軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 ユージ、湿原で二足歩行する生物に出会う

「なんかちょっとかわいそうになってきました……」

「ユージさん、どれも船も人も襲うモンスターですよ。ハルさんが誘い出しているのは確かですが、そもそも私たちを襲ってきてるのですから」

眼前の光景に呟いたユージ。

ケビンがあらためて事実を伝え、そしてコタローがガウッ! と吠えてユージを諌める。

「はあ、たしかにそうですね……」

「そう、その調子じゃアリス。炎の絨毯は持続することが大事なのじゃ」

「はーい、お祖父ちゃん!」

「うむうむ。ほう、シャルルは魔眼の扱いに慣れてきたようじゃな」

「はい。魔素が見えて発動点を変えられるのですから、魔法にも干渉できる。魔眼を持っていたというご先祖さまの書き残したことは本当でした」

ユージの眼前に広がるのは、アリスが放った火魔法。

炎の絨毯である。

ハルによってモンスターが集められたのは、これで三度目。

疑似太陽、火矢の魔法に続いて、今回のアリスはこの範囲魔法で仕留めるつもりのようだ。

アリスの兄・シャルルは、炎の絨毯の魔法に干渉して、場所によって強弱をつけているらしい。

火魔法が得意な兄妹の競演は、モンスターの集団を壊滅状態に追い込んでいた。

「はーい、二人とも、魔法はもういいよ!」

「ええー? ハルさん、でもあのおっきい亀さん、まだ動いてるよ?」

「あれは動きが遅い分、防御が堅いからね! 範囲魔法じゃもったいないよ!」

殲滅戦を指揮しているのは、1級冒険者でエルフのハル。

位階を上げたいというアリスの願いを叶えるため、ハルは一行をマレカージュ湿原に連れてきたのだった。

湿原ではあるのだが、ユージたちのまわりはすでに草が燃やされ、水が蒸発して乾いた土地になっていた。

「えっと……ハルさん、じゃあ俺が近づいて攻撃しましょうか?」

「そうだね、ちょうど二匹いるし、ボクとユージさんで片付けようか! 甲羅は堅いから、ユージさんはその短槍を引っ込めた首のところに突っ込む感じで! もうほとんど動かないと思うけど、噛み付きに気をつけてね!」

