軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十七話 ユージ、アリスたちと一緒にパワーレベリングの旅に出る

「みなさん、いろいろありがとうございました」

「うむ。短い間じゃったが世話になった」

「ブレーズさん、不在の間よろしくお願いします。今回はそんなに長期間じゃありませんから」

ホウジョウ村開拓地、南側の入り口の前。

そこには、旅支度を整えたユージたちがいた。

「おう、まあ心配すんなユージさん。いつも通りうまいことやっとくからよ」

「ユルシェル、あの服の量産をお願いしますね。夏の間にゲガス商会に卸しておきたいですから」

ホウジョウ村に来た時と同じように、アリスの兄・シャルルは皮鎧姿で円盾を背負い、片手剣を佩いてマントをまとっている。

バスチアンはすっぽりと全身を覆うマントに木の杖。

旅装束なのは来村していた二人だけではない。

シャルルとバスチアンを連れてきた1級冒険者でエルフのハル、皮鎧を身につけたユージ、小さな体をマントに包んでシャルルと手を繋ぐアリス。

加えてケビンも同行するようだ。

シャルルとバスチアンは、領地を経由して王都に帰るために。

そして。

「みんな、アリス行ってくるね! いっぱい 殺(や) って、たくさん位階を上げるんだから!」

小さな手を振りかざして、見送りにきた村民たちに宣言するアリス。

ユージとアリスは、ハルに連れられて念願のパワーレベリングに向かうようだ。

元冒険者で副村長のブレーズや針子のユルシェルたちに見送られて、ユージたちはホウジョウ村を出発するのだった。

なお、旅装束に身を包んだ一行の先頭を歩くコタローは全裸である。淑女だが、犬なので。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「みんな大丈夫ですかねえ。お風呂は使いづらくなっちゃったし……」

「ユージさん、それは心配しなくていいですよ。いまは夏ですから沐浴もできます。それに、キレイな水も薪も豊富にあるわけですから、必要があれば自分で湯を沸かしますよ」

「はあ、そういうもんですか」

村を後にして、さっそく不安を口にするユージ。

副村長のブレーズをはじめとする元3級冒険者と元5級冒険者が残っているため、防衛戦力のことは心配していない。

ユージは、ライフラインの元となる魔素を節約するためにお湯の供給をやめた共同浴場を心配しているようだ。

ケビンから何度も諭されており、実際に村人たちも気にしていない様子だったのだが。

「王都だってそんなものだからね! それよりボクは置いてきたローレンのほうが心配なぐらい!」

「ああ、なんかずっとガリガリ書き付けてましたもんねえ。ちゃんと寝てるのかな……。それに独り言もすごかったし」

ユージ、まるで自分は独り言がすごくないかのような言い分である。

王都から陸路でホウジョウ村にやってきたこの世界の研究者・ローレン。

異世界との往還方法を研究していたローレンは、稀人のユージとその家の存在を知って、あっさり移住することを決めていた。

というか一度も家に帰らずに、荷を送るよう手配して研究をはじめている。

ブツブツと独り言を繰り返し、鬼気迫った様子で羊皮紙に向かいながら。

とりあえず、不定期で開かれるケビン商会ホウジョウ村支店にあった羊皮紙はすべてローレンに買い取られていた。

そのローレンは、いったん情報を整理するための時間が欲しいとユージの旅立ちを止めなかった。

どうやら研究は一朝一夕では進まないようだ。

魔法がある世界でも、そうそう上手くはいかないらしい。

「どんなところに行くのかなあ。新しい魔法使えるかなあ。楽しみだねシャルル兄!」

「ふふ、そうだねアリス」

大人たちの会話をよそに、兄と手を繋いだアリスは上機嫌であった。

モンスターを倒して位階を上げ、長生きできるようにする。

親友でエルフのリーゼが里から出られるようになってからも、一緒に遊べるように。

アリス念願のパワーレベリングの旅で、しかも途中まで兄と祖父も同行するので。

楽しみだというアリスの言葉に同意するように、先頭を歩くコタローがワンッ! と吠える。そうねありす、わたしもいかいをあげてながいきしたいの、とでも言いたいのか。

そのコタローの周囲、というか森を歩く一行のまわりには、15匹のオオカミたちが付き従っていた。

安全を確保する護衛のように散開して併走するのは、もはや見慣れた光景である。

ホウジョウ村開拓地とプルミエの街を繋ぐ道をしばらく進んでから、一行は進む方向を変えていた。

6人と一匹が目指すのはプルミエの街ではない。

平民として振る舞っていたシャルルとバスチアンは、王都から陸路で来たことになっている。

探ればすぐわかるが、いちおう隠すべく大回りしたようだ。

やがて。

一行の目に、川とホウジョウ村を繋ぐ水路が見えてきた。

「よし! みんなちょっと待っててね!」

「はーい!」

ハルの言葉に、アリスが元気な返事をする。

陸路ではなく水路での移動。

エルフの船が迎えに来るまで、水路の土手でしばしの休憩であるようだ。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「す、すごい……こんな風になってるんだ」

「そっか、ユージさんはこっちは初めてだったっけ?」

「ハルさん。はい、初めてです。その、見るのも初めてで……」

ゴクリと唾を呑み込むユージに微笑むハル。

興奮しているのか、ユージの頬は赤く染まっている。

「ふふ、よく見るといいよ!」

ユージの反応が嬉しいのだろう。

ハルは誇らしげに胸を張る。

男二人きりの世界である。

違う。

ガウッと呆れたようにコタローの鳴き声が一つ。なにしてるのよふたりとも、とでも言わんばかりに。

「うわあ! すごいねユージ兄、シャルル兄! 水の中を通ってる! ねえねえ、あれ、街のところの橋かなあ!」

「そのようですねアリスちゃん。私も見るのは初めてですが……」

「うむ、行きに通過した際には儂らも驚いたもんじゃ。まあいまも驚きはやまないがの」

「アリス、立ち上がったら危ないよ。……危ないのかな?」

ユージ、ハル、アリス、ケビン、バスチアン、シャルル。

6人と一匹はエルフの船に乗り込んで、ハルの操船で川を下る。

川の本流に入るとすぐにハルは魔法を使い、船を水中に潜らせていた。

人目を避けるための行動である。

川の流れに加えてハルの風魔法で進む潜水艇は、馬車と比べてかなりの速度が出ていたようだ。

いま、一行は水中に潜ったままプルミエの街の横を通過していた。

ユージたちは、水中から望める歪んだ景色に興奮しきりであった。

ちなみに、陸からは船影が見づらい。これもテッサが開発した魔法である。

潜水艇に加えてこの魔法があるからこそ、船を利用したエルフの行き来はこれまで見つかってこなかったのだ。

「まだお昼すぎなのにもうプルミエの街まで……あ、そうだ。ハルさん、それでパワーレベリングはどこでやるんですか? 今日そこまで行けます?」

「ふふ、ナイショだよユージさん! 今日はヤギリニヨンに泊まって、明日には着く予定だから!」

「はあ……」

「なるほど。ヤギリニヨンの先で、モンスターを倒したいのはアリスちゃん。ハルさん、私、目的地がわかったかもしれません」

「まだ黙っててねケビンさん! まあそこは一つ目で、本命はもっと先、シャルルくんとバスチアンさんを下ろしてからだけど!」

「む、では儂らも最初の目的地には同行できるのじゃな」

「ハルさん! その、ボクもアリスと一緒に 殺(や) らせてください!」

「アリスちゃん、どうかな?」

「アリス、シャルル兄と一緒に 殺(や) る! ユージ兄もだよ!」

「お、おう」

ハルの質問に、ふんすと鼻息も荒く答えるアリス。

この世界はモンスターと人の生存競争が当たり前。

アリスもシャルルも物騒な発言をしているが、力ある者がモンスターを殺すのはむしろ褒めるべきこと。

ユージはちょっと引き気味だが、いまは単にアリスの勢いにやられているだけである。

ユージとてわかっているはずだ。

なにしろこの世界で6年目で、しかも5級冒険者でもあるので。

「……うん、そうだ。モンスターは倒せる時に倒せる人が倒しておかないと、戦えない人がやられる。それに、倒せば倒すだけ強くなってみんなを守れるようになる。うん」

自分に言い聞かせるように一人呟いたユージが、ぐっと拳を握る。

日々の訓練は続けてきたが、ユージが実戦に立つのはひさしぶりのこと。

なにしろ春に襲来したワイバーンはアリスが一撃で堕としたので。

生き物を殺す。

ユージはその感覚を忘れていたのかもしれない。

物騒な、だがこの世界の戦える者たちにとっては当たり前の会話を続けながら、船は進む。

ハル主催のユージとアリスのパワーレベリングの旅、そしてシャルルとバスチアンを送る旅。

一行は出発初日にして、宿場町・ヤギリニヨンにたどり着くのだった。

本来、ヤギリニヨンはプルミエの街から四番目、四日目にたどり着く宿場町。

川の流れと魔法を利用したエルフの潜水艇は、馬車よりもはるかに速く、快適な旅を提供できるようだ。

ヤギリニヨンに一泊して、明日。

アリス、念願のパワーレベリングである。