言いたいらしい。

『無茶だ』と思うけど、実は俺も可能性としては、俺が二つの地域を治める可能性については考えてはいたんだよね。

「……ロッチャ地域は安定し、文官も育ってきています。ロッチャ地域に代理の者を据え、俺がルードット地域に行けば、可能かもしれません」

「おお! ではっ!」

「しかしながら、問題が何点かあります」

俺はチョレックス王に三本の指を突きつける。

「問題の一つは、魔導技術の研究が遅延しかねないことです。魔導技術の研究は、俺が主導し、ロッチャ地域の鍛冶師が支えてくれないと、満足な成果は成り立ちません」

「確かにそれは問題か」

チョレックス王も、魔導技術の進歩がノネッテ国の軍事に必要だ、という見解は持ってくれていたようだ。

説得できるかと思ったが、アヴコロ公爵が割って入ってきた。

「現状、我が国の国庫と食糧庫は空に近いのです。各地の戦後復興を考えるのならば、魔導の研究に更なる予算を注入することは難しく、現状維持が精いっぱいです。それに、広がった国土の防衛を考えると、一定の戦果を上げた魔導鎧とやらを増産することに注力するべきかと」

「ミリモスが研究を主導する場面は、戦争の傷が癒えた後までこないと、アヴコロ公爵は見ているのだな」

「魔導研究の主導が必要ないのですから、ルードット地域に赴任させても良いかと」

アヴコロ公爵の主張は正しい。

研究部での魔導研究は続けなければいけないけど、魔導鎧の増産も必要不可欠だ。

現状の情勢を考えて、どちらに資金を多く注入しないといけないか判断するなら、やっぱり魔導鎧の方になっちゃうものな。

「では、二つ目の問題です。ロッチャ地域に残した妻、パルベラは妊娠中で、もうすぐ出産です。長距離の移動は難しいかと」

「ロッチャ地域に残せばよいだろう」

「パルベラの性格を考えと、ルードット地域に共に行くと言い出しますよ」

ここでもまた、アヴコロ公爵が割って入ってきた。

「ミリモス。パルベラ様は、もうご出産を終えているよ」

「えっ!? いつ!?」

「知らせが来たのは、つい二日前だ」

「そんな。出産はまだ先だとばかり思ってたのに」

「あのね。戦争をどれだけの期間やっていたか、ミリモスは把握していないのかい?」

アヴコロ公爵から呆れたように言われて、俺はパルベラと離れてからどれだけの期間が過ぎたか、指折り数えようとする。

移動や戦闘行動に統治作業と数えていくと、優に五十日以上は経っていることが分かった。

ここで俺が王城の外の風景に目を向けると、俺が数えた日数以上に季節が過ぎていると自覚させられた。

「……こんなに日数が経っていたなんて」

「産後の肥立ちも良いようで、神聖術を用いて体力回復に努めれば、少々療養すれば体調は元通りになるとも報せが来ていますよ」

パルベラの出産に立ち会えなかったことを自覚して肩を落としつつ、三つ目の問題を提示することにした。

「ロッチャ地域で、アンビトース王族の姫とその使用人を、人質として預かっています。彼女たちの処遇をどうするか決めないと、土地を離れられません」

「人質とな。アンビトース地域はヴィシカの下に纏まり、元王族も配下に従えていると報告がある。その彼女らの役目は、終えたと考えてよいのではないか?」

「王の仰られたように、人質に留めておく意味がありません。即刻、アンビトース地域に戻せばよいかと」

チョレックス王とアヴコロ公爵の弁は最もだけど、当の人質たち――アテンツァとジヴェルデの意見は違う。

「彼女たちが言うには、いまさら戻れないと。人質として出されたからには、俺と『そういう仲』であると見られてしまうため、地元に戻されたところで後ろ指を向けられるだけだと」

「砂漠の民の風習では、その者たちはミリモスの所有物だと思われているということか――念のために聞くが。ミリモスは人質たちに手を出したのか?」

「誓って、妻以外の者は抱いていませんし、抱く気もありません」

「安心したが、この場合は手を出していてくれた方が楽だったやもしれん」

「人質の立場を廃し、事実上のミリモスの妾として、ルードット地域へ連れていくことが可能でしたからね」

アヴコロ公爵はチョレックス王の言葉を継いだ後で、俺に言葉を向けてきた。

「その人質たちは、ミリモスの元で暮らす決意を固めていると見ましたが、本当のところはどうなのです?」

「それは――その通りですけど……」

アヴコロ公爵が何を言ってくるか予想が付いたけど、ここで嘘を言うわけにもいかず、俺は言葉を小さくする。

しかし、俺の声はちゃんとアヴコロ公爵に届いたようで、笑顔を向けられてしまった。

「そういうことであるなら、ミリモスが彼女たちを貰ってあげればよいでしょう」

「貰うって、妻にしろってことですか?」

「すでに二人いるんです。もう一人増えたところで、問題ないでしょう?」

「ありますよ! パルベラとホネスとは、恋愛の末の結婚なんですよ!」

「結婚の後に実る恋愛も、あるものですよ?」

俺とアヴコロ公爵の言い合いを、チョレックス王が止めた。

「両者の意見は分かった。そこでミリモスに命じる。お前にルードット地域を与えることは、もう決まったこととする。彼の人質たちが問題であるというのなら、ミリモス自身が処遇を決めよ」

「……妻に迎えろってことですか?」

「そうは命じんよ。妻にするもよし、誰かと結婚させて地元に返すもよし、その他の道があるのならばそれをとってもよし。お前に任せるということだ」

要は、俺がルードット地域に行くまでに、問題を解決しておけと丸投げされたわけだった。