「噛み付き……わかりました」

アリスが炎の絨毯を消した地へ足を踏み出すユージ。

革靴を通して熱気が伝わってくる。

「あ、ちょっと待ってねユージさん! いま風魔法で冷やすから!」

そう言ってハルはつむじ風を巻き起こし、近くの水場から水を巻き上げて熱くなった大地に降らせていく。

ユージはポカンと口を開けて、その光景を見つめていた。

「うわあ! ハルさんすごーい!」

「はは、ボクはこれでも1級冒険者で、エルフの里でも有数の風魔法の使い手なんだよ? これぐらい楽勝さ!」

「指先に魔素を集めて風をおこし、徐々に強めていく。そっか、そんな使い方もあるんだ」

見たことがない魔法を目にして大喜びのアリス、魔眼を発動して冷静に分析するシャルル。

魔法が得意な二人だが、アプローチはずいぶん違うようだ。

「これで歩けるようになったかなー。あ、コタローは気をつけてね!」

アリスが燃やしていた場所に足を踏み出すハル。

そのまま無造作にスタスタ歩いて、10メートルほど先にいる大きな亀に近づいていく。

続けてユージも、大盾と短槍を構えてもう一匹の亀に向かって歩みを進める。

横幅で5メートル、高さは3メートル近いだろう大きな亀型のモンスターは、手足と首を甲羅の中に引っ込めていた。

周囲にはワニやトカゲに似たモンスターが息絶えて転がっている。

「ユージさん、攻撃するのはここね! 深く刺せば殺れるから!」

腰の剣を抜いて、流れるようにすっと突き出すハル。

ハルの剣は、ぐったりと引っ込めていた亀の首の根元に深く突き刺さった。

得意の弓でも魔法でもなく、剣でユージのお手本を見せたらしい。

「わかりました。ふう……はっ!」

それっぽい掛け声とともに短槍を突き出すユージ。

槍の穂先は、深々と亀型モンスターの首の根元に突き刺さった。

ユージが短槍を引き抜くと、ブシュッと青い血が飛び出る。

念のため、とばかりにもう一撃。

ユージ、動かない相手にトドメをさすだけの簡単なお仕事である。

「ユージ兄、すごーい!」

あっさり仕留めたユージにパチパチと拍手を送るアリス。

そもそもここまで追い込んだのはアリスの火魔法である。

あいかわらずモンスター相手には容赦ない少女であるようだ。

コタローは、アリスの火魔法で倒れているモンスターたちに息がないか調べてまわっていた。

もちろんまだ生きていれば爪の餌食で。

コタロー、アリスよりも容赦ない女であるようだ。さすが獣である。

三度の殲滅を終えて、ユージがぐるりと周囲を見渡す。

「それにしても……なんだろ、人を襲うモンスターだけど、これはちょっと……」

周囲に転がっているのは、合計で100匹を超えるモンスターの死体。

基本はアリスとシャルルの火魔法で、耐えきったモンスターはユージとコタローの手により殺したモンスターたちである。

「ハルさん、これどうするんですか? 食べられるのとか、皮が使えるのとか……」

この世界の人間とモンスターは生存競争の 最中(さなか) にある。

5級冒険者であり、ホウジョウ村の防衛団長を務めるユージも、モンスターは機会があったら殺すべきだと頭では理解している。

それでも。

食べるでもなく、利用するでもなく。

た(・) だ(・) 殺(・) す(・) ことには、抵抗があるようだった。

「ユージ兄、アリスが燃やす?」

ユージの疑問に、コテンと首を傾けて問いかけるアリス。

物騒な少女である。

まあゴブリンの群れを撃退した時や集落を潰したとき、アリスに燃やしてもらったのは確かだが。

足下のコタローは、ふんふんと鼻を鳴らしてモンスターの死骸の匂いを嗅いでいた。こいつはいけそう、これはだめね、などと、食べられるものを探しているかのように。

「そうですねえ。いくつかは皮が売れるモンスターもいます。肉は……コレとコレが食べられますが」

「ああ、心配しなくていいよユージさん! もうすぐ」

ハルの言葉を遮るように、湿地に音が鳴り響く。

低く重く空気を震わせるその音は、まるで太鼓のようで。

「ハルさん! アリス、シャルルくん、俺の後ろへ!」

さっと大盾を構えたユージが前に出る。

盾役のユージ、成長である。

だが。

「ああユージさん、心配しなくてもいいよ。おーい!」

音が鳴った方向へ大きな声を出すハル。

アリスとバスチアンが燃やし尽くした先、20メートル以上離れた場所にある草が揺れる。

ガサガサと草を揺らして現れたものは。

二足歩行する、トカゲのような生き物たちだった。

「ハ、ハルさん、なんですかコイツら……モンスター?」

木の板にモンスターらしき生き物の革を張った盾、木と石で作った斧や槍。

深い緑色の体は鱗で覆われている。

一体が持っている皮張りの太鼓が、先ほどの音だったのだろう。

「ユージさん、それがモンスターじゃないのさ! しゅー」

唇の隙間から妙な音を出すハル。

ユージとアリスは揃って首を傾げている。

だが、それを聞いた二足歩行のトカゲは。

警戒を解くように、手に持った武具を下ろしていた。

「え?」

「彼らは、マレカージュ湿原に住む部族。たぶん獣人の亜種で……リザードマンだよ! ここで倒したモンスターの死体は、彼らが引き取ってくれるのさ! 手間いらずで助かるよね」

ニコニコと告げるハル。

ユージもアリスも、シャルルも。

それどころか、各地を旅してきた商人のケビンも、王都の貴族として博識なはずのバスチアンも。

目を丸くしていた。

武器を下ろしてユージたちに近づいてくるリザードマン。

それでも警戒心を残しているのか、近づいてきたのはゴテゴテと飾りを付けた三体だけ。

おそらくこの三体がリーダー格なのだろう。

太い尻尾を左右に振って、ゆっくりと歩いてくる。

シューシューと、それぞれ口から妙な音を立てながら。

「ボクもエルフも、最近はあんまり深く関わってこなかったんだけど……ユージさん、どうかな?」

「え?」

ハルに言われて首を傾げるユージ。

ワンワンッ! とユージに向けて吠えるコタロー。ゆーじ、えるふのことばがわかったのよ、ひょっとしたら、とばかりに。

そして。

ユージの耳に、声が届く。

《エルフよ、コレは我らへの贈り物か?》

《言葉が通じる者などただの伝説よ。問いかけるだけムダだろう》

《攻撃されなければ攻撃するな。我らは古き約定に従うだけだ》

「は、はは……うっそだろ……」

目の前の現実が信じられないのか、呆然と呟くユージ。

当然である。

ユージがこの世界に来て、現地の言葉は理解できたし話すことができた。

二足歩行する獣人たちは、そもそも現地の言葉をしゃべっている。

エルフの言葉はわかったし、同じように話せた。

それでも。

二足歩行するトカゲが発する奇妙な音。

それが言葉であり、自分が理解しているということをすぐには信じられなかったようだ。

《エルフよ、これまで通りコレはもらって良いのだな?》

《感謝の言葉も伝えられないとは、もどかしいものよ》

《言うな。ニンゲンやエルフの言葉は我らには発音できん。 セ(・) イ(・) タ(・) イ(・) がないからな》

《あの…………言葉、通じます》

《うん? 何か言ったか?》

《我は何も。お主か?》

《いや……おいまさか》

《えっと、言葉、わかります。俺の言葉は通じてますか?》

《なっ!》

意を決して話しかけたユージ。

三体のリザードマンは目を見開き、ポカンと口を開けてユージを見つめている。

縦長の瞳孔、鋭い歯。

ユージの腰が引ける。

《なんと! 我らの言葉がわかるのか!》

《おお! 信じられん!》

《ひょっとして口伝にあったマレビトか?》

シューシューと音を立てて鋭い牙をのぞかせ、びったんびったんと尻尾で地面を叩きながらユージに近づく三体のリザードマン。

ユージが一歩下がったのも仕方あるまい。

「あはは! やっぱり! ユージさんは彼らの言葉がわかるんだね!」

「うわあ、ユージ兄、すごーい!」

「こ、これはまた……帰ったらお義父さんとジゼルに自慢しましょう。はは、ユージさんといると本当にいろいろなことが起こる」

「なんということじゃ! では、リザードマンはモンスターではなかったのか!」

「お祖父さま?」

リザードマンたちだけではなく。

ユージに同行していた5人と一匹も大騒ぎである。

「は、はは……なんだこれ。俺、どうなってんだろ……」

いまいち驚いていない、というかちょっと引いているのはユージだけだ。

プルミエの街と王都を結ぶ川の途中にある水運の難所・マレカージュ湿原。

ハルがパワーレベリングのためにこの地を選んだのは、稀人のユージならリザードマンと会話ができるかもという考えもあったようだ。

三体のリザードマンに取り囲まれたユージの笑顔は引きつっている。

ユージもそのうち慣れるはずだ。

二足歩行するトカゲはリザードマンであり、レプティリアンではないので。