軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話 ユージ、アリスと一緒に湿原でパワーレベリングされる

「さあユージさん、アリスちゃん、着いたよ! 一つ目の目的地に!」

「え? ハルさん、ここって……?」

パワーレベリングの旅 兼 シャルルとバスチアンを送る旅。

初日に宿場町・ヤギリニヨンまで川を下ったユージたち。

旅の二日目、ヤギリニヨンを出発してしばらくすると、エルフの1級冒険者・ハルが操船する潜水艇は川の本流を外れ、支流へと入っていった。

やがて、魔法で水中を進んでいた船が浮上する。

ハルいわく、この旅の一つ目の目的地。

パワーレベリングを行う最初の予定地に着いたらしい。

「やはりここでしたか。プルミエの街から王都へ、水路で行く際の最大の難所。マレカージュ湿原」

ヤギリニヨンの先にあって、船で行って今日到着する。

ハルは内緒だと言っていたが、ケビンはこの目的地を予想していたようだ。

「うわあ、すごい! お水だらけ!」

「ふうむ、なるほど。たしかに儂やシャルル、アリスにはいいかもしれんのう」

「そういうこと! 雑魚の数も多いしね!」

「雑魚って……そりゃここに来るまで、魚っぽいモンスターはぜんぶハルさんが魔法で倒してましたけど……」

「ユージさん、違和感の通りです。通常はああした小型の水棲モンスターも倒しにくいのですよ。なにしろ船上から水中を狙い撃つことになりますから。銛や細かな金属製の網が有効ですが、ヤツらは動きが速いですからね」

「あ、やっぱり……」

ここまでの道中、モンスターが出てこなかったわけではない。

大型の水棲モンスターこそいなかったものの、ユージたちは幾度となく 魚(・) の(・) 襲(・) 撃(・) を受けていた。

ピラニアを手のひらほどの大きさにした魚型モンスターの群れ、魚雷のように突っ込んでくるピラルクに似た魚。

いずれの魚型モンスターも、ハルの魔法であっさり掃討されていた。

だが本来、船ではそうした魚型モンスターにも手間取るらしい。

「はーい、じゃあみんな上陸するよ! ここは乾いた場所があるから!」

「はーい!」

「は、はーい」

ハルの呼びかけに元気よく答えるアリス。

繋いだ手ごと上げられて、シャルルもアリスに引きずられるように返事をしている。

「あ、陸でやるんだ」

「ハルさんに考えがあるのでしょう。ハルさん、船はどうしますか?」

「みんなが下りたら船も陸にあげちゃうから! ほらほら、先に下りちゃって!」

最初にユージ、続いてユージが手助けしてアリス、シャルル。

コタローは手を借りるまでもなく、ひょいっとジャンプ。

ケビンは体重のわりに、バスチアンは歳のわりにヒラリと身軽に船を下りる。

最後にハルが船を下りて。

旅の二日目。

ユージたちは、マレカージュ湿原に上陸するのだった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「す、すごいっすねバスチアン様……」

「お祖父ちゃんすごーい! アリスもがんばらなくっちゃ!」

「ははは、そうじゃろうそうじゃろう。お祖父ちゃん、これでも王都有数の魔法の使い手なんじゃぞ?」

「これが『赤熱卿』の本気ですか……」

湿原の中、わずかに乾いた陸地に上陸したユージたち。

アリスの土魔法と、ハルとユージの身体能力にモノを言わせて船を引き上げた後。

見通しが悪いと危ないからのう、とバスチアンが魔法を使った。

絨毯のように炎が広がり、ユージたちのまわりの草を燃やし尽くす。

20mほどまで広がった魔法の範囲を見て、ユージとケビンは目を丸くしていた。

キラキラと目を輝かせるアリスに褒められて、バスチアンはデレデレである。

バスチアンが火魔法を止めると、湿地の水が自然と残った炎を消す。

これがあるから、火魔法が得意なアリスのパワーレベリングにこの地を選んだのだろう。

仮に湿地に生える草が燃え広がっても、すぐに勢いはなくなるので。

「うん、たしかにコレならやりやすいかな! じゃあちょっと待っててね!」

バスチアンが魔法を止めたのを見て、さっそくとばかりにハルが駆けていく。

風魔法を使っているのかわずかな陸地をフワフワと、重力が狂ったように飛び回るハル。

時おりパン、パンと破裂音を立てているのも風魔法なのだろう。

空中で、水中で音を立てて、モンスターたちの注目を集めているようだ。

「ただいまー! あとは待ってたらいい感じで来るからね!」

「あ、じゃあ準備しておきます」

「準備……そうだね、備えは大切だから! 必要かどうかは置いておいて……」

帰ってきたハルに声をかけるユージ。

背に担いだ大盾を外して、すでに左手で保持している。

いつの間にかバスチアンは、マントを脱いで両袖がちぎられたようなデザインのローブ姿。指には火紅玉の指輪をはめていた。

シャルルは円盾と小剣は身につけたまま。

シャルルの冒険者ルックは見せかけであり、最も得意なのは魔眼を使った火魔法なのだ。

アリスはバスチアン同様、手に火紅玉の指輪をはめただけ。

コタローは全裸である。

「あ、ユージさん、ちょうどいいや! その盾でガンガン音を立ててくれる?」

「あ、はい」

この地にやってきた目的は、モンスターを倒して位階を上げること。

殺すべきモンスターがいなければとうぜん目的は果たせない。

さきほど走りまわって音を立てたことに加え、ハルはモンスターに見つかるようにユージに音を立てさせるのだった。

ユージが短槍を大盾に打ちつけて、ガンガンと音を立てる。

やがて。

バスチアンが焼き払った場所の先、周囲の草むらがガサガサと揺れる。

「すぐに攻撃しないでね! しっかり引きつけてから魔法で攻撃するんだけど……アリスちゃんとシャルルくんでいいかな?」

「はーい! アリスねえ、エルフさんに教わった新しい魔法を使うんだ!」

「ハルさん、ボクはアリスの魔法を補助しますね」

「はーい、二人とも了解!」

「なんかみんな暢気すぎるような……」

「ふふ、落ち着いてくださいユージさん。私もバスチアン様もいますし、なにより1級冒険者のハルさんがいますから。戦力は充分ですよ」

一行の先頭で盾を構えるユージは、わずかに緊張しているようだ。

それにしてもこのパーティ、盾役のユージ、万能型のハル、遊撃のコタロー、商人のケビン、あとは魔法使いが三人である。

前に出るのはユージ一人だけ。

バランスが悪いどころではない。

代わりに火力は高そうだが。

「来たよ! じゃあ二人とも、ボクが合図するまで魔法は待ってね!」

ハルが細い指をすっと伸ばす。

その先には、無数のモンスターがうごめいていた。

モンスターの群れの先頭は、水辺から弾丸のように飛んできた魚。トビウオのように羽を広げている。

地にはオオサンショウウオに似たモンスター、体をひねって近づいてくるワニのようなモンスター。

顔つきはトカゲだが地面から腹を離して走る四つ足のモンスターの姿も見える。

その数、合計で50匹は超えているだろう。

「形は地球でも見るような感じだけど……でかくね?」

ボソリと呟くユージ。

トビウオ、オオサンショウウオ、ワニ、トカゲ。

見た目は地球にもいる生物。

だが、縮尺がおかしい。

トビウオは羽を除いて50センチほど。

サンショウウオやワニ、トカゲは横幅で2メートル近い。全長はどれほどになるのか。

ユージが及び腰になるのも当然である。

「よし! じゃあアリスちゃん、シャルルくん、よろしくー!」

「はーい! 『万物に宿りし魔素よ。炎神姫の血脈、アリスが命ずる。魔素よ、炎となりて敵を討て。煌煌と輝く炎は、現世を照らす光となれ。 疑似太陽(フェイク・ソーラー) 』

火紅玉の指輪が煌めき、アリスの目の前に20センチほどの炎の球が生まれた。

「ていっ!」

気の抜けた掛け声とともに、手を振るアリス。

炎の球は近づいてくる約50匹のモンスターの頭上に飛んでいき、そのまま空中に浮かんでいる。

「えっと……?」

むふーっと満足げな表情で、やってやった! と言わんばかりのアリス。首を傾げるユージ。

ユージが疑問を持つ通り、モンスターは変わらず近づいてきている。

「よし、じゃあ次はボクが。万物に宿りし魔素よ、魔眼を持ちてシャルルが命ずる。太陽に集って燃え盛れ」

空中に浮かぶ炎の球が、突然大きくなった。

「あ、そっか、魔眼、離れたところに魔法を使えるから」

「ふむ、アリスの魔法に魔素を継ぎ足したか。兄妹の協力魔法ということじゃな」

「よし、うまくいった! これができるならその逆も……」

通常、魔法は術者の間近でしか発動しない。

しかし、魔素が見える魔眼の持ち主は離れた場所に魔法を発動させることができるのだ。

シャルルはアリスの魔法の威力を高めることを試みたらしい。

そのシャルルは、何やらぶつぶつと考え込んでいる。

「ニンゲンは幼くてもすごいんだね!」

「ハルさん、アリスちゃんとシャルルくんは普通の少年少女とちょっと違いますよ」

「うむうむ、儂の孫じゃからな!」

「バスチアン様……あれ? なんか、見た目のわりに暑くないような気がするんですけど」

「ユージさん、そりゃそうだよ! ボクが風の壁を作って遮ってるからね!」

「……はい? いつの間に?」

いまはモンスターの群れと戦闘中である。

戦闘中ではあるが、ユージの目の前には気を抜いてもおかしくない光景が広がっていた。

バスチアンが草を燃やした前方は、見晴らしがよい。

そのエリアの中央、空中3メートルほどの場所に、アリスが作った疑似太陽が浮かんでいる。

直径にして1メートルほどのそれは、煌煌と輝いていた。

ユージたちのもとへ熱が届かないのは、ハルの風魔法のせいだったようだ。

そして、その中にいる約50匹のモンスターたちは。

ジリジリと強烈な熱に灼かれて、歩みを止めていた。

「やっぱり水棲モンスターに火魔法はよく効くね! 一発で全滅かな?」

「ハルさん、一発じゃないよ! シャルル兄が手伝ってくれたんだから!」

「たしかに! 二人とも上出来だよ!」

「へへー! ああっ、忘れてた!」

「うん? どうしたのアリス?」

「えっとねえ、リーゼちゃんのお祖母ちゃんに教わったことを忘れてたの! 最後に言わなきゃいけないんだよ!」

「……なんて言うのかな? どうせまたテッサだろ……」

「おまえはそこでかわいてゆけーっ!」

モンスターの群れを指さして、ビシッと宣言するアリス。

ユージは短槍を地面に挿してもたれかかっていた。

なんなのテッサ、と呟きながら。そもそも状況がまったく異なる。名ゼリフが台無しである。

「あー、シャルルくん、魔法を止められるかな?」

「あ、はい、やってみます」

「うん、お願い! 止まったら空気を入れ替えて、生き残りにトドメを刺していくから! ユージさん、アリスちゃん、シャルルくん、そのつもりでね!」

「はーい!」

「あ、はい。どうなんだろ、もうピクリともしてないように見えるけど……」

「ユージさん、油断は禁物ですよ」

旅の二日目、最初の目的地であるマレカージュ湿原。

現役の1級冒険者のハルによるパワーレベリングのはずが、補助を受けつつもアリスとシャルルは普通にモンスターを殲滅していた。

瀕死のモンスターにトドメをさして終わりだったのは、ユージだけである。

「ぜんぶ殺したら、方角を変えて二回目いくからね!」

「はーい! アリス、次はなんの魔法使おうかなあ」

パワーレベリング、とハルが宣言したのだ。

とうぜん戦いは一度で終わりではない。

一行は、殲滅戦を繰り返すことになるようだ。

マレカージュ湿原が砂漠とならないことを祈るばかりである